若手会計士たちによる「ゼロからの」デジタルプロダクト制作―開発志向の仮説・検証サイクルとDXマインドセット【前編】

2021-05-19

PwCあらた有限責任監査法人(以下、PwCあらた)は、「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」となることをビジョンとして掲げ、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進と個々のデジタルスキル向上に取り組んでいます。

ここでは私たちの監査業務変革の取り組みや、デジタル化の成功事例や失敗を通じて得た知見を紹介します。これからデジタル化に取り組まれる企業やDX推進に行き詰まっている企業の課題解決にお役立ていただければ幸いです。

※法人名、部門名、役職、コラムの内容などは掲載当時のものです。


筆者は会計・財務報告に関するさまざまなアドバイザリー業務を提供する部門に属し、その本業のかたわら、自らの部門の中でデジタルトランスフォーメーション(DX)推進活動を行うチームの現場リーダーを拝命し、活動してきました。このチームは経験年数5年前後の若手を中心に10名程度で活動していますが、組成は2019年とまだ間もなく、本記事執筆時点では結成1年半ほどの比較的新しいチームです。

本記事では、この新しいチームのメンバーを中心に取り組んだ約3カ月のデジタルプロダクト開発に係る法人内研修を振り返りつつ、チームリーダーの役割を担った筆者とチームが学び、感じた、DXに取り組む上で必要な心構え、そして実際に繰り返し行った作業の一端を、「仮説・検証」にフォーカスして紹介します。最終的には、メンバーによる奮闘が実を結び、私たちのチームはプロダクトの最終審査・講評において光栄にも優勝を勝ち得ることができたのですが、望ましい結果を導いた要因や背景にも迫ります。

仮説・検証×n=効果的な拡張と収縮の反復による可能性の広がり

プロダクト開発に取り組んだ3カ月

今回のデジタルプロダクト開発研修は、新しく企画された法人内の研修プログラムで、これからDX関連サービスの開発に携わっていく若手メンバーの育成を目的としたものでした。多様な部門から参加した6チームが、プロダクト開発専門の講師によるレクチャーやフィードバックを受けつつ、実際に新規DXサービスを考案し、研修最終日には法人内外の審査員を迎えて、開発の成果をコンテスト形式で発表する、という、3カ月にわたるプログラムでした。外部講師陣によるレクチャーでは、本業ではあまり触れる機会のないコンセプトやフレームワークが語られ、また鋭く明快な語り口でQ&Aにも対応していただけ、新鮮で刺激に満ちたものになりました。一方で、毎週きっちりと進捗会議が組まれていたため、各チームとも週ごとに少しでも成果を示す必要があり、厳しいコメントを受けることもしばしばありました。本業を兼任しながら研修に参加するため、時間の制約との戦いは日常茶飯事。また、研修で得た学びを本業に生かしていくことが前提のため、ただの「お勉強」では済まされません。チームは日々、相当なプレッシャーを受けながら取り組んでいました。

最も心に刻まれたキーワードは「仮説・検証」

本プログラムで学んだことはたくさんありますが、一番強く心に刻まれたキーワードを挙げると、「仮説・検証」です。仮説・検証という作業をプロダクト開発の文脈に当てはめて私なりの理解で言葉にするなら、1. 開発するプロダクトの有効性や訴求力について仮説を立て、2. それを潜在的ユーザーへのヒアリングや市場調査などを通じて検証していくサイクルであると考えています。

