対談風景 の写真

行動が世界を変える 変化を起こす起業家の経験に学ぶ
──グローバル メガトレンド フォーラム 2021より

世の中で起こるさまざまな環境変化を前にして、「自分たちも変わらなければ」との思いを抱くビジネスパーソンは少なくないだろう。ではビジネスや組織に変化を起こす時、真に求められるマインドやアクションとはどのようなものなのか。本セッションでは、自ら変化を起こしたAll Turtles/mmhmm共同創業者・CEOのフィル・リービン氏、株式会社マザーハウス代表取締役 兼 チーフデザイナーの山口絵理子氏という2人の起業家と、PwC Japanグループマーケットリーダーの森下幸典をパネリストに、PwCアドバイザリー合同会社代表執行役の吉田あかねがモデレーターを務め、「変化を起こす行動」をテーマにディスカッションした。

ビジョンを共有できる仲間を増やすために

ディスカッションのテーマは、変化をより確実かつ大きなものにするための要素である「仲間づくり」に移る。山口氏はマザーハウスを立ち上げたころ、母親に自身の安否を知らせるためにブログを書き始めたそうだ。「そのうち、ブログを読んで応援してくれる人たちが現れました。『やっと出荷できたんだ』とか『不良率が減ってよかったね』といった反応が返ってくるようになりました。挑戦のプロセスを見せることがブランドのファンを生む。つまり、結果的にマーケティングになっていたのです」。山口氏とマザーハウスの周りには、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という挑戦の物語に共感する人たちの輪が少しずつ広がっていった。

続いてリービン氏は、仲間づくりやチームビルディングの要諦を語る。「創業者やCEOの最も重要な役割がチームづくりです。人材確保にはいくつかのステップがあります。まず、できるだけ多くの応募者を得てプールを大きくする。第2に、その応募者の中から適切な人材を選ぶ。第3に、採用した従業員をトレーニングし育成する一方で、優秀な人材に働き続けてもらえるよう配慮する。また大事なことは、会社のビジョンに共感できずフィットしない人材には、辞めてもらう必要があるということ。多くの企業が2番目の選考プロセスばかりに注力しがちですが、私の場合、それ以外がより重要だと考えています」

大企業の場合はどうだろうか。優秀な人材をいかに活性化するか、変革へのエネルギーを高めるかがポイントになると森下は語る。「何か新しいことを始めるときには、その取り組みに共感する仲間を増やすことが重要です。そのためには、社内のインフルエンサーの説得がカギを握ります。各部門にいるインフルエンサーを変革の当事者として巻き込み、それぞれの部門で『なぜ、これをやるのか』と必要性を訴えてもらうのです。こうした活動を粘り強く続けることで、変革への推進力が強まっていきます」

PwCアドバイザリー合同会社 代表執行役 吉田あかね

PwCアドバイザリー合同会社 代表執行役 吉田あかね

明確なゴールとファクトをもとに、変化を起こす行動を

COVID-19のパンデミックにより、多くの職場でコミュニケーションの形、さらには私たちの時間の使い方も大きく変わっている。リービン氏は、多くのメンバーが参加する同期型の報告会議をできるかぎりなくし、代わりに各自にビデオ録画をしてもらうことを試みているという。「まず、時差がある中で無理して会議に参加してもらう必要がなくなります。また、時間も短縮できます。人が話すスピードと、聞き手が理解するスピードは違う。聞く側は1.5倍速でも話の内容を十分に把握できますから、単に報告をし合うだけの会議であれば、録画されたビデオを後で、好きな時間に見たほうが効率的。こうして創出した時間を、同時でなければできない双方向のディスカッションや変化を起こすための課題探しなどに、より有効に活用できるのです

一方、マザーハウスのコミュニケーションも、理念や哲学の共有という目的に沿って進化しているという。「パンデミック以前、海外の現場にいることが多かった私は、自社の理念や哲学をいかに従業員に理解してもらうか、効果的な手法を模索していました。その結果、行き着いたのが、商品を通じて語るというやり方です。商品には具体的な形があり、言葉を必要としない説得力があります。哲学は商品に宿っています。今では、社内での新商品発表会が、私にとってのトッププライオリティです。こうした取り組みが、仲間を増やし、内側から大きな変化を起こす上で役立っていると感じます」(山口氏)

