米国連邦準備銀行や欧州中央銀行などによる利上げなど、インフレ対策のための金融政策の変更による課題に直面し、不動産のM&A活動は引き続き緩やかなものとなっています。これらの要因により借入コストが上昇し、世界的にバリュエーションが圧迫されています。商業用不動産は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)後の世界で企業運営や人々の生活、仕事、娯楽の変化によって深刻な影響を受けており、こうした変化の一部はパンデミック以前からすでに存在していました。しかし、投資家が新たな投資テーマを活用し、運営モデルを変革し、将来の成長に向けて再構築しようとする中、こうした選好の進化が今後もM&Aの機会を生み出し続けると予想しています。
資本市場は依然として逼迫しているものの、M&Aに資金はまだ利用可能であり、プライベートキャピタルや一部の上場企業の投資家は、環境の変化を利用して不動産への投資活動を加速させようとしています。今後6~12カ月の間に、プライベート・エクイティファーム、ファミリー・オフィス、ソブリン・ウェルス・ファンド、その他潤沢な資本を持つ投資家が、低いバリュエーション、ディストレスト、新たなテーマ、特に体験型施設(カジノ、ウェルネスリゾート、スポーツエンターテイメント方面など)に魅力を感じ、M&Aの場面でより積極的になると予想されます。
オーストラリア、中国、インド、日本、米国などの市場では、より多くの資本が投入され、世界の特定の地域におけるM&A活動が他の地域よりも活発になることが予想されます。歴史的に対外投資を行ってきた中東では、国際投資に関する法整備が進み、インバウンド投資増加への道が開かれつつあります。
「アメリカ大陸から中東、ヨーロッパ、そしてアジアに至るまで、ディールは行われ、資本は利用可能であり、ユニークな投資機会も引き続き存在しています。全体的な環境は複雑ですが、これらのテーマは私自身を楽観的にさせ、ディールメーカーを前向きにさせてくれます」
マクロ経済情勢は、オフィスサブセクターに引き続き影響を及ぼしており、空室率は世界の全ての地域で二桁台となっています。金利の上昇により、取得や建設の負債が割高になり、潜在的な収益率に低下圧力が生じています。建物のグレードは資本調達の可能性とアセットの財務パフォーマンスの伸びの両方において重要な決定要因となるため、短期的には資金調達がさらに困難になることが予想されます。
アジアの一部の都市、一等地、近代的で高品質な建物など、強い需要が見込まれる領域でM&Aが最も活発になることが予想されます。貸主らは、従業員がオフィスでの対面勤務に戻る傾向が引き続き高まることに期待を抱いていますが、これまでのところ、その動きはあらゆる地域で予想よりも緩やかです。
欧州では、建物に一定のエネルギー効率性能を義務付ける規制の変更により、優良物件に対する需要が高まっています。例えば、2023年(オランダ)と2030年(英国)より、オフィスビルはエネルギー性能証明書(EPC)におけるC評価以上の取得が義務付けられます。脱炭素化と具体的なネットゼロ目標に取り組む企業が増加する中、貸主はリースフットプリントをそのような目標に合わせるようになっています。その結果、テナントのエクスペリエンスを向上させるアメニティを備えた、新しいグリーンテクノロジーを駆使した先進的なオフィススペースに対する需要が高まっています。
インダストリアル、住宅、小売、ホスピタリティセクターの主要なトレンドをお読みください。
インダストリアル・サブセクターは、商業活動のオンライン化と企業のサプライチェーンの調整のブームにより、引き続き活況を呈しています。傾向は次のように地域によって異なります。
北米では、米国のインダストリアル・アセットの需要が先細りしている一方で、メキシコでの需要は増加しています。米国勢調査局によると、2023年第1四半期にはメキシコが中国を抜き、米国との最大の貿易相手国となりました。メキシコは、企業がエンドマーケットに近い場所に生産拠点を移転したり、地政学的緊張にさらされる機会を減らしたりすることで、将来のサプライチェーンの混乱から身を守ろうとしているため、オンショアリングまたはニアショアリングの拡大傾向から引き続き恩恵を受ける可能性があります。
メキシコと同様、南米でもeコマース需要を原動力とする活発なM&Aシーンが見られます。アグリビジネス分野では大きな成長のポテンシャルがあり、現在の開発プロジェクトではこの分野の在庫が2倍になると予想されています(チリ)。また、アクセスルート、道路、ユーティリティを共有する産業コワーキングスペースである工業団地の需要が高まっています(ペルー)。
欧州のインダストリアル・セクターのディール市場は、賃料の健全な伸びと、エネルギーニュートラルな新築物件への継続的な関心により、引き続き活況を呈しています。しかし、欧州の一部の市場は、土地不足、建設コストの上昇、環境規制の強化などの課題に直面しています。
オフィス、住宅、小売、ホスピタリティセクターの主要なトレンドをお読みください。
住宅関連不動産の業績は引き続き好調で、ディール市場も活況です。世界的な金利の上昇により住宅所有コストが上昇し、その結果、賃貸不動産(集合住宅、プレハブ住宅、一戸建て賃貸住宅など)の需要が増加しています。この需要の高まりと、インフレと供給の制約により賃貸価格が上昇し、収益が向上し、投資家の資本コストの上昇を相殺しています。
