新リース会計基準の適用に向けた準備およびスケジュール

  • 2025-03-12

はじめに

新リース会計基準※1は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用となり、適用に向けた現時点からの準備期間は2年強となります。リースの識別やリース期間といった主要論点への対応に工数を要することとなりますが、その他の会計論点の会計処理変更や拡大された注記項目の情報収集への対応も必要となります。また、新リース会計基準適用後の継続的なリースまたはリースを含む契約の網羅的な判定、借手リースの資産・負債計上や条件変更による再計算等を行うための業務プロセスの構築も重要となります。資産・負債計上の対象となるリースを多数有する場合、システムによる管理も必要となり、当該システム導入に要する十分な期間を確保する必要もあります。

本稿では、新リース会計基準適用準備に向けてのロードマップや当該準備期間で対応すべきタスク等について解説します。なお、本文中の意見に関する部分は、著者の個人的見解であり、PwC Japan有限責任監査法人の見解ではないことを申し添えます。

※1本稿では、企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」および企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」を合わせて「新リース会計基準」と呼びます。

1 新リース会計基準適用までの対応

(1)適用に向けたロードマップ

新リース会計基準は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用となり、適用に向けた現時点からの準備期間は2年強となります。借手となるリースの会計処理は現行の借手オペレーティング・リースを多数有する場合に加え、今までリースとして会計処理していなかった業務委託契約等も、新リース会計基準適用後はリースとして借手オペレーティング・リース同様に資産・負債の計上対象となる可能性があるため、当該取引を網羅的に把握する必要があります。また、資産・負債計上の対象となる借手のリースについては新リース会計基準に準拠した適切な会計処理を行えるように、システム導入も見据えた業務プロセスの構築も必要になります。加えて、貸手となるリースの会計処理の多くは現行踏襲となりますが、リースの識別やサブリースにおけるリース分類(ファイナンス・リースまたはオペレーティング・リース)の検討等が必要となるため、借手・貸手ともに新リース会計基準適用に向けた検討を実施することになります。

図表1は3月決算会社が、2027年4月1日から新リース会計基準を適用する場合の適用に向けたロードマップです。ロードマップでは対応すべきタスク内容に応じて、4つのフェーズに分割することで効果的・効率的な進め方ができると考えられます。フェーズ1「事前検討」において、新リース会計基準適用に向けた課題を識別し、フェーズ2「方針決定・プロセス構築」では識別された課題に対する対応方針を決定、必要となる業務プロセスを構築します。フェーズ3「適用準備」ではフェーズ2において決定された方針および構築された業務プロセスを実務への落とし込みを行い、フェーズ4の「本番適用」に備えます。フェーズ4では本決算において新リース会計基準適用後の財務諸表を作成します。

図表1:2027年4月1日から新リース会計基準を適用する場合のロードマップイメージ

出所:PwC作成

(2)各フェーズのタスク概要

フェーズ1「事前検討」

フェーズ1「事前検討」のゴールは、①新リース会計基準を適用した場合の財務上の概算影響額の算定と②適用に向けた課題の網羅的な把握です(図表2)。

図表2:フェーズ1の詳細タスクイメージ

出所:PwC作成

上記①の財務上の概算影響額算定は、現行リース会計基準ですでに注記されている解約不能な借手オペレーティング・リースの未経過リース料の割引現在価値とは必ずしも一致しません。例えば、当該注記対象となっていない契約が新リース会計基準適用後はリースと判定される場合や解約不能期間を超えたリース期間を見積もる場合等のいずれの場合においても財務上の概算影響額は増加します(例:解約不能期間が1年の不動産賃借契約について、10年のリース期間と見積もった場合、その財務上の概算影響額は10倍等になります)。また、リースの識別とリース期間の検討は新リース会計基準適用にあたり、工数を要する論点であるため、フェーズ1の段階から検討を開始します。

上記②の適用に向けた課題の網羅的な把握では、現行リース会計基準と新リース会計基準の借手・貸手双方の会計基処理の相違を把握し(GAAP差異分析)、当該相違点による影響の有無を把握するための実態調査を契約主管部署に行います。一般的に現行費用処理しかしていない契約の詳細内容は経理部では把握していないため、契約主管部署に当該詳細や契約の管理方法を調査することで課題を識別するようにします。

