ジェネラル・コーポレート・プラクティスニュースレター(2024年5月)

PwC弁護士法人のジェネラル・コーポレート・プラクティスニュースレターでは、企業において日々生起する法的な課題の解決に有益と思われるトピックを取り上げて、情報を発信して参ります。

今回は、以下の3つのトピックを紹介します。

トピック1: 株券発行前における株券発行会社の株式の譲渡 – 最判令和6年4月19日

トピック2:  改正障害者差別解消法により事業者に期待される取組の概要

トピック3: 「商業登記規則等の一部を改正する省令」(令和6年法務省令第28号)により創設される代表取締役等住所非表示措置の概要

トピック1: 株券発行前における株券発行会社の株式の譲渡 – 最判令和6年4月19日

自己株式の処分による株式の譲渡の場合を除き、株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければその効力を生じないとされており(会社法第128条第1項)、株券発行会社の株式を有効に譲渡するためには、譲渡の意思表示に加えて、株券の交付が必要とされています。一方で、株券の発行前になされた株券発行会社の株式の譲渡は、会社に対して効力を生じないとされています(同条第2項)。

これらの規定の適用関係(特に、株券の発行前における株券発行会社の株式の譲渡が譲渡当事者間において効力を生じるか否か)については、複数の見解が存在していましたが、今回取り上げる最高裁判決(最判令和6年4月19日。以下「本判決」といいます。)において、会社法第128条第1項の規定は、株券発行会社の株式の譲渡一般ではなく、株券の発行後に行われた譲渡にのみ適用される規定であること(すなわち、株券の発行前にした株券発行会社の株式の譲渡は、譲渡当事者間においては株券の交付がないことを理由に効力が否定されることはないこと)が示されました。また、同判決では、株券発行会社の株式の譲受人は、譲渡人が株券発行会社に対して有する株券発行請求権を代位行使することができ、株券発行会社がこれに応じて所定の形式を具備した文書を直接譲受人に対して交付した場合、当該文書は株券としての効力を有することとなる旨も明らかにされました。

以下、本判決の概要と意義についてご紹介します。

1. 本判決の概要

(1) 事案の概要

本判決は、以下の事実関係の下、発行会社(公開会社でない株券発行会社)の株式の譲受人であるXが、当該株式の旧保有者であるY1及びY2に対して、それぞれ自らが当該株式を有する株主であることの確認等を求めた事案です。

  • Y1は、平成16年1月、発行会社の設立に際して、その株式200株(以下「本件株式1」といいます。)を引き受け、平成24年4月、Aに対し、本件株式1を譲渡した。
  • Y2は、平成18年5月、発行会社の募集株式310株を引き受け、同年8月ころ、Bに対し、当該株式のうち240株(以下「本件株式2」といい、本件株式1と併せて、以下「本件株式」という。)を譲渡し、また、Bは、平成25年7月、Cに対し、本件株式2を譲渡した。
  • 発行会社は、設立以来、株券を発行したことはなかった。
  • Aは、平成29年10月、本件株式1につき、債権者代位権に基づきY1の発行会社に対する株券発行請求権を行使するとして、同社に対し、株券の交付を自己に対してすることを求め、同社から、本件株式1に係る株券(以下「本件株券1」という。)の交付を受けた。
  • Cは、平成29年10月、本件株式2につき、債権者代位権に基づきY2の発行会社に対する株券発行請求権を行使するとして、同社に対し、株券の交付を自己に対してすることを求め、同社から、本件株式2に係る株券(以下「本件株券2」といい、本件株券1と併せて、以下「本件株券」という。)の交付を受けた。
  • Aは、令和2年3月、Xに対し、本件株式1を譲渡して本件株券1を交付し、また、Cは、同年7月、Xに対し、本件株式2を譲渡して本件株券2を交付した。
  • 発行会社の取締役会は、上記の各譲渡についていずれも承認している。

(2) 原審(東京高判令和4年2月10日)の判断

原審は、前記(1)の事実関係の下、大要以下のとおり判断し、Xは本件株式を無権利者から譲り受けたにすぎず、これらを善意取得*1する余地もないとして、Xの請求を棄却しました。

