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女性のエンパワーメントやジェンダー平等、リーダーシップをテーマとする「Women's Leadership Summit」が、2021年3月6日にスタートアップ企業支援スペース「CIC Tokyo」(虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー15階)で開催された(会場とオンライン配信のハイブリッドで開催)。PwC Japanグループは、国際的な学生の連携で国際協調への貢献を目指す国連NGO・国際学生会議所が主催するこのイベントの趣旨に賛同し、2018年から協賛している。今回は社会における女性活躍をテーマに、日本経済新聞社の中村奈都子氏をファシリテーターに迎え、パネルディスカッションを行った。衆議院議員・文部科学大臣政務官の三谷英弘氏、東京大学の大学執行役・副学長(ダイバーシティ担当)の松木則夫氏、PwC Japanグループ代表の木村浩一郎が、産官学それぞれの分野における女性活躍についての取り組みを紹介しつつ、活発な意見交換を通じて課題認識を共有した。(肩書は取材時点のもの)
最初のトピックは「男性の意識改革について」。日本経済新聞の女性面編集長を務める中村氏は「日本は男性らしさ・女性らしさといった性役割についての分業意識が特に強い。これが女性の活躍を妨げ、生きにくくしている要因の1つではないか」と問題提起し、登壇者に意見を求めた。
木村は、国連女性機関(UN Women)が展開する「HeForShe」(あらゆるジェンダーの人々が連帯し、ともに責任を持ってジェンダー平等を推進する運動)を推進する企業にPwCグローバルネットワークとして選出され、その理念を全社で共有しているほか、社外への発信も行っていると紹介。その成果と課題を次のように話した。
「7年前からHeForSheの取り組みを推進し、男性の育休取得率も100%達成を目標に取得を促進しています。ただ、真の意識改革という点では道半ばです。ジェンダーやLGBTQ、さらには世代や国籍などにおいて、マジョリティ側に立つ人の意識が変わるのには時間がかかります。属性やバックグラウンドを問わず誰もが活躍できる、多様性を備えた組織を作るには、理屈だけではなく、心が動く経験が必要です。そのきっかけづくりに注力しています」
教育・研究分野を代表して参加した東京大学の松木氏によると、同大学の教職員における女性の割合は、2020年5月1日時点で、事務系職員では5割弱だが、教授では8.3%であるという。こうした状況に対し、大学としては各部局で女性教授・准教授を雇用する際の人件費をサポートしているほか、国内外の学会参加費用や論文の英文校閲費用の支援、育児や介護のために研究時間確保が困難な教員に対するサポート要員配置のための費用支援などの支援策を整備し、徐々に女性教員比率は増加していると述べた。学内4カ所で保育園を運営するなどして、キャンパス内で待機児童ゼロを実現しているとも説明した。ただ、松木氏は「制度を整えるだけでジェンダー平等を実現することは困難です」と指摘する。「自分は決して差別はしていない、と言いつつ、現状を肯定して何もしていない。そのような態度が実は一番よくないのだと学内で説いています」(松木氏)
行政を代表して参加した文部科学大臣政務官の三谷氏は、男女共同参画に関する法律が成立したにもかかわらず、国会の女性議員比率は衆議院で10%以下、地方の基礎自治体では女性議員ゼロの議会が3割以上もある現状を憂いた。三谷氏は女性の政界進出を難しくしている理由に、選挙区への目配りが欠かせない議員活動と子育てを両立させる難しさ、議員の産休取得が認められていない制度上の問題などを挙げた。
一方、一般職常勤の国家公務員については、2020年4月から6月に子どもが生まれた男性の約9割が1カ月以上の育休を取得しているという。ただ、民間企業に目を転じると、2019年度の男性の育休取得率は7.48%で、特に中小企業ではほとんど育休が取れていない。「今国会で、育児・介護休業法と雇用保険法の改正による『出生時育児休業』制度の新設を目指しています。男性育休取得に関する民間企業の取り組みを後押しするとともに、政治の中でも変わっていかなくてはいけないという勢いが強まっています。男性育休の取得義務化を推進する議員連盟の事務局次長として、今後も手を緩めず活動を進めていく所存です」と、男性の育休取得義務化への意欲を示した。
