
経理財務のためのサステナビリティ情報開示最前線~CSRDの本場欧州ドイツから 第2回 ESRSの概要と対応ロードマップ/「週刊 経営財務」No.3641
CSRD(企業サステナビリティ報告指令)に基づいてサステナビリティ報告を行う際に準拠するべき基準であるESRS(欧州サステナビリティ報告基準)の概要と、対応のロードマップを解説します(週刊経営財務 2024年2月12日 寄稿)。
2025-01-10
※この「経理財務のためのサステナビリティ情報開示最前線~CSRDの本場欧州ドイツから 第5回 サステナビリティ報告の準備状況とガバナンス・内部統制の整備」は、『週刊経営財務』3682号(2024年12月9日)に掲載したものです。発行所である税務研究会の許可を得て、PwC Japan有限責任監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。
※法人名・役職などは掲載当時のものです。
※一部の図表に関しては週刊「経営財務」にて掲載したものを当法人にて編集しています。
現在、CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive:企業サステナビリティ報告指令)への対応がEU域内に拠点を置く企業の急務になっている。CSRDは適用範囲が広く、EU域内の現地法人(EU事業者)のみならず、EU域外の事業者も「第三国事業者」としてサステナビリティ情報を開示する必要がある。そのため、日本企業にとっては、EU域内の子会社だけでなく、日本の親会社もCSRDへの対応が必要である。また、CSRDはサステナビリティ情報の開示指令であるため、サステナビリティ部門が対応の中心となることが考えられるが、経理財務部門の関与も必要である。これは、開示するサステナビリティ情報は監査の対象となるため、サステナビリティに関する全社統制や各業務処理統制の構築、監査対応のためのエビデンス準備、保証付与者である監査法人等との事前の協議が必要であることから、内部統制や監査対応の経験および知見を持つ経理財務部門の関与が重要であるためである。
連載第5回目は、ドイツの日系企業のサステナビリティ報告の準備状況を解説するとともに準備過程での典型的な課題や解決方法を解説する。また、サステナビリティ報告に係るガバナンスの開示項目やプロセスおよび内部統制の具体的な開示例を紹介する。なお、本文中の意見に関する部分は、筆者の私見であり、所属する監査法人の意見ではない。
【これまでの主な掲載内容と掲載予定】
第1回 |
No.3637 2024年4月15日 |
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第2回 |
No.3641 2024年2月12日 |
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第3回 |
No.3646 2024年3月18日 |
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第4回 |
No.3676 2024年10月28日 |
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第5回 |
サステナビリティ開示の準備状況、導入フェーズ(ガバナンス体制の構築・内部統制の整備等)での実施事項 |
No.3682 2024年12月9日 |
日系企業のCSRDに基づくサステナビリティ報告の準備状況(2024年10月末現在)を紹介するためにCSRD対応のロードマップを図1に再掲する。
図1:対応ロードマップ
多くの日系企業が該当するいわゆる非上場の大企業(売上高50百万ユーロ、貸借対照表合計25百万ユーロ、従業員数250名のうち、2つの要件を2会計期間連続で超えた企業)では、12月決算の場合、2025年1月から12月のサステナビリティ情報を2026年に開示することとなる。そのため、適用開始までに残されている期間は数カ月である。この点、筆者が欧州で意見交換をしている企業では、約30%の企業がフェーズ1を実施中、約70%の企業がフェーズ2およびフェーズ3を実施中である。それぞれのフェーズで日系企業が抱える課題および解決方法は以下の通りである。
図1に示したタスクのうち、Task 2「マテリアリティ評価」の実施に想定外の時間を費やしている企業が多く見受けられる。マテリアリティ評価を完了するためには、一般的に①バリューチェーンマッピング、②ステークホルダー・エンゲージメントの計画立案および実行、③インパクト・リスク・機会(以下、IRO)の特定、④マテリアルの判定方法および閾値の設定、⑤IROの評価を行うことになる。
