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世界が注目する米国大統領選挙が2020年11月3日に行われます。対立する二大政党およびその候補者により新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策を含むさまざまな政策が議論される中、大統領選挙を経た米国における事業環境がいかなる様相を呈するのかを事前にシミュレーションし、準備を整えることは、米国で事業を展開する日本企業にとっても重要な課題となります。
PwCでは、フォーチュン1000企業(米国の売上高上位1,000社)を中心に米国企業のCFO(最高財務責任者)、COO(最高執行責任者)、CHRO(最高人事責任者)、税務部門およびリスク部門のリーダーを含む合計578名を対象としたパルスサーベイを実施しました。この調査の結果から、米国のビジネスリーダーが選挙後の世界をどのように見ているのかを明らかにし、今後の事業展開を検討する上でのヒントを提供します。
米国のビジネスリーダーは、連邦政府による新型コロナウイルス(COVID-19)関連のさらなる経済刺激策への期待感を明確に示しています。PwCが企業のエグゼクティブを対象に実施した今回のパルスサーベイでも、回答者は一様に、進行しつつある「二層構造」の米国経済の回復を支えるために、連邦政府による感染拡大への対応が必要と考えています。米国内におけるCOVID-19の感染拡大が抑制されるまで、雇用成長ペースは不安定な状態が続くでしょう。回答者の20%が、自社に対するこれ以上の財政政策支援は不要であると答えているものの、米国経済に対するさらなる景気刺激策を不要であるとした回答者はわずか3%でした。
調査対象のほぼ全て(95%)のビジネスリーダーが、企業または消費者支援策として何らかの財政政策措置が必要であると回答しています。さらに回答者の54%が、冷え込みの続く消費者マインドの改善には、連邦政府による感染拡大対策に向けた戦略が極めて重要であると回答しています。
新たな「ステイホーム経済」における成長回復に向けて、2020年の間にさまざまな措置が講じられたことにより「2021年に自社の収益改善が見込まれる」と答えた企業は全体の4分の1に達しており、回答者の4人に1人(28%)が今後12カ月間に自社の増益を見込んでいます。しかし一方では、56%が減益を予測しています。
ビジネスリーダーたちは、11月の米国大統領選挙の結果にかかわらず、貿易制限は強化され、また感染拡大対策の財源を賄うために法人税が引き上げられると予想しています。米国の租税政策における方向性の変化に注目が集まっています。
調査結果の重要ポイント:
回答者の大半(70%)が、COVID-19救済策の財源を賄うために法人事業税率が引き上げられると予想しており、中でも引き上げ予想に「強く同意する(引き上げられると強く確信している)」と回答した割合は35%でした。こうした意見は、連邦支出の増加、納税猶予やその他の救済策に対して、最終的には自分たちがその対価を負担することになるという懸念の表れとも考えられます。
去る9月、米国議会予算局は、2020年の財政赤字が3.3兆ドルに達する可能性があると発表しました。これは米国のGDPの約16%に相当し、昨年と比べて赤字額が3倍以上に膨れ上がることになります。新たな救済措置は、米国の債務負担の増大につながる可能性があります。
留意すべき点
事業税率は選挙における大きな論点ですが、政策はそれほど劇的には変化しない可能性があります。景気回復の足踏み状態が続いた場合、景気後退局面または景気回復局面の初期における税率引き上げへの政策対応として、さらなる赤字国債による経済刺激策を支持する声が浮上するかもしれません。
トランプ大統領とバイデン前副大統領は、租税に対して大きく異なるアプローチを打ち出しました。バイデン氏が当選した場合、大胆な税制改革が実現するか否かは、民主党が下院の多数派を維持しつつ、上院の支配権を握れるかどうかにかかっています。「ねじれ議会」が続く場合、いずれの候補者も選挙活動において主張している税制案を可決させるのは難しくなるでしょう。
法人税は全体像の一部にすぎず、より大きな租税・政策項目も踏まえて検討する必要があります。こうした複雑な状況を踏まえ、多国籍企業の税務部門のエグゼクティブは現在、自社における最重要課題を見定めようと、各法域における租税政策変更の影響に関する結果とシナリオのモデル化に取り組んでいます。その際には、増税がキャッシュフローや投資意思決定に及ぼす影響を踏まえ、企業のリーダーや監査委員会、取締役会が直面する重大な事業課題として、租税環境を重視しています。