  • 株券の発行前にした株券発行会社の株式の譲渡は、会社法第128条第1項により、当該株式に係る株券を交付しなければ、譲渡当事者間においても、その効力を生じない。したがって、本件株式1についてY1からAに、本件株式2についてY2からBに、それぞれ有効に譲渡されたということはできない。
  • 株式会社が会社法第216条所定の形式を具備した文書を株主に交付したときに初めて当該文書が株券としての効力を有することになると解すべきところ、本件株券は、株主に交付されたものでないから、株券としての効力を有せず、Xは本件株式に係る株券の交付を受けたということはできない。

(3) 本判決

前記(2)の原審の判断に対して、最高裁は、以下のとおり判示し、さらに審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻しました。

株券の発行前にした株券発行会社の株式の譲渡の効力

  • 会社法第128条第1項は、株券の発行後にした譲渡に適用される規定であり、株券の発行前にした株券発行会社の株式の譲渡は、譲渡当事者間においては、当該株式に係る株券の交付がないことをもってその効力が否定されることはないと解するのが相当である。
  • したがって、本件株式1のY1からAへの譲渡は、本件株式2のY2からBへの譲渡及びBからCへの譲渡は、それぞれ本件株券の交付がないことをもって譲渡当事者間での効力が否定されることはない。

株券発行請求権の代位行使と株券の効力

  • 株券発行会社の株式の譲受人は、譲渡人に対して当該株式に係る株券の交付を請求する権利を有することから、当該権利を保全する必要があるときは、譲渡人の株券発行会社に対する株券発行請求権を代位行使することができ*2、かつ、株券発行会社に対し、株券の交付を直接自己に対してすることを求めることができる。株券発行会社がこれに応じて所定の形式を具備した文書を直接譲受人に対して交付したときは、譲渡人に対して株券交付義務を履行したことになるため、したがって、上記文書につき、株券発行会社に対する関係で株主である者に交付されていないことを理由に、株券としての効力を有しないと解することはできない。
  • したがって、本件株券につき、それぞれA及びCに交付されたことをもって、本件株式に係る株券としての効力を有しないということはできず、これらの者から本件株券の交付を受けたXは、本件株式に係る株券の交付を受けたと認められる余地がある。

2. 本判決の意義

(1) 株券の発行前にした株券発行会社の株式の譲渡の効力

会社法第128条第1項及び第2項の適用関係については、株券の発行前における株券発行会社の株式の譲渡が譲渡当事者間において効力を生じるか否かという点において従前から議論がなされていました。

すなわち、①一方では、会社法第128条第2項は、株券発行会社の株式は株券の発行前であっても株券の交付なくして有効に譲渡できないことを注意的に規定したものであるという整理の下、株券発行会社の株式の譲渡について当該株式に係る株券を交付しなければその効力を生じないとする会社法第128条第1項の規定は、株券発行の前後にかかわらず適用があり、したがって、株券発行前の株券発行会社の株式の譲渡は、当事者間でも会社との関係でも譲渡の効力を生じさせない(当事者間においても譲渡に係る債権的な効力を発生させるのみである)とする見解*3があり、②他方では、株券の発行前は会社法第128条第1項の適用はなく、民法の一般原則に従い、譲渡当事者間では意思表示のみによって有効に株券発行会社の株式を譲渡できるものの、当該譲渡は、発行会社との関係では効力を生じないとする見解*4がありました。

本件における原審は、前者の見解に依ったと思われますが、最高裁は、後者の見解に依ることを明らかにしたもので、今後の実務の指針になるものと思われます。

公開会社でない株券発行会社において、過去に株券の交付を欠く株式の譲渡がなされていた結果、現在の株主である(とされる)者が適法かつ有効に当該対象会社の株式を保有していない可能性があるという点は、公開会社でない株券発行会社を買収する際の法務デュー・ディリジェンスにおける頻出論点です。これまで、実務上は、保守的に、株券の発行前であるか否かを問わず、株券の交付を欠く株式の譲渡は当事者間でも無効であるという前提で、その対応方法が検討されていたと思われますが、今後は、本判決に従い、株券の発行前の譲渡である場合には、当事者間では有効に譲渡の効力が生じているという前提で、対応を検討することになると考えられます。

