デジタル時代の人材戦略

デジタル時代を迎えこれから求められる人材とは

「デジタル時代の人材戦略」では二名のパネリストを迎え、PwCコンサルティング合同会社 パートナーの野口 功一がファシリテーターを務めた。セッションでは、デジタル時代に求められる人材、そして企業としての人材マネジメントのあるべき姿について、活発な議論が繰り広げられた。

初めに、野口が「デジタル時代を迎えている中で、企業にはどのような人材が求められるのか」と問い掛けた。これに対して、株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ 執行役常務 グループCIO 兼 グループCDTOの亀澤 宏規氏は、ICTによる銀行業の高度化を推進するJapan Digital Design株式会社における外部エンジニアの採用や地域金融機関との協働などの経験から「テクノロジーが使えるということにとどまらず、新しいことに取り組む熱意や思い、理解力、そして社内外のあらゆる人材とネットワークをつくる力を持っている人が、デジタル時代のコアとなる人材だと考えている。そうした熱意を持った人材が集まることによって、これまでにない化学反応が起きるだろう」と答えた。また、ソニー株式会社 Startup Acceleration部門 副部門長 兼 Startup Acceleration部 統括部長の小田島 伸至氏は「外部環境の変化のスピードが増していく状況において、その変化に柔軟に対応できる人。また、さまざまな情報が氾濫する中で、その情報をうまく取捨選択できる処理能力のある人がデジタル時代の人材として重要である」と述べた。

ファシリテーター PwCコンサルティング合同会社 パートナー 野口 功一

デジタル時代の人材戦略

イノベーティブな事業を推進していくのは、一般に「発想が柔軟な若手層」という意見が少なくないといえる。それでは、デジタル時代の主軸となって活躍するのは、限られた年齢層の社員だけなのだろうか。この点について、亀澤 氏は次のように強調した。「もちろん若手社員の力が絶対に必要となるが、その能力を発揮できる環境をつくっていくことも重要だ。若手社員の発想には光るものがある反面、粗削りであることも多い。従って、年齢や経験を重ねた社員が若手社員の“良さ”をうまく引き上げていけるような仕組みをつくらなければならない」

続けて小田島氏も、幅広い年齢層の人材の必要性に言及した。「若手社員が立ち上げようとしている新規事業に対して、年齢とともに経験やスキルを培ってきたプロフェッショナルの社員が初期段階からサポートに入ることで、いち早くアイデアを具現化していけるようになる。つまり、若手の持つアイデア、シニアが培ってきたスキルを融合させた“チーム”をつくって物事に取り組むことが有効となるだろう。よって、デジタル時代のビジネスの推進においては、年齢は関係ないと言える」

デジタル時代においては社内文化の変革も必要

デジタル人材の活用や育成に関して、議論は社内文化の在り方についても及んだ。亀澤氏は、自身の経験からこう訴えた。「身に染み付いた文化を変えていくことには、難しい面があることも実感している。例えば、新規事業の立ち上げに際してさまざまな部門から参加してもらっているが、異なる立場の人たちが膝を突き合わせて物事を一緒に進めている時には、発想が柔軟になってくるのが分かる。だが、いざ自部門に戻れば、元の保守的な考え方に戻ってしまう。意識変革に向けた取り組みは地道に行っていかなければならないし、私たち自身も考え方を変えていかなければならない」

一方、小田島氏は「社内文化の変革や人材育成という議論では、現場の担当者や若手ばかりに焦点が当てられるが、重要なのは経営層や現場のマネジメント層のカルチャーや考え方を変えていくことだ。ソニーでもそのための議論を重ねながら、マネジメント会同などでトップ層から繰り返し重要性が語られている」と説明した。

では、デジタル時代に活躍できる人材を育成し、増やしていくために、どのような取り組みを進めていけばよいのだろうか。三菱UFJフィナンシャル・グループでは、新人からマネジメント層を対象に、システム部門における研修を運営するITアカデミーなどを実施しているという。この活動について、亀澤氏は「こうした取り組みを行っていることがまだまだ社内で認知されていないので、まずは参加してもらえるよう周知していきたい」と述べた上で、今後の抱負を次のように話した。「その一方で、社外の多様な人々と交流できる機会を設けることも不可欠だと考えている。分散化が進むデジタル時代には、どれだけ幅広く人脈のネットワークを持っているのかが鍵となる。従って、社外の人材に対しても共に成長できるような取り組みが必要だと感じている」

