【開催報告】レジリエントなサプライチェーンで実現する価値創造経営

中長期的な事業競争力を高める次世代サプライチェーンの要諦

  • 2024-04-22

PwC Japanグループは2024年2月29日、グローバル規模でサプライチェーンを持つ企業などを対象とするオンラインセミナーを開催しました。

「価値創造経営」をテーマとする過去のセミナーでは、自社の成長と企業価値向上の源泉となる無形資産を経営の根幹と位置付ける「思考の変革」と、過去から現在のみならず、中長期的な視点とバックキャストの考え方を経営に取り入れる「時間軸の拡張」の重要性について提案してきました。

シリーズ3回目となる本セミナーでは、価値創造につながるサプライチェーンの見直しと再構築の重要性と方法について解説しました。

参考:第1回セミナー採録記事、第2回セミナーオンデマンド配信および採録記事

第1部

セミナーは3部構成とし、第1部では「価値創造経営 地政学リスクの潮流とサプライチェーン対応の実態」と題し、地政学リスクの変化と、その変化がサプライチェーンに及ぼす影響について説明しました。

PwC Japan合同会社
地政学リスクアドバイザリー
ピヴェット久美子

地政学リスクの影響が広がっている

地政学リスクの範囲が広がっています。

地政学リスクは伝統的に安全保障と軍事的な緊張のリスクから評価することが多かったのですが、近年では、通商、産業、金融など経済領域の政策や、デジタルや情報、人権、環境など非安全保障領域も含むようになりました。

また、経済と安全保障の関係性も、従来は通商の関係が良くなることによって軍事的な緊張を緩和できるという相互作用の関係にありましたが、核兵器の開発によってかえって武力行使を伴って戦略的に意図を飲ませることが難しくなりました。一方では社会の隅々にまで普及したデジタル技術を通じて他国に影響を与えられるようになり、経済と安全保障が融合するようになりました。

これにより経済的な武器によって社会に影響を与える、もしくは影響を防ぐことの重要性が増しています。また、経済活動の真ん中にいる企業が地政学リスクと経済安全保障の影響を強く受けるようになっています。

自由でグローバルな経済の前提が変化

経済安全保障の直近の変化を見ると、まず米国の国力低下や新興国の台頭により、戦後から続いてきた自由経済とグローバリゼーションを前提とする企業の経済活動が変化しています。具体的には、米国以外の複数の経済圏が成長し、いくつもの極がパワーバランスの駆け引きをしている状況のなかで、グローバル展開してきたサプライチェーンが細分化し、同時に、デジタルやサイバーの空間にあるデジタル経済も細分化が進みました。

その結果として、例えば、中東情勢の不安定化によって同地域を航行する船舶のルート変更の必要性が生じ、サプライチェーンが混乱するとともに、欧州企業の生産活動に遅れが出るようになりました。また、EV業界の例からも分かるように、生産地域が偏在しているレアメタルなどの資源を特定の国が囲い込む政策をとるようになったため、材料などの安定調達のためにサプライチェーンをデザインから見直し、変えていく重要性が増しています。

中長期視点のサプライチェーン改革が求められる

これら外部環境の変化を受けて、日本企業の地政学リスクへの関心も高まっています。特に関心が高いのがサイバーアタックやサイバーテロといったサイバー空間での脅威と、グローバルサプライチェーンの寸断リスクです。また、具体的な有事を想定したシナリオに基づいて事業への影響を評価したり、グローバルやローカルのサプライチェーンを改変したりする企業も増えつつあり、私たちPwC Japanグループも多くの相談を受けています。

現状として、自社のサプライチェーンを特定の地域や調達先に依存している企業は少なくありません。地政学リスクの上昇によってサプライチェーンが寸断されるリスクも内包しています。このようなリスクへの対策としては、契約長期化で調達の安定化を図る、在庫戦略で対応する、サプライチェーンのデザインやサプライヤーを変更する、複線化するといった方法があります。または、技術開発にリソースを投入し、内製化するといった方法もあります。

これら多様な対策を含めて、地政学リスクとサプライチェーンの課題は、短期的な課題として捉えるのではなく、中長期の視点で検討し、実行していくことが求められています。

第2部

第2部では「サステナブルなサプライチェーンモデル構築のためのダイナミックデジタルサプライチェーン改革」と題し、サプライチェーン改革に向けた視点と課題解決のアプローチ方法について説明しました。

