エネルギー・ユーティリティ・資源分野における世界のM&A動向:2022年見通し

ESG関連のアジェンダはEU&R分野における企業戦略の中心となっており、事業統合やケイパビリティ獲得によるポートフォリオの最適化や新たな市場への参入を目指す企業の意向が、ディールからもうかがえます。

エネルギー・ユーティリティ・資源(EU&R)分野において、経営陣がESG移行への積極的姿勢を強める中、ESG関連のM&Aも成熟段階を迎えています。最近まで、炭素への依存度が高い資産の売却などESGの推進を狙ったM&Aは多くの場合、規制当局または「物言う株主」からの圧力に応えるための、受動的なものと考えられてきました。しかし現在、企業はESGリスクを自社全体の戦略の一部として管理し、新たな価値を創出する契機としてESGを捉えています。企業が資産ポートフォリオを再構築し、エネルギートランジション、炭素削減、脱炭素化などの高成長市場での機会を活用する中で、PwCはポートフォリオの最適化、事業統合、戦略的パートナーシップ、ケイパビリティの獲得が今後も継続すると予想しています。

ESG以外では、堅調なコモディティ価格、潤沢な資金調達、サプライチェーンのセキュリティに対する幅広い懸念により、この業界のM&Aに影響が及ぶと予想されます。その結果、グローバルでは金の分野全体にわたり、また米国では石油・ガスの上流部門において事業統合が進むと予想しています。また、化学系企業は生産施設により近い場所で原材料を調達できるよう、ターゲットを絞ったM&Aを模索すると予想しています。インフラファンドについては、電力およびユーティリティ、石油・ガスの中流部門、再生可能エネルギーに今後も巨額の資金を投入すると予想しています。

「ESGはEU&R分野のディールにおける焦点となっており、こうした状況は今後もしばらく継続すると予想しています」

Wim BlomPwCオーストラリア、パートナー、グローバルEU&R分野ディールズリーダー

2021年のM&A動向

EU&Rディール件数と金額(2019~2021年)

Bar chart showing M&A volumes and values globally for the Energy, Utilities and Resources industry. Deal volumes ended 2021 up 8% on the prior year, witht he growth coming from EMEA and Asia-Pacific regions. Mining & Metals deal volumes decreased by 8%, although the other sectors all reported growth in deal volumes with Chemicals (30%), Power & Utilities (19%) and Oil & Gas (7%). Deal values increased by 67%, reflecting a higher number of megadeals across all the sectors.

出典:Refinitiv、Dealogic、およびPwCの分析

2021年、EU&R業界のディール件数および金額はそれぞれ前年比8%増、67%増となりました。地域・部門別のハイライトは以下のとおりです。

  • 米州地域は、これまでと同様、M&Aに関して他地域を圧倒しているものの、2021年のディール件数は前年比1%減となりました。これは主に、鉱業・金属関連のディールが11%減少したことによるものです。ディール金額については、正式発表されたメガディール(50億米ドル以上のディール)の件数が前年から倍増し、前年比66%増となりました。特に、金鉱、石油・ガスの上流部門、特殊化学品事業用資産を対象としたメガディールが顕著でした。
  • 欧州・中東・アフリカ(EMEA)地域におけるディール件数は、前年比23%増と回復が見られました。これは主に英国、イタリアの化学分野、また英国、スペイン、ドイツの電力・ユーティリティ分野の下位部門における件数増加によるものです。ディール金額については、石油・ガスの上流部門および送配電資産のメガディールの押し上げにより、前年比81%増を記録しました。
  • 2021年、アジア太平洋地域のディール件数および金額はそれぞれ前年比9%増、56%増となりました。同地域の長期にわたるM&Aシェアも増加傾向にあり、2021年はディール件数が35%、ディール金額が30%で、前年の32%、22%から増加しました。
EU&Rの平均ディール金額(2019~2021年)

Bar chart showing average deal size globally for the Energy, Utilities and Resources industry. Average deal size declined during early 2020 due to the pandemic but recovered to pre-pandemic levels in 2021 due to some megadeals.

出典:Refinitiv、Dealogic、およびPwCの分析

EU&R部門のM&A見通し

世界のEU&R企業とその投資家は、ESGを戦略アジェンダの中心に据えています。こうした中、ビジネスリーダーは、ポートフォリオのリバランスを迅速に行い、再生可能エネルギー、炭素回収、蓄電池、水素、送電インフラ、その他のクリーンテクノロジーなどESG成長分野における価値創造機会を追求していくことが見込まれます。商品価格の堅調な推移、潤沢な資金供給に加えて、原材料の安定供給に対する懸念が残っていることから、EU&R関連ディールメーカーは事業統合、ケイパビリティ獲得を目的とした買収、非コア事業資産の売却など、より伝統的な形態のM&Aに引き続き取り組むことになるでしょう。

データについて

M&A動向に関する当社の見解は、業界で認知された情報源から提供されたデータに基づいています。本レポートで使用した金額および件数は、2021年12月31日現在でRefinitivにより提供された、2022年1月2日時点でアクセスした公式発表に基づいており、噂や、取り下げられたディールは除外しています。さらに、補足情報としてDealogicと当社の独自調査からの情報も加味しています。本レポートは、Dealogicによる使用許諾に基づいて提供されたデータから導出したデータを含んでいます。かかる被使用許諾データの全ての権利はDealogicが留保しています。PwCの産業マッピングと一致させるため、データ情報源に一定の調整を加えています。

※本コンテンツは、PwC米国が2022年1月に公開した「Global M&A Trends in Energy, Utilities and Resources: 2022 Outlook」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。