ESRS 1では「サステナビリティ報告に記載される情報は、上流および/または下流のバリューチェーンにおける直接的および間接的な取引関係を通じて、企業に関連する重要なIROに関する情報を含まなければいけない(ESRS 1 62)」と規定されている。これは、たとえ直接的な取引がなくても、例えば最も上流の鉱物資源の採取や加工に関する情報も把握する必要があることを意味している。そのうえで、企業がビジネスを行う上で依存している鉱物資源が、その採取や加工にあたって、児童労働や強制労働などの人権侵害に関与していないか、贈収賄やマネーロンダリングのリスクが高い紛争地域で採取や加工をしている可能性がないかといった視点でIROの特定や評価を行うことになる。この点、CSRD対応メンバーのみでは全てのバリューチェーン情報を把握することが難しいケースが多い。そのため、①バリューチェーンマッピングの段階では、購買部門や製造部門、販売部門から情報を収集しているが、これらの部門から協力が得られずに必要な情報がスムーズに収集できないケースもある。このような課題に対しては、CSRD対応メンバーが各部門に対して単なる情報提供の依頼をするだけでなく、CSRDの趣旨や情報収集をする目的を理解してもらうため、部門の責任者を巻き込んだ説明会を開催すると良いだろう。こうすることによって、各部門からの協力が得られ、スムーズに必要な情報を得られることが多い。これからバリューチェーンマッピングを行う企業については、こういった事例を参考にすると良いだろう。
また、ステークホルダー・エンゲージメントの実施方法や結果は開示する必要があるが、その目的は「ステークホルダーの関心や見解が、会社の戦略やビジネスモデルにどのように反映されているかを理解すること(ESRS 2 44)」である。この点、特に顧客などのバリューチェーンの下流に存在するステークホルダーに対して、ビジネス上の関係悪化を過度に懸念してステークホルダー・エンゲージメントを避けようとしている企業がある。ステークホルダー・エンゲージメントは自社のサステナビリティに対する考え方や取り組みが顧客にとってどこがどのくらい重要であるか理解できる良い機会となるため、積極的に実施することが良いだろう。
マテリアリティ評価は企業が開示するIROを決定するプロセスであるとともに、今後企業が取り組むことになるESG事項を決定する重要なプロセスである。また、企業のビジネスの変化に伴い、バリューチェーンやステークホルダーも変化することから、企業は継続してマテリアリティ評価を実施していくことになる。そのため外部アドバイザーの支援を受けながらマテリアリティ評価を行っている企業は、その評価をアドバイザリー任せにするのではなく、CSRD対応チームが主体性を持って取り組むことが望ましい。外部アドバイザーの支援方法は企業側の希望に応じて多種多様であるが、企業側の作業が資料の提供や質問に対する回答のみであり、マテリアリティ評価自体はアドバイザーが主体で進めている企業では、CSRD対応チームに十分な知見を蓄えることができないケースがある。実際に、フェーズ2から違うアドバイザーを選定する際に、候補先のアドバイザーから「マテリアリティ評価をどのように進めて、どういった仮定や判断に基づいてマテリアリティを特定したのか」という質問に対して適切に説明できない企業も存在していた。こういった企業は、サステナビリティ報告の監査人に対して論理的な説明をすることが難しいだろう。さらに、翌年度から自社メンバーのみでマテリアリティ評価を適切な方法で見直すことができず、再びアドバイザーに依頼する必要があるかもしれない。CSRD対応の主要メンバーは、各自のアップスキリングを兼ねて、外部アドバイザーからは技術的支援を受けることのみとし、CSRD対応メンバーが主体的に自社のマテリアリティの評価および検討を行うことが良いのではと考える。
フェーズ1を日本本社のメンバーだけで対応を進めている企業も留意が必要である。フェーズ1を日本本社のみで対応を進めている企業であっても、フェーズ2以降は欧州拠点が主体となって進める場合が多い。フェーズ2以降では報告対象となる企業および企業グループに関連するデータの収集や情報の作成、ガバナンス構築や業務プロセスおよび内部統制の整備を行うことになるため、報告対象である欧州拠点が主体となって作業を進めることが効果的かつ効率的であるからである。フェーズ2の開始前に、日本本社が行ったフェーズ1での検討内容やその結果を適切に欧州拠点のメンバーに共有する必要があるが、マテリアリティ評価の方法は複雑であり、評価の過程で多くの仮定や判断が含まれるため、資料を共有するのみでは十分に欧州メンバーに伝わらない。複数回の丁寧な説明会を開催してそれらを欧州メンバーに理解してもらう必要があるが、上述した外部アドバイザーが主体となったフェーズ1の実施や言語問題等に伴うコミュニケーションカルチャーの脆弱性によって、それが難しい企業も存在する。このような問題を未然に防ぐためには、上述した、CSRD対応メンバーの主体的なフェーズ1の実施に加えて、フェーズ1から欧州メンバーにも関与してもらい地域横断的なメンバーを構成して進めることが良いだろう。