仮説・検証は何を行うにしても極めて基本的で当たり前な作業であり、プロダクト開発に限った概念でもありませんが、自分たちが開発工程でこれを何度も繰り返していたことが思い起こされます。私たちのチームにはプロダクト開発未経験者が集まっており、プロダクト開発の方法論や難易度については事前知識がなかったため、ブレインストーミングを行えばさまざまなアイデアが出ます。具体的には、私たちは「企業による財務情報の開示に役立つプロダクト」というテーマで取り組みました。そこでは、経営者の意思と投資家の要望を完全に反映した開示を適時に行うための理想的なプロダクト開発を行うことは難しく、まずは、その理想に近付けるにはプロダクトにどのような機能を持たせるのが望ましいか、といった、守備範囲についての議論を延々と続けました。機能をどこに定めるか、機能を広くするか狭くするか、その場合の想定ユーザーは誰かなどを仮説として次々に設定し、その仮説がユーザーのニーズにマッチするか、仮説の実行可能性は十分かなどを検証します。そうして導き出した方向性をもとに開発し、都度出てくる選択肢をもとに次の仮説を立て、検証し、判断・決定する、といった作業を繰り返すのです。一つ決めれば、またその下のレベルでの選択肢が複数出てきて、検証し判断・決定する……という作業の繰り返しです。絞り込んだ選択肢が非現実的だったなら上のレベルに戻って検討をし直す必要があり、これは実に果てしない作業でした。

この仮説・検証のプロセスはポンプに例えることができると思います。ある程度自由に仮説を立てる「拡張」の局面と、仮説が現実的かを検証する「収縮」の局面をポンプのように繰り返すことで、その精度や効率性を高めながら結論に近付けるかが、プロダクト開発の秘訣なのではないでしょうか。

また、この仮説・検証の流れを私たちの本業と比較してみると、一つ大きな差異があることに気付かされます。本業の会計アドバイザリーでは、公表された会計基準や、各企業で確立されている経理実務といった、拠って立つものを参照しながら、課題解決の方向性を決めたり、打ち手を絞り込んだりすることが多いと言えます(もちろんそれだけではサービスの差別化ができませんし、アドバイザーを起用せずとも各企業で解決できてしまうので、実際の業務では複雑な判断を行いながらサービスを提供しています)。一方で、今回の開発作業はゼロからの着想であるため、必然的に多様なアイデアが百出します。そして、それらのアイデアを絞り込む際の評価軸も手探りで定めます。こうしたことを通じ、私たちはともすれば、本業において、会計基準のように高度に確立された方法論・評価基準のもと、仮説・検証のプロセスをスキップしてしまいがちではないかということに気付かされました。

予想外の優勝の秘訣は――

私たちのチームは仮説の絞り込みが上手くいかないという壁にぶつかり、プロダクトの明確なコンセプトがまとまらないまま最終日の成果発表を迎えました。それでも私たちが予想外の優勝を収めることができたのは、上記で述べてきた仮説・検証プロセスに実直に取り組んだことを講師陣から高く評価されたからではないかと思います。

検証作業を行う中では想定ユーザーなどからプロダクトの実効性やニーズについてネガティブなコメントが返ってくることもありましたが、仮説にバイアスをかけて押し切ることなく、そうした意見を素直に受け入れ、上のレベルに戻りながら再検討を進めたことが、結果的にプロダクトの方向性を揺るぎないものにしていたのです。プロダクト開発という大目標に向けては、顧客に潜在するニーズを探るという正しい姿勢を維持しながら上記のポンプ作業を繰り返すことが、その先の本当の成果にたどり着く道を開く――。プロダクト開発に打ち込んだ3カ月とその成果としての優勝をとおして、私の中に、そんな信念が生まれました。

PwCあらたのデジタル研修については以下もご覧ください。

人材育成の当たり前を疑ってみる ― OJTではない新入職員向け育成プログラム

詳細はこちら

ブラックボックス化のジレンマを克服するデジタル「シェア」カルチャーの醸成

監査業務のデジタル進化

詳細はこちら

執筆者

杉田 大輔

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

Email

{{filterContent.facetedTitle}}

{{contentList.dataService.numberHits}} {{contentList.dataService.numberHits == 1 ? 'result' : 'results'}}
{{contentList.loadingText}}

{{filterContent.facetedTitle}}

{{contentList.dataService.numberHits}} {{contentList.dataService.numberHits == 1 ? 'result' : 'results'}}
{{contentList.loadingText}}