米国では、不透明な経済環境の中でも住宅セクターが引き続き投資家に安定を提供しています。新規供給は高コスト賃貸市場のAクラス物件に集中していますが、手頃な価格で入手可能なカテゴリーでは慢性的な供給不足が続いています。
欧州では、上限家賃の設定や住宅用建物の防火規則の強化などの特定の規制措置により、テナント寄りの環境が整いつつあり、ディール活動が抑制される可能性があります。
メキシコと中東はデジタルノマドの拠点として台頭、成長しており、これらの地域では賃貸需要が高まっています。中東の住宅市場は、外資に対する規制環境が緩和され、インバウンド資本を引き寄せていることが追い風となっています。
オーストラリアでは、プレハブ住宅と賃貸住宅が投資家の関心を集めています。ディファード・マネジメント・フィー(DMF)式リタイアメント・ビレッジと比較して、プレハブ住宅はイグジット(売却)時の手数料が低く、キャピタルゲインの分配がないという大きな経済的メリットがあり、好感度が高まっています。賃貸住宅セクターは、オルタナティブ住宅不動産開発プラットフォームとしてだけでなく、オルタナティブな投資可能アセットクラスとしてもオーストラリアの不動産市場に台頭しつつあります。
オフィス、インダストリアル、小売、ホスピタリティセクターの主要なトレンドをお読みください。
南米の小売業は、新型コロナウイルス感染症の影響と世界的なマクロ経済の不透明感により回復が鈍化していますが、北米、アジア太平洋、欧州・中東・アフリカの小売業は消費者が高金利とインフレに悩む中、下半期に向けて緩やかなペースではあるものの、現在の好調な業績を維持すると予想されます。
消費者が実店舗でのショッピングに回帰する傾向と、消費支出が商品からサービスへ移行したことにより、小売業の賃料は堅調に伸び続け、小売業の空室状況は記録的な低水準となっています。ブランドは、消費者の進化するショッピング嗜好に対応して実店舗を構え、革新的なスペースの創出を模索しているため、一等地の物件に対する需要は引き続き旺盛です。
消費者の買い物行動の変化により、ショッピングセンターの複合用途、体験型施設への開発と再開発も推進されており、このテーマは2023年中もM&Aを推進する上で重要な役割を果たすと予想されます。その結果、テナントと貸主が互いの利益のためにこれらの物件をどのように再配置するかについて合意できれば、さらなる利益が期待できると予想されます。
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マクロ経済環境の不確実性にもかかわらず、ホスピタリティセクターにおけるM&A活動は引き続き高水準で推移すると予想されます。国内外のレジャー旅行需要の増加が、依然としてこの好調な業績に大きく貢献しています。個人および団体の出張需要は引き続き回復しており、今後のM&A活動により大きく寄与すると予想されます。うっ積した旅行需要がホテル稼働率の増加につながり始めています。しかし、インフレによりホテルの運営コストが上昇しており、全体的に厳しい状況となっています。
英国では、法令順守のために追加の資本支出を必要とする防火関連規則の要件の厳格化など、特定の規制措置が、ディール活動を抑制する可能性があります。
全体として、中東およびアジア太平洋地域でのインバウンド投資の増加や観光セクター全体の前向きな見通しに支えられ、ホスピタリティセクターは拡大の基調にあります。そのため、M&A活動への意欲は2023年後半も増大し続けると予想しています。
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マクロ経済の不確実性が長期化し、規制による制約が強まっていますが、ビジネスリーダーは長期的なアプローチを採用し、持続的な成果をもたらす価値創造に注力することで、こうした循環的な課題を乗り越えています。M&Aに利用可能な資本によって、世界中の優良不動産に対する需要と、特に中東とアジア太平洋地域における新たな機会が、今後6~12カ月のより活発なディール活動につながると楽観的な見通しをしています。
※本コンテンツは、PwC米国が2023年6月に公開した「Global M&A Trends in Real Estate: 2023 Mid-Year Outlook」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。
TMT(テクノロジー、エンタテイメント&メディア、情報通信)企業が社会の中で果たす役割の増大とともに、M&AマーケットにおけるTMTセクターの存在感は近年、ますます大きくなっています。PwCアドバイザリーのTMTチームは、数多くのTMT企業案件の支援を通して蓄積したインサイトを生かし、クライアントの企業変革に貢献すべく...
M&Aアドバイザーとして、ソーシングから取引実行まで高い専門性を持ち一貫して支援します。また、クロスボーダーや不動産などの領域においても幅広い経験を有しています。
PwC(PwCアドバイザリー合同会社)の、ディールアドバイザリー(事業再生、コーポレートファイナンス、トランザクションサービス、バリュエーションなどのM&A全般、PPP)が提供するサービスについてご紹介します。
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