公務員の育休取得について取材経験があるという中村氏は、部下に育休を取得させることが上司の責任とされ、評価対象になるとしたことが取得率向上のカギになったのではないかと指摘。木村もPwC Japanグループ内で育休取得100%を目標に掲げるにあたり、管理職の意識が一番の課題だったと述べる。周囲の無言の圧力や、職務を離れることに対する本人の不安やためらいを払拭するためには、育休取得を明確にルール化する必要がある。これをどのように実践しているのかという会場からの質問に対し木村は、「男性の育休取得率を100%にすることを、リーダーのKPIにしています。これにより、各部署のトップには育休取得を可能にするよう人員の配置や業務の回し方を調整する責任が生じるのです。そうした体制を定着させることで育休取得に対する気後れを解消し、育休取得が当たり前になる環境の実現に向けて取り組んでいます」と自社の施策を紹介した。
2番目のトピックは「STEM/STEAM※1教育の可能性について」。中村氏は、女性の理系分野への進学率が低水準にとどまっている現状を指摘し、STEM/STEAM分野へ進出する女性を増やすための取り組みや問題意識について、各界のリーダーにたずねた。
木村はPwC Japanグループの活動事例として、女子中高生を対象に実施している女性STEAMリーダー育成プログラム「Design Your Future~デザイン思考で未来を描こう」の概要と、デジタルに関する知識とマインドセットを高めるアプリケーションとして提供している「Digital Fitness」を紹介。SDGsに示されるような現代の社会課題は誰しもに共通するものであり、全員で取り組まなければならないことを考えると、理系・文系、男性・女性を隔てるステレオタイプな価値観を打破することが重要だと話した。
松木氏は東京大学でここ20年間、学部生に占める女性の割合が20%を超えられない、いわゆる「2割の壁」について言及した※2。女子中高生向けの東京大学説明会や女子在学生による母校の高校訪問、PR冊子、ホームページ、ポスターなどを通じた広報活動を続けているものの、その効果が数字に反映されないのだという。背景の1つには、小さいころから「女性は数学が弱い、理系科目が弱い」という根拠のないステレオタイプを刷り込まれてきたことがあるのではないかと分析。そうした思い込みに縛られることなく、自身の可能性を信じてさまざまなことに挑戦してほしいと若い女性たちにエールを送った。
三谷氏は政府が推進する科学技術立国政策においても女性の活躍が重視されていると語り、文部科学省の女性研究者研究活動支援事業「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ」や、出産・育児で研究を中断された研究者の復帰時の支援制度、女子中高生の理系進路選択支援プログラムなどの施策を紹介した。さらに新たなトピックとして、現在運用開始に向けた準備が進んでいる大学ファンドにおいて女性研究者支援に注力する大学により多くの利益分配を行う構想や、国会議員連盟のメンバーで振興に取り組んでいる「フェムテック」に言及した。
「『フェムテック』は、フィメール(female)と技術(technology)を組み合わせた造語です。テクノロジーを活用して生理の時期も快適に過ごせる仕組みの提供などを通じて、新たな産業を確立することを目指しています。理系や科学といった枠にとらわれず、多くの人が困っている問題を正面から捉え、テクノロジーを活用して男女の別なく課題を解決できるような社会にしていきたいと考えています」と三谷氏は意気込みを語った。
松木氏は女性教員にライフイベントが発生する時期に人的なサポートが必要だと認識しているものの、運営費交付金削減に伴う人員の減少により大学側にその十分な余裕がない実情を明かした。また、政府や企業には、女性にはそうしたライフイベントによるハンディキャップがあるという現実を踏まえた上での支援や対応を期待したいと述べた。
三谷氏は、政府としても女性の活躍を考える上でM字カーブ(女性の就業率が出産・育児によってキャリアの半ばで下がってしまう状況)の解消が重要課題だと考えているとし、「新卒一括採用でキャリアをスタートした女性に、仕事を続けるのか、子どもを産み育てるのかという“踏み絵”をさせない仕組みが求められています」と主張。大学在学中に出産し、子育てを終えてから就職するなど、米国で目にした女性の多様な生き方を例に挙げ、学問とビジネスの間をより柔軟に行き来できる仕組みがあれば、ライフステージに応じた選択肢を取りやすくなるのではないかと持論を語った。
これを受けて、中村氏は「確かに、日本では新卒で就職してから40年間社会人として走り続けることが求められ、育児や病気などでいったん中断してしまうと戻ってくることが難しい制度になっています。人生100年時代と言われる今、自分のペースに合わせて、育児や進学などさまざまな中断を経ながら長いキャリアを築いていくのが理想ではないでしょうか」と提案。日本企業もそうした考え方にシフトしていく可能性があるのかという問いに対し木村は、民間企業全体の変革には時間がかかるが、一部の企業では経験者採用の増加や副業を認める制度の導入、ワークシェアリングなど、多様な働き方が認められており、変化の兆しがあると話した。
