法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準(案)(企業会計基準公開草案第71号)・包括利益の表示に関する会計基準(案)(企業会計基準公開草案第72号)・税効果会計に係る会計基準の適用指針(案)(企業会計基準適用指針公開草案第72号)の概要について

はじめに

2022年3月30日、企業会計基準委員会(以下、「ASBJ」)より以下の企業会計基準および企業会計基準適用指針の公開草案(以下合わせて、「本公開草案」)が公表されました。本稿では、本公開草案の概要について解説します。なお、本稿の意見にわたる部分は著者の私見であり、PwCあらた有限責任監査法人の公式な見解ではないことを申し添えます。

  • 企業会計基準公開草案第71号(企業会計基準第27号の改正案)「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準(案)」(以下、法人税等会計基準改正案)
  • 企業会計基準公開草案第72号(企業会計基準第25号の改正案)「包括利益の表示に関する会計基準(案)」(以下、包括利益会計基準改正案)
  • 企業会計基準適用指針公開草案第72号(企業会計基準適用指針第28号の改正案)「税効果会計に係る会計基準の適用指針(案)」(以下、税効果適用指針改正案)

1 改正の経緯

ASBJは、2018年2月に企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」等(以下、企業会計基準第28号等)を公表しましたが、その審議の過程で、次の2つの論点について、企業会計基準第28号等の公表後に改めて検討するとしていました。

  1. 税金費用の計上区分(その他の包括利益に対する課税)
  2. グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等(子会社株式または関連会社株式)の売却に係る税効果

その後、2020年度の税制改正でグループ通算制度が創設されたことに伴い、グループ通算制度を適用する場合の取扱いについての検討が一時的に先行して議論されましたが、2021年8月に実務対応報告第42号「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」を公表した後、上記2論点についての検討が再開され、今回の公表に至りました。

2 論点別解説1:税金費用の計上区分(その他の包括利益に対する課税)

2.1 概要

今回の改正による影響を端的にいえば、「その他の包括利益に対する課税」について、従来は納付された税金は全て会計上の費用とされていたところ、改正後は納付された税金を発生源泉別に区分することとなる、ということです(図表1)。

図表1 改正による影響

会計上、その他の包括利益に計上された取引または事象(以下、取引等)が課税所得計算上では益金または損金に算入され、法人税、住民税および事業税等が課される場合があります。

関連する記述を、法人税等会計基準改正案から引用します※1

現行の企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」では、当事業年度の所得等に対する法人税、住民税及び事業税等は、法令に従い算定した額を損益に計上することとしているため、その他の包括損益を生じさせる取引等による損益についてはその他の包括損益に計上する一方で、これに対して課される法人税、住民税及び事業税等は損益に計上することとなり、税引前当期純利益と税金費用の対応関係が図られていないのではないかとの意見が聞かれた。

この点に関して、従来の会計処理の課題を例に具体的に見ていきましょう。

前提として、決算日が3月31日のA社が、取得原価が1,000のその他有価証券を保有しており、X1年3月期の期末において、その他有価証券の時価は1,500であったとします。

この場合、4月1日からA社を含む通算グループが新たにグループ通算制度を適用することになったため、3月31日付で有価証券が時価評価され、その他有価証券評価差額金500が課税所得に含まれ課税されたものとします。

X1年3月期の期末における法人税、住民税および事業税等の税率は30%であったとします。簡略化のため、その他の課税所得はゼロとします。

この場合、課税所得が500発生していることから、税金計算は下記のとおりになります。

500(課税所得)×30%(税率)=150

以上を前提とした場合、従来の基準においてはX1年3月期末に計上される仕訳は下記のとおりです。

貸方 借方
その他有価証券 500 その他有価証券評価差額金 500
法人税・住民税および事業税 150 未払法人税等 150

また、X1年3月期末のBS・PLへの影響はそれぞれ下記のようになります。

BS
その他有価証券 1,500 未払法人税等 150
評価差額金 500
繰越利益剰余金 ▲150
PL
税引前当期純利益 0
税金費用 150
当期純利益 ▲150

ご覧のとおり、その他有価証券の評価差額はその他包括利益項目として計上され、税引前当期純利益には影響を及ぼさないにもかかわらず、今回のケースでは当該評価差額が課税所得として扱われるため、税引前当期純利益と税金費用が対応していない状況になっています。

そこで、このようなその他の包括利益に対して課税される場合、「当事業年度の所得等に対する法人税、住民税及び事業税等を、その発生源泉となる取引等に応じて、損益、株主資本及びその他の包括利益に区分して計上」(法人税等会計基準改正案5-2項)することが提案されています。改正後の会計処理を、先ほどの事例を使用して具体的に見てみましょう。

