デジタル経済課税 第2の柱(グローバル・ミニマム課税)の世界での法制度と会計の概況

  • 2023-11-01

はじめに

わが国の令和5年度税制改正で、グローバル・ミニマム課税が導入されることになりました。この制度は、経済協力開発機構(OECD)がリードする、約140カ国の包摂的枠組みに基づく課税ルールです。具体的には、デジタル経済に対する課税上の対応として2つの制度的な柱が掲げられました。第1の柱が「市場国への新たな課税権の配分」で、第2の柱が本稿のテーマである「グローバル・ミニマム課税」です。日本の税制では、「国際最低課税額に対する法人税課税」として法人税法の一部として制定されています。

グローバル・ミニマム課税は、OECDが策定したモデルルールに基づき各国が法制度化している、過去に例のない国際的な課税制度導入の試みです。このモデルルールに基づき、各国では所得合算ルール(Income Inclusion Rule:IIR)、軽課税所得ルール(Undertaxed Profit Rule:UTPR)、そして、適格国内最低課税制度(Qualified Domestic Minimum Top-up Tax:QDMTT)の3つのルールの導入が進められています。

日本においては、IIRが2024年4月1日以後開始する事業年度から、すなわち3月決算法人は2025年3月期から、12月決算法人では2025年12月期から適用されます。また、他国においては、欧州を中心にIIRおよびQDMTTが2024年1月以後開始する事業年度から適用されることから、特に12月決算法人においては、日本での法令対応に先んじて2024年12月期の海外での法令対応を検討する必要があります。

グローバル・ミニマム課税は、過去の税制とは異なり、会計処理が制度対応に大きな影響を与えます。本稿では、制度検討の各フェーズで会計上の取り扱いがどのように関連するのかを解説するとともに、実務上の課題や対応などを検討します(図表1)

図表1:制度検討の各フェーズにおける会計上の取り扱い

フェーズ 内容 会計との関連のある項目
構成事業体の特定 制度の対象、課税主体となるグループ会社の特定 連結範囲との関連
セーフハーバー・テストの実施 CbCR(国別報告事項)セーフハーバー・テストにより、実効税率計算を実施する国の特定
  1. bCRの適格性
  2. 税金費用計上額の正確性
  3. その他の会計処理の影響
国別実効税率とグループ国際最低課税額の算定 上記で特定された国の実効税率判定と国際最低課税額の計算
  1. 国別グループ純所得
  2. 国別調整後対象租税額

①対象税額

②税効果相当額

決算時の対応 国際最低課税額の決算への反映および開示 決算時の国際最低課税額の算定方法

出典:PwC作成

なお、本稿は2023年7月24日時点で公表されている日本の税法およびOECDのモデルルールに基づいた解説であり、その後公表されるガイダンス等については考慮されていない旨ご留意ください。また、文中の意見に係る記載は筆者の私見であり、PwC税理士法人、PwCあらた有限責任監査法人および所属部門の正式見解ではないことをお断りしておきます。

1 構成事業体の特定:連結の範囲との関連

グローバル・ミニマム課税の対応にあたっては、まず対象となる構成事業体の範囲および種類を3つのステップで特定する必要があります(図表2)。原則的には、グループ連結財務諸表における連結子会社が対象となりますが、重要性に鑑みて非連結となっている子会社や売却目的のため連結の対象から除外されている事業体も含まれます。また、持分法適用会社であっても所有持分に係る権利※1が50%以上の場合には、構成事業体のようにみなして国際最低課税額を計算するケース(共同支配会社等)や、逆に連結子会社であっても除外対象となり構成事業体に含まれない会社(除外会社等)もあるため留意が必要です。

構成事業体の中でも、グループ外の所有持分に係る権利※2が20%を超える場合には、その事業体に帰属する国際最低課税額については課税主体になったり(被部分保有親会社等)、グループの所有持分に係る権利※1が30%以下である場合には、他の構成事業体とは区分して実効税率、国際最低課税額の判定を行ったりする(被少数保有構成会社等)ことになります。

ここで、上記の判定をする際の所有持分は、利益配当を受ける権利や残余財産の分配を受ける権利の割合を用いて一定の算定式にて判定することから、グループ会社の株主が存在しており、かつ種類株式などを発行している場合には、会計上の連結持分割合とは必ずしも一致しないため留意が必要です。特に、優先株式などを発行している場合には、普通株式と優先株式の利益の配当に関する権利割合が財務状態によって変わるため、毎期判定が異なる可能性があり留意が必要です。

図表1: 投融資スキーム検討の全体像

2 セーフハーバー・ルールの適用

グローバル・ミニマム課税では、事務負担の軽減措置としてセーフハーバー・ルールが定められており、一定の要件を満たす国については、国際最低課税額をゼロとみなし、国別の実効税率および国際最低課税額の算定は不要になります。具体的には、グローバル・ミニマム課税の適用後3年間の経過措置としてCbCRを用いたセーフハーバー・ルール※3が規定されています。ここで会計との関連という観点からは、CbCRの適格性の判定と税金費用計上額の正確性が問題となります。