(2) 株券発行請求権の代位行使と株券の効力

本判決は、いわゆる債権者代位権の転用*5の例として、株券発行請求権の代位行使及びこれに基づく自らに対する直接の株券の交付請求を認めたものと考えられます。判例は、従前から債権者代位権の転用を認め*6、また、転用の場合を含む債権者代位権の行使に際しては、債権者は、その権利行使の相手方に対して、直接自己に物を引き渡すことを請求することができるとしており*7、本判決は、これらの過去の判例に沿ったものと考えられます。

また、判例は、株券の効力発生時期について、発行会社が所定の形式を具備した文書を株主に交付したときに、当該文書が株券として有効となると解していました*8

本件では、株券が、会社法第128条第2項により発行会社との関係では株主ではない譲受人に対して交付されていますが、本判決は、当該交付は、債権者代位権の行使に応じてなされたものであり、これによって譲渡人に対する株券交付義務を履行したことになるため、譲渡人に対して交付されていないことをもって株券としての効力を有しないと解することはできないとしています。あくまで、会社との関係で株主である譲渡人に対する株券交付義務を履行したことを踏まえて、直接譲受人に対して交付された文書に株券としての効力を認めるものであり、この点も前記の従前の判例の立場と整合するものと考えられます*9

トピック2:改正障害者差別解消法により事業者に期待される取組の概要

2024年4月1日、改正障害者差別解消法が施行され、事業者による障害のある人への合理的配慮の提供が義務化されました。合理的配慮の義務化に合わせ、関係府省庁所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針(事業者向けガイドライン)も改正され、事業者は障害者差別の解消に向けた取組を積極的に進めていくことが期待されています。以下では、改正障害者差別解消法及び事業者向けガイドラインの概要について、ご紹介します。

1. 障害者差別解消法の概要

障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号。以下「障害者差別解消法」といいます。)は、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを目的として制定されました。そのため、障害者差別解消法が対象とする障害者、事業者、分野は幅広く、不当な差別的取扱いの禁止(障害者差別解消法第8条第1項)及び合理的な配慮の提供(同条第2項)の2つの大きな柱から構成されています。合理的な配慮の提供の詳細については、後述します。

2013年の制定時より、不当な差別的取扱いについては行政機関等及び事業者に対して禁止していましたが、合理的配慮の提供については、行政機関等には義務化する一方で、事業者は努力義務とする内容となっていました。障害者差別解消法は、2021年に改正が行われ(以下「改正障害者差別解消法」といいます。)、施行日である2024年4月1日より、事業者による合理的配慮の提供が義務化されました。改正障害者差別解消法により、事業者に対しては努力義務とされていた合理的な配慮の提供が義務化されましたので、事業者は今まで以上に合理的な配慮の提供について理解する必要があります。

図表 1

2. 事業者向けガイドラインの内容

事業を所管する国の行政機関は、事業者が適切に障害を理由とする差別の解消に対応できるようにするため、不当な差別的取扱いや合理的配慮の具体例を盛り込んだ対応指針(以下「事業者向けガイドライン」といいます。)を定めることとされています(障害者差別解消法第11条第1項)。

(1) 事業者向けガイドライン

事業者向けガイドラインには、どの事業分野においても共通する事項も多く記載されていますが、事業ごとに記載されている内容が異なる部分もあります。例えば、厚生労働省が公表している衛生事業者向けガイドライン*11では、飲食店、映画館や劇場、旅館など衛生事業を営む事業者向けに合理的配慮の具体例や業種ごとの留意事項等を確認することができます。また、生活衛生関係営業に係る事業者については、当該業種に係る営業の振興に必要な事項に関する指針(振興指針)における障害者等への配慮に係る記載事項についても留意する必要があるとされています。

障害者差別解消法においては、事業者は対応する事業者向けガイドラインを参考にして、障害者差別の解消に向けて自主的に取り組むことが期待されていますが、自主的な取組のみによっては、その適切な履行が確保されず、特に必要があると認められるときには、主務大臣は、事業者に対し、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができることとされています(障害者差別解消法第12条)。