2024年10月末時点では、多くの日本企業がフェーズ2および3を実施している。ここで「フェーズ2および3」と記載しているのは、多くの企業で、フェーズ2と3を構成する実施事項を同時並行で進めているからである。どのような主要な実施項目があるのか少し詳しい例を表1に記載する。
表1:フェーズ2および3の実施事項(詳細)
フェーズ | 実施項目 | |
フェーズ2 | 1 | ロードマップ&実施計画の策定 |
2 | ESG指標等の特定と収集方法の検討 | |
3 | サステナビリティに係るガバナンスの構築 | |
4 | サステナビリティに係る業務プロセスおよび内部統制の整備 | |
5 | ITツールの選定と導入 | |
6 | EUタクソノミーの検討 | |
7 | 炭素会計の導入 | |
8 | ESEF/XBRLの対応 | |
フェーズ3 | 1 | 報告の準備 |
2 | ドライラン | |
3 | 報告の実施 |
各企業がフェーズ2および3を同時並行で対応している理由はTask 4「ロードマップ&実施計画の策定」を行った結果、同時並行で進めないと開示期限までに間に合わないと判明したからである。
多くの企業ではギャップ分析の結果、おおよそ7割から9割のギャップが識別され、想定外だったとの声を聞く。ギャップが想定より多いということは、例えば、フェーズ2で実施する「ESG指標等の特定と収集方法の検討」に必要な期間が、当初の想定よりも長期間必要ということを意味する。サステナビリティに係るガバナンスや業務プロセスおよび内部統制に関して、任意でサステナビリティ情報を開示している企業であってもCSRDで求められる事項とのギャップが想定よりも大幅に大きいことが多い。特に、多くの企業が長期間費やしている項目は「ITツールの選定と導入」である。マテリアリティ評価の結果、開示するESGトピックが判明すると、多くの企業はマニュアル(エクセル等)でデータを収集して報告書を作成することは現実的ではないと認識する。そのため、多くの企業で、ESGデータ収集およびサステナビリティ報告のツール導入を進めている。しかし、CSRDに対応したツールは多くのシステムベンダーから提供されており(PwCドイツがITツール選択を支援する場合には50社程度が候補)、機能性、ESRS要件への適合性、信頼性、メンテナンス性、将来性、既存のIT環境との調和・親和性など、ツール選定の検討には多くの観点があり、CSRD対応メンバーにはシステム選定の知見が乏しいケースが多い。そのため、ITツールの選定作業はフェーズ1の途中から開始し、さらに、情報システム部等のシステム選定に知見のある部署の十分な支援を受けながら行うことが良いだろう。
ESRS E1(気候変動)では企業に対して気候変動緩和のための移行計画を開示することが求められている(Disclosure Requirement E1-1 14)。これは、事業戦略とビジネスモデルが、持続可能な経済への移行、パリ協定に沿った地球温暖化の1.5℃への抑制、および2050年までに気候中立性を達成する目標に適合するような企業の緩和努力をステークホルダーに示すことが目的である。具体的に要求されている項目は、GHG排出削減目標やそれを達成するための主要アクション、設備投資計画に従った投資や資金調達計画などである。
例えば、移行計画を達成するためには企業が保有する生産設備の更新が必要であると意思決定するかもしれない。この場合、当該固定資産の耐用年数の短縮が必要になったり、減損損失の兆候に該当する結果、減損損失を認識するかどうかの判定も必要になるだろう。これらの検討の結果、固定資産の帳簿価額や減価償却額、減損損失額および関連する注記事項等、財務情報に影響を与える可能性もある。
サステナビリティ報告はサステナビリティ部門が中心となって作成を進める企業が多いかもしれないが、経理財務部門も開示することになるサステナビリティ情報を把握し、財務会計上で検討しなければいけない事項の有無を検討する必要があると考える。
また、ISSA5000の草案では、「財務諸表の監査人から要請された、財務諸表の監査又はレビューに関連する情報を共有する権限をサステナビリティ保証業務の契約条件として経営者等に合意を求めることがある(A204項)」と規定されているとおり、これはサステナビリティ情報と財務情報との接続性と一貫性を考慮した保証手続を想定していると考えられる。
