PwCでは1997年から毎年、各国のCEOを対象に世界に影響を及ぼしているさまざまなメガトレンドに関する意識調査「世界CEO意識調査」を実施してきた。フォーラムの幕を開けるキーノートセッションでは、PwC Japan グループ代表の木村 浩一郎から21回目を迎えた同調査の結果が語られた。
2017年8月から11月にかけて世界85カ国、1,293名のCEOに対して行われた今回の調査結果について、木村は「世界経済の改善と短期的な自社の成長に対しては楽観的な見解が急拡大する一方で、自社を取り巻く環境変化と不確実性の高まりによって、今後の継続的な成長に不安を覚えるCEOの姿が垣間見られた」と概括した。同調査によれば、今後12カ月の世界経済の見通しについて「改善する」と回答したCEOは57%と過半数を超えた。2012年の調査開始以来、「横ばい」から「改善する」という回答が上回ったのは今回が初めてであり、世界経済に対する見通しはよりポジティブなものになっている。また、短期的(今後12カ月)な自社の成長の見通しについても「非常に自信がある」と回答した世界のCEOは42%であり、日本のCEOも24%と、2017年の14%から10ポイントの改善が見られている。
しかし、今後3年間の自社の成長となると、「非常に自信がある」と回答した世界のCEOは45%と昨年から6ポイント低下し、日本のCEOも21%で2017年対比で横ばいとなっている。
これについて、木村は「世界のCEOは、テロや規制など、対応が受け身にならざるをえない脅威をより強く意識している」と語り、さらに「いま世界で起きているさまざまな事象を、PwCではADAPT、すなわち、「Asymmetry(貧富の差の拡大と中間層の衰退)」「Disruption(ビジネスモデルの創造的破壊と産業の境界線の消失)」「Age(ビジネス、社会制度、経済に対する人口圧力)」「Populism(世界的なコンセンサスの崩壊とナショナリズム台頭)」「Trust(組織に対する信頼の低下とテクノロジーの影響)」と整理している」と述べた。
PwC Japan グループ代表 木村 浩一郎
質問:今後12カ月間に、世界経済の成長は改善、横ばい、後退のうち、どの方向に進むとお考えですか。
過半数のCEOが今後12カ月間における世界経済の成長は改善するとみている
出典:PwC第21回世界CEO意識調査
回答者数:2018年=1,293 名、2017年=1,379 名、2016年=1,409 名、2015年=1,322 名、2014年=1,344 名、2013年=1,330 名、2012 年=1,258 名
日本企業を取り巻く環境は、税制面での競争激化やナショナリズムの高まり、経済モデルの多様化、そして「Gゼロ」と呼ばれる世界秩序を指導する国が不在となった分断化が進み、グローバルビジネスを展開する困難さは従前とは異なるものがある。
自社が成長する上で重要な国・地域について日本のCEOが挙げたのは、米国が67%(昨年61%)、中国が61%(昨年58%)となっており、二つの大国に焦点を当てていることが分かる。この結果について、木村は「スタンダードや価値観が異なる米国・中国に対して、日本企業はどのようなポジションに立ちどうWin-Winの関係を築いていくべきか、改めて考えることが経営者に求められている」と強調した。ここでは、地政学的リスクの分析を専門とする米国のコンサルティング会社、ユーラシアグループ代表のイアン・ブレマー 氏によるビデオメッセージも紹介され、市場規模や貿易だけでなく、AIとサイバー世界においても「米国と中国の二つの大国によるダブルスタンダードの世界秩序」が進行していく中で、日本は両国とのバランスを取る難しい立場に置かれ、地政学リスクに対するリテラシーの向上が重要になることが指摘された。
<分断が進む世界>
質問:政治、経済および貿易トレンドに関する記述について、現在世界が向かっていると同意される記述を選択してください。
出典:PwC第21回世界CEO意識調査
続いて、PwC Japanグループ デジタル最高顧問の水野 有平、PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャーの大塚 泰子も登壇。デジタルネットワーク時代におけるテクノロジーの進歩が企業経営にどのような影響を及ぼすのか、議論が交わされた。
大塚は「テクノロジーの観点からも米国と中国が分断されている」とした上で、「GoogleやFacebook、Amazon、そしてApple、Microsoftなどの米国企業がプラットフォーマーとしてデジタルネットワークの世界を席巻する一方、中国のBaidu、Alibaba、Tencentなどが、圧倒的なデータ量とAIへの投資により、急速に存在感を増している」と説明した。
2030年までにAIがけん引する地域別GDP押し上げ効果に関するPwCの調査によれば、アジア先進国の0.9兆ドルに対して、北米が3.7兆ドル、中国は7.0兆ドルと圧倒的な強さを見せており、デジタルネットワークの世界でも日本が両大国に挟まれる形となっている。AIの導入状況でも、米国の13%に対して日本は1.8%程度にとどまっており、この点について大塚は「AI人材、IT資源、データ不足だけでなく、日本企業では「試しにAIを使ってみる」ことが許されない風潮も大きな障壁になっている」と指摘した。
PwC Japanグループ デジタル最高顧問 水野 有平
また、水野はデジタルネットワーク時代をけん引する二つのテクノロジーとして「複製技術(デジタル化技術)」「伝達技術(ネットワーク技術)」を挙げ、次のように訴えた。「デジタル技術は劣化のない複製を可能とするだけでなく、複製すればするほどコストが劇的に低下する。さらに、ネットワーク技術により伝達する相手が増えれば増えるほど、価値が指数関数的に高まっていく。デジタルネットワーク時代では、スケールしていくほどコストは下がり、人も集まる。そして、人が集まればさらにデータも集まる。つまり、勝者がさらに勝利していく「Winner Takes Most」の世界。このような時代を迎え、日本企業が勝ち残っていくには、この二つの技術のダイナミズムを理解し、スケールを求めてグローバルにビジネスを展開していく必要があるだろう。しかし、一社単独で全てを賄うことは困難であり、どの領域にフォーカスしていくのか、改めてビジネスを設計、デザインしていくことが重要となる」
今回の世界CEO意識調査の中で、日本のCEOは最大の脅威をキーとなる人材の確保としており、デジタルネットワーク時代の人材を惹きつけることの難しさが浮き彫りとなった。この結果について、木村は「デジタルネットワーク時代に必要な人材は、(1)現在のコアビジネスをデジタル化していくための人材、(2)新ビジネスを立ち上げていけるイノベーション人材、(3)両方をマネジメントできる人材、の三種類に分類できる」と説明し、大塚も「AIを活用して適材適所に人材を配置する取り組みが各社で始まっている」と続けた。最後にデジタルネットワーク時代の組織の在り方について、日本GE株式会社や株式会社LIXILグループにおいて長く人事責任者を務めてきた株式会社people first 代表取締役 八木 洋介氏からのビデオメッセージが紹介され、「制度でがんじがらめになった組織の中では、イノベーションやチャレンジ精神は生まれない。物事に対してフレキシブルな風土をもって、個人、企業が知の探索をできるような仕組みをつくることが重要である。また、デジタルネットワーク時代においてイノベーションを創出するためには、多くのネットワークを築いていくことが不可欠だ。個人・組織としてそうしたネットワークづくりを支援するような仕組みの実現が求められている」との提言がされた。
PwCコンサルティング合同会社 シニアマネージャー 大塚 泰子
※登壇者の役職・企業名などは、2018年5月17日現在のものを記載しています。
※全セッションでグラフィックファシリテーション(議論の内容をグラフィックで可視化する手法)が用いられ、グローバル メガトレンド セッションではライブQ&Aが実施されました。