マザーハウスにおいて、新商品発表会はインターナルなブランディング活動の一環ともいえるだろう。ブランドについて山口氏はこう語る。「ある特定の価値観を持つ人たちがそれを表現や経済活動に落とし込むことがブランドだとすると、私たちの価値観は『マイノリティに偏見を持たない』『競争よりも協業』といったものなので、そんなプラカードを持つ人が増えることがブランドのゴールかもしれません。私は起業するとき、つくる人と買う人を同時にハッピーにしたいと思いました。当時は、『まだ若いからね』などと言われることが多かったのですが、15年やってきて両者がともにハッピーであることを確かめられています。このような温かい循環をどこまで継続できるか、どこまで広げられるか。それが、私にとってのチャレンジです」

不確実性を増す現代において、変化のための行動はもはや避けることはできないだろう。時には無理難題と思える課題に直面するかもしれない。そんなときの心構えとして、シリアルアントレプレナーとして知られるリービン氏は最後に、興味深い内容を示唆する。「人間は非常に保守的です。いくつかのオプションがあったとき、多くの人がデメリットの最も少ない選択肢を選びます。スタートアップは逆に、メリットの一番大きな選択肢、つまり、『当たれば大きい』ものを狙います」

一方、大きな組織での意思決定の課題を森下はこう指摘する。「特に大きな組織において、グループで意思決定をする際には、『空気感』に左右される場合が少なくありません。ただ、今ではAIやデータを活用して、ファクトを集めやすくなりました。ファクトをしっかりと集めてエビデンスとして示すことが、何にチャレンジするかを決める上で重要になってくると思います」

障害物をチャンスとみなす、仲間を見つけて育てる、ファクトを支えとして思い切った意思決定をするなど、変化を生み出す背景にはスタートアップにも大企業にも共通する要素が多くある。ビジネスを取り巻く環境が目まぐるしく変わり得る今、迅速かつ確実に変化を起こす行動に向け、示唆に富むセッションとなった。

フィル・リービン 氏

フィル・リービン 氏

All Turtles/mmhmm
共同創業者・CEO

シリコンバレーを代表する連続起業家の1人。All Turtles は新規プロダクトを創造する事業会社。兼務する mmhmm はビデオ・コミュニケーションを変革するプロダクトで、All Turtles のプロジェクトの1つ。それ以前は、世界的なクラウド・サービス Evernote など3社の創業者・CEO として、起業から商業的な成功に導いてきた。

山口 絵理子 氏

山口 絵理子 氏

株式会社マザーハウス
代表取締役 兼 チーフデザイナー

1981年埼玉県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。ワシントンの国際機関でのインターンを経てバングラデシュBRAC大学院開発学部修士課程に留学。2年後帰国し「途上国から世界に通用するブランドをつくる」を理念として株式会社マザーハウスを設立。現在バングラデシュをはじめとした6カ国の自社工場・提携工房でジュート(麻)やレザーのバッグ、ストール、ジュエリー、アパレルのデザイン・生産を行う。日本国内34店舗、海外4カ国(8拠点)にて販売を展開。

森下 幸典

森下 幸典

PwC Japanグループ
マーケットリーダー

PwC Japanグループ全体の顧客対応・マーケティング活動を統括。APAC・Americasのクライアント・マーケットリーダーを兼任。慶應義塾大学法科大学院非常勤講師も務める。

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吉田 あかね

吉田 あかね

PwCアドバイザリー合同会社
代表執行役

2009年に現PwCアドバイザリー合同会社入社、M&A部門に所属。日本および外国企業のクロスボーダー取引に関するハンズオン支援を実施。2019年7月よりPwCアドバイザリー合同会社 代表執行役に就任、現在に至る。

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※ 法人名、役職、本文の内容などは掲載当時のものです。

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