
「スマートシティで描く都市の未来」コラム 第89回:ユーザーの課題・ニーズ起点のスマートシティサービスの考え方
スマートシティサービスは国内で多くのプロジェクトが進められており「スマートシティ官民連携プラットフォーム」でも2024年6月時点で286件の掲載が確認できます。多くの実証実験が実施されてきたその次のステップとして、実装化が大きな課題となっています。本コラムでは実装化を進める上で、キーとなりうる考え方を紹介します。
街の景色が、交通結節点を中心に変わろうとしています。交通結節点とは、複数あるいは異種の交通手段の接続が行われる場所のことを指しますが、現在この交通結節点の機能を強化し、交通結節点を中心として街づくりを推進する動きが全国各地に広まっています。
国土交通省は、主にバスターミナルを核として多様な交通モードを集約する公共交通ターミナルを整備するプロジェクト(バスタプロジェクト)を官民連携で推進しています。鉄道事業者は、2020年代後半から2030年代の竣工を目途に、ターミナル駅およびその駅周辺における大規模な再開発事業をさまざまな異業種と連携して推進しています。PwCの「デジタル自動車レポート2022」では、モビリティサービス事業者は、今後複数のモビリティサービスと生活サービスとを統合するモビリティハブを街の至る所に造成していくことを示唆しています。2023年7月1日の道路交通法改正により特定小型の原動機付自転車、いわゆる電動キックボード等の規定が施行されましたが、こうした新たなモビリティサービスの普及を加速化させる動きは、モビリティハブの造成をより促進するかもしれません。
PwCでは、こうした交通結節点に係る変化のトレンドを踏まえ、「交通結節点を中心とした個性ある街づくり」という将来像を導出しています。図1は鉄道駅をケースとして交通結節点が果たす将来の役割を示したものですが、官民の両面から矢継ぎ早に関連する施策が打ち出されている昨今、この将来像がいよいよ現実となって眼前に現れる日もそう遠くはないと考えています(「駅を中心とした個性ある街づくり」の詳細はこちらを参照)。
では、交通結節点を中心とした街は、どのような段階を経て形成されていくのでしょうか。PwCでは、大きく2つの変化点をもってそのフェーズを認識する必要があると考えています。
まず、交通結節点が交通手段の接続が行われる場所であること、つまり人々の移動を結節する空間である以上、人々の移動の価値観や需要が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を経て変容したことに着目することは必定です。COVID-19は終息を迎えつつありますが、ポストコロナに移行したとしてもリモートワークがなくなるということは考えにくいでしょう。また、メタバースに代表されるバーチャルリアリティが普及していくことで、身体の移動を必要としない社会が形成される可能性も出てきています。こうした人々の移動に対する価値観や需要の変容は、街づくりの変化点として認識する必要があります。
そして、交通結節点を街の中心として位置付けていく上では、地域をはじめとする社会からの要求の変化にも適応していく必要があります。PwCコンサルティングとGoogleの共同レポート「未来のモビリティが推進する持続可能なスマートシティ」において言及している通り、人々の移動に関わるあらゆるステークホルダーは、モビリティサービスを通して人間中心の持続可能な社会の構築に資することを求められており、街づくりを進める中でこうした社会の潮流の変化に適応していくことは避けられないでしょう。
PwCでは、「人々の移動の価値観や需要の変容」と「社会の潮流の変化」の2つの変化点を軸として捉え、図2の通り、AからDまでの4つのフェーズを経て交通結節点を中心とした街づくりへと結実していくと考えています。
ただし、図2のDのフェーズには、現在地からの自然な成り行きで進むのではなく、街づくりに関連するソリューションがイネーブラーとして機能し、進展していくことになります(図3)。そしてこのイネーブラーは、前述の2つの変化点に従い、移動と社会環境の将来のあり方を具現化するものであることはご理解いただけることでしょう。
交通結節点にとって重要かつ最適なイネーブラーは、その都市の街づくりの方針や計画、そして交通結節点を中心に離合集散する人や交通の流れを根拠として、多くのイネーブラーの中から選択されると考えます。また、各所の技術ロードマップで議論されている通り、各イネーブラーの進化は同じ時間軸で進んでいくものでないことも考慮する必要があります。
したがって、交通結節点を中心とした街づくりを担う主体には、自らの取り組みを推進する上で、街づくりに関わるソリューションの趨勢を常に観測し、その都市の街づくりに適するイネーブラーを選択する「観点」が求められてくると考えます。上述の「未来のモビリティが推進する持続可能なスマートシティ」では、「持続可能なスマートシティの5つの側面」として、その求められる「観点」を言及していますので、合わせてご参照ください。
本稿を執筆している時点では、交通結節点が街において担う機能は、官民一体となって実証を繰り返し行い、試行錯誤を重ねている状態にあると認識しています。鉄道駅を捉えても、地域のオープンイノベーションを創発する拠点、水素等の次世代エネルギーを供給する拠点、アートやeスポーツをグローバルへ発信する拠点など、実に多様かつ革新的な将来像が議論されています。これからも交通事業者やモビリティサービス事業者等が中心となり、交通結節点を中心とした街づくりは着実に進められていくと考えますが、同時にその過程で議論される数多の将来像の中から、将来の街に住まう人々から真に求められる機能とは何かを見極める「視座」も必要となってくるでしょう。PwCコンサルティングでは、「フューチャーデザイン」や「エクスペリエンスコンサルティング」といった未来志向という「視座」を補い、伴走して将来像を描き出す手法を提供していますので、ご関心がございましたら是非ともお問い合わせ下さい。
スマートシティサービスは国内で多くのプロジェクトが進められており「スマートシティ官民連携プラットフォーム」でも2024年6月時点で286件の掲載が確認できます。多くの実証実験が実施されてきたその次のステップとして、実装化が大きな課題となっています。本コラムでは実装化を進める上で、キーとなりうる考え方を紹介します。
全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会を目指す「デジタル田園都市国家構想」の実現に向けた取り組みの進捗状況と、今後の展開について考察します。
「2025年の崖」に伴う問題について、ITシステムの観点ではなく、 人口ピラミッドの推移による生産年齢人口の変化に起因する問題の観点から解説します。
未来の都市を想定する際には、フレキシビリティを備えた建築計画を事前に策定しておくことが重要です。スマートシティにおける建築物は持続可能であることが求められており、そのためには新たな技術や設備に迅速に適用できることが不可欠です。