ナレッジの循環とカルチャーの変革で社内DXに挑む~社内情報の検索性高度化に向けた取り組み

2022-03-24

PwCあらた有限責任監査法人(以下、PwCあらた)は、「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」となることをビジョンとして掲げ、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進と個々のデジタルスキル向上に取り組んでいます。

ここでは私たちの監査業務変革の取り組みや、デジタル化の成功事例や失敗を通じて得た知見を紹介します。これからデジタル化に取り組まれる企業やDX推進に行き詰まっている企業の課題解決にお役立ていただければ幸いです。

※法人名、部門名、役職、コラムの内容などは掲載当時のものです。

現場の声から始まったナレッジの共有・継承の仕組み作り

コロナ禍の企業活動における大きな変化の1つがテレワークの導入および普及でした。総務省が公表した「令和3年版情報通信白書」*によると、1回目の緊急事態宣言前の2020年3月に17.6%だったテレワーク導入率は、2回目の緊急事態宣言下の2021年3月には38.4%まで上昇しています。

テレワークの問題点としては「テレワークに適した仕事ではない」「勤務先にテレワークできる制度がない」「会社に行かないと利用できない資料がある」などが挙げられますが、「社内コミュニケーション」の減少が業務に及ぼす影響は意外と大きいのではないでしょうか。デジタルトランスフォーメーション(DX)が推進される中で、業務フローの見直しに伴ってシステムの改修が行われたり、情報発信が多元化されたり、ペーパーレス化などによりデータが溢れかえったりしていますが、社内で「ちょっと隣の人に聞いてみる」ことができなくなり、業務効率の低下を招いているとも言えます。こうした変化の中で、「欲しい情報がどこにあるかわからない」「誰に聞いたらいいのかわからない」「もっと検索性を上げて欲しい」といった要望が増えており、ナレッジマネジメントの重要性が浮き彫りとなっています。

組織拡大に伴う情報ニーズの多様化

PwCあらたは「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」として、クライアントのDXやESG対応などのビジネス変革に対応すべく、私たち自身が提供するソリューションやサービスを多様化させ、また高度化する必要があると考えます。

現在、PwCあらたの在籍人数は3,000人を超えていますが、組織が拡大し、求められる業務内容の多様化が進むにつれて、さまざまなニーズを抱える個人やチームが増えています。社内外の変化をいち早く捉え、多様なニーズに対応していくためには「組織の枠を越えて適切な個人やチームに適切なタイミングでナレッジを共有する仕組み」や「組織変更や異動に伴うナレッジを継承できる仕組み」の構築が喫緊の課題です。

ガイドライン適用、横串のナレッジシェア推進

私たちがナレッジマネジメントを行う上で目指すのは「従業員の生産性向上」と「人財育成」です。

「生産性向上」という観点からは、必要な人が必要なときに情報を発信でき、従業員の誰もがイントラネット内を検索することなどによってその情報に到達できることが求められます。それが実現すれば必要な情報に到達するリードタイムが短くなるだけでなく、業務品質の向上にもつながると考えます。理想は「誰も置いていかない世界」の実現です。

「人財育成」という観点からは、経験者が未経験者に対してより活躍してもらえる領域の支援に注力できるとともに、各人が未経験者でも学びたい情報を自ら検索し、自由に学ぶことができる環境を整えることが求められます。また、これまでのチームや組織は比較的同じような目標を持つ、同じようなキャリアの人財が集まって形成されていましたが、人財の多様化により目標や学びたいことが個々によって異なってきています。このような「diverse learning(学びの多様性)」に対応できることも重要です。

これらの目標の実現のために、PwCあらたではPwCグローバルネットワークの情報プラットフォームを活用し、システム面での効率化を図りつつ、日本独自で社内ポータルサイトの整備を進めています(図表1)。現状では、部門ごとの情報サイトの数は50以上にのぼりますが、各サイトの管理者(サイトのメンテナンスや棚卸などを実施)を明確にし、管理者を統括するチームを組織内に設置することで品質を管理しています。

この統括チームは、ポータルサイトの取り扱い方法(ガイドラインおよび運用ルール)を策定し、各サイトの管理者に適用推進・定期的な棚卸の支援を行っているほか、棚卸後に運用の適正化のモニタリングやサイトの改善策の提案をデータの分析結果を基に実施しています。昨年は、98%の部門サイトが期限内に棚卸を終えました。これは皆が同じ課題認識を共有し改善活動に取り組もうという強い意識の表れだと私たちは捉えています。

私たちは引き続き、経営の成長戦略の中にナレッジマネジメントの施策を組み込むとともに、各部門に配備したナレッジマネジメントの担当者と定期的に連携することで、組織の枠組みを越えたナレッジの共有を進めていきます。

また各個人・組織が持つナレッジの価値を社内に的確に伝えるために、2、3分の動画を定期発信するなどプッシュ型のアプローチを行ったり、ナレッジマネジメントの活動の一環としてKMアワードというイベントを設け、ナレッジマネジメント活動に貢献した個人やチームを称える表彰制度を行ったりしています。

近い将来には、法人内のあらゆる情報を対象として意味解釈、要約、関連性算出、分類を自動で行うことのできるAI検索ツールを導入することで、①ニュースサイト形式のダッシュボードの閲覧、②関連するナレッジおよび人物の検索をできるようにするなど、社内ナレッジのさらなる効率化を実現していきたいと考えています。

暗黙知/形式知のサイクルを確立し、組織カルチャーの変革へ

私たちは今後、ナレッジマネジメントを「3Steps」(図表1)を通じて強化していきます。

これまでの一連の取り組みは、Step1の「情報の検索性向上/仕組み構築・整備」にあたります。Step2の「人財の意識改革・行動変化」においては、Step1で構築した環境を生かし、人財が自発的に協働しながら新たな価値を創造し、社会に発信できるように、意識改革および行動変化を促します。Step2の実践により、ナレッジコミュニティの形成やインタラクティブなコミュニケーションに繋がると考えています。そしてStep3として「価値創造強化」に取り組んでいきます。発信チャネルの多様化や個々の嗜好性に即したナレッジを提供し、ナレッジとヒトの間に介在してきたラストワンマイルの解消を追及します。

暗黙知が形式知となり、それが新たな知を生み出していくという知のサイクルを循環させる。私たちはこれを実現することで、品質に裏打ちされた信頼を社会に提供することを目標としています。

私たちはナレッジマネジメントを単なるツールの導入(ナレッジの提供)で終わらせるのではなく、組織カルチャーを変革させるものとして捉えています。カルチャーの変革・定着化は容易ではなく、粘り強く継続することが大事だと考えます。

ナレッジマネジメントの取り組みに終わりはありません。PwCあらたは継続的に取り組み、カルチャーの変革、そしてDXの実現を目指します。

図表1 3 Steps

* 総務省. 「令和3年版情報通信白書」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd123410.html

PwCあらたのツール活用に関するインサイトについては以下もご覧ください。

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執筆者

坂上 欣英

マネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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田中 俊和

マネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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