自動車の将来動向:EVが今後の主流になりうるのか 第6章

2019-05-28

第6章 将来のエンジン車と次世代車両比率(ロードマップ)

本章で強調したいことは下記の3点です。

  • これからの新車販売台数増加分は先進国への電動車導入で対応
  • エンジン車の熱効率改善と石油燃料からカーボンフリー燃料への転換
  • 車両軽量化

はじめにCOP21で採択されたパリ協定でのCO2削減目標の達成可能性について概要を述べます。

以下に示すCO2排出量予測に対し、CO2低減の技術的根拠を明確にしました。その上で、エンジン車の導入は抑制しなくても、パリ協定で定めた2050年のCO2排出量目標である17億トンの達成が可能であるという結論を導き出しました。

新車販売台数・保有台数から予測するCO2排出量

  • 四輪車販売台数は2040年において1.3億台まで増加し、その後飽和する
  • 四輪車保有台数は2040年に20.1億台まで増加し、その後飽和する
  • 四輪車からのCO2排出量は対策を打たないと、2040年に95.7億トンまで増加する

CO2排出低減の技術的根拠(第1章、第2章参照)

  • 新車販売台数増加分のCO2排出量は主に先進国にて電動車(HV、PHV、EV、FCV)を導入して低減する
  • 電動車は技術完成度(航続距離・重量・コスト)、CO2低減率、インフラ整備状況などを総合的に鑑み、まずHVを導入し、次にPHV、EV、FCVの順番で導入しCO2低減を図る
  • 高張力鋼板からホットプレス、金属から複合樹脂などの新しい材料への置き換えの可能性を考慮し、車両重量は2015年比で2030年に20%減、2040年に27%減として、CO2低減を図る
  • エンジン車に関しては、2030年までに熱効率改善+MHS(マイルドハイブリッドシステム)を全車に採用することにより、30%の燃費改善を図る
  • エンジン車の燃料は、2040年までに48%をバイオ燃料、17%を水素燃料に転換する

図表1は新車販売台数が1.3億台(上振れケース)でのセールスミックスです。

新車販売台数は2040年に飽和します。世界全体でみると、2040年時点の50%(6,500万台)はエンジン車で、内訳は24%がバイオ燃料(エタノール+FAME)、8.5%が水素燃料、3%がCNG/LNGに転換し、残りの14.5%がガソリンと軽油になります。一方、50%の電動車(6,500万台)の内訳は、HVが20.5%、PHVが15%、EVが9.5%、FCVが5%となります。なお、ここで示すEVの大半は現在中国で拡大しつつあるLSEV(Low Speed Electric Vehicle)です。HV、PHVに搭載されるエンジンを含めるとエンジン市場は1.1億台ということになります。地域別でみると、2030年には先進国では大半が次世代車になる一方、新興国では2040年においてもエンジン車比率は77%となります。2050年においてエンジン車、HV、PHVの燃料は全てバイオ燃料と水素燃料になります。

図表2と図表3は2015~2050年までの電動車の比率です。

電動車比率は以下を考慮し決定しました。

  • 先進国新車販売台数
  • パリ協定の2050年CO2削減目標
  • 技術完成度(コスト、排気規制対応を含む)
  • 米国カリフォルニア州のZEV規制と中国のNEV規制
  • インフラ導入難易度
  • 航続距離/車両重量

今後、HV販売台数は堅調に増加し、PHVはそれに続きます。EV/FCVは価格/重量/航続距離の課題対応が進む2030年以降に拡大するも、2050年以降は飽和傾向となります。これは2050年にエンジン車、HV、PHVの燃料が全てバイオ燃料と水素燃料になることで、EV、FCVのニーズが限定的になるためです。

次に、大都市圏での大気改善のために実施される米国カリフォルニア州のZEV規制、中国のNEV規制がどの程度のインパクトがあるか検討しました。

図表4は世界販売に占めるNEV、ZEV台数比率です。

中国のNEV規制は、PHV(クレジット2)を100%導入した場合に販売台数が上振れとなり、EV(クレジット3.2)を100%投入した場合は下振れとなるため、それぞれのケースを示します。中国NEV規制、米国ZEV規制に対応が必要なPHV、EV、FCV台数比率は、2020年で世界販売の1.3~2.1%、2025年で2.2~3.5%となります。