事例の前提を先ほどと同じにした場合、改正後の基準における仕訳は下記のとおりになります。

貸方 借方
その他有価証券 500 その他有価証券評価差額金 500
法人税・住民税および事業税 150 未払法人税等 150
その他有価証券評価差額金 150 法人税・住民税および事業税 150

従来の取扱いとの差異は、2行目、3行目の仕訳において、その他包括利益項目であるその他有価証券評価差額金から、税金費用の金額150が直接減額されている点です。

この取扱いの結果、X1年3月期末のBS・PLはそれぞれ下記のようになります。

BS
その他有価証券 1,500 未払法人税等 150
評価差額金 350
PL
税引前当期純利益 0
税金費用 0
当期純利益 0

このように、改正後の取扱いにおいては、その他包括利益項目に関する税金費用はPLに影響せず、税引前当期純利益と税金費用の対応関係が図られています。またその結果、BS上の評価差額金が税金費用の金額分減少しています。

2.2 改正によるメリット

本公開草案では、この改正により、下記のようなメリットがあるとしています※2

(1)(…)税引前当期純利益と所得に対する法人税、住民税及び事業税等の間の税負担の対応関係が図られる。

(2)税効果額については、税効果適用指針※3において、この考え方と同様に取り扱っており、また、国際的な会計基準においても、この考え方と同様に処理することとされている。

2.3 適用されるケース

現行の税制のもとでは、その他の包括利益に対して課税される場合として、次のような場合が想定されています(法人税等会計基準改正案「本公開草案の概要及び質問項目1.税金費用の計上区分:本公開草案が提案する会計処理を適用する企業」)※4

(1)グループ通算制度(従来の連結納税制度を含む。)の開始時又は加入時に、会計上、評価・換算差額等又はその他の包括利益累計額が計上されている資産又は負債に対して、税務上、時価評価が行われ、課税所得計算に含まれる場合※5

(2)非適格組織再編において、会計上、評価・換算差額等又はその他の包括利益累計額が計上されている資産又は負債に対して、税務上、時価評価が行われ、課税所得計算に含まれる場合

(3)投資をしている在外子会社の持分に対してヘッジ会計を適用している場合などにおいて、税務上は当該ヘッジ会計が認められず、課税される場合

(4)退職給付について確定給付制度を採用しており、連結財務諸表上、未認識数理計算上の差異等をその他の包括利益累計額として計上している場合において、確定給付企業年金に係る規約に基づいて支出した掛金等の額が、税務上、支出の時点で損金の額に算入される場合

なお、株主資本に対して課税される場合については、従来から企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(以下「税効果適用指針」という。)等において取扱いが示されており、次の場合を除き、本公開草案が提案する会計処理による影響はない。

(5)子会社に対する投資の追加取得や子会社の時価発行増資等に伴い生じた親会社の持分変動による差額に係る連結財務諸表固有の一時差異について、資本剰余金を相手勘定として繰延税金資産又は繰延税金負債を計上しており、その後、当該子会社に対する投資を売却した場合

2.4 その他の規定

(1)例外的な取扱い

本公開草案では、金額算定が困難な場合の取扱いについて、例外的な取扱いを認めています※6。「課税の対象となった取引等が、損益に加えて、株主資本又はその他の包括利益に関連しており、かつ、株主資本又はその他の包括利益に対して課された法人税、住民税及び事業税等の金額を算定することが困難である場合には、当該税額を損益に計上することができる」としています(法人税等会計基準改正案5-3項〔2〕)。なお、この事例に該当する取引としては、本公開草案においては、退職給付に関する取引を想定しているとしています(法人税等会計基準改正案29-7項)。

(2)重要性が乏しい場合の取扱い

重要性が乏しい場合の取扱いに関して次のように述べています※7。「損益に計上されない当事業年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等の金額に重要性が乏しい場合には、当該法人税、住民税及び事業税等を当期の損益に計上することができる」とされています(法人税等会計基準改正案5-3項〔1〕)。

(3)税金の配分方法に関する取扱い

株主資本およびその他の包括利益に計上する金額の算定に関して次のように述べています※8。「株主資本又はその他の包括利益の区分に計上する法人税、住民税及び事業税等は、課税の対象となった取引等について、株主資本又はその他の包括利益に計上した金額に、課税の対象となる企業の対象期間における法定実効税率を乗じて算定すること」とされています(法人税等会計基準改正案5-4項)。

