「DX投資促進税制」は、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)実現に必要なデジタル関連投資に対する優遇税制として、本年度税制改正において新設されました。本稿では、DX投資促進税制の概要と申請にあたっての留意点や企業が取り組むべき事柄について解説します。
DX投資促進税制は、企業のDX実現に必要とされるクラウド技術を活用したデジタル関連投資(ソフト・ハード双方)に対する特別償却または税額控除の優遇措置として、2021年度(令和3年度)税制改正において新設されました。国内企業のDX推進を図るための税制優遇策として、研究開発税制の見直しや納税環境のデジタル化進展を図るための電子帳簿保存等制度とともに導入されました。
DX投資促進税制は、産業競争力強化法※1の改正法の施行の日(2021年8月2日)から2023年3月31日までの間に、青色申告法人である認定事業適応事業者が、認定事業適応計画に従って実施される情報技術事業適応の用に供する目的でソフトウェアの新設もしくは増設、またはその事業適応を実施するために必要なソフトウェアの利用に係る費用(繰延資産となるものに限る)の支出をした場合に、特別償却(30%)または税額控除(3%または5%)のいずれかの選択が認められます。
対象となる資産には、新増設ソフトウェア(特定ソフトウェア)、クラウド技術を活用したシステムへの移行に係る初期費用(事業適応繰延資産)、ソフトウェアまたは繰延資産と連携して使用される機械装置・器具備品が含まれます。投資額の上限は法人当たり300億円で、税額控除制度を適用する場合は、カーボンニュートラル投資促進税制と合わせて当期法人税額の20%が控除の上限となっています。
事業適応計画の認定を受ける事業者は、認定申請書と添付書類を主務大臣に提出する必要があります。さらに、認定事業適応計画に従って実施される情報技術事業適応を行う認定事業適応事業者が、当該情報技術事業適応の用に供するために取得しまたは製作した機械および装置、器具および備品並びにソフトウェア並びに当該情報技術事業適応を実施するために利用したソフトウェア(繰延資産となるものに限る)について、租税特別措置法で定めるところにより課税の特例の適用を受けようとする場合、確認申請書を主務大臣に提出する必要があります。実務的には、確認申請書は認定申請書の提出と併せて主務大臣に提出されることになります。
主務大臣は事業適応計画の提出を受けた日から原則として1か月以内に、申請者に認定書もしくは不認定通知書を交付します。主務大臣は認定をしたときは、当該認定の日付、当該認定事業適応事業者の名称および当該認定に係る事業適応計画の内容を公表します。また、確認申請書についてもその提出を受けた日から原則として1か月以内に、当該認定事業適応事業者に確認書が交付されます。
認定事業適応事業者は、認定事業適応計画の実施期間の各事業年度における実施状況について、原則として当該事業年度終了後3か月以内に、主務大臣に「年度における認定事業適応計画の実施状況報告」を提出する必要があります。主務大臣は、当該報告書に係る認定事業適応計画の実施状況の概要を公表します。また、課税の特例措置(特別償却または税額控除)の適用を受ける情報技術事業適応を行う認定事業適応事業者は、「年度における認定事業適応計画の実施状況報告」に加え、当該特例措置の適用を受けた場合の特別償却額や税額控除額についても主務大臣に報告する必要があります。
さらに、特別償却の適用については情報技術事業適応設備の償却限度額の計算に関する明細等を、税額控除の適用については情報技術事業適応設備の取得価額や事業適応繰延資産の額、控除を受ける金額及び当該金額の計算に関する明細等を、それぞれ確定申告書に添付する必要があります。
「情報技術事業適応」とは、次のすべてを満たすものとなりますが、取締役会その他これに準ずる機関による経営の方針に係る決議または決定を伴うものに限ります。
主務大臣による事業適応計画の認定要件は、事業適応計画の実施期間の終了時を含む事業年度以前において、事業適応計画に定める事業を行うことにより、事業者単位の計算において、生産性の向上または新たな需要の開拓に関する目標の達成が見込まれることとされています。
さらに、生産性の向上または新たな需要の開拓に関する目標に加えて、事業適応計画の終了事業年度において、事業適応を実施する事業者全体における財務内容の健全性の向上に関する目標として「有利子負債合計額が留保利益の10倍以下の水準となること」および「経常収入の額が経常支出の額を上回ること」の達成が見込まれることも認定の要件とされています。
前述の(1)と(2)は事業適応計画の認定のための情報技術事業適応の内容と目標ですが、情報技術事業適応に係る課税の特例の確認を受けるための要件は「情報技術事業適応特例基準」の中で別途定められており、次のすべてを満たすことが必要とされています。
事業適応計画の認定と情報技術事業適応に係る課税の特例の確認の間で、情報技術事業適応の内容と目標が一部異なることについて十分な注意が必要です。例えば、情報技術事業適応の内容の1つとして定められた取組類型に該当することが求められますが、「新たな生産の方式の導入等による1単位当たり製造(売上)原価の低減」という取組類型の場合、その低減率が5%以上8.8%未満であれば、事業適応計画の認定要件を満たすものの情報技術事業適応に係る課税の特例の確認要件は満たさないこととなります。
DX投資促進税制の適用にあたり、経済産業省と情報処理推進機構(IPA)が「情報処理の促進に関する法律の一部を改正する法律」(2020年5月15日施行)に基づき開始した、「デジタルガバナンス・コード」の基本的事項に対応し、優良な取り組みを行う事業者を国が法認定する「DX認定」の取得が要件に含まれています。さらに、改正産業競争力強化法における「事業適応計画」の認定が必要となります。認定計画に基づき、2023年3月31日までに取得し、事業の用に供する設備投資が特別償却または税額控除の対象となります。
DX投資促進税制は限られた期間での適用となるところ、その対応にあたっては、事前の検討から必要な認定取得手続きの対応、特別償却・税額控除の対象範囲など、多くの課題が存在します。さらに、DX投資促進税制は検討対象が広範囲にわたることから、その対応にあたっては、経理・税務関連部署のみならずIT関連部署やIR関連部署を含め各部署が連携する横断的な取り組み体制を敷かざるを得ません。企業においては、速やかに検討を開始する必要があります。
※1 事業適応計画(産業競争力強化法)、経済産業省https://www.meti.go.jp/policy/economy/kyosoryoku_kyoka/jigyo-tekio.html
※2 DX認定制度(情報処理の促進に関する法律第三十一条に基づく認定制度)、経済産業省
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dx-nintei/dx-nintei.html
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