テクノロジー・メディア・情報通信(TMT:Technology Media and Telecommunications)業界の継続的成長と急速な変化を踏まえ、ディールメーカーは世界のTMT業界においては合併・買収(M&A)活動が2022年も続くものと楽観視しています。特に以下の3つのトレンドが、現在のTMT業界におけるディールの世界的な活況を特徴付けています。
テクノロジーとイノベーションが新たな市場機会をもたらし、2021年の良好な資金調達環境と相まって、世界中でテクノロジー企業の数を大幅に増加させました。競合がひしめく市場において、多数の新規上場企業など資金の潤沢なプレイヤーたちが市場における優位性を獲得しようと、M&Aを利用して事業を急速に拡大しています。
人工知能(AI:Artificial Intelligence)、モノのインターネット(IOT:Internet Of Things)、クラウドベースのコンピューティングといったテクノロジーは、ヘルスケア、広告、自動車、銀行など従来の業界にディスラプションを起こし、テクノロジーのコンバージェンス(融合)をもたらしました。テクノロジーは業界の製品やサービスに組み込まれ、それ自体が新たな業界を生み出すといったこともしばしば起きています。これらの「ハイブリッドテック」企業による大規模市場(数兆米ドル規模のグローバルなヘルスケア市場など)への参入が進むにつれ、新技術を取り込もうとする競争が生じ、買収/被買収企業のいずれかの立場としてM&Aの機会が生まれています。
新世代のテクノロジー企業のビジネスモデルは、従来のビジネスモデルよりも低コストで規模を拡大でき、メリットを享受しやすいことからバリュエーションが高まっており、資金調達に際して容易に魅力を高められるようになっています。新規株式公開(IPO:Initial Public Offering)に先立って企業を拡大するという、シリコンバレーのベンチャーキャピタル(VC)の資金調達モデルもグローバルになりました。例えば、インドではユニコーン企業の数が大幅に増加しており、2021年12月にその数は79社、バリュエーション総額は2,600億米ドルにのぼっています。テクノロジー分野に非上場のユニコーン企業が多数存在することと、強力なIPOパイプラインがあることにより、2022年はM&Aの機会のさらなる創出が期待されます。
「テクノロジーは複数の業界の垣根を越えて急拡大しており、そのペースは加速しています。テクノロジー分野の記録的なVC投資とIPOにより、競争が激化すると同時に統合の機会が生まれつつあり、2022年はM&Aが記録的な件数に達することでしょう」
今後半年から1年の間に以下の分野のM&A活動が活発になると予想します。
デジタル資産のメインストリームとしての受け入れが広がるにつれて、仮想通貨への足がかりを求める金融各社はM&Aを通じてコアビジネスを強化しています。また、さまざまな業界の企業がコアビジネスの一部として非代替性トークン(NFT:Non Fungible Tokens)を組み込み、収益化しようとしています。記録的なディール件数を記録した2021年(仮想通貨関連のディールは計400件で、2020年の3倍超)に続き、2022年には取引プラットフォーム、デジタル決済アプリケーション、関連商品全体にわたり、仮想通貨関連のIPOと買収が一層加速することが見込まれます。
テクノロジーを導入したヘルスケア・福祉業界は依然として投資家の強い関心を集めており、高水準のM&A活動が続くでしょう。AI対応のフロンティア技術、データサイエンス、バイオテクノロジーの進歩により、バーチャル訪問、遠隔医療、カスタマイズされた医療、健康増進・エクササイズ機器、ウェアラブル、メンタルヘルスサービスを提供する新世代の企業の登場が見込まれます。投資家、そしてApple、Google、Amazon、Oracle、Microsoftなどの巨大テック企業はテクノロジーを活用して調査研究、提供、決済、ケア利用の側面を改善し、数兆ドル規模のヘルスケア業界に変革をもたらすべく準備を整えています。
COP26では炭素排出量削減を重視する姿勢が掲げられ、ESGの重要性は高まり、エネルギー転換に向けて政府の支援が進む中、エネルギー貯蔵技術を扱う企業に新たな市場機会が生じつつあります。特にテクノロジー、自動車、エネルギー分野の需要の高まりは投資とM&Aを引き付けるため、エネルギー貯蔵分野は今後数年にわたり動きが激しくなることが予想されます。テクノロジー業界は、リチウムイオン電池ソリューションの代替製品の開発など、定置型エネルギー貯蔵において重要な役割を果たせる好位置にあります。