図表5はパリ協定対応に必要なPHV、EV、FCV台数比率とZEV、NEV対応台数比率の比較です。

パリ協定対応に必要なPHV、EV、FCV台数比率は、世界販売の3.5%(2020年)~9%(2025年)となるため、ZEV、NEV影響は上振れで1/3、下振れで1/4程度ということになります。このことからZEV規制、NEV規制ともにローカル規制の位置付けで、両規制を実施してもパリ協定のCO2排出量削減自主目標を達成することはできないことが分かります。

「ZEV、NEV規制対応のためにEVを拡大導入することが必要となるため、自動車メーカーは大変だ」「これからエンジン車はEVに置き換わっていく」など、見解が目立ちますが、それよりもむしろパリ協定目標達成に向けたあるべきCO2規制強化案(筆者案:年率8%削減)に対し、全方位の技術で対応することの方がよりハードルが高いことが一刻も早く認識される必要があります(第4章参照)。ここで、全方位の技術開発にHVはなくてはならない重要な持ち駒であることを再度念押ししておきたいと思います。

自動車メーカーにとって、2021年に向けたCO2排出規制対応、およびNEV、ZEV規制対応は本腰を据えて取り組むべき喫緊の課題であるのは間違いありません。それと同時に、2021年以降のあるべき規制強化案を想定し、自動車の改良、エネルギー転換という、さらに先を見据えた課題に取り組むことが自動車メーカーに求められている社会的使命と言えるでしょう。ちなみに2021年以降のCO2排出規制値案は、EUが年率5%、日本が同3.5%、中国が同4.5%、米国が現状の同5.5%から緩和方向となっています。当局の規制値ではパリ協定のCO2排出量削減自主目標を達成することはできません。パリ協定の目標達成に必要な規制値年率8%という私案は世界全体の平均値であることを再度追記しておきます。

パリ協定のCO2削減目標を達成する上で、車両の大幅軽量化は必須です。図表6は車両軽量化に向けての先端技術を含めた改良アイテムの一例です。図表7は重量低減目標、図表8は軽量化によるCO2改善率をそれぞれ示しています。ここには車両のダウンサイジングも含めます。

四輪車の軽量化は、技術完成度と低コストの実現性を考慮して、重量低減率目標を2040年に2014年比27%、2050年には30%の達成が必要となります。軽量化によるCO2改善率は2040年において20%となります。

それでは、これまで述べたシナリオでCO2削減目標が達成できるのでしょうか?

図表9は、これまでの技術投入シナリオに基づき、世界のCO2総排出量の低減効果を示したものです。

地球温暖化阻止のための2050年CO2総排出量17億トンという目標(パリ協定での各国自主目標で一致していないため、IPPC5次レポートの2013年比70%減とした)に対し、今回提示した各種電動車のセールスミックス、車両軽量化、エンジン熱効率向上+マイルドハイブリッドシステム化、脱石油に伴う天然ガス、バイオ燃料、水素燃料などの導入により、CO2総排出量は12.8億トンまで低減します。目標の17億トンを達成することができるのです。2015年時点の世界の四輪車の石油消費量は20.3億トンで、今後、燃費改善がないという前提で保有車両が前述の12.6億台から20.1億台まで増加すると、世界の石油消費量は2050年に32.4億トンまで拡大すると予想されます。ただし自動車にはCO2排出規制があるため、現状年率5%減の規制を2021年以降は年率8%(著者案)に強化すると同時に、2050年のCO2低減目標に向けて、電動車導入、車両軽量化、エンジン効率改善+MHS導入により、2050年における石油消費量は2015年比の50%に相当する10.9億トンまで減少することになります。図表10から分かるように自動車用石油消費量は2020年以降ピークアウトします。