ここでは、ESRSで開示が求められているサステナビリティ報告に係るガバナンス項目を解説する。ESRSで開示要求事項(Disclosure Requirements)として規定されている項目は表2と表3の通りである。
表2:ガバナンス開示項目(ESRS 2)
表3:ガバナンス開示項目(ESRS G1)
表2はESRS 2で規定されている項目でありマテリアリティ評価の対象外、つまり全ての企業に対して開示が求められている項目である。一方で、表3はESRS G1に規定されている項目であり、これらは各企業がマテリアリティ評価によって開示の要否を判断する(マテリアリティ評価の対象外はESRS 2のみで、その他の全ての環境、社会、ガバナンスに関するESRSはマテリアリティ評価の対象となっている)。どの項目もかなり詳細な情報の開示が求められていることが分かるだろう。開示するということは、報告期間に渡ってこれらのガバナンスを運営する必要がある。各企業はESRSで求められている趣旨を理解しながら、日本本社と欧州子会社での責任や役割分担、各機関や委員会等での審議プロセスや項目、マテリアリティ評価で決定したIROのうちどれを全社的なリスク管理プロセスに組み込むかを検討している。
ガバナンスの運営に当たっては経理財務の役割も重要である。例えば、財務的マテリアリティ評価の結果、マテリアルと判断したリスクおよび機会について、評価した時点からどのような変化が発生し、その変化によって全社的なリスク管理にどのような影響を与えるのか経理財務部門が分析することが望ましいだろう。
ESRS 2で要求されているインセンティブ制度をCSRD対応を契機として導入しようとしている企業もある。サステナビリティに関するインセンティブ制度のKPIは、企業の長期的な価値創造やサステナビリティ戦略に関連性があることが望ましく、従来の財務数値に関連したKPIと違う側面がある。一般的に、インセンティブに関するKPIは客観的に測定可能であり測定に判断が含まれる場合には慎重に検討することが望ましい。例えば、GHG排出量の削減割合をKPIとする場合、削減割合算定の基礎となるGHG排出量の測定方法は、企業の削減の取り組み効果を適切に反映できること、かつ、測定期間に渡って一貫した計算方法を適用することが、インセンティブ効果を持たせるために望ましいが、GHGプロトコルなどのガイドライン等に基づいたGHG排出量の測定方法(炭素会計)は財務会計と比較して、入力データの品質に課題がある場合が多く、計算方法にもより柔軟性がある。そのため、インセンティブ制度の設計後に入力データや計算方法の変更が発生しないように、企業の実態や取り組みの効果を適切に反映できるような合理的かつ効果的な企業の炭素会計マニュアルの策定を進めている企業もある。
ESRS G1-2 「サプライヤーとの関係」に関する開示項目に関しては、顧客が自社に対してより影響力を行使するようになることを意味する点に留意する必要がある。この開示項目は、自社の(見込み)顧客がサプライヤーを選定する際に、社会的・環境的基準に基づいた判断指標をより重要視してくることを意味していると考える。自社がオフィシャルサプライヤーとして選択または継続されるために、顧客が自社に対してどのような社会的・環境的基準を重要視しているか理解し、それに対応することが重要である。この点「顧客がどのような社会的・環境的基準を重要視しているか」を把握するためには、マテリアリティ評価の過程で行ったステークホルダー・エンゲージメントを最大限に活用することが効果的である。ステークホルダー・エンゲージメントでは通常、主要な顧客に対して、自社のマテリアリティ評価で認識したIROやマテリアルと評価したIROを説明して意見を求める。しかし、顧客からのネガティブな反応を懸念して、それを実施しないケースも散見される。まだ報告期限までには時間があるため、自社のビジネスの成長性の観点からステークホルダー・エンゲージメントの実施事項を見直してみることも良いのではと筆者は考える。
CSRD導入に当たって、サステナビリティ報告基準が整備され法定の外部保証が導入された目的の一つがグリーンウォッシュの排除、つまりサステナビリティ情報に含まれる誤謬や不正の排除である。そのため、企業はサステナビリティ報告基準に従い、企業の実態を適切に表す情報でサステナビリティ報告を作成したうえで、監査人による保証を受ける必要がある。また、開示2年目から比較情報(前年度に開示した情報)の併記が求められるところ、前年度の情報に重大な誤謬があった場合には、訂正報告を提出することが求められている。