ビジネスリーダーたちは、米国の貿易関係が変革の只中にあり、こうした状況は11月以降も継続すると認識しています。COVID-19の感染拡大は、大規模かつアウトソーシングが進んだサプライチェーンへの依存度を下げるべきであるという考えを加速させました。その一方で、世界に広がる貿易相手との結びつきを断ち切ることは困難です。
トランプ大統領による米中貿易協議の第1段階合意は履行に至っておらず、第2段階合意も先送りとなっています。その結果、中期的に見ても、バイオ医薬品における技術移転、サイバー攻撃、民間の原子力技術、クラウドサービス、データのローカリゼーションなどの重要な問題に関する進展は見込めません。
調査結果は、ビジネスリーダーが「国内生産」政策の機運の高まりを支持していることを示しています。例えば、回答者の46%が、連邦政府は米国経済の支援のために必需品の国内生産を増やすべきであるという意見に「強く同意」しています。また、米中貿易に特化した質問においては、回答者の28%が、選挙結果にかかわらず今後貿易制限は強化されるという意見に「強く同意」しています。
注目ポイント
トランプ大統領とバイデン前副大統領の通商政策は大きく異なります。しかし、物資に対する米国のアクセスを確保するというコンセンサスは政府内で形成されつつあります。これは、長期的には、生産拠点の国内回帰を促すインセンティブを増額することへの党派を超えた関心へとつながるかもしれません。政策的手段としては、国内投資の優遇税制や関税引き上げ、または、製品に対して一定の米国原産品判定基準を満たすよう求める指令などが考えられます。
米国の生産者は対応を進めているものの、その大半は計画策定に留まっているように見受けられます。生産拠点の移管は多額の費用がかかるだけでなく、現時点での想定が実現するまでに何年もかかる場合があります。生産者は引き続き業務自動化の改善や分析、より体系化したオプションなどを組み合わせながら、供給や需要をめぐる課題を早急に回避しようとしています。
将来的には、投資税額控除や、自国内での研究開発・事業活動を対象とするその他のインセンティブによって、生産拠点の国内移管が進む可能性があります。生産者は、海外拠点との賃金格差を縮めるとともに、輸送や在庫を減らすことで、リードタイムの短縮を図っています。
調査結果全体が示しているのは、国内政策の大幅な変更の影響を受ける可能性がある投資について、多くの企業が「様子見」の姿勢をとっているということです。同時に、ビジネスリーダーは来年の競争力確保に欠かせない投資を控える意向は示していません。
膠着状態にある議会や今後の景気刺激策の不透明性にもかかわらず、企業は自らの手でコントロール可能なことから手を付け始めています。例えば、ビジネスリーダーの半数近くが、選挙結果に関係なく、デジタルトランスフォーメーション(DX)への投資を拡大すると答えています。企業は、スピードと機動力が重要な意味を持つ現代社会において、リモートで事業を行うこと、クライアントの新しいニーズに応えることに注力しています。
ビジネスリーダーは、政策変化への迅速な対応を今後の計画に織り込んでいくよう努めています。今こそ、政策がもたらす影響の可能性を幅広く検討し、政策の方向性がより明確になった時に迅速に動けるようにしておくことが重要です。バイデン政権が誕生した場合には、多くのビジネスリーダー(57%)が、米国の法人税率やその他の租税政策における変化を見越して、税務計画の策定にいっそう注力すると回答しました。一方、第2期トランプ政権が実現した場合には、多くのエグゼクティブ(45%)が、サプライチェーンへの投資を増やすと回答しています。
以下、政策と選挙による変化の影響について、企業としてとるべきアクションにつながる視点をいくつかご紹介します。
2020年8月28日から9月3日にかけて、PwCは578名の米国のエグゼクティブを対象に調査を実施しました。調査対象には、CFOおよび財務部門リーダー(47%)、 COOおよび執行部門リーダー(16%)、 CRO、CAE、CISOを含むリスク管理部門リーダー(13%)、 CHROおよび人事部門リーダー(13%)、税務部門リーダー(11%)が含まれます。回答者は、金融サービス(28%)、工業製品(27%)、テクノロジー・メディア・通信(16%)、消費者市場(13%)、医療産業(10%)およびエネルギー、公共事業および鉱業(5%)の6セクターの公的・民間企業に所属しています。回答者の68%が、フォーチュン1000企業に所属しています。PwCパルスサーベイは、企業エグゼクティブの意識変化と優先課題を調査するために継続的に実施しています。
※本コンテンツは、PwC米国が2020年9月に発表した「Road to Election 2020」を抜粋し、翻訳した要約版です。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。