自動車の将来動向:EVが今後の主流になりうるのか 第8章・総括

2019-06-06

第8章 将来の交通システム

本章で強調したいことは、下記2点です。

  • 移動距離、車両サイズに応じて自動車駆動方法、燃料のすみ分けが進む
  • 将来に向け、道路環境・都市環境と協調したスマートシティの検討

図表1は将来モビリティのすみ分けを、移動距離、車両サイズ(コスト)の観点で整理したものです。

将来のモビリティは、移動距離、燃料対応、車両サイズに応じたすみ分けが進み、EVは市街地での大気改善とバッテリーサイズ抑制という観点で短距離輸送の小型商用車に、FCVは高イニシャルコストを吸収するため、長距離のバスや、トラックが主流になると考えます。ただ並行して水素価格の大幅低減も必須となります。乗用車、シェアカーに関しては、石油系燃料からバイオ燃料、水素燃料に転換したエンジン車に加えて、HV、PHVが主流になります。米国、中国のZEV、NEV対応については、自家用車サイズでのEV、FCVを販売することになりますが製造コスト増加分を価格に転嫁することが難しく、収益悪化要因となるだけなので、各社ともPHVで主に対応していくことになると考えられます。自動運転に関しては、5段階ある自動運転レベルのうち、限られた区域で運転手を乗せずに走るレベル4対応は専用道走行の高速トラック/バスの他、道路環境整備とセットにはなりますが次世代小型商用車(へき地、都市部)で導入されていくでしょう。

ここまで「自動車を軸とした次世代車およびエネルギー/燃料転換を踏まえた技術開発」「MaaSを軸とした自動車のサービスを販売する時代へ突入する」の2点について解説しました。ただし、今後は交通システムとしてエコな街(スマートシティ)はどうあるべきかを検討していく必要があります。図表2は自動車の自動運転に関して道路環境がどうあるべきかを示しています。今後はこの図表の中にLRT(Light Rail Transit)、AGT(Automated Guideway Transit)などの人員輸送手段の追加とクリーンエネルギー製造、供給拠点を追加していくことになります。自動車のあるべき保有台数(人口密度、GDP、道路環境)の検討も各国でそろそろ始めるべきと考えられます。大手IT企業はすでにそこに踏み込んでおり、日本では地方創生を軸に中堅都市で検討を開始すべきであることを提言します。

総括

以下にセールスミックスとパラダイムチェンジそれぞれの観点で整理します。

  1. セールスミックス(2040年):エンジンは需要維持。HV、PHVは増えるもEVは全販売台数の10%程度
    • 世界の販売台数はほぼ1.3億台で飽和し、うち35%を先進国、65%を新興国が占めます。
    • 販売台数の内訳はエンジン車と電動車でそれぞれ50%です。
    • エンジン車の半数は石油燃料からバイオ、水素燃料に転換する。先進国では100%が次世代車、新興国においては燃料をバイオ、水素に転換し約77%をエンジン車が占めます。
    • 2021年以降のCO2規制はそれまでの年率5%削減から年率8%削減へと強化が必要です。
    • EVは電池密度(航続距離、重量に影響)大幅改良という最重点課題があり、全販売台数に占める比率は10%程度です。
  2. パラダイムチェンジ(2030年~2050年):CASEを軸にビジネスチャンス拡大
    • 自動運転は先進国から新興国までレベル1、2が急速に普及し、2050年にはほぼ全車に装着されます。
    • レベル3、4に関しては、先進国において専用道路の走行頻度が高い一部の小型・大型商用車と一般車が徐々に普及し、普及率は2030年に2%、2050年に6%程度と予想します。道路環境整備が推進の鍵となります。
    • エンジン市場は2017年45兆円から2040年52兆円、電動システム市場は2040年に36兆円まで拡大し、車載部品メーカー、デバイスメーカーなど、さまざまな企業が電動駆動システム領域に参入してきます。
    • 自動車業界にモビリティサービス提供という形の大変革が起こり、CASEを軸にテクノロジー企業、スタートアップ企業との競争、連携が進みます。
    • スマートシティの本格的開発はすでに米国大手IT企業や中国政府主導で開始されています。世界はすでにMaaSからスマートシティ開発に移行し、その中で交通手段(自動車はその中の一つという位置づけ)はどうあるべきか検討を開始しています。

執筆者

藤村 俊夫

顧問, PwC Japan合同会社

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