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蓄電池は、再生可能エネルギーの主力電源化や自動車などのモビリティの電動化におけるキーテクノロジーであり、その市場は今後大きく拡大することが期待されています。脱炭素社会の実現に向けて蓄電池の果たす役割が大きくなる中で、電力、産業、民生、運輸などの各セクターにおいてどのような変化が生まれ、既存ビジネスにどのような影響が及んでいるのか、産業横断的な視点から包括的に分析しました。
本レポートでは、蓄電池産業における9つの「アジェンダ」を紹介します。
政府が掲げるのは2050年のカーボンニュートラルの実現です。目標とするのは企業ごとの成果ではなく、社会全体としてのカーボンニュートラルです。そのためには「稼ぐ力」と「持続可能性」の両立を目指す「SX(サスティナビリティ・トランスフォーメーション)の実現」が重要であり、「蓄電池」はそのカギの1つとなります。蓄電池は、気候変動問題に対する緩和策・適応策としてはもちろん、次世代クリーンエネルギーのためのキーテクノロジーとしても注目されており、SXの観点からも社会的価値が高まっています。特に、車載用蓄電池、住宅・産業用蓄電池、発電系統用蓄電池は、成長産業分野として今後の急激な市場拡大が見込まれています。
また、経済安全保障の観点からも蓄電池の重要性は高まっています。2022年12月、蓄電池は特定重要物資に指定されました。供給が途絶えると経済活動や日常生活に支障を来たす特定重要物資に対しては、政府による助成金などの支援を含め、外部への依存を低減し、安定供給確保を目指す取り組みが行われます。このように、蓄電池は社会課題解決において官民双方から要請が高く、社会的価値が高まっていると言えます。
蓄電池産業の今後の成長が見込まれる中、企業は「リスク」と「オポチュニティ」の観点から、蓄電池を取り巻く事業環境の変化に対応しなければなりません。具体的には、排出量可視化や希少資源などの再利用といったサステナビリティ対応に加え、法規制などへの対応といったリスクに対する取り組みや、コスト削減・新ビジネスの検討といったオポチュニティの創出を検討し、SXを実現することが必要となります。企業にはリスクを的確に把握し、自社の柔軟性と適応力を高め、持続可能な収益をあげていくことが求められています。
蓄電池産業の製造・廃棄プロセスにおいては、温室効果ガス(GHG)の大量排出、資源の大量消費および大量廃棄、鉱物の採掘・加工時の人権および環境リスクといった課題があり、蓄電池サプライチェーンのサステナビリティを確保しなければなりません。つまり、SXを重視しつつ、将来の蓄電池市場の拡大を実現していくためには、企業ごとの取り組みにとどまらず、業界横断での取り組みが必要となります。すでに一部では異業種連携や業界横断での取り組みがスタートしている他、欧州や米国、中国、韓国なども蓄電池産業への政策支援を強化しており、各国の競争激化が予想されます。官民が一体となり、社会全体としてのエコシステムを推進することで、日本の蓄電池産業の国際競争力を再び高める必要があるでしょう。
PwC Japanグループでは、蓄電池産業の9大アジェンダを以下のとおり設定しました。
(1)蓄電池市場の将来見通し(業界横断での市場動向):業界横断での蓄電池市場の動向に関する分析に加え、将来の市場拡大を実現していくための異業種連携や政策措置などの必要性について論点を整理
(2)系統用蓄電池の市場動向:電力需要の平準化(ピークカット)など、電力会社の運用コスト削減に寄与する観点から、その普及意義を含めて、系統用蓄電池の市場動向を分析
(3)需要家用蓄電池の市場動向(家庭用および業務・産業用):富裕層向けの住宅などへの普及が進む家庭用蓄電池や、再エネ導入およびGHG排出削減の観点から需要増が見込まれる業務・産業用蓄電池の市場を分析
(4)車載用蓄電池の市場動向と社会システム変革の方向性:EVの普及拡大に伴う車載用蓄電池の需要増大や、環境負荷低減と経済合理性を両立した脱炭素社会実現にむけた「社会システム変革」の道筋、およびEV経済性の定量評価と蓄電池循環の必要性を整理
(5)車載用蓄電池の新たな活用(電力系統との連携)の方向性:EVの車載用蓄電池は、モビリティに用いる他に、電力セクター向けに用いることで新たな付加価値を生む可能性がある。車載用蓄電池を活用した新たなビジネスチャンスの実現に向けた現状と課題を整理
(6)蓄電池のリサイクル:蓄電池のリサイクルを見据え、バッテリーのリユースおよびリサイクルの現状などについて、環境保全や資源制約などの観点から分析
(7)蓄電池サプライチェーンビジネス:蓄電池ビジネスを取り巻く世界的状況を踏まえ、蓄電池プレーヤーによるバリューチェーン拡大の動向やビジネス強化に向けた取り組みについて分析
(8)気候変動対策における蓄電池の役割:欧州、米国、日本の政策の比較から導かれる気候変動政策の国際的なトレンドを整理し、蓄電池の役割について、気候変動の緩和策と適応策の2つの観点から整理
(9)サプライチェーン管理高度化のための情報プラットフォーム:バリューチェーン上にある蓄電池の財務および非財務価値を最大化し、企業間の情報連携を促進するための情報プラットフォームの動向を分析
9大アジェンダに関する詳細なレポートは、今後こちらのページで順次公開してまいります。