なお、フェーズ1においては、全部署および全グループ会社を対象に上記ゴールに向けた調査を行うことが必須とは想定していません。例えば多数の事業セグメントを有しており、各セグメントで同様の事業を行っている会社が多数ある場合、各セグメントの代表的な会社を対象に調査することで、当該セグメントにおける新リース会計基準適用に向けた課題の把握は十分可能であると考えられます。フェーズ1での調査対象取引は連結財務諸表上消去されてしまう内部取引や財務上の影響が借手ほどない貸手は対象外とする等、調査対象取引の選定も効率化できると考えられます。

フェーズ2「方針決定・プロセス構築」

フェーズ1「事前検討」において、新リース会計基準適用に向けた課題を網羅的に把握した後、フェーズ2において当該課題に向けた対応を行います。新リース会計基準適用後の会計方針や注記方針を決定し、当該方針を実行するための業務プロセスを構築するため、このフェーズ2が最も重要なフェーズとなります。また連結財務諸表作成における会計方針や注記方針を決定することになるため、当フェーズではフェーズ1の対象会社に加えて、全グループ会社を対象に調査を実施することとなります。

さらに、決定された会計方針を実務に落とし込むために、リースの識別や借手リースの資産・負債の計上のための業務プロセスを構築する必要があります。構築が必要となる業務プロセスの例としては、リースの識別ではどの部署がどのタイミングでどのような方法でその判定を行うのか、借手リースの資産・負債計上のためにリース管理システムを導入するか等があります。特にリースの識別を各契約主管部署で実施する場合、部署によっては会計業務の関与がない可能性もあるため、当該業務をどのように実施するかを経理部が連携しながら、プロセスを構築していく必要があります。また、システムを導入する場合、システム管理部等との連携も必要となります。さらに、サブリースの貸手としてのリースがファイナンス・リースに該当した場合、当該ファイナンス・リースの仕訳起票のための業務プロセスを構築する必要があるかもしれません。

フェーズ2では、決定された方針や構築された業務プロセスを各部署および各グループ会社に展開するための、新リース会計基準適用後の会計マニュアルや注記情報収集用のレポーティングパッケージの作成も行います。システム導入を含む業務プロセスに関する業務マニュアルも作成し、フェーズ3の「適用準備」に備えます。フェーズ2が終わる頃には、新リース会計基準適用まで1年もないため、繰り返しになりますが、当フェーズでの対応が2027年4月1日からの適用に向けて非常に重要となります。

フェーズ3「適用準備」

フェーズ3「適用準備」では、フェーズ2で決定された方針や構築された業務プロセスが新リース会計基準適用後の実務に耐え得るものとなっているかを確認します。具体的には、フェーズ2で作成された会計マニュアル、注記用レポーティングパッケージ、業務マニュアルを各部署および各グループ会社に展開し、新リース会計基準適用後の本番適用における環境下で、実際の仕訳起票と注記の作成といったドライランを行います。ドライランは導入されたシステムを実際に使用し、システムの運用評価も行います。

ドライランの実施結果に基づき、修正すべき会計方針や業務プロセスがあれば、その見直しを行いながら、2026年度の有価証券報告書における新リース会計基準に関する未適用注記の作成準備や2027年度期首仕訳の作成準備を行います。

フェーズ4「本番適用」

フェーズ4では、2026年度の有価証券報告書作成と並行して2027年度の第1四半期決算短信で開示となる新リース会計基準適用後の期首仕訳の作成や会計方針の変更に関する注記の作成を行います。また、2027年度の有価証券報告書作成においては、新リース会計基準に基づく借手・貸手双方のリースに関する注記を作成します。必要に応じて、リースに関する内部統制の整備および運用状況の評価を行います。

2 実務上の課題例

新リース会計基準適用準備を開始している会社は多く、その大半はフェーズ2を進行中または準備中です。当該会社においては、以下のような課題が上がっています。なお、基準が最終化されて間もない、および税制改正の有無が分かっていない現時点においては会計監査人と会計方針を同意済み、またはリースに関するシステムを導入している会社は限定的と考えます。

