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分断や二極化で高まるビジネスリスク 危機を乗り越えるレジリエントな経営とは
──グローバル メガトレンド フォーラム 2021より

世界では分断や二極化が進行し、地域格差や所得格差といった課題も顕在化している。こうした危機に、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大というパンデミックが拍車をかけた。従来の方法論が通じなくなりつつある現在、企業はどのようにしてレジリエントな経営のモデルを構築していけばよいのだろうか。「グローバル メガトレンド フォーラム 2021」2日目の第2セッションでは、PwC JapanグループグローバルJBNリーダーの足立晋がファシリテーターを務め、経済産業省貿易経済協力局戦略輸出交渉官の平塚敦之氏、武田薬品工業株式会社ジャパン ファーマ ビジネス ユニット プレジデントの古田未来乃氏、PwC Japanグループ グループマネージングパートナーの出澤尚が、官民それぞれの立場から見た現在のビジネス環境と、そこで求められる企業経営戦略について語り合った。

企業にも「社会課題の解決」が期待される時代に

ほとんどの社会課題は、一企業だけでは解決が難しい。先に出澤が述べたように、多様なステークホルダーとの協働が欠かせない。自前主義ではなく、産業内、産業横断的なエコシステムを構築して、社会課題の解決を目指すことが必要とされる。平塚氏も「かつては、『社会課題の解決は国の役目』と考えられていましたが、今ではそれが企業にも求められるようになりました」と話す。

自治体と企業が一緒に社会価値の創出を目指す、そんなコラボレーションの一例を、武田薬品工業が考える次世代ヘルスケアシステムである「CARE FOR ONE」において神奈川県と推進するパイロットプロジェクトに見ることができる。

「CARE FOR ONEは、デバイスモニタリングやオンライン診療・服薬指導などを活用することによるシームレスなオンライン医療を実施するとともに、取得した医療ビッグデータを質の高いヘルスケアサービスにつなげ、患者さんを中心によりよい医療を提供する取り組みです。そのパイロットプロジェクトとしてパーキンソン病の患者さんとご家族に向けたシームレスな医療の提供を実施しています。パーキンソン病の主症状は動作障害で、通院の身体的な負担が非常に大きい。そこで、診療や服薬指導をオンラインで行い、患者さんの手元に薬を配送する仕組みをつくりました。ウェアラブル機器を用いて健康情報を計測・解析することで、リアルタイムのサポートも可能になります。患者さんやご家族の負担を減らすとともに、社会的なコストを抑えることもできるでしょう。これは、神奈川県や病院・薬局はもちろん、ウェアラブル機器のメーカーやクラウドプラットフォームのプロバイダーなどを含めた幅広いステークホルダーとのパートナーシップがあってこそ可能になるものです」と古田氏は説明する。長期的な視野で社会的価値と経済価値の両立を目指す。CARE FOR ONEは同社のそんなチャレンジの1つである。

こうした社会課題解決は、一国内で完結するものでもない。平塚氏が指摘するように、気候変動のような地球規模の課題に対しては、日本国内だけのコンセンサスに基づいて閉じた仕組みをつくっても意味はない。加えて、日本企業にとっては、持続的な成長のために海外市場でのビジネスは必須だ。そこで重要になるのは「透明性の高いルールづくり」だと平塚氏は強調する。「ルールや行政判断の予見可能性が低かったり、国ごとに異なったりすれば、適切な経営判断が難しくなります。そうした意味でも、国際的なルールをどうつくっていくかが大事です」

さらに、平塚氏は「ルールづくりの過程で、日本だからこそ問うことのできる価値があるはずです」と続ける。例えば環境に対する取り組みでは、成長の機会との両立という点であらゆる国の利害が一致するとは限らない。関連する技術をどう社会実装するか、どんなパートナーと協業するかなどを含め、利害関係の異なるステークホルダーが納得できるように進めていく必要がある。

「技術を武器に一人勝ちするというのではなく、ステークホルダーに配慮するバランス感覚をもって、地域ごとの発展や社会課題に丁寧に向き合うことができるのが日本の強みとなり得るのではないでしょうか」(平塚氏)

協働や連携が重視される時代、私たちは日本のユニークな価値を改めて捉え直す必要があるのかもしれない。

ファシリテーターであるPwC JapanグループグローバルJBNリーダーの足立晋は、分断が進む世界において価値観やパーパスに基づき成長のあり方を再考することの重要性を改めて指摘した上で、本セッションをこうまとめた。「経済活動と社会課題解決の両立が求められる時代、企業はESGや格差の解消、経済安全保障など、幅広い観点に配慮した戦略づくりをすることで、よりレジリエントな経営が可能になります。そうした取り組みを通じて日本企業がグローバル市場でさらなるプレゼンスを発揮していくことを期待していますし、私たちもそれを支援していきたいと考えています」

PwC Japanグループ グローバルJBNリーダー 足立晋

PwC Japanグループ グローバルJBNリーダー 足立晋

平塚 敦之 氏

平塚 敦之 氏

経済産業省
貿易経済協力局戦略輸出交渉官

1992年に通商産業省入省。特許庁、大臣官房、中小企業庁、イラク暫定統治機構、在欧日系ビジネス協議会事務局長、企業会計室長、ものづくり政策審議室長、通商交渉調整官等を歴任。2019年より貿易経済協力局戦略輸出交渉官として日本企業の海外展開支援などを担当。

古田 未来乃 氏

古田 未来乃 氏

武田薬品工業株式会社
ジャパン ファーマ ビジネス ユニット プレジデント

米国の投資管理会社と日本の金融機関を経て、2010年武田薬品工業株式会社入社。日本およびスイスで経営戦略、企業買収、ならびに買収後の組織統合等のプロジェクトに従事。その後、メキシコやスウェーデンで販売会社の経営管理を担い、新製品上市や販売組織の最適化に取り組んだ。日本ではコーポレート ストラテジー オフィサー 兼 チーフ オブ スタッフを務めた後、2021年4月より現職。

出澤 尚

出澤 尚

PwC Japanグループ
グループマネージングパートナー

監査法人において約30年間に及ぶ業務経験を有し、金融機関を含む多くの国内、海外企業の会計監査およびアドバイザリー業務に従事。PwCあらた有限責任監査法人において金融監査部門や財務報告アドバイザリー部門の責任者を歴任し、2014年7月より執行役に就任。2020年よりPwC Japan合同会社の執行役副代表を務める。

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足立 晋

足立 晋

PwC Japanグループ
グローバルJBNリーダー

大手金融機関、国際会計事務所系コンサルティング会社を経て、2006年にべリングポイント株式会社マネージングディレクターに就任。2009年、同社のPwCネットワークへの加入と社名変更に伴い、プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント株式会社パートナーおよび金融サービス事業部リーダーに就任。2010年にはプライスウォーターハウスクーパース株式会社の金融サービス事業部リーダーに就任。2011年から2年間のPwC米国法人ニューヨーク事務所金融サービス部門への出向を経て、2016年7月に、PwCコンサルティング合同会社の代表執行役CEOに就任。2020年7月に同社代表執行役副会長およびPwC Japan合同会社の執行役常務に就任し、PwC Japanグループ横断の金融インダストリーリーダーとなる。同時に、日本企業の海外事業展開を支援するグローバルネットワーク(JBN)のリーダーとなり、現在に至る。

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※ 法人名、役職、本文の内容などは掲載当時のものです。

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