2050年の石油消費量は、車両軽量化とエンジンの効率化により2015年と同レベルの17.8億トンまで削減し、残り6.9億トンをHV、PHV(80%電気使用)、EV(100%電気使用)、FCV(水素)の電動車導入で削減できます。エンジン車では、10.9億トンの石油消費量の内、ガソリン/軽油4億トン相当をバイオ燃料(エネルギー密度が低いため5億トン)に、1.9億トン相当を水素燃料(エネルギー密度高いため0.7億トン)に置き換えることで、石油消費量は2015年比で75%減の5億トン程度になります。

HVは上記5億トンの内2億トン程度を消費します。PHV、EVはそれぞれ80、100%の電力を使用するため、再生可能エネルギー発電を想定すると、総電力量は2050年には石油エネルギー換算で2.5億トン(3,056TWh)程度と見積もることができます。これは2015年総電力量の12%に相当します。FCVは石油エネルギー換算で1.9億トン程度(エンジン車とほぼ同量)消費することになります。

PHVとEVの総消費電力量は、2050年で1,100TWh(年間走行距離12,000km 電費6km/kWh)程度と見積もることができます(再生可能エネルギーでの発電の場合石油換算では0.9億トン相当)。これは現在の世界の総発電量25,000TWhの5%弱となります。FCVは水素燃料を0.7億トン程度(石油換算で1.9億トン、エンジン車とほぼ同量)を消費することになります。

これらの結果を、2050年における保有車のエネルギー消費の構成(石油換算)で示したものが図表11となります。石油換算で見積もったエネルギー消費量は32.4億トンから15.3億トンまで削減(58%)され、エネルギー比率でみると、石油33%、バイオ(PTL、LNG含む)26%、水素25%、電気16%となり、再生可能エネルギーが67%を占めることになります。

ここまで2040年の販売台数1.3億台(上振れ)のケースについて説明しました。一方、シェアリングの普及により販売台数が1.1億台(下振れ)となるケースはどうなるのでしょうか。

シェアカーの総走行距離は一般車の2倍以上は必要となるため(タクシーユースと同等以上の耐久性確保を前提とする)、台数は減少してもCO2総排出量は1.3億台の場合とほぼ同等と考えられます。ただし現実的には、シェアカーの効率的運用もCO2削減の手段となりうるため、エンジン車、電動車の内分けは図表1で示す1.3億台のケースと同様であるが、CO2排出量は1.3億台のケースを下回ると予想します(詳細は割愛)。

続いて、中国の省エネ車(燃料代替エンジン車、HV)、新エネ車(PHV、EV、FCV)の動向予測について説明します。図表12は昨年までの中国における乗用NEV(PHV、EV)の販売台数を示したものです。2018年で乗用車は106.6万台、商用車を含めると126.8万台の販売台数となっています。

中国での自動車販売台数が2018年は2017年比で2.8%マイナスとなる中、NEV(EV、PHV)販売台数は2017年比82%増の107万台(世界NEV販売の50%、中国総販売台数の3.8%)となりました。小型車減税終了(2017年末)、NEV助成金減額に直面する中、ナンバー取得優先などの優遇政策により堅調に増加しています。2018年の中国でのEV伸び率は2017年比68%に対し、PHVの伸び率は同140%と大幅に増加し、今後NEVに占めるPHV比率は大幅に伸びると予想されます(航続距離、インフラ、コスト優位性)。2018年の中国EV販売台数78.8万台の内、LSEVが半数を占めます。

中国NEV規制において、航続距離200kmのEVはクレジット3.2、PHVはクレジット2が与えられるため、それぞれの導入台数にもよりますが、中国の自動車販売市場におけるNEV規制対応車の比率は全てPHVで対応する場合には上振れとなり、2020年に6%、2025年に10%、2030年は15%となります。2030年以降の規制は未発表ですが30%程度と予想します。

一方、政府が掲げる「省エネ・新能源自動車技術ロードマップ(2016年10月公布)」においては、2020年7%、2025年15%、2030年40%と非常に高いNEV導入目標を掲げ、残りをHVとガスエンジン車などの省エネルギー車としています。これらの説明から、NEV規制導入のみでは政府の掲げるロードマップ目標の達成は難しいことが分かります。中国政府が考えるNEV規制導入の狙いは、大都市の大気改善とロードマップ目標達成のための普及策の一つなのです。

