ヘルスケア業界における世界のM&A動向:2022年上半期アップデート

ヘルスケア業界におけるM&A活動は、イノベーションや魅力的な成長見通しを背景に2022年下半期も引き続き堅調に推移することが見込まれます。

医薬・ライフサイエンス(PLS:Pharmaceuticals and life sciences)およびヘルスケアサービス(HCS:Healthcare services)は、高い水準で投資家の関心を集め続けており、こうした傾向は2022年下半期も継続するでしょう。「ヘルスケア業界における世界のM&A動向:2022年見通し」で予想した通り、mRNA、遺伝子治療、遠隔治療といった先端技術へのアクセスを含むケイパビリティ重視型のディールについて、大企業やプライベート・エクイティ(PE)が注目しています。

公開市場のボラティリティにより、一部企業の大型ディール組成にブレーキがかかる可能性はあります。一方で、公開企業のバリュエーションが下がることで、非公開化取引(public-to-private transaction)の機会も生まれています。潤沢な資金を有するPEは、今後半年から1年の間にヘルスケア業界において積極的にM&Aを進めると予想されます。

ヘルスケア業界の企業は引き続き、自社の成長プラン達成に向けて買収機会を探っていくでしょう。しかし、米国、英国、欧州、カナダを中心に、各国の規制当局が独占禁止法違反の疑いに目を光らせている影響により、大規模変革を実現するようなメガディールを完了させることは難しくなっています。今後多くの企業にとって、狙い通りの成果を上げるためには、製薬会社による複数の中堅バイオテクノロジー企業の買収、あるいはPEファンドによる一連のロールアップ型買収を通じたスペシャリティケアプラットフォームの構築など、大規模な案件よりも複数の案件をこなすことが必要になるでしょう。

「2022年、ヘルスケア業界におけるM&Aは驚くほど堅調な状況を維持しています。この業界の投資家たちには、経済の不透明性やその他の逆風に動じる様子はほとんど見られず、新たなテクノロジーやデジタルケイパビリティを武器に成長を加速させられるような革新的企業の買収に引き続き注力しています」

Christian MoldtPwCドイツ、パートナー、グローバルヘルス業界ディールズリーダー

ヘルスケア業界における世界のM&A動向

医薬・ライフサイエンス

  • ロシア・ウクライナ紛争は、製薬企業の業務に深刻な直接的影響まではもたらしてはいないものの、同業界のビジネスリーダーの多くが、グローバルサプライチェーンのリスクや依存性を再評価するとともに、さらなる統制を図るためにM&Aに注目しつつあります。そのため、原材料獲得から製品流通に至るバリューチェーンの上流から下流まで、ディール活動の活発化が予想されます。M&Aによるサプライチェーンのオンショア化、ニアショア化あるいは「フレンドショア化」(価値観や戦略的利害が一致する国との取引)がリードタイムの短縮や、顧客が切望する確実性の向上につながる可能性があります。

  • mRNAワクチンの製造や医療機器における新たなイノベーションなど、革新的テクノロジーを有する企業はトップクラスの急成長を遂げており、投資家の大きな関心を集めています。大手製薬コングロマリットは、引き続きポートフォリオの最適化とノンコア資産の売却を進めると同時に、革新的なバイオテクノロジー企業、医薬品受託製造開発機関、受託開発機関の獲得を巡りPEファンドと競っています。金利の上昇と株価の下落により、企業の事業売却プランやM&A資金の有効活用にはより大きなプレッシャーがかかるでしょう。

ヘルスケアサービス

  • ヘルスケア業界においてはコンシューマライゼーションの傾向が続いています。ビタミン・ミネラル ・サプリメント(VMS)および栄養補助食品を扱う企業は、高いマルチプルの評価を受けており、これらは今後も魅力的な資産であり続けると予想されます。一方、伝統的な消費財・小売企業は薬局業界への参入機会を模索しています。例えば2022年に入ってからは、小売企業によるオンライン薬局への投資が行われています。

  • 現在さまざまな市場に点在している民間クリニックや、スペシャリティケア提供者、サービスグループ(例:眼科、体外受精 、老人ホーム/高齢者介護)の統合が続くと予想されます。
  • 動物病院やその他のペットケア企業は、引き続きあらゆる地域で関心を集めています。これらに関連するディール活動は今後も継続し、高いバリュエーションが維持されるでしょう。

  • パンデミック時に政府から大きな支援を受けたものの、その後の支援が縮小傾向にある業界では、ディストレストディールが増加する可能性があります。例えば、多くの病院では、慢性的な労働力不足により深刻な業務運営課題に直面しています。政府による助成が段階的に打ち切られつつある国々の病院では、諸要因により資金流動性に問題が生じ、事業再編やディストレストM&Aの増加につながる可能性があります。

  • 企業はその価値を最大限に引き出すためにデジタル化を推進し、患者中心のケアプロセスを実現するデジタル診療管理とデジタルソリューションの導入を加速する必要があります。パンデミックで悪化している人手不足の問題を受け、デジタルを活用することで効率化を進め、熟練従業員が不足しているギャップを改善すべきとの圧力がヘルスケア企業に対してこれまで以上にかかっています。遠隔医療、ヘルステック、アナリティクス企業は、こうした価値のギャップを埋める魅力的な資産であり続けるでしょう。

※本コンテンツは、PwC米国が2022年6月に公開した「Global M&A Trends in Health Industries:2022 Mid-Year Update」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

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