そのため、企業には一貫した方法で誤謬や不正の含まれていないサステナビリティ情報を作成するために、サステナビリティ報告に係る業務プロセスおよび内部統制を整備して運用することが求められる。上述したガバナンス項目の開示においても、ESRS 2 GOV-5「リスク管理と内部統制」の開示要求に基づいて、内部統制プロセスや内部監査に関連する事項を開示する必要がある。この点、自社でCSRD準備対応を行っている企業は、サステナビリティ報告に係る業務プロセスや内部統制の整備を実施タスクとして織り込んでいないケースも見受けられるため十分な留意が必要である。
いくつかの欧州企業は、強制適用よりも前にCSRDに基づくサステナビリティ報告の任意開示を行っているため、内部統制に関連している開示を抜粋して紹介する。具体的な業務プロセスや内部統制の記述はないが、どの企業もサステナビリティ報告に係る内部統制を整備していることが読み取れるだろう(事例1~事例3、筆者による仮訳)。
サステナビリティ報告のリスク管理と内部統制2023年において、トレルボルグは内部統制機能の責任範囲を拡大し、サステナビリティプロセスを含める作業を開始しました。これにより、サステナビリティ報告をさらに強化し、データの質を向上させることを目指しています。このアプローチは、内部統制により以前からカバーされている他の7つのプロセスと同じです。この作業の次の段階は、既存の内部統制手続きに類似したサステナビリティ関連の自己評価の構造を開発することです。この自己評価は2024年に開始される予定であり、2024年後半に一部のサステナビリティ項目を内部監査の対象とするオプションも検討しています。 |
内部統制環境私たちは、目標、方針、マニュアル、手順、および内部統制を設定することにより、財務報告およびサステナビリティ報告に関連するリスクの特定と軽減を確実にするため、組織全体で内部統制システムを確立しています。財務報告およびサステナビリティ報告のプロセスと統制を継続的に監視し、必要に応じて最適化しています。 重要性、プロセスの複雑さ、エラーや脱漏の可能性に基づいて、財務報告およびサステナビリティ報告における重要な虚偽記載のリスクを特定するための年次リスク評価を実施しています。 内部統制フレームワークが効果的であることを確保するために、2024年末までの計画を策定し、既存の統制の再評価およびプロセス内の追加統制の特定を含む、財務報告およびサステナビリティ報告におけるすべての重要な領域のプロセスを評価します。財務報告およびサステナビリティ報告に関する内部統制を継続的に監視およびテストし、その運用の有効性を確保しています。 財務報告およびサステナビリティ報告については、同じガバナンスを確立しています。監査・リスク委員会は、リスク評価、内部統制、およびその運用の有効性のレビューを含む、財務報告およびサステナビリティ報告プロセスを監視しています。 私たちは、財務報告およびサステナビリティ報告の正確性を確保することに尽力しています。当社の財務報告は、年次総会で選出された独立監査法人によって監査されています。当社のサステナビリティデータは、同じ独立監査法人によって限定的保証の対象となります。外部監査人の長期報告書およびマネジメントレターにおけるすべての指摘事項は、責任分担と期限を定めた行動計画によって対処され、定期的にフォローアップおよびレビューを行います。 |
サステナビリティ報告のリスク管理および内部統制システム2023年から、サステナビリティ報告の責任をグループファイナンス部門に移管し、年次報告書と整合させました。2023年以前は、グループコミュニケーション部門がグループファイナンス部門のサポートを受けて単独のサステナビリティ報告書を発行していました。この決定は、企業サステナビリティ報告指令(CSRD)に基づく欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)など、将来のサステナビリティ報告に関する法規制を見越して経営陣によって行われました。2024年の報告書のコンプライアンスを確保するために、データ収集プロセスや内部統制を含む全体的なサステナビリティガバナンスと報告を改善するためのリソースを割り当てました。 2023年に選定されたサステナビリティの主要な数値に限定的保証を達成するという目標の一環として、内部統制を評価し、構築し、財務数値と同様に改善しました。 これらの内部統制は、データの正確性および完全性に関連するリスクを考慮して各主要な数値に対して確立されています。財務報告とサステナビリティ報告の整合性を継続的に追求し、両分野の専門知識を活用してシナジーを生み出すために、内部統制を拡大しさらに改善することを期待しています。