(2) 合理的配慮の提供

合理的配慮の提供とは、①その事業を行うに当たり、②障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、③その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならないことをいいます(障害者差別解消法第8条第2項)。

事業者が行う合理的配慮の提供は、双方の建設的対話による相互理解を通じて、必要かつ合理的な範囲で、柔軟に対応がなされる必要があります。事業者向けガイドラインによれば、合理的配慮は、以下の事項に留意する必要があります。

  • 合理的配慮は、事業者の事業の目的・内容・機能に照らし、必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること
  • 障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること
  • 事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないこと

また、③のその実施に伴う負担が過重かどうかは、事務・事業への影響の程度、実現可能性の程度、費用・負担の程度、事務・事業規模、財務状況などの要素を考慮して具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要とされています。過重な負担に当たると判断した場合には、事業者は障害者に対して丁寧にその理由を説明し、理解を得るように努めることが望まれており、差別的取扱いにならないように留意することも必要です。

(3) 合理的配慮の提供の具体例

事業者向けガイドラインには、合理的配慮に該当すると考えられる例及び合理的配慮の提供義務違反に該当すると考えられる例がまとめられています。しかし。掲載されている例は、いずれも例示であり、個別の事案ごとに該当性は変わりうること、また、事業者向けガイドラインに掲載されていないものであっても合理的配慮に該当するものがあることに留意が必要です。

  • 合理的な配慮の提供義務違反に該当すると考えられる例
    イベント会場内の移動に際して支援を求める申出があった場合に、「何かあったら困る」という抽象的な理由で具体的な支援の可能性を検討せず、支援を断ること。
  • 合理的な配慮の提供義務に反しないと考えられる例
    小売店において、混雑時に視覚障害者から店員に対し、店内を付き添って買物の補助を求められた場合に、混雑時のため付添いはできないが、店員が買物リストを書き留めて商品を準備することができる旨を提案すること。

3. 事業者に期待される取組の内容

改正障害者差別解消法の施行により、合理的配慮の提供が義務化されたことを受け、事業者は上記のとおり、自身が営む事業に対応する事業者向けガイドラインを参考にして、合理的配慮の提供について理解しておくことが必要です。また、障害者差別は、障害に関する知識・理解の不足、意識の偏りなどにより引き起こされることから、事業者においては、管理職を含む全ての職員の研修・啓発を行うことも望まれています。

事業者は、合理的配慮の提供について理解した上で、障害のある人から申出があった場合には、内部規則やマニュアル等を理由に一律に断るのではなく、その都度柔軟に対応検討することが求められています。

事業者は、内部規則やマニュアル等について、障害者へのサービス提供を制限するような内容が含まれていないかについて点検することや、個別の障害者からの申出等への対応を契機として、必要な制度の改正等を検討するなど、障害を理由とする差別の解消の推進に資するよう、制度等を整備することも重要となっています。

トピック3: 「商業登記規則等の一部を改正する省令」(令和6年法務省令第28号)により創設される代表取締役等住所非表示措置の概要

2024年4月16日付で、「商業登記規則等の一部を改正する省令」(令和6年法務省令第28号)が公布され、代表取締役等住所非表示措置が創設されることとなりました*12。同措置は、経営者や起業家のプライバシーを保護し、ビジネスの新規参入を後押しする契機となり得るものであり、施行後、多数の代表取締役等が非表示化を希望することが予想されるため、ジェネラル・コーポレート・プラクティスへの影響が大きいと考えられる一方で、以下に述べるように実務上の留意点や一定の限定もあります。本稿では、2024年10月1日の施行に先立ち、同措置の概要を解説します。

1. 会社法上の規定

会社法においては、株式会社の代表取締役の住所(同法第911条第3項第14号)、株式会社の代表執行役の住所(同項23号ハ)、合名会社/合資会社の社員の住所(同法第912条第5号、第913条第5号)、合同会社の代表社員・職務執行者の住所(同法第914条第7号・第8号)を本店所在地において登記しなければならないとされています。それらに変更があった場合についても同様です(同法第915条第1項)。