(1)CbCRの適格性

セーフハーバー・テストで用いられるCbCRは、適格CbCRでなければならないとされています。このCbCRの適格性判定で重要な要素は、CbCRで用いられる財務数値が連結財務諸表からグループ加入時などで実施した資産負債の時価評価に関連する仕訳と、グループ間相殺消去による仕訳の影響を除外した数字※4とする必要がある点です。現状のCbCRでも連結財務諸表を基礎にした財務数値を記載するのが一般的ですが、子会社が作成した連結パッケージから数字を記載していることが多いと思われます。適格CbCRとするためには、連結修正仕訳のうち、決算の締めに間に合わなかった個社の修正仕訳や、GAAP調整仕訳など一定の仕訳についてはCbCRに記載している数値に反映することが求められる可能性があります。また、サブ連結などをしている場合にはサブ連結ベースの連結修正仕訳は親会社だけでは把握できないケースも考えられます。この確認には実務的な負担が増すことになるため留意が必要です。

(2)税金費用計上額の正確性

CbCRセーフハーバー・テストは、(図表3)に挙げている3つのテストのいずれかを満たす場合に、その国は国別国際最低課税額がゼロであるとみなします。ここで重要なのは原則として会計で使用した数値をそのまま使用するという点です。

例えば簡易ETRテストでは、分子に会計上の法人税等調整額を含む税金費用を使用しますが、上述の連結財務諸表の数値を基礎にした数字とする場合、連結決算スケジュール上は事業年度末後から短期間で締める必要があるため、正確な税金計算をすることが実務上困難であることから、各個社の税金費用の金額は、その事業年度の税務申告の数値とは必ずしも一致せず、不一致部分は連結財務諸表上、翌期の税金費用として計上されます。言い換えると、その事業年度の税金費用計上額は、当事業年度に関する税金費用および前期の税金費用と税務申告の不一致部分などの過年度に関する税金費用で構成されることになります。また、海外子会社などでは必ずしも会計知識のある担当者が連結財務諸表の基礎となる財務数値を作成していないこともあるため、正しく税効果会計を適用していないケースも多いと見込まれています。

会計監査ではグループ全体の重要性で検討されることから、このような税金費用の計算でも連結財務諸表上は一定程度許容されています。一方でCbCRセーフハーバー・テストは、この数字を原則そのまま用いてテストをすることになるため、実際テストを実施してみると、想定通りの結果にならないこともよくあります。この場合、税金費用計上額の正確性を向上させるのか、セーフハーバー・テストはパスできないとして詳細な実効税率判定に進むのか、どちらが自社にとって効率的かを判断する必要があると考えます。

図表3 CbCRセーフハーバー・テスト

(3)その他の会計処理の影響

上述のような、税金費用計上額の正確性以外にも、例えば、繰延税金資産に評価性引当金を積んでいるケースでは、将来減算一時差異等に税効果が認識されず、簡易ETRの結果がその国の法定税率と乖離するケースや、売上の総額表示か純額表示で簡易デミニマステストの結果が異なるなど、会計処理にテスト判定が大きく影響される場合もあります。

3 国別実効税率および国際最低課税額の計算

上述のセーフハーバー・テストをパスしなかった国については、国別実効税率および国際最低税率課税額の算定を行います。具体的な計算式は、(図表4)のようになりますが、特に会計との関連があるのは、国別実効税率計算における国別グループ純所得と国別調整後対象租税額になります。

図表4 具体的な計算式

(1)国別グループ純所得

国別実効税率の分母となる国別グループ純所得の計算の基礎となる会計の純損益は、原則として連結財務諸表作成に使用する数値となりますが、2の(1)で述べたように、グループ加入時などで実施した資産負債の時価評価に関連する仕訳とグループ間相殺消去による仕訳の影響を除外した数字とする必要があるため、留意が必要です。

会計の純損益からの調整項目として代表的なものは、株式などの持分保有に関する調整が挙げられます。例えば、持分割合10%以上または保有期間1年以上の株式等に係る受取配当や、持分割合10%以上の株式等の譲渡損益などがあった場合には、会計の純損益からは除外する必要があります。

また未払年金費用の調整は、会計上の費用認識時点ではなく、年金基金へ拠出した時点で費用認識をします。一見すると、日本の税務調整のように会計上の退職給付引当金の期末期首の増減を調整すればよいように思われますが、退職給付引当金は、必ずしも年金基金への拠出だけではなく、自社支給の退職金の計上にも使用されていることがあります。その場合には、年金基金に係るものだけを抽出する必要があります。

他にもさまざまな調整がありますが、調整項目および金額を適切に把握するためには、このように会計上の取り扱いや勘定科目の使い方などを正確に理解しておく必要があります。