2023年には、CSRDに備えてギャップ分析を実施し、グループ全体のすべてのエンティティからの構造化されたデータ収集を確保するためのワークフローを確立しました。データの完全性を確保するリスクおよび、信頼できると考えられる場合には過年度データに基づく推定手続きの実施が必要となる可能性を認識しています。バリューチェーン情報に関しては、データの正確性は十分と見なしています。それにもかかわらず、2024年以降、この分野でのデータ収集とガバナンスをさらに改善する機会があると考えています。 サステナビリティデータおよび報告リスクは、データ所有者、経営陣、および監査委員会との議論を通じてケースバイケースで対処されています。 |
2025年中に欧州の証券市場に上場している企業等は、保証意見が付与されたCSRDおよびESRSに準拠したサステナビリティ情報を開示することとなる。各企業は同業他社のベンチマークを行い、自社のサステナビリティ報告を作成する際の参考にすると良いだろう。
今後、日系企業に大きな影響を及ぼすものは、セクター別のサステナビリティ報告基準の採択である。セクター別の基準開発が完了し採択された場合、企業は自身が該当するセクター別の基準にも準拠してサステナビリティ情報を開示する必要がある。この点、EFRAG(欧州財務報告諮問グループ)が環境および社会に大きな影響を与えるセクター(high-impact sectors)から順次、セクター別の基準開発を進めており、石油・ガスセクターおよび鉱業、採石業、石炭採掘セクター向け基準の草案が2024年末までに公開される予定である。その後、道路輸送や繊維・アクセサリー・履物・宝飾品セクター、金融セクターや農業・漁業セクター等の草案の公開が続く予定である。各企業は自身のセクター別の基準がいつ頃公開されるかを確認し、準備をしておくことが必要である。
また、2028年からはEU域外企業(CSRDの第40a条の規定により、EU域内で売上高150百万ユーロ以上、かつ、EU域内に40百万ユーロ以上の支店または大企業もしくは上場中小企業の子会社を持つEU域外企業)がEU域外向け基準に準拠してサステナビリティ報告を行う必要がある。EU域外向け基準の採択期限は2026年6月末までと定められており、2025年1月末までに草案の公開が予定されている。グローバルに多数の子会社をもつ日本企業は、現在準備を進めているEU域内企業の準備作業よりも格段にその難易度が上がる。欧州でのCSRD準備対応の経験を最大限活用して準備を進めることが良いだろう。
CSRD(企業サステナビリティ報告指令)に基づいてサステナビリティ報告を行う際に準拠するべき基準であるESRS(欧州サステナビリティ報告基準)の概要と、対応のロードマップを解説します(週刊経営財務 2024年2月12日 寄稿)。
EU域内に拠点を置く企業の急務になっているCSRD(企業サステナビリティ報告指令)への対応について、本場であるドイツの視点からその概要を解説します(週刊経営財務 2024年1月15日 寄稿)。
企業の非財務情報開示が進み、中長期的な企業経営の視点が投資家に評価されることで健全な資本市場が発展し、持続可能な社会が実現するためには何が必要でしょうか。企業が直面している課題について解説します。(週刊経営財務 2023年4月10日号)
非財務情報開示において中核をなす情報である人的資本に関する情報が企業経営にとってなぜ重要なのか、また具体的にどのような開示が求められているのかについて解説します。(週刊経営財務 2023年3月27日号)
本レポートでは、世界の大企業の経営幹部673人を対象に、経営の戦略や優先順位を調査しました。COOはAIの活用拡大に強いプレッシャーを感じており、関連する人材の採用・育成に注力する一方で、業務に追われ将来のビジョン策定に注力できていない状況が明らかになりました。
日本の保険会社は競争力を維持し、グローバルに成長するために、変革を続けなければなりません。本稿では、今日の課題を乗り越えながら自ら変革しようとする日本の保険会社の2025年における必須事項のトップ10について解説します。
サステナビリティ情報の開示への要求が国内外で高まっています。本書籍では、国内外のサステナビリティ第三者保証の最新情報を踏まえ、サステナビリティ報告と保証に対する実務対応について解説します。(中央経済社/2025年3月)
企業には財務的な成果を追求するだけでなく、社会的責任を果たすことが求められています。重要性が増すサステナビリティ情報の活用と開示おいて、不可欠となるのがデータガバナンスです。本コラムでは情報活用と開示の課題、その対処法について解説します。