2. 現行の商業登記法制

前記の通り、実体法において株式会社の代表取締役らの住所を登記しなければならないとされている以上、手続法である商業登記法においても、登記申請を受け付け、その結果として登記簿(同法第1条の2第1号)に記録され、登記事項証明書(同法第10条第1項)等に表示しなければならないのが原則です。

登記事項証明書の記載事項については、商業登記規則に委任されており(同条第3項)、その他登記簿の調製等商業登記法の施行に関し必要な事項は、商業登記規則に包括委任されています(同法第148条)。

これを受け、商業登記規則第30条から第31条の2までにおいて、登記事項証明書や登記事項要約書の記載事項のほか、記載事項に関する特例(DV等特例*13)が定められています。

3. 本改正で創設される代表取締役等住所非表示措置

(1) 制度概要

代表取締役等住所非表示措置は、一定の要件の下、株式会社の代表取締役、代表執行役又は代表清算人(以下「代表取締役等」といいます。)の住所の一部を登記事項証明書や登記事項要約書、登記情報提供サービス(以下「登記事項証明書等」といいます。)に表示しないこととする措置です*14

本改正では、各種法人等登記規則、特定目的会社登記規則、投資事業有限責任組合及び有限責任事業組合契約登記規則、投資法人登記規則、限定責任信託登記規則及び一般社団法人等登記規則について、本改正後の商業登記規則第31条の3を適用させないよう準用規定の調整がなされているため、代表取締役等住所非表示措置の対象となるのは、株式会社の代表取締役、代表執行役又は代表清算人のみということになります。

(2) 申出の手続等

1 代表取締役等住所非表示措置の要件

図表 2

2 代表取締役等住所非表示措置が講じられた場合の登記事項の表示

代表取締役等住所非表示措置が講じられた場合、登記事項証明書等において、代表取締役等の住所は最小行政区画までのみ記載されることとなります*18
代表取締役等住所非表示措置の対象となる住所は、申出と併せて申請される登記によって記録される住所に限られます。

3 代表取締役等住所非表示措置の終了

代表取締役等住所非表示措置が講じられた株式会社から当該措置を希望しない旨の申出があった場合や当該株式会社が本店所在場所に実在しないことが認められた場合などには、登記官が職権で当該措置を終了させることとなります*19(本改正後の商業登記規則第31条の3第台4項)。なお、代表取締役等住所非表示措置を希望しない旨の申出は、登記申請と同時である必要はなく、単独で行うことができます。

4 登記官の質問権等

登記官は、代表取締役等住所非表示措置を講じ、又は終了させるに当たって必要があると認めるときは、株式会社の代表取締役等に対し、出頭を求め、質問をし、又は文書の提示その他必要な情報の提供を求めることができます(本改正後の商業登記規則第31条の3第6項)。

(3) 実務上の注意点

  • 代表取締役等住所非表示措置が講じられた場合には、登記事項証明書等によって会社代表者の住所を証明することができないこととなるため、金融機関から融資を受けるに当たって不都合が生じたり、不動産取引等に当たって必要な書類(会社の印鑑証明書等)が増えたりするなど、一定の支障が生じることが想定されます。
  • 代表取締役等住所非表示措置が講じられた場合であっても、会社法に規定する登記義務が免除される訳ではないため、代表取締役等の住所に変更が生じた場合には、その旨の登記の申請をする必要があります。
  • 前記の通り、登記申請と同時に申し出ることが代表取締役等住所非表示措置の要件とされているため、既に登記がなされている代表取締役等が非表示のみを申し出るということはできません。
  • 代表取締役等住所非表示措置を講じた場合であっても、住所が記載された書面を閲覧することについて法律上の利害関係を有する者については、登記簿の附属書類の利害関係を有する部分として閲覧をすることにより代表取締役等の住所の確認が可能です*20(商業登記法第11条の2)。また、前記の通り、非上場会社の場合は、非表示措置の申出の際に、株式会社の実質的支配者の本人特定事項を証する書面の添付が必要であるため、法律上の利害関係を有する者による閲覧請求により、実質的支配者を特定することも可能となります。

*1 会社法第131条第2項

*2 民法第423条第1項本文

*3 江頭憲治郎『株式会社法』233頁(有斐閣、第9版、2024)、相澤哲ほか『論点解説 新・会社法』66頁(商事法務、2006年)