また、株主資本およびその他の包括利益に計上する金額の算定に関して、法人税等会計基準改正案5-4項ただし書きでは、「課税所得が生じていないことなどから法令に従い算定した額がゼロとなる場合に株主資本又はその他の包括利益の区分に計上する法人税、住民税及び事業税等についてもゼロとするなど、他の合理的な計算方法により算定することができる」とされています。

この点に関して、従来より税効果適用指針においては、「子会社に対する投資を一部売却した後も親会社と子会社の支配関係が継続している場合、(…)税務上の繰越欠損金がある場合など複雑な計算を伴う場合があることから、実務に配慮しつつ、個々の状況に応じて適切な判断がなされることを意図した」取扱いが定められています(税効果適用指針第28項・第118項)。そこで「子会社に対する投資の一部売却以外の株主資本又はその他の包括利益に対して課税される場合についても、同様に実務上の配慮が必要になると考えられることから、当事業年度の所得に対する法人税、住民税及び事業税等を、株主資本又はその他の包括利益に区分して計上する場合についても同様に取り扱う」とされています(法人税等会計基準改正案29-8項)。

(4)損益計上のタイミングに関する取扱い

損益計上のタイミングに関連して、「その他の包括利益累計額に計上された法人税、住民税及び事業税等については、当該法人税、住民税及び事業税等が課される原因となる取引等が損益に計上された時点で、対応する税額を損益に計上する」とされています(法人税等会計基準改正案5-5項)。

これは、一度その他包括利益項目に計上された法人税・住民税および事業税を純損益に組替調整するかどうか、といういわゆるリサイクリングの論点ですが、これまでも日本においては、当期純利益の総合的な業績指標としての有用性の観点から、その他の包括利益に計上された項目については、当期純利益にリサイクリングすることを会計基準に係る基本的な考え方としています。このことを踏まえ、法人税、住民税および事業税等が課される原因となる取引等が損益に計上された時点でリサイクリングを行い、損益に計上することとされています。

それでは上述の事例を利用して、X2年3月期中に1,300で売却したと仮定した場合の仕訳を見てみましょう。

その他有価証券評価差額金の戻入仕訳

貸方 借方
その他有価証券評価差額金 500 その他有価証券 500

その他有価証券評価差額金の売却仕訳

貸方 借方
現金預金 1,300 その他有価証券 1,000
その他有価証券売却益 300

過年度に評価・換算差額等に計上した法人税、住民税および事業税のリサイクリングの仕訳

貸方 借方
法人税、住民税および事業税 150 その他有価証券評価差額金 150

過年度に計上した評価・換算差額等(その他有価証券評価差額金)を損益に計上(リサイクリング)したことから、X1年3月期の期末に評価・換算差額等(その他有価証券評価差額金)として計上した税額150についても損益に計上します(法人税等会計基準改正案5-5項参照)。

その他の有価証券の売却に係る法人税、住民税および事業税等の仕訳

貸方 借方
未払法人税等  60 法人税、住民税および事業税 60

※ 法人税、住民税および事業税60=税務上のその他有価証券売却損200×法人税、住民税および事業税の税率30%その他有価証券の税務上の帳簿価額は、1,500であるため、税務上、その他有価証券の売却損が200(=現金預金1,300-その他有価証券1,500)生じる。したがって、課税所得計算上は当該売却損200が損金に算入される。

なお、税率変更に係る差額についてもリサイクリングの対象とするかという論点が存在しますが※9、「税引前当期純利益と税金費用の比率は必ずしも法定実効税率とは一致せず、両者の差異の主要な要因を注記により開示していること、及び当該処理は実務上煩雑であるとの意見が聞かれたことを踏まえ、税率の変更に係る差額をリサイクリングする処理は採用せず、過年度に計上された資産又は負債の評価替えにより生じた評価差額等を損益に計上した時点のみにおいてリサイクリングを求める」とされています(法人税等会計基準改正案5-5項参照)。

(5)関連する繰延税金資産または繰延税金負債を計上していた場合の取扱い

繰延税金資産または繰延税金負債を計上していた場合の扱いについても提案されています。税効果適用指針第30項における、親会社の持分変動による差額に係る連結財務諸表固有の一時差異について、資本剰余金を相手勘定として繰延税金資産又は繰延税金負債を計上していた場合で、当該子会社に対する投資を売却し、一時差異が解消した際の繰延税金資産又は繰延税金負債の取崩しについては、資本剰余金を相手勘定として取り崩すことが提案されました。

