
企業会計基準委員会(ASBJ)は、2024年9月13日、企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」および企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」(以下、これらを合わせて「新リース会計基準」という)を公表しました。新リース会計基準は、日本基準を国際的に整合性のあるものとする取り組みの一環として、借手の全てのリースについて資産および負債を認識するリースに関する会計基準として開発が進められ、このたび、現行のリース会計基準である企業会計基準13号等に置き換わる基準となっています。
本稿では、新リース会計基準のうち実務への影響が大きいと考えられる点を中心にその概要について解説します。なお、本文中の意見に関する部分は、著者の個人的見解であり、PwC Japan有限責任監査法人の見解ではないことを申し添えます。
新リース会計基準では、リースの一般的な定義に加えて、リースの識別に関する定めが新たに設けられています。法的にリース契約の形態ではなくても、新リース会計基準が定めるリースの定義を満たす場合、契約書名称に関わらず、その契約はリースと判定され、リースの会計処理が適用されることから、現行のリース会計基準により会計処理されていなかった契約にリースが含まれると判断される場合があると考えられます。具体的には、リースの識別に関して、図表1に挙げている定めが設けられています。
図表1:新リース会計基準におけるリースの識別に関する定め
説明 | |
① | 契約が特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する場合、当該契約はリースを含む。 |
② | 特定された資産の使用期間全体を通じて、次のいずれも満たす場合、当該契約の一方の当事者(サプライヤー)から当該契約の他方の当事者(顧客)に、当該資産の使用を支配する権利が移転している。 a.顧客が、特定された資産の使用から生じる経済的利益のほとんど全てを享受する権利を有している。 b.顧客が、特定された資産の使用を指図する権利を有している。 |
③ | 借手および貸手は、リースを含む契約について、原則として、リースを構成する部分とリースを構成しない部分とに分けて会計処理を行う。 |
出所:PwC作成
新リース会計基準では、現行のリース会計基準におけるファイナンス・リースおよびオペレーティング・リースの区分を廃止し、借手は、IFRS第16号の定めと同様に、原則として全てのリース取引について使用権資産およびリース負債を計上することとしています(図表2)。
図表2:借手の財務諸表の比較イメージ(オペレーティング・リースのオンバランスによる影響)
出所:PwC作成
借手における会計処理のイメージは図表3のとおりです。ここからもわかるとおり、今回の重要な改正点は、現行のリース会計基準におけるオペレーティング・リースについても、新リース会計基準では原則として使用権資産およびリース負債を計上したうえで、関連する償却費用および利息費用を計上することが求められる点です。
図表3:借手の会計処理のイメージ
出所:PwC作成
リース期間の決定は、借手の貸借対照表に計上する使用権資産およびリース負債の金額に直接影響を及ぼすことになるため、重要な検討ポイントになります。新リース会計基準では借手のリース期間について、IFRS第16号の定めと同様に、借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間に、借手が行使することが合理的に確実であるリースの延長オプションの対象期間および借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間を加えて決定するとしています。このため、新リース会計基準の適用によって現行のリース会計基準よりもリース期間が長くなる場合があると考えられます。
借手は、借手が延長オプションを行使することまたは解約オプションを行使しないことが合理的に確実であるかどうかを判定するにあたって、経済的インセンティブを生じさせる要因を考慮します。これには、次のものが含まれます。
現行のリース会計基準では、リースの契約条件の変更に関する取り扱いを定めていませんが、新リース会計基準では、当該取り扱いを明確にするために、IFRS第16号と同様の定めを取り入れています。具体的な会計処理は、図表4のようになります。
図表4:リースの契約条件の変更に関する会計処理
出所:PwC作成
新リース会計基準では、リースの契約条件の変更が生じていない場合で、❶借手のリース期間に変更がある場合および❷借手のリース期間に変更がなく借手のリース料に変更がある場合には、リース負債の計上額の見直しを行います。❶または❷に該当する具体的な状況は、図表5のとおりです。
図表5:リース負債の見直しを行うケース
ケース | 具体的な状況 |
❶リースの契約条件の変更が生じていない場合で、借手のリース期間に変更がある場合 |
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❷リースの契約条件の変更が生じていない場合で、借手のリース期間に変更がなく借手のリース料に変更がある場合 |
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出所:PwC作成
新リース会計基準では、借手は、現行のリース会計基準と同様、短期リースおよび少額リースについて、リース開始日に使用権資産およびリース負債を計上せず、リース期間にわたって費用処理できるとしています。
