2021年を通じて、医薬・ライフサイエンス(PLS:Pharmaceuticals and life sciences)およびヘルスケアサービス(HCS:Healthcare services)の領域では、バイオテクノロジーと患者サービスについてのイノベーションが牽引したことで、高い水準で投資家の関心を集め続けました。そして、mRNAや遺伝子治療といった先端技術へのアクセスを含む、ケイパビリティ重視型のディールに対して多くの企業が注目しています。この先に目を向けても、盛況なM&A活動と高水準なバリュエーションは豊富な資本余力と相まって、今後1年間にわたり継続することが見込まれます。
大手製薬会社と機関投資家の間の競争(例えば、ベンチャーキャピタル<VC>、新規株式公開<IPO>など)は、依然として中規模バイオテクノロジー企業をめぐって激しく競う状況が続いています。年度半ばのアップデートで予想したとおり、伝統的な製薬会社はイノベーションへの投資やポートフォリオギャップ解消に向けた資本を捻出するため、ノンコア資産を売却し、ポートフォリオの最適化を進めています。
マルチプルの上昇が続くにつれて、買い手はディール後の価値獲得および価値創造に向けた計画を定義することが必要になります。緻密な長期計画を持つ企業が、現在の市場で価値を引き出すことができる一方、成り行き任せのアプローチを採る企業は、投資段階で想定していたリターンを得ることが困難になる可能性があります。
「企業が成長に向けたポートフォリオの最適化を目指すことで、2022年のディール活動も活況が続くと見込まれます。革新的なバイオテクノロジー企業や医療機器企業は、今後も魅力的なM&Aターゲットになるでしょう」
今後半年から1年の間に以下の分野のM&A活動が活発になると予想します。
ヘルスケア業界におけるディール件数およびディール金額は、2020年と2021年の間にそれぞれ32%と65%の増加が見られました。ディール金額の増加は、既に発表されているメガディール(ディール金額が50億米ドル以上のディール)の件数増加が1つの要因でした。メガディールは2020年には6件でしたが、2021年には18件となりました。ヘルスケア業界ではPEファンドによるM&Aが増加し、2021年にディール件数の約49%、ディール金額の約54%を占めました。これは、過去5年間の平均(それぞれ33%と28%)と比べて著しい増加です。
業界プレイヤーは、患者治療のイノベーションや医薬パイプラインの強化に資本を向けようとしており、特に細胞・遺伝子治療、mRNA、デジタル分析能力を専門とする企業の買収に関心を持っています。
大手のストラテジックプレイヤーはノンコア事業を縮小し、その代わりに専門性の高い事業の構築に注力していくと考えられます。この流れを受けて(OTC医薬品などの)一般消費者向けビジネスの売却が進み、スペシャリティファーマを指向する開発会社、受託開発製造会社、受託研究会社の買収が増加すると予想されます。
デジタル分析技術、スマートヘルスデバイス、医療業務管理ソフトウェア、一般消費者中心のデリバリーモデル(顧客へ直接提供するデジタルセラピューティクスのオファリング開発を含む)が相まって、医薬・ライフサイエンス(PLS)とヘルスケアサービス(HCS)領域ではビジネスモデルのデジタル化が進行しています。このため、既存プレイヤーのビジネスモデルの近代化が進むにつれて、クロスセクターでのディールが促進される状況となっています。
結果として、PLSおよびHCS関連企業はインタラクションを強化し、支払者、プロバイダー、消費者ごとにパーソナライズされたアプローチを提供し、デジタルソリューションの活用(患者情報の大規模データセットのマイニングと収益化など)に向けたテクノロジー企業の買収・提携を加速させています。
ヘルスケア業界は、投資家、ステークホルダー、政府機関の高まる投資基準を満たし、またグローバルな社会的課題への寄与が明確なため、投資機会の魅力はますます増しています。実際に、ディールメーカーによって多数のESGトピックがデューデリジェンスプロセスやビジネスモデルに組み込まれています。
