人材育成の当たり前を疑ってみる ― OJTではない新入職員向け育成プログラム

2020-12-04

PwCあらた有限責任監査法人(以下、PwCあらた)は、「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」となることをビジョンとして掲げ、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進と個々のデジタルスキル向上に取り組んでいます。

ここでは私たちの監査業務変革の取り組みや、デジタル化の成功事例や失敗を通じて得た知見を紹介します。これからデジタル化に取り組まれる企業やDX推進に行き詰まっている企業の課題解決にお役立ていただければ幸いです。

※法人名、部門名、役職、コラムの内容などは掲載当時のものです。

「近い将来、自分の仕事は人工知能(AI)に代替されるのではないか」と考えたことが一度はあるのではないでしょうか。激しい変化に対応し競争上の優位性を確保するため、多くの企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めています。そして、業務がAIをはじめとするテクノロジーを前提としたものに変化し、そこで求められるスキルも変化してきています。

監査業務においてもさまざまなテクノロジーの活用が進んでおり、AIが分析した結果に基づいて監査人が判断するという将来も描かれています。監査業務のデジタル化は、現状の監査手続をテクノロジーに置き換えるというだけでなく、監査手続そのものを抜本的に変える可能性があります。そのような変化の中で、監査人に求められるスキルセットはどのように変わっていくのか、そしてデジタル社会で求められる監査人をどのように育てていくのか、PwCあらたの新入職員教育をもとに考えます。

当たり前だったOJTではデジタル時代に対応できない?

従来、監査における新入職員育成といえばOJT(On the Job Training)が当たり前でした。PwCあらたに仲間入りした新入職員は、入所後に一定期間行われる研修が終了すると、すぐに実際の監査現場に行き、先輩の監査人から指示を受けながら実務を通じて監査業務を学んでいたのです。

監査チームのメンバーになると、新入職員もいくつかの勘定科目の監査手続を担当することになります。勘定科目を担当すると、被監査会社の担当者とコミュニケーションを取りながら監査手続を実施し、その内容や判断の結果を監査調書にまとめる必要があります。どのように監査手続を行い、何を被監査会社の担当者に質問し、どう判断すればいいのか、一つ一つ先輩の監査人から新入職員は学び、監査人としてのスキルを磨いていくというのが、従来のOJTを前提とした人材育成の在り方でした。

このOJTによる育成方法を見直す大きなきっかけが、監査業務のデジタル化です。デジタル化を強く推進するためには、業務の標準化が重要となります。しかし、OJTで業務のやり方が脈々と受け継がれてきたため、現場ごとに業務のやり方にばらつきがあり、監査業務のデジタル化を阻む要因の一つになっていました。そこで、監査手続のやり方や監査調書の書き方を標準化する取り組みとして、監査現場でのOJTとは異なる新入職員育成プログラムを始めています。

新入職員向け育成プログラム

PwCあらたは、2018年12月から新入職員向けの育成プログラムを実施しています。新入職員向け育成プログラムでは、5名から10名の新入職員が一つのチームとなり、特定の監査手続について複数の被監査会社を担当し、標準的な監査手続のやり方を示したマニュアルをもとに実際の監査を経験します。新入職員向け育成プログラムを通して、新入職員は、標準的な監査手続を習得するだけでなく、効果的なコミュニケーションの取り方や進捗管理を含めた業務の進め方も学ぶことができます。また、チームとしてお互いに協力し合いながら活動するため、新入職員同士のつながりを作る場にもなり、仲間との信頼関係を構築することもできます。さらに、チームごとに一人ずつ監査経験者が割り当てられ、新入職員のちょっとした疑問や悩みも含めてサポートをきちんと受けることができる仕組みになっています。

よくある新入職員の悩みの一つに、PwCグローバルネットワークが世界共通で使用している電子監査調書システム「Aura」の使い方が分からないというものがあります。従来は、各監査現場でAuraの見方や操作方法を教えていたため、年間で最も忙しい期末監査を実施している現場にとっては新入職員の育成が大きな負担となっていました。新入職員向け育成プログラムで新入職員がAuraの使い方から監査手続のやり方までを習得することは、新入職員の育成に関する現場の負担を大きく軽減することとなり、新入職員向け育成プログラムは、新入職員だけでなく監査チームにとっても大きなメリットのある取り組みとなっています。

新入職員がより成長できるために必要な教育とは何かという点では、まだまだ試行錯誤の段階です。そのため、新入職員向け育成プログラムで学んだ新入職員と監査チームの双方にアンケートを取り、その結果を踏まえて改善を重ねています。

デジタル研修で法人全体のアップスキリングを試みる

新入職員育成の在り方を見直すきっかけとなった監査業務のデジタル化は、監査人に求められるスキルセットにも変化をもたらしています。監査業務がAIをはじめとするテクノロジーを前提として行われるようになった時、監査人はテクノロジーを活用して導き出した結果を評価・判断する力と、判断した内容を被監査会社に対し納得のいく説明ができるだけのコミュニケーション力が、より求められるようになります。そのような力を育てる基礎を築く取り組みの一つとして、PwCあらたはデジタル研修も実施しています。

これは、全てのパートナーおよび職員が2日半、デジタル変革に関する法人全体の方向性や取り組み、監査実務を想定したデータ分析ツールやデータ可視化ツールの操作方法、業務の標準化・自動化について学ぶというものです。新入職員も全員、必ずデジタル研修を受講します。デジタル研修で学んだことが各現場で活かされることで、業務のデジタル化は今後、さらに進んでいくでしょう。

標準化が可能な業務は、今後ますますテクノロジーに置き換わっていくと予想されます。そして、監査人は、従来よりも早くより複雑で高度な領域を経験することとなり、判断力やコミュニケーション力といったプロフェッショナルとしてのスキルをさらに磨いていくことが強く求められます。変化が激しい今だからこそ、趨勢を見極め、時代のニーズに応えられる人材育成にこれからも取り組んでいきます。

2021年版の新入職員向け育成プログラム

ここまで、2020年度版の新入職員向け育成プログラムについてご紹介しましたが、2021年度に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響下で行われた新入職員向け育成プログラムについても、企画者、新入職員それぞれの視点から、全3回の連載で紹介しています。

企画者編では、これまでの「実際の監査チームから切り出した手続の一部を研修プログラムとして実施する」という形式を変更し、感染対策を考慮しながらオンラインとオフラインを組み合わせてどのように研修を企画・運営したかについて紹介しています。新入職員編では、実際にプログラムを受講した新入職員がどのような気づきや学びを得て成長したかをご紹介しています。

詳しくは、以下のリンクからご覧ください。

執筆者

尻引 善博

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

Email

岸野 将也

シニアマネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

Email

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