PwCコンサルティング合同会社
マネージングディレクター
藤沢賢二

アクションが効果に結びつかない

新型コロナウイルス感染症の拡大、ロシアによるウクライナ侵攻、中東情勢の緊迫化などの影響を受けて、サプライチェーン上にあるリスク対策や課題解決に着手する企業が増えています。一方で、サプライチェーン上のリスクが、エネルギー政策、環境規制、異常気象、資源の枯渇、労働環境、有事のリスクとサイバー攻撃といった分野へと広がることにより、対策に向けたアクションを取りつつも、期待どおりの効果が得られていないと回答している企業が83%に及んでいる実態もあります。

外部からの情報を得てインサイトをもつ

これらのリスクが企業活動に与えるインパクトは大きいため、サプライチェーンの課題はあらゆる方向から分析し、解決に導いていかなければなりません。また、「100年に1度」と言われるような変化があらゆる分野で頻繁に起きている状況では、想定していない課題にも対応していく必要があります。

そのためには、外部から情報を収集し、それらを踏まえて課題解決につながるインサイトを蓄積していくことが重要です。自社の過去の経験や知識のみで対応できない部分については外部からの知見などによって補いながら、レジリエントな次世代のサプライチェーンモデルを再構築することが求められています。

経営の視点では、短期と長期の視点を併せながらバックキャストで解決策を考え、サプライチェーンを構造的に変えていくことが重要です。

次に、サプライチェーン上にいる複数のサプライヤーとの連携によって課題を解決していくという視点が求められます。その際には、問題が起きた時に全ての情報を関係各社と迅速に共有するために、情報の透明性を高める必要があります。

また、外部環境が非常に速いペースで変化する状況下では、従来のようにPDCAで課題を解決するだけでなく、アジャイル的に現状に合うアクションをとり、その結果をスピード感を持って評価することでフレキシブルに対応していくこと、そして、そのような考え方と対応ができる組織を構築することが重要です。

リスクを網羅的に把握する

外部環境の変化に適応可能なサステナブルなサプライチェーンを構築する方法は、3つのステップで考えることができます。

1つ目のステップはリスク管理です。複数のリスク要因がある中では、まずはどのリスクを優先的に対処していくのかを明確にする必要があります。前述したように、アクションが課題解決に結びついていない企業が多いですが、このような状況も、ステップ1として課題の把握と優先順位をつけることによって変えていくことができます。

2つ目のステップは、変革のポイントを明確にすることです。リスク要因への対策を順番に行っていくために、組織のあり方をどうするかを考え、組織を動かすための知識の底上げを行います。

3つ目のステップは、対策の実行に向けた行動計画をバックキャストで考え、長期、中期、短期のそれぞれの視点で合理的なアプローチ方法を考えます。

これら3ステップを実行していくための支援として、私たちPwCコンサルティングは、独自の簡易診断サービスによってクライアントのリスクアセスメントを行っています。これはリスク要因への対策状況を0から5のレベルで分析し、対策が全くできていない状態を0、網羅的に対策できている状態を5として可視化するものです。

アセスメントを行うことで、対策できているリスクと、できていないリスクを網羅性をもって認識できるようになるため、対処の優先度の高いリスク要因についてステップを踏みながら解決に向けた計画を実行していくことができます。

環境問題を例にすると、アセスメントサービスを使うことで、サプライチェーンのどこでGHG(温室効果ガス)を排出しているか、どれくらいの量を排出しているかといったことをデータとして把握できます。例えば、冬にGHGの排出量が増える、排出量が一部の地域に偏っているといったことが分かれば、季節性や地域性を踏まえてサステナブルなサプライチェーンに変革していくことができます。簡易診断サービスは数値化するだけではなくグラフ化することもできるため、視覚的に状況を把握しやすくなりアクションが取りやすくなります。

なお、必ずしも全てのリスク要因に対してレベル5の状態になる必要はありません。例えば、あるリスク要因への対策がレベル2でも、競合がレベル3であれば3に引き上げるだけで競争力は維持できます。そのような視点で自社の現状と市場での立ち位置を認識していくことが重要です。