GlaxoSmithKline社、Johnson & Johnson社、Sanofi社が一般消費者向けヘルスケア事業を個別の上場企業に分社化する計画であることを発表したことを受け、2022年は一般消費者向けヘルスケアグループの増加が見込まれます。一般消費者へのダイレクトマーケティングに関する専門知識を武器に、これらのスピンオフ企業はこの分野におけるマーケティング戦略を刷新し、一般消費者向けヘルスケアブランドの成長に弾みをつける可能性があります。また、独立企業として運営され、それ自体が有力なM&Aプレイヤーになる可能性も秘めています。
企業はその価値を最大限に引き出すためにデジタル化を推進し、患者ケアプロセスの中心に患者自身を置いたデジタル診療管理とデジタルソリューションの導入を加速する必要があります。パンデミックで悪化している人手不足の問題を受け、デジタルを活用した効率化により、熟練従業員が不足しているギャップを改善すべきとの圧力がヘルスケア企業に対してこれまで以上にかかっています。
ヘルスケア業界におけるディール全体にわたり、民間クリニックと専門的なケアプロバイダー(各領域で点在したままとなっていた熟練した看護・高齢者ケア/介護施設など)の統合が続いており、これまで以上に医療システム全体の生産性向上が重視されています。M&Aによるクロスボーダーの拡大が続き、国境を越えたヘルスケア事業が構築されるでしょう。さらに、投資家の保有期間が終わりを迎えるにつれ、過去数年間に行われてきたロールアップによる企業も市場に出てきています。
大手製薬会社は、中規模バイオテック企業のディールにより中期パイプラインを埋めるよう努めながら、OTC医薬品のプラットフォームやその他のノンコア資産の売却を引き続き模索することが予想されます。また、一部のPEファンドがAPI(Active pharmaceutical ingredient)関連企業を支援し、製薬会社がさらなるアセットライト戦略を推し進めるために必要な生産拠点の売却環境を整えることで、API調達をめぐる脆弱性対応に関連したM&A活動の増加も予想されます。
COVID-19に対するmRNAワクチンの開発が成功したことで、この技術の普及が加速しました。ワクチンメーカー(Pfizer社、Moderna社、BioNTech社などの企業)は現在、この技術の他分野への拡大を検討しています。その他の疾患(インフルエンザ、帯状疱疹、HIVなど)向けのmRNAワクチンの開発も既に進行中であり、研究者は癌向けのmRNAワクチン開発にも取り組んでいます。需要が大幅に高まる可能性があるため、イノベーションにより製造工程のボトルネックを改善できる企業は、魅力的なM&Aのターゲットとなるでしょう。
ヘルスケア業界の企業が世界中に展開していることを踏まえると、米国の規制の不確実性は世界のM&Aにとってリスクとなります。特に、米国連邦取引委員会が独占禁止に注力しているため、2022年はPLSとHCS領域における大規模なディールの実現が妨げられる可能性があります。また、価格設定改革の法規制案が、M&A投資に利用可能なキャッシュフローに大きな影響を及ぼすことも考えられます。
データについて
M&A動向に関する当社の見解は、業界で認知された情報源から提供されたデータに基づいています。本レポートで使用した金額および件数は、2021年12月31日現在でRefinitivにより提供された、2022年1月2日時点でアクセスした公式発表に基づいており、噂や、取り下げられたディールは除外しています。さらに、補足情報としてDealogicと当社の独自調査からの情報も加味しています。本レポートは、Dealogicによる使用許諾に基づいて提供されたデータから導出したデータを含んでいます。かかる被使用許諾データの全ての権利はDealogicが留保しています。PwCの産業マッピングと一致させるため、データ情報源に一定の調整を加えています。
※本コンテンツは、PwC米国が2022年1月に公開した「Global M&A Trends in Health Industries: 2022 Outlook」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。