*4 田中亘『会社法』115頁(東京大学出版会、第4版、2023)、神田秀樹『会社法』101-102頁(弘文堂、第24版、2022)、龍田節=前田雅弘『会社法大要』272頁(有斐閣、第3版、2022)

*5 特定の債権の保全のために行使される債権者代位権

*6 大判明治43年7月6日(民録16輯546頁)など

*7 大判昭和7年6月21日(民集11巻1198頁)など

*8 最判昭和40年11月16日(民集19巻8号1970頁)

*9 なお、株券発行前の株券発行会社の株式の譲渡につき、譲渡当事者間では有効であるという前提の下、さらに進んで、会社が株券発行時において譲受人を株主と認めて譲受人に直接株券を発行し、名義書換も行うという簡略化した手続を認める見解(酒巻俊雄=龍田節編集代表『逐条解説会社法 第2巻 株式・1』240頁(中央経済社、2008))も存在しますが、本判決は、あくまで、譲渡人が株券発行会社に対して有する株券発行請求権の代位行使に応じて直接譲受人に対して株券を交付した場合に、譲渡人に対して株券交付義務を履行したこととなることから、当該株券が株券としての効力を有することとなる旨を示したものであり、左記のような簡略化した手続を積極的に肯定するものではないと思われます。

*10 障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(令和5年3月14日閣議決定)(https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai/kihonhoushin/honbun.html

*11   「障害者差別解消法 衛生事業者向けガイドライン~衛生分野における事業者が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する対応指針」(令和6年3月厚生労働大臣決定)(https://www.mhlw.go.jp/content/001238948.pdf

*12 以下、令和6年法務省令第28号による商業登記規則等の改正を「本改正」といいます。本改正の具体的な内容は、こちら(https://www.moj.go.jp/content/001417159.pdf)をご参照ください。

*13 DV被害者等である会社代表者等から適式な申出があった場合に、当該会社代表者等の住所を非表示にする制度(2022年9月1日施行)であり、DV等特例の具体的な申出の手続については、令和4年8月25日民商第411号通達(https://www.moj.go.jp/content/001379349.pdf)をご参照ください。

*14 登記事項証明書及び登記事項要約書については本改正後の商業登記規則第31条の3、登記情報提供サービスについては本改正後の電気通信回線による登記情報の提供に関する法律施行規則第1条第1項第2号の2をご参照ください。

*15 住民票の写しなどが想定されます。

*16 資格者代理人の法令に基づく確認の結果を記載した書面などが想定されます。なお、非上場の株式会社について、実質的支配者に関する書面の提出を要求している趣旨は、消費者被害対策として、会社の実質的支配者が本来の行為者である場合において、被害者等がその責任を追及することを可能とする点にあると解されています(法務省民事局商事課「『商業登記規則等の一部を改正する省令案』に関する意見募集の結果について」(2024年4月16日)(https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000273035)(以下「パブコメ結果」といいます。)15番)。

*17 必要な書面が添付されるなど、規定された要件を満たしているかの観点から、適当か否かを判断することが想定されています(パブコメ結果14番)。

*18 市区町村まで(東京都においては特別区まで、指定都市においては区まで)が記載されます。

*19 代表取締役等の住所を非表示とした場合、株式会社を被告とする訴訟を提起する場面などで会社への権利行使が困難になるおそれがあると従前から指摘されていたところ、本改正では、「代表取締役等住所非表示措置を講じた株式会社の本店がその所在地において実在すると認められないとき」(本改正後の商業登記規則第31条の3第4項第2号)を適用することで、登記官が職権により非表示を終了できることとして、対処がなされています。「実在すると認められないとき」の具体的な判断基準等は、今後、通達において明らかにされる予定です(パブコメ結果38番)。

*20 パブコメ結果8番。

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執筆者

茂木 諭

パートナー, PwC弁護士法人

茂木 諭茂木 諭

佐藤 寛之

PwC弁護士法人

岩崎 康幸

パートナー, PwC弁護士法人

久保田 有紀

PwC弁護士法人

山田 裕貴

山田 裕貴

パートナー, PwC弁護士法人

福井 悠

PwC弁護士法人

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