この点、現行の税効果適用指針では、親会社の持分変動による差額に係る連結財務諸表固有の一時差異について繰延税金資産または繰延税金負債を計上していた場合、資本剰余金を相手勘定としている一方で、子会社に対する投資の売却時に当該親会社の持分変動による差額に係る一時差異が解消することにより繰延税金資産または繰延税金負債を取り崩すときは、対応する額を法人税等調整額に計上することとなっていました。この取扱いは、連結税効果実務指針の「連結財務諸表上、追加取得や子会社の時価発行増資等により生じた資本剰余金の額について、法人税等調整額に相当する額を控除した後の額で計上し、売却時に繰延税金資産又は繰延税金負債の取崩額を法人税等調整額に計上することにより、適切な額を税金費用として計上するためである」という考えを踏襲したものでした。

この点、法人税等会計基準改正案において提案している原則に従えば、株主資本に対して課税される場合には、法人税、住民税および事業税等を株主資本の区分に計上することになることから、このような会計処理を求める必要性は乏しくなったものと考えられ、資本剰余金を相手勘定として取り崩す提案がされたものです。

(6)その他の包括利益の開示に関する取扱い

企業会計基準第25号「包括利益の表示に関する会計基準」第8項における、その他の包括利益の内訳項目から控除する「税効果の金額」および注記する「税効果の金額」について、「税金費用(法人税その他利益に関連する金額を課税標準とする税金及びそれらに関する税効果の金額をいう。)の金額」に改正することとされています(包括利益会計基準改正案8項)。

これは従来より包括利益計算書においては、その他の包括利益の内訳項目は税効果を控除した後の金額で表示するとともに、内訳項目別の税効果の金額を注記することとされています。本公開草案において提案している原則に従ってその他の包括利益に計上される法人税、住民税および事業税等についても、その他の包括利益に計上される税金費用であるという点は税効果と同様であることから、税効果のみならず、法人税等についてもその他の包括利益に計上するため、上記の提案がなされました。

2.5 課題

本公開草案の適用に伴い、従来一括して開示することができていた税金費用を、発生源泉に応じて分離して処理することが必要になります。そのため、一般的には会計処理および開示の煩雑さが増加することが懸念されます。

どのように分離するかなど、具体的な方法については影響のある各社において検討が必要になりますので、できるだけ早いタイミングで監査人との相談を開始されることをお勧めします。

3 論点別解説2:グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等の売却に係る税効果

3.1 概要

今回の改正の影響を端的に表すと、下図のとおり「国内完全支配関係にある会社間で子会社株式等を売却した場合、連結上、売却損益に係る税効果を従来は認識していたが、改正後は認識しない」ということです(図表2、図表3)。

図表2 本公開草案が提案する会計処理
図表3 税効果適用指針の改正による変化

本公開草案が提案する会計処理は、100%子会社を所有する親会社で、その100%子会社同士あるいは当該親会社とその100%子会社との間で、当該親会社あるいはその100%子会社が所有する子会社株式等を売却し、当該売却に伴い生じた売却損益について、グループ法人税制が適用される場合の当該親会社が作成する連結財務諸表に適用されます。

現行の税効果適用指針では、グループ法人税制が適用される場合※10の子会社株式等の売却に係る税効果の取扱いについて、「当該子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表において、当該売却損益に係る一時差異に対して繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されているときは、連結決算手続上、当該一時差異に係る繰延税金資産または繰延税金負債の額は修正しない」※11とされています(税効果適用指針39項)。

しかしながら、税引前当期純利益と税金費用を合理的に対応させることが税効果会計の目的(「税効果会計に係る会計基準」第一)とされている中で、現行の税効果適用指針での取扱いは、連結決算手続上、消去される取引に対して税金費用を計上するものであり、税引前当期純利益と税金費用が必ずしも対応していないとの意見を踏まえ、検討を行った結果、現行の取扱いの見直しが提案されることとなりました。

具体的には、前述の要件、すなわち100%子会社を所有する親会社で、その100%子会社同士あるいは当該親会社とその100%子会社との間で、当該親会社あるいはその100%子会社が所有する子会社株式等を売却し、当該売却に伴い生じた売却損益について、グループ法人税制が適用される場合に該当するとき、連結財務諸表において以下の処理を行うことが提案されています([ ]は引用者追記)。

(1)子会社株式等を売却した企業の個別財務諸表において、売却損益に係る一時差異に対して繰延税金資産又は繰延税金負債が計上されているときは、連結決算手続上、当該一時差異に係る繰延税金資産又は繰延税金負債を消去する。[税効果適用指針改正案39項]

(2)購入側の企業による当該子会社株式等の再売却等、法人税法第61条の11に規定されている、課税所得計算上、繰り延べられた損益を計上することとなる事由についての意思決定がなされた時点において、当該消去額を戻し入れる。[税効果適用指針改正案39項]