課題例

  • 検討対象となる取引は多数の部署に及ぶため、当該多数の部署との連携および基準適用後の役割分担(リースの識別をどの部署が実施するか等)
  • ビジネス上長期賃借前提のリースのリース期間の決定
  • 多数のリースの資産・負債計上を行うためのシステム導入とそのリードタイムの確保
  • サブリースの貸手のリース分類およびファイナンス・リースとなった場合の仕訳起票方法
  • 使用権資産の減損や税効果等、既存の会計処理への影響
  • 連結内部取引の資産・負債計上による子会社の会社法監査への影響(負債総額が200億円を超える場合)および当該内部取引の連結調整仕訳の起票方法

上に挙げた課題はあくまで一例です。また、リースの識別における調査対象とする契約も、選定方法やその判定結果、長期使用前提のリースのリース期間等は新リース会計基準適用後の影響が大きいため、手戻りがないように適用準備の早い段階から会計監査人と協議する必要があると考えます。

3 リースの識別における業務効率化

新リース会計基準適用準備において対応すべきタスクは多数ありますが、その中でもリースの識別はかなりの工数を要します。借手としてのリースになる可能性がある取引の調査ならば、例えば、取引先に業務委託しており、取引先が受託業務を行うにあたり当該取引先の特定の資産を使用している場合、当該資産が委託会社にとって借手のリースになる可能性もあるなど、検討対象となる取引は多種多様です。全取引を精査することが望ましいですが、実務的な負担を考えると調査対象を絞り込む対応が現実的と考えられます。契約書を一元管理していない場合は、まずどの契約・取引を調査対象とするかを選定する必要があります。一般的に想定される調査対象取引の絞り込みおよびその判定過程では、ステップ1で合計残高試算表からリースを含む可能性がある費目を選定し、ステップ2で当該費目の総勘定元帳から調査対象取引を特定、ステップ3で当該特定取引の契約書を確認の上、リースに該当するか否かを判断します(詳細は11ページ参照)。

上記ステップのうち、ステップ3における契約書確認・判定は契約数やその形態もさまざまです。当該作業イメージは図表3のとおりです。フェーズ1「事前検討」において確認する契約書数およびページ数もイメージとして記載しています。

図表3:契約書確認・判定の作業イメージ

出所:PwC作成

上記作業は大量の契約書を読み込み、理解した上で、新リース会計基準の検討ポイントに従いリースに該当するかを判断し、その検討結果およびその判断根拠を「契約書第X条にXXXとの記載があるため」など文書化する必要があるため、かなりの工数を要します。契約によっては100ページを超えるものや原契約にいくつもの契約変更の覚書があるなど、契約書の読み込みだけでも工数を要する場合もあります。

リースの識別は確かに会計の専門的な判断を要するため、工数を要するのは仕方ないものの、①契約書の解読、②検討ポイントに照らした検討、③検討結果の文書化、だけを切り出すと典型的な作業と捉えることができ、PwCでは当該作業において、生成AIを活用することで業務の効率化を実現しています。上記の「②検討ポイントに照らした検討」が最も重要になりますが、生成AIに問いかけるプロンプト(質問や参照ガイダンス)を工夫することで、かなり確度の高い文書化が可能となります。図表4は生成AIを活用した作業フローのイメージです。生成AIの精度は100%ではないため、その判定結果を記した文書は必ず会計の専門家が確認することとなりますが、契約書を全て読み、その結果を文書化する工数を大幅に削減することが可能となります。

図表4:生成AIを活用したリース判定のイメージ

出所:PwC作成

4 おわりに

新リース会計基準は2027年4月1日から強制適用となります。業種によりその影響はさまざまですが適用準備期間は2年強です。会計方針の決定に加えて当該方針を実行するための業務プロセスの構築が必要であり、リースの識別等プロセス構築を行う部署は経理部以外の多数部署となる可能性があります。また、リース管理システム導入を行う場合、そのリードタイムを十分に確保する必要もあります。そのため当該基準が会計上および業務上でどのような影響を与えるのかについて、まだ適用準備を開始していない場合、早期に検討を開始することが重要です。基準適用後の業務プロセスをなるべく効率化すべく、生成AIやリース管理システム等の活用を検討することも重要と考えられます。


執筆者

PwC Japan有限責任監査法人
財務報告アドバイザリー部
ディレクター 本村 憲二