(2)国別調整後対象租税額

国別実効税率の分子となる国別調整後対象租税額は、主に当期対象税額と税効果相当額で構成されます。金額の集計においては、どの勘定科目にどのような税金が計上されているのか、それがどの事業年度の所得に対応する税額なのか、その税金費用がどのように計算されているのかを適切に把握する必要があります。

当期対象税額
当期対象税額の範囲は、原則として所得に対して課される税額になります。まずは、会計上、計上されている法人税等の金額を集計しますが、税引前利益に含まれている対象税額があれば、あわせて集計する必要があるので、例えば販売費および一般管理費に含まれている税金関連項目についても把握しておく必要があります。

税金費用の認識時期の観点からは、会計上の税金費用は必ずしも当事業年度の税額のみではなく、過年度の税額が含まれていることがあります。その場合、税金の増額であれば特に調整は必要ありませんが、減額の場合は、過年度の国別実効税率が高く算定されていたとして、これを是正するために原則として過年度の遡及修正が必要となります。ただし、国別で100万ユーロを超えない場合には、選択適用により調整の必要はありません。このようなケースが発生する事由としては、過年度税額の更正の請求や、移転価格によるAPA調整などが考えられます。また、2の(2)で述べたように、前期の会計計上額と税務申告における課税額の差により、過年度の税額が計上されるようなケースも考えられます。

税金費用の認識事業体という観点からは、課税主体となっている事業体の国ではなく、別の事業体の所在地国で金額を集計する必要があるケースも考えられます。例えば、構成事業体間の配当に係る源泉税は、配当を受け取った事業体ではなく、配当を支払った事業体の国で集計することになります。タックスヘイブン税制における課税額は、課税となる事業体ではなく、合算対象となる所得が生じた事業体の国で集計します。このいわゆるプッシュダウン調整を行う点も、グローバル・ミニマム課税の特徴になります。

このように、租税額の範囲、認識時期、認識国の判定において、会計上の取り扱いからの調整が生じる可能性があるので留意が必要です。

税効果相当額
国別調整後対象租税額の主要構成要素である税効果相当額の特徴としては、評価性引当金の影響は排除して考えること、および適用税率については、税効果会計の適用税率もしくは15%のいずれか低いほうの税率を採用することが挙げられます。他にも繰延税金負債に関する調整など調整が必要になることがありますが、主にこの2つの要因により、会計上の法人税等調整額の計上額とは、多くの場合で異なるため留意が必要です。

4 決算時の対応:決算時の国際最低課税額の算定方法

決算時の対応としては、IFRSの場合、2023年5月23日にIAS第12号が修正され、グローバル・ミニマム課税に関する繰延税金については認識する必要がない旨が明確化されましたが、その事業年度に係る国際最低課税額については法人所得税として認識および一定の情報を注記情報として開示することを検討することになります。上場会社では決算を締める期間は事業年度末からおおよそ1~2カ月程度ですが、前述の構成事業体の判定、セーフハーバー・テストの実施、国別実効税率および国際最低課税額の計算を詳細に実施していくのは、実務的に難しい場合が多いと考えられます。そのため、実務的な対応をどのように図っていくのかは自社グループの状況に鑑みて慎重に検討し、会計監査人とコミュニケーションすることが重要となります。

5 おわりに

これまで見てきたように、グローバル・ミニマム課税はこれまでの税制と異なり、会計の取り扱いに大きく依存する制度となっており、全てのフェーズでグループ全体の会計への理解が不可欠です。親会社の税務担当者だけでなく、連結経理、海外子会社の担当者など複数の部署が関わることになり、制度対応プロセスも複雑化することが想定されます。また、グローバル・ミニマム課税への対応は、日系多国籍企業において税務ガバナンスを変革・再構築する良い機会ともなります。決算・申告プロセスの自動化・デジタル化や外部専門家との共同運営体制への移行等を含め、適切なガバナンスおよびオペレーションを構築することは非常に重要な課題となります。この点については、本特集の論考「グローバル・ミニマム課税と今後の税務部門の体制」で解説します。


※1 利益の配当を受ける権利と残余財産の分配を受ける権利の割合の加重平均によって判定する。

※2 利益の配当を受ける権利のみに基づいて判定する。

※3 2023年7月時点においてOECDでQDMTTセーフハーバー、経過措置としてのUTPRセーフハーバー・ルールが公表されており、その他セーフハーバー・ルールも検討中であるが、日本の税法上、明確化されたものはないため説明は割愛する。

※4 OECDモデルルールでは、現地財務諸表に基づいた数字の使用も認められているが、 2023年7月時点で日本の税法上で認められるかは明確ではないため、ここでの説明は割愛する。


執筆者

PwC税理士法人
デジタル経済課税対応チーム
パートナー 塩田 英樹