小田島氏は「イノベーションへのチャレンジが行える環境を提供し、そこで成果を上げた社員にさらにチャンスを提供するような仕組みをつくっている。また、基本的には個人の能力、裁量に任せられるところはどんどん任せて成長してもらえるようにしているが、個人の発想やできることには限界もあるので、個々の能力を引き上げていくための支援体制も必要だと考えている」と、自社の取り組みについて語った。

デジタル時代においては社内文化の変革も必要
ソニー株式会社 Startup Acceleration部門 副部門長 兼 Startup Acceleration部 統括部長 小田島 伸至 氏

デジタル時代には、氾濫する情報を取捨選択できる能力を持った人材が重要となる

ソニー株式会社 Startup Acceleration部門 副部門長 兼 Startup Acceleration部 統括部長 小田島 伸至氏

デジタル人材に対する新しい人事評価の在り方

人材の育成と活用の視点が従来と大きく変わりつつある中で、今後の人事制度・評価の在り方についてが論題として続いた。亀澤氏は、「人事評価に関する議論は、今に始まった話ではない。銀行でも一般業務に携わる社員と、デリバティブなど専門性を要する業務に携わるスペシャリストについて、評価やキャリア制度の枠組みをつくってきた。そうしたフレームワークは、今後も有効となるだろう」との見解を述べたのち、次のように続けた。「しかし、いまだに多くの日本企業においては、終身雇用制度、年次昇給という大きな枠組みがある。デジタル時代の人事評価と旧来の制度について、いかにうまく整合性をとっていけばよいのかは、今後の大きな課題だといえる」

一方、小田島氏は「年齢に関係なく新規事業の発案者である若手を管理職に抜擢するなど、新しい人事制度の仕組みを導入している」としながら、「しかし、昇進を目的とするのではなく、自分自身に「どのような事業をやりたいのか」という熱意が最初になければならない。新規事業の立ち上げは、パッションがなければ先に進まないからだ。だから、昇進を第一の目的としているような人は、新規事業の社内選定プロセスでも採用されないケースが多い」と説明した。

AIを活用した業務の効率化と人材の再配置をいかに進めるのか

セッションの最後には、AIやロボティクスなどの自動化によって社内のデジタル化が進む中、人材の配置転換にどう対応していけばよいのかについて意見が交わされた。

亀澤氏は、「業務の効率化と生産性の向上は、当行において喫緊の課題となっている。一つには、大量に採用された世代の社員が退職するため、これまで約6,000人が担ってきた業務を現在の社員で遂行しなければならないからだ。そのためにも、自動化による生産性の向上は必須である。また、事務処理などの日常業務が効率化できれば、お客さまとの対話や商品の提案など、よりクリエイティブな仕事に時間を回せるようになるだろう」と語った。

これについて、小田島氏も次のように強調した。「当社もAIやロボティクス技術の活用、および業務の標準化による生産性向上は必須であると考えている。例えば、新規事業に関するミーティングにおいても、議論のほとんどがどこかで聞いたり本で読んだりしたことのあるような話ばかりで、本質にかかわる議論は一時間のうちの五分程度しかなされないことも多い。ミーティングの件は一例であるが、そうした社内に散在するルーティンのような業務を自動化、標準化することで、もっと本質的な業務に集中化できるような環境づくりを進めていきたい」

株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ 執行役常務 グループCIO 兼グループCDTO 亀澤 宏規 氏

多様な業界の人々とネットワークをつくれる人こそ、デジタル時代の核となる人材だ

株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ 執行役常務 グループCIO 兼グループCDTO 亀澤 宏規氏
AIを活用した業務の効率化と人材の再配置をいかに進めるのか

※登壇者の役職・企業名などは、2018年5月17日現在のものを記載しています。

※全セッションでグラフィックファシリテーション(議論の内容をグラフィックで可視化する手法)が用いられ、グローバル メガトレンド セッションではライブQ&Aが実施されました。