(3)子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来減算一時差異については従前、繰延税金資産を計上する必須要件の一つとして、子会社株式等の売却を予測可能な将来の期間に行う意思決定または実施計画の存在が定められていたが、本改正案の要件を満たし課税所得計算において売却損益を繰り延べる場合は例外とすることが新たに定められた。[税効果適用指針改正案22項]

(4)子会社に対する投資に係る連結財務諸表固有の将来加算一時差異については従前、繰延税金負債の計上が必要なくなる要件の一つとして、子会社株式等の売却を予測可能な将来の期間に行う意思の不存在を定めていたが、本改正により、たとえ当該意思が存在していても、本改正案の要件を満たし課税所得計算において売却損益を繰り延べる場合においては、当該意思の不存在と同様の取扱いをすることが定められた。[税効果適用指針改正案23項]

上記の基準が実際にどのように財務諸表に影響するかを、事例を用いて確認していきましょう(図表4)。

図表4 税効果適用指針の改正後、連結財務諸表に与える影響

内容は、グループ法人税制の適用される会社グループの親会社Aが完全子会社のBに対して、子会社Cの株式を売却した場合の数値事例です。

個別財務諸表上では売却損益が計上され、その一時差異に対して法人税等調整額が計上されています。一方で、連結財務諸表上では親子会社間取引であるため売却損益は相殺消去されていますが、現行の税効果適用指針に従い税効果分は消去されず残存しています。

結果的に、税金等調整前当期純利益がゼロであるにもかかわらず税金費用120が計上され、必ずしも適切に対応していないと言えます。

一方で改正後においては、連結上も売却損益・税効果分の双方が消去され、税金等調整前当期純利益と税金費用が対応しています。

3.2 課題

本公開草案の適用に伴い、従前と会計処理が変更になりますので、注意が必要です。また、結果的にではありますが、連結上の不整合が解消したものの、連結と単体の不整合が発生することになります。この点、会計処理を行う際に関係者同士でしっかりと意思疎通しておくことが必要になります。

4 適用時期・経過措置

(1)適用時期

本公開草案は、2024年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用が始まり、2023年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から早期適用することができるとされています(図表5、法人税等会計基準改正案20-2項、包括利益会計基準改正案16-5項、税効果適用指針改正案65-2項〔1〕)。

図表5 本公開草案の適用時期・改正項目・経過措置

(2)経過措置

経過措置については、次のように提案されています。「税金費用の計上区分については、会計方針の変更による累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減するとともに、対応する金額を資本剰余金、評価・換算差額等又はその他の包括利益累計額のうち、適切な区分に加減し、当該期首から新たな会計方針を適用することができる」※12(法人税等会計基準改正案20-3項)。

一方でグループ法人税制に係る改正については、「特段の経過的な取扱いを定めない」としています※13(税効果適用指針改正案163項〔2〕)。その理由として、「本公開草案の対象となる取引は、売却元企業の税務申告書に譲渡損益調整勘定等として記載されているため、過去の期間における対象取引の把握は可能と考えられる」こと、および従来の実務においても税効果会計の適用の観点から、「購入側の企業における再売却等についての意思の有無」を捕捉してできていたと考えられ、「遡及適用が困難となる可能性は低いと考えられる」ことが挙げられています。


※1 法人税等会計基準改正案「コメントの募集及び本公開草案の概要」3ページ
https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/zeikouka2022_01.pdf

※2 法人税等会計基準改正案「コメントの募集及び本公開草案の概要」4ページ

※3 企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」

※4 法人税等会計基準改正案「コメントの募集及び本公開草案の概要」3〜4ページ

※5 本稿前述の事例を参照

※6 法人税等会計基準改正案「コメントの募集及び本公開草案の概要」5ページ

※7 法人税等会計基準改正案「コメントの募集及び本公開草案の概要」6ページ

※8 法人税等会計基準改正案「コメントの募集及び本公開草案の概要」6ページ

※9 「法人税等会計基準改正案」29-10項

※10 連結会社間における子会社株式等の売却に伴い生じた売却損益について、税務上の要件を満たし課税所得計算において当該売却損益を繰り延べる場合(法人税法第61条の11)。

※11 法人税等会計基準改正案「コメントの募集及び本公開草案の概要」8ページ

※12 法人税等会計基準改正案「コメントの募集及び本公開草案の概要」11ページ

※13 法人税等会計基準改正案「コメントの募集及び本公開草案の概要」12ページ


執筆者

神林 徹

PwCあらた有限責任監査法人
企画管理本部
ディレクター 神林 徹