オンラインの参加者からは、「クオータ制※3をどう考えるのか」という質問が寄せられ、登壇者の3人はそれぞれの立場から意見を述べた。
三谷氏は、「比例代表制では、政党が順位をつける際に割合を考慮すればすむ話ですから、クオータ制の導入は可能だと思います。一方、小選挙区制では選挙区の有権者との関係づくりに長時間のコミットメントが求められます。そのため、仮にクオータ制で女性議員を増やしたとしても、地元の政治家に対する有権者の期待が変わらなければ、結果として不幸な女性政治家を増やすだけではないかと思います。何とかしなければならない問題ですが、現状では難しいと感じています」と、政界におけるクオータ制導入の課題を語った。
松木氏はクオータ制が有効であるとは思うものの、入学試験には絶対的な公平性が求められているため、簡単には導入できないと話す。しかしこの「公平性」は見かけ上のものであって、社会的なバイアスなどによってスタートラインが違う人たちがいることは配慮されていない。「入試だけでなく、学内で教授を選ぶ際も同様です。まずはそうした見かけ上の『公平性』に対する考えを変えなければ、男女比率を定めようとしても反発が起きるだけです。むしろそのような意識改革さえできれば、もはやクオータ制を取らなくてもジェンダー平等は達成できるのではないでしょうか」と語った。
木村は、「例えば『部長職の30%を女性にする』といった最終的な数値目標を強調するだけでは、女性に過度に有利な制度ではないかといった意見も出てきてしまうでしょう」とした上で、やり方を工夫する必要があると述べた。「各職階の母集団における男女比率と昇進者の男女比率が整合しているかどうかを確認し、そこに差が生じないように昇進者の割合を補整するといった方法であれば、大きな反発は起きないと思います。企業として何をしなければいけないのかを考え、そのための合理的な方法を示して、誰もが納得する形で進めるべきだと考えます」(木村)
それぞれの意見を受けて中村氏は、「制度や法律でできることには限界があり、結局一人ひとりの意識が変わらなければ問題は解決しないことを再認識しました。また、女性側も『男性の意識が変われば』と考えがちですが、相手に期待して変わるものではないので、まず自分自身にも偏った考えがあると認めた上で、本当にそれが正しいのかという疑問を持つことが、世の中を変える第一歩になるのではないかと感じました」と、議論を締めくくった。
世界経済フォーラムが毎年発表する世界男女格差指数(Global Gender Gap Index)では、日本は例年きわめて順位が低く、2021年も156カ国中120位となっている。こうした状況を打破するためにも、産官学は引き続き喫緊の課題としてジェンダー平等に向けた制度変革と意識改革に取り組んでいかなければならないだろう。
1993年、日本経済新聞社に入社。東京・大阪・名古屋で主に企業取材と消費者取材を担当。1998年1月から7月まで連載した日本経済新聞の1面企画「女たちの静かな革命」の取材班メンバーとして、多様な生き方を選び始めた女性たちを取材。2017年に創刊したNIKKEI The STYLEの初代編集長を経て2019年4月より現職。
東京大学法学部卒業後、ワシントン大学院修了。2001年より弁護士事務所に勤務。2006年より中央大学法学部兼任講師。2012年衆議院議員総選挙で初当選。自由民主党青年局 拡大研修部長、女性局次長、自由民主党行政改革推進本部 規制改革PT事務局長、自由民主党外交部会副部会長、自由民主党経済産業副部会長等を歴任。2020年9月より現職。
1974年東京大学薬学部卒業後、1979年同大学大学院薬学系研究科博士課程修了。同大学薬学部助手、助教授を経て、1997年から2014年まで同大学大学院薬学系研究科教授。2014年東京大学名誉教授。2017年4月から2020年3月まで東京大学理事・副学長、男女共同参画担当を担当。2018年4月から2020年3月まで男女共同参画室長。2020年4月から2021年3月まで東京大学大学執行役・副学長(ダイバーシティ担当)。
1963年生まれ。1986年青山監査法人に入所し、プライスウォーターハウス米国法人シカゴ事務所への出向を経て、2000年には中央青山監査法人の代表社員に就任。2016年7月よりPwC Japanグループ代表、2019年7月よりPwCアジアパシフィック バイスチェアマンも務める。
※ 法人名、役職、本文の内容などは掲載当時のものです。