少額リースについては、現行のリース会計基準では、図表6の❶および❷の2つの基準が定められていますが、新リース会計基準では、IFRS第16号における定めを踏まえ、少額リースの新たな定量基準として❸を追加しており、会計方針として❷と❸の定量基準のいずれかを選択適用できます。
図表6:短期リースおよび少額リースの取り扱い
現行のリース会計基準 | 新リース会計基準 | ||
短期リース | リース開始日において、借手のリース期間が12カ月以内であり、購入オプションを含まないリース | 〇 | 〇 |
少額リース | ❶重要性が乏しい減価償却資産について、購入時に費用処理する方法が採用されている場合で、借手のリース料が当該基準額以下のリース | 〇 | 〇 |
❷企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリースで、かつ、リース契約1件当たりの金額に重要性が乏しいリース(300万円以下) | 〇 | 〇 (選択適用) |
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❸新品時の原資産の価値が少額であるリース(5千米ドル程度以下) | 〇 (選択適用) |
出所:PwC作成
新リース会計基準では、貸手の会計処理については、借手の会計処理とは異なり、基本的に現行のリース会計基準の定めを維持するとされており、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区分およびファイナンス・リースにおける所有権移転ファイナンス・リースと所有権移転外ファイナンス・リースの区分も変更されていません。
新リース会計基準では、貸手のリース期間について、以下のいずれかを選択できるとしています。
現行のリース会計基準では、貸手のファイナンス・リースについて3つの方法の選択適用を認めています(図表7)。一方、新リース会計基準では、収益認識会計基準において対価の受取時にその受取額で収益を計上することが認められなくなったことを契機として、❷の方法を廃止しています。
図表7:ファイナンス・リースの取り扱い
現行基準 | 新リース会計基準 | |
❶リース取引開始日に売上高と売上原価を計上する方法 | 〇 (選択適用) |
製造または販売を事業とする貸手が当該事業の一環で行うリースに適用 |
❷リース料受取時に売上高と売上原価を計上する方法 | 〇 (選択適用) |
(廃止) |
❸売上高を計上せずに利息相当額を各期へ配分する方法 | 〇 (選択適用) |
製造または販売以外を事業とする貸手が当該事業の一環で行うリースに適用 |
出所:PwC作成
現行のリース会計基準では、オペレーティング・リース取引は、通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を行うことのみを定めており、収益の計上方法に関する具体的な会計処理は示されていません。
新リース会計基準では、フリーレント(契約開始当初数カ月間賃料が無償となる契約条項)やレントホリデー(例えば、数年間賃貸借契約を継続する場合に一定期間賃料が無償となる契約条項)に関する会計処理を明確にするとともに、収益認識会計基準との整合性を図ることを理由として、貸手は、リース料について原則としてリース期間にわたり定額法で計上します。
新リース会計基準(関連する会計基準等の改正を含む)は、公表から原則的な適用時期までの期間を2年半程度とし、早期適用も認めることとしています。
新リース会計基準の適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱い、原則として、新たな会計方針を過去の期間の全てに遡及適用します(完全遡及アプローチ)。ただし、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することが認められています(修正遡及アプローチ)。
さらに、修正遡及アプローチを適用する場合には、適用初年度の期首における帳簿価額を決定するにあたって、IFRS第16号と同様に各種の経過措置が設けられています。これには図表8のものが含まれます。
図表8:修正遡及アプローチを適用する場合の経過措置
項目 | 経過措置※ | |
リースの識別 |
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借手 | ファイナンス・リース取引に分類していたリース |
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オペレーティング・取引に分類していたリース |
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貸手 | ファイナンス・リース取引に分類していたリース |
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オペレーティング・取引に分類していたリース |
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IFRSを連結財務諸表に適用している企業またはその子会社 |
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※修正遡及アプローチの場合に適用可能
出所:PwC作成
PwC Japan有限責任監査法人
財務報告アドバイザリー部
ディレクター 山田 哲也