第3部

第3部では「戦略的サプライマネジメント」と題し、サプライヤーのリスク検知と管理を通じてサプライチェーンのレジリエンスを高める方法を説明しました。

PwCコンサルティング合同会社
ディレクター
小山元

戦略的サプライマネジメントとは

戦略的サプライマネジメントは、自社の調達だけに頼らず、社外のステークホルダーも巻き込んだサプライチェーンの管理によって、必要なものを、必要な時に、必要としている人に、必要な量を供給するためのマネジメントです。

この取り組みは調達の安定化につながるだけでなく、供給のコントロールによってタイミング良く商品を市場に投入することで売上拡大に結びつけることができます。また、サプライヤーを単なる仕入れ先に止めることなく、パートナーとして関係を強化することでお互いの知見を融合させ、イノベーションを起こすこともできます。

さらに、調達の質を高めることで、例えば、ESG調達のような取り組みが企業のブランドや価値の向上につながります。これらも戦略的サプライマネジメントに取り組む効果に含まれます。

サプライチェーンを網羅してリスクを可視化

戦略的サプライマネジメントの実現には2つのポイントがあります。

1つ目は、サプライヤーのリスク検知です。

サプライヤーのリスクは、財務状況やオペレーションの状況などを把握して評価するのが一般的です。しかし、不確実性が高まっている現在は、サプライヤーが拠点とする国の地政学リスクや、規制の変更や強化などにも注意しなければなりません。サイバーリスク、ESG、持続可能性なども評価対象に含まれます。

特にサプライチェーンの範囲が広い、または長い企業の場合、直接の取引相手であるサプライヤーの先に、複数のサプライヤーが存在しています。インシデントの発生率はTier2以降の方が高くなるため、深い階層のサプライヤーであるTier Nのサプライヤーを対象にリスクを可視化することが重要です。

私たちの支援では、Tier Nに及ぶサプライヤーの情報を一元管理する仕組みを使い、財務やオペレーションはもちろん、前述したようなESGや情報セキュリティなどの情報も含めたリスクを定量的および定性的に可視化しています。また、リスクのスコア化などによって可視化した情報を踏まえて、リスクを検知したサプライヤーへの改善対策の要望を推奨したり、サプライヤーを替える提案をしたりし、それらの方法によってスモールスタートからサプライチェーンを変革していく支援を行っています。

戦略的なコミュニケーションを実行

2つ目は、サプライヤー管理です。

事業で提供する商品やサービスの質は、外部環境の変化を受けることなく一定であることが重要です。コストも一定であることが重要で、それによって事業が安定します。そのためには材料調達の鍵を握るサプライヤー管理が重要です。

また、サプライチェーン上のサプライヤーを全て同じ水準で管理するのは難しいため、私たちが提案する管理方法では、取引金額などの関係値を基準としてサプライヤーを4段階に分けて管理する方法を推奨しています。

コアのサプライヤーは自社の事業にとって重要性が高く、代替も効きにくくなります。そのため、コミュニケーションを厚くするなどの取り組みを戦略的に行いながら、安定的に調達できるサプライチェーンに強化していきます。

サプライヤーとの関係性は外部環境や市場の動向などによって常に変化するため、今期のコアサプライヤーが来期は準コアサプライヤーになったり、反対に、準コアサプライヤーがコアサプライヤーになったりすることもあります。サプライヤー管理では、そのことを念頭に置いてサプライヤーを見直し、戦略的に付き合っていくことが重要です。

企業全体でサプライチェーンマネジメントに取り組む

サプライヤーのリスク検知と管理は、実績の評価などを継続的に行いながら精度を高めていくことが重要です。ただし、その作業をアナログで行うのは現実的ではなく、データで管理していくのが良いでしょう。

データ化すると、社内におけるサプライヤーの評価、見直し、比較などがしやすくなり、サプライヤーに対しては客観的なデータを踏まえた改善要望がしやすくなります。私たちはそのような活用の支援も行い、経営と現場が一体となって取り組むドラスティックなサプライチェーンマネジメントと、その先にある価値創造経営に貢献しています。

主要メンバー

藤沢 賢二

マネージングディレクター, PwCコンサルティング合同会社

Email

小山 元

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

Email

ピヴェット 久美子

ディレクター, PwC Japan合同会社

Email

{{filterContent.facetedTitle}}

{{contentList.dataService.numberHits}} {{contentList.dataService.numberHits == 1 ? 'result' : 'results'}}
{{contentList.loadingText}}

本ページに関するお問い合わせ