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近時、日本を含む世界各国において、ESG/サステナビリティに関する議論が活発化する中、各国政府や関係諸機関において、ESG/サステナビリティに関連する法規制やソフト・ローの制定又は制定の準備が急速に進められています。企業をはじめ様々なステークホルダーにおいてこのような法規制やソフト・ロー(さらにはソフト・ローに至らない議論の状況を含みます。)をタイムリーに把握し、理解しておくことは、サステナビリティ経営を実現するために必要不可欠であるといえます。当法人のESG/サステナビリティ関連法務ニュースレターでは、このようなサステナビリティ経営の実現に資するべく、ESG/サステナビリティに関連する最新の法務上のトピックスをタイムリーに取り上げ、その内容の要点を簡潔に説明して参ります。
今回は、以下のトピックを紹介します。
ドイツのサプライチェーン・デュー・ディリジェンス(人権デュー・ディリジェンス)法ガイドラインの概要
近時、企業及びそのステークホルダーの「人権」に対する関心や意識が高まっています。2011年の国連人権理事会で採択した「ビジネスと人権に関する指導原則」の公表及び経済協力開発機構(OECD)の「OECD多国籍企業行動指針」の改訂により、企業における人権尊重の責任が明示的に求められたことを皮切りに、企業活動が人権に与える影響に焦点が当てられています。欧米各国では、英国現代奴隷法等をはじめとするハード・ローが制定されたほか、OECDの「責任ある企業行動のためのデュー・ディリジェンス・ガイダンス」やEUを中心としたソフト・ローの公表等も相次いでなされており、日本においても「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン」が2022年9月に公表されました。一方、ハード・ローの形態をとるものとして、ドイツにおいては、2023年1月1日より「サプライチェーンにおける企業のデュー・ディリジェンス義務に関する法律」(Act on Corporate Due Diligence Obligations in Supply Chains(以下「ドイツDD法」といいます。)1が全面的に施行される予定です。そして、全面施行を控えた2022年8月17日、ドイツ連邦経済・輸出管理庁(BAFA)は、同法が企業に求める対応の具体的な内容に関する初めてのガイドライン(ドイツ語のみ)(以下「本ガイドライン」といいます。)2を公表しました。
ドイツDD法は、①一般条項(適用範囲及び定義)、②デュー・ディリジェンスの義務、③法的手続、④当局によるモニタリングとエンフォースメント(執行)、⑤公共調達、⑥罰則に関する規定の6章から構成されています。本ガイドラインは、②のデュー・ディリジェンスの義務に関連し、「人権リスク」3及び「環境関連リスク」4のリスク分析(ドイツDD法第5条)の方法について解説するものとなっています。一方、予防措置、苦情処理手続やトレーニング等に関して要求される「適切な」ものが具体的にどのような要件を満たす必要があるのかという疑問には触れられないままとなっています5。
ドイツDD法第5条は、企業が適切なリスク分析を行い、自社の事業領域及び直接のサプライヤーにおける人権もしくは環境関連のリスクを特定しなければならないとしています。このリスク分析において、リスクは適切に比較考量し、優先順位付けを実施する必要があります。また、リスク分析の結果については、取締役会や調達部門などに伝達し、意思疎通を図らなければならないものとされています。
そして、リスク分析については、年に一回行うとともに、サプライチェーンにおけるリスク状況が著しく変化したり、著しく拡大したりすることが予想される場合には別途実施することが求められるところ、本ガイドラインによれば、次のように整理されています。
自社の事業領域及び直接のサプライヤーに関して1年に1回実施します。
自社の事業領域及びサプライチェーンの全体を対象とし、臨時に行うものであり、次のいずれかの事態が生じた場合に行うことが求められます。
本ガイドラインは、適切なリスク分析は、企業の自社の事業領域及びサプライチェーンに関する透明性を生み出すものであり、かかる透明性によってリスク分析を行うべき領域を決定することが可能となるとしています。透明性確保のために企業が収集すべき基本的な情報として次のものが挙げられています。
また、企業がリスクの高いサプライヤーを既に特定している場合には、次の情報を追加で取得する必要があります。
本ガイドラインは、年次のリスク分析の手法として、抽象的な分析と具体的な分析の2つの手法を組み合わせる必要があることに触れています。これは、ドイツDD法においてもリスクベースアプローチの考え方が採用されており、デュー・ディリジェンスの取組みも段階的に行うことが想定されていることに基づくものと思われます。
抽象的な分析は、①企業が事業を行っているあるいは調達を行っている国、及び②企業が事業を行っている産業分野において、それぞれ、いかなる「人権リスク」又は「環境関連リスク」が問題となっているかに関する概要を把握するものとされています。
具体的な分析は、抽象的な分析で得られた国別、産業別のリスクに関する概要情報を基に、具体的なリスクの特定、重みづけ、優先順位付けを行うものとされています。
上記のとおり、本ガイドラインは、ドイツDD法におけるリスク分析の手法について概説していますが、同法第5条の内容を具体的かつ簡易に説明したものであり、従来からの「ビジネスと人権に関する指導原則」をはじめとする規範に基づく実務からすれば、特筆すべき内容はないものと思われます。また、日本企業にとっては、今後、ドイツ企業やそのサプライチェーン上の企業との取引において、ドイツDD法に基づく要請がどの程度なされ、どのような対応を行うことが必要となるかとの点にも関心が高い点ですが、これらの点については本ガイドラインから明らかになることは乏しいところです。今後、ドイツ連邦経済・輸出管理庁(BAFA)から追加のガイドラインも出される見込みですので、引き続き注視していく必要があります。
1 ドイツDD法の概要と日本企業への影響については、については、ESG/サステナビリティ関連法務ニュースレター(2021年10月)(https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/news/legal-news/legal-20211029-1.html )もご参照ください。
2 “Risiken ermitteln, gewichten und priorisieren Handreichung zur Umsetzung einer Risikoanalyse nach den Vorgaben des Lieferkettensorgfaltspflichtengesetzes” (https://www.bafa.de/SharedDocs/Downloads/DE/Lieferketten/handreichung_risikoanalyse.pdf?__blob=publicationFile&v=3)(最終アクセス2022年11月15日)
3 「人権リスク」とは、事実関係に基づき、ドイツDD法所定の禁止事項のいずれかに対する違反が差し迫っている十分な蓋然性がある状態をいうと定義されています。主要な禁止事項としては、児童労働、強制労働、奴隷制、奴隷制に類似した慣行、農奴制、その他の形態の支配や抑圧、労働安全衛生上の義務違反等、結社の自由の禁止、雇用における不平等取扱い等、適切な生活賃金(最低賃金)の不支給、有害な土壌汚染、水質汚染、大気汚染、騒音の発生又は過剰な水の消費、土地、森林、水の取得、開発等に関する不法な取得(立退き)、企業のプロジェクト保護のための民間や公的な警備隊の雇用及び使用による非人道的行為等が挙げられます。
4 「環境関連リスク」とは、事実関係に基づいて、ドイツDD法所定の禁止事項のいずれかに違反する可能性が十分にある状態のことをいうものと定義されており、水銀に関する水俣条約、持続性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)、有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約の特定の事項が挙げられています。
5 適切性及び苦情処理手続については、ドイツ連邦経済・輸出管理庁(BAFA)から、本ガイドラインと別のガイドラインが公表される見込みです。