
シリーズ「価値創造に向けたサステナビリティデータガバナンスの取り組み」 第1回:サステナビリティ情報の開示により重要性が増すデータガバナンス・データマネジメント
企業には財務的な成果を追求するだけでなく、社会的責任を果たすことが求められています。重要性が増すサステナビリティ情報の活用と開示おいて、不可欠となるのがデータガバナンスです。本コラムでは情報活用と開示の課題、その対処法について解説します。
前回コラム「「採取」と「拡散」の極小化と、サーキュラー化の核となる四つの物質」では、サーキュラーエコノミーを「「採取」と「拡散」を最小化し、物質を循環させることで環境課題と経済の両立を図るもの」と定義し、サーキュラーエコノミーの基本的な考え方についてご説明しました。
では、どのようにして採取と拡散の最小化を「自社の利益」に繋がるサーキュラービジネスとして確立できるのでしょうか。本コラムでは、サーキュラービジネスを成功させるためのヒントとして、サーキュラー化への五つのステップをご紹介します。(図表①)。
ステップといっても、必ずしも最初から順番に進めていく必要はなく、自社にとって検討しやすい項目から進め、各ステップを行ったり来たりしながら検討を深めて頂くことを想定しています。
例えば、自社の事業に必要となる原材料を確保することは持続可能なビジネスに不可欠です。地球環境の限界内で今後も長期にわたって事業を続けていくためには、まず、サーキュラー化の緊急度の高い物質を特定する必要があります。そのために作成したいのが、自社における「採取と拡散のフレームワーク」です。採取から拡散までの流れとそれらが及ぼす影響を図にすることで、バリューチェーン全体の採取と拡散の全体像を把握することが可能になります。ここではエネルギー業界を例に、サーキュラーフレームワークを図示しています(図表②)。各業界、自社のビジネスに沿った物質の組み合わせを検討し、採取と拡散の問題点を総合的に把握することで、具体的なうち手の検討につながっていきます。
地球環境の観点から対応が必要となる物質が複数ある場合は、経済合理性の高いものから着手すべきです。経済合理性は、物質とビジネスモデルの両面から検討する必要があります。物質面での検討は、鉱物資源、化石資源、窒素を中心とした自然資源の三つに分類して考えると良いでしょう(図表③)。
図表②に示される各物質の経済合理性の違いを踏まえて取り組みを検討するのが望ましいでしょう。(自然資源の問題を先送りして良いということではないという点については留意が必要です。)
サーキュラー事業を行うにあたっては、自社にとっての重要性や将来性から、地域を検討する必要があります。本コラムではASEANを例として取り上げます。ASEANは世界の工場の役割を果たしており、ASEANの企業をサプライチェーンに組み込んでいる日本企業も少なくありません。また、日本よりもASEANの消費者のほうが、サステナビリティへの感度が高いという調査結果*1もあることを踏まえると、ASEANの旺盛な消費意欲を持続的に満たし続けるビジネスモデルを築いた企業が大きなチャンスを得られると考えられます。さらにASEAN諸国の主に財閥系企業でサーキュラー化やSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)への関心が年々高まりを見せており、今後ビジネス機会が広がることも想定されます。自社が、サーキュラービジネスを実現できる市場がどこかを見極める必要があり、新しい目でASEAN市場を評価し直すことも重要になるでしょう。
ステップ①~③で特定した優先度の高い物質、地域において、採取・拡散の問題を解消するために、バリューチェーン全体でどのようにサーキュラー化を進めていくかを考えます。最初は既存のビジネスモデルの見直しでも構いません。例えば、既存のビジネスモデルから徐々にバリューチェーン全体に改革の範囲を広げていくと、新しいビジネスモデルを検討する方法が見えてくるはずです。
サーキュラー化に足りない要素を特定できたら、スピーディにそれらを補い、ビジネスをスケールさせる方法を考えます。足りない要素に対してバラバラに手を打っていくのではなく、「自社でやること」と「他社と協働すること」を組み合わせることで、バリューチェーン全体でサーキュラー化を実現できる方法を考えます。
以上、サーキュラービジネスの成功には、緊急度の高い物質の特定から経済合理性の評価、地域の選定、足りない要素の特定、そして他社との協働まで、多面的なアプローチが求められます。サーキュラービジネスは、環境課題の解決のみならず、持続可能な経済成長をもたらす重要な手段です。これらのステップを柔軟に活用し、自社の状況に合わせて取り組むことで、環境と経済の持続可能性を両立させるビジネスモデルの確立にお役立ていただければ幸いです。PwCではサーキュラービジネスに取り組む企業の取り組みを幅広く支援しています。
なお、本コラムの内容の詳細については、2024年7月に発売の書籍『必然としてのサーキュラービジネス「利益」と「環境」を両立させる究極のSX』をご参照ください。
未来を見据えたサーキュラービジネスの展開に向けて、後日公開予定のコラムでは以下の六つの未来トレンドについて解説します。
これらのトレンドを押さえることで、未来のビジネス環境に適応し、サーキュラービジネスを成功に導くための準備を整えましょう。今後のコラムもぜひご期待ください。
*1 PwC 「世界の消費者意識調査 2021」(2021年6月)
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/consumer-insights-survey/202106.html
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