それでは、中国政府はロードマップ目標をどう達成するのでしょうか。

中国国産メーカー/日欧米との合弁メーカー生産車および先進国から輸入されるEVは、クレジット取得を考慮して航続距離を200km以上としているため、大量のバッテリーを搭載する高価格の高級大型車が主流となります。2020年に助成金がカットされることを考慮すると、小型・中型車でのEV導入はメーカーにとって採算の面で対応が非常に難しくなります。そのため、NEV規制はPHVでの対応が基本となります。ロードマップ目標達成に向け、政府は自国産業の育成と都市環境の改善を狙って、航続距離50km程度のLSEVの開発を後押しすると考えられます。LSEVはシェアリングビジネスにも有効であるため、新興国のみならず先進国での需要も高まるでしょう。そうなると、中・小型カテゴリーのEVを飛び越して、新たなLSEVというカテゴリーがMaaSへの活用も含めて重要な位置付けになる可能性が高いでしょう。近年の中国は著しい経済成長を遂げている反面、その副作用が表れている点も多いですが、政府の掲げた目標達成に対する徹底度は日欧米の比ではありません。日欧米メーカーは従来カテゴリーのEVからLSEV開発にかじ取りをすべきであると考えます。

ただし、2030年時点で政府が掲げるNEV導入目標40%の達成は、インフラ整備、電池性能面などで難しく、現実的なところで30%程度と考えるのが妥当でしょう。30%の内訳は以下となります。

  • PHV20%:大半がNEV対応(現在1%)、PHV15%で規制は対応可
  • EV2%:ラグジュアリークラス(現在1.4%)
  • LSEV7%:2人乗りコミュータ/シェアカー(現在1.4%)、航続距離50km/バッテリー交換式
  • FCV0.5%:ラグジュアリークラス
  • 商用FCV0.5%:長距離トラック/バスFC

それ以外の70%は従来のエンジン車20%と省エネルギー車50%(HV25%と燃料代替のエンジン車25%)となります。2030年時点で世界のEV販売台数は545万台(図表1、2)と予想する中で、中国は342万台で、そのうちLSEVは78%の266万台と見積もります。

一方、中国はHVとエンジン車の開発にも注力すべきと考えているようです。ある中国系メーカーは既に日系メーカーからのHV技術供与ついて協議を始めました。先日、同日系メーカーはHV普及のため電動化技術に関する特許を30年まで無償提供し、併せてシステムを提供するということが報じられました。いよいよ内燃機関の効率化(燃料多様化)とHVを現実解とした本来あるべき展開(図表1)に軌道修正されていくのではないでしょうか。

これまでの解説を基に、大枠ではありますが、2030年時点で新車販売の内訳を地域別で整理しました。

  • 先進国は大半がHVを軸とする電動車で占められる
  • 新興国は依然エンジン車が主流である。ただしエンジン効率改善、MHS導入、燃料転換は大前提である
  • 中国はエンジン車(燃料転換とセット)とHVで50%、PHVとLSEVで30%近くを占めると予想される
  • 中国は先進国に近い位置付けとなり、インドは新興国の位置付けとなる。

本連載で解説したロードマップは、あるべきCO2排出量規制値および現実的な技術投入シナリオより導き出されており、「コストが高く、かつ重い、さらには航続距離の短いEVを近い将来50%導入」などという、技術的な完成度とユーザーの購入可能な販売価格が十分に考慮されていないシナリオとは異なります。また、エンジン車はエコでなくで今後の存続が難しいとする風潮もありますが、クリーン燃料への転換と併せて効率化を進めれば、CO2低減とコスト抑制の両立が図れることも理解できると考えます。全方位で技術開発を進め、ユーザーにとって有益で、社会、環境改善に貢献できる技術を完成度に応じて、適時、適地で市場導入することが自動車メーカーに最も必要とされることです。それができないと今後は市場から排除されてしまうでしょう。

執筆者

藤村 俊夫

顧問, PwC Japan合同会社

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