メタバースへの関心の高まりを受け、AI、仮想現実(VR:Virtual Reality)、拡張現実(AR:Augumented Reality)、接続ハードウェアの開発に取り組む企業は買収先としての魅力が増加しており、今後早い段階でM&A件数の増加につながると考えられます。大手テクノロジー企業、メディアコングロマリット、オンラインゲーム会社、その他のテクノロジー企業などディスラプションを起こし得る企業はいずれも、他社に先駆けてインフラを構築し、この新しいデジタルエコシステムの市場機会を活かすポジションに立つため、これらのテクノロジーに多額の投資を行っています。
M&A活動は非常に活発化していますが、TMT(特にテクノロジー)ほど顕著な分野は他にありません。2021年下半期は、ディール件数が極めて増加した上半期とは様子が異なりましたが、2021年全体としては2020年を大幅に超え、パンデミック前の水準をはるかに上回りました。また、メガディール(ディール金額が50億米ドル超のディール)により、引き続き全体的なディール金額が押し上げられました。ディール件数と金額は、2020年から2021年にかけてそれぞれ32%と48%の増加が見られました。2021年に起きたモメンタムは、資本が利用可能であること(企業、PE、特別目的買収会社<SPAC:Special Purpose Acquisition Companies>から)や、コンテンツ、仮想通貨、デジタル資産、その他の「~テック」に対する投資家の関心が持続したことが下支えとなっており、この勢いは2022年も続く見込みです。ただ、金利上昇、高いマルチプル水準の継続、規制環境の厳格化の3つの事象は2022年にM&A活動の勢いを削ぐ可能性があるため、注意が必要です。特にテクノロジー分野においては、大手テック企業に対する調査がますます厳しくなっています。
バリュエーションが急上昇し、コロナ禍においてディスラプションをもたらすテクノロジーの市場シェアに占める割合が拡大する中、M&Aを特徴づける以下の3種類のテクノロジーが経済の全セクターにおいて生まれています。
投資家と企業の熱心な姿勢と、記録的に高い資本の利用可能性とが相まって、需要の高いテクノロジー資産のマルチプルが上昇しています。2021年の年初来の3四半期では、世界のVCによる資金調達だけで約5,000億米ドルにのぼりました。このような非常に競争の激しい環境下において、多くの企業は競合他社を買収するか、もしくは自社が買収対象になるかという状況に直面しています。
ディールを行うためのキャッシュを十分に備えている企業は、経営統合において有利な立場にあります。負債が安価で資本が潤沢という低金利時代が終わりを迎えるにつれ、高リスクの機会から資金を移動する投資家が現れ、M&Aの資金調達が難しくなるかもしれません。特にスタートアップ企業(設立後しばらくは赤字でキャッシュを使い果たしていることが多い)は、資金調達の問題に直面する可能性があります。新規公開会社や、コスト削減やオペレーション効率化によって手元のキャッシュが充実している企業は、買収資金を調達しやすい立場にあるため、資本コストが増加する中で有利になると考えられます。
世界のM&A活動は、特に活況となった2021年に続き、2022年も活発化することが見込まれます。従来の業界がディスラプションに直面し、新型コロナウイルス感染症の世界的流行が予想よりも早く革新的技術をメインストリームに押し出したように、豊富なVC資金、新たなIPO、プライベートエクイティが果たす役割の拡大により、ディール市場はこれまで以上に活況となるでしょう。
テクノロジーの重要性はあらゆる業界において引き続き高まり、エネルギー貯蔵、ヘルステック、メタバース、仮想通貨などの新たな市場がより一般的になるにつれて、ビジネスリーダーたちは成長の加速、規模の拡大、事業のデジタル化に向けてM&A戦略に力を入れることでしょう。
データについて
M&A動向に関する当社の見解は、業界で認知された情報源から提供されたデータに基づいています。本レポートで使用した金額および件数は、2021年12月31日現在でRefinitivにより提供された、2022年1月2日時点でアクセスした公式発表に基づいており、噂や、取り下げられたディールは除外しています。さらに、補足情報としてDealogicと当社の独自調査からの情報も加味しています。本レポートは、Dealogicによる使用許諾に基づいて提供されたデータから導出したデータを含んでいます。かかる被使用許諾データの全ての権利はDealogicが留保しています。PwCの産業マッピングと一致させるため、データ情報源に一定の調整を加えています。
※本コンテンツは、PwC米国が2022年1月に公開した「Global M&A Trends in Technology, Media & Telecommunications: 2022 Outlook」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。