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2021-06-02
PwCあらた有限責任監査法人(以下、PwCあらた)は、「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」となることをビジョンとして掲げ、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進と個々のデジタルスキル向上に取り組んでいます。
ここでは私たちの監査業務変革の取り組みや、デジタル化の成功事例や失敗を通じて得た知見を紹介します。これからデジタル化に取り組まれる企業やDX推進に行き詰まっている企業の課題解決にお役立ていただければ幸いです。
※法人名、部門名、役職、コラムの内容などは掲載当時のものです。
筆者は会計・財務報告に関するさまざまなアドバイザリー業務を提供する部門に属し、その本業のかたわら、自らの部門の中でデジタルトランスフォーメーション(DX)推進活動を行うチームの現場リーダーを拝命し、活動してきました。このチームは経験年数5年前後の若手を中心に10名程度で活動していますが、組成は2019年とまだ間もなく、本記事執筆時点では結成1年半ほどの比較的新しいチームです。
本記事では、この新しいチームで参加した約3カ月のデジタルプロダクト開発に係る法人内研修を振り返りつつ、チームリーダーの役割を担った筆者とチームが学び、感じた、DXに取り組む上で必要な心構え、そして実際に繰り返し行った作業の一端を、「仮説・検証」のフェーズにフォーカスして紹介します。最終的には、メンバーによる奮闘が実を結び、プロダクトの最終審査・講評において光栄にも優勝を勝ち得ることができたのですが、望ましい結果を導いた要因や背景にも迫ります。
前回は、プロダクト開発研修における仮説・検証のプロセスの重要性を述べました。今回は、チームでこのプロセスを繰り返すにあたって大切だったと感じる点を、実体験をもとに解説します。特に私たちのように、これまで開発業務経験のないメンバーが仮説・検証に取り組む際には、仮説、検証のそれぞれにおいて下記がポイントになると考えます。
順に紹介していきましょう。
仮説を作る局面では、アイデアを膨らませたり拡張させたりするため、当然ながら、まずは既存の枠組みから自由になることが必要になります。プロダクトの開発は新しいものを作り出すことですから、既存の思考に囚われていては、そもそもの趣旨に合致しません。例えば、これまでの業務で当たり前に行ってきた作業を疑って、これが必要なのか・他の方法はないかと見直すこともその1つですし、また逆に、同じ業界の中で各プレイヤーが諦めている理想があれば、それを実現する方法はないかと想像力をもって考えることも然りです。
仮説の「入口」として上記のような議論をすること自体はそれほど困難ではなく、アイデアはいくつか集まることも多いかと思います。しかし私が感じた真のチャレンジは、この議論の次に待っていました。それは、仮説の質・量をどう上げていくかという点であり、その秘訣は下記の3つに集約されるのではないかと感じました。
既存の枠組みの中での仕事に慣れた人たちにとっては、新しいアイデアの提案そのものを躊躇しがちです。会計士の集団である私たちにとって、基本的にその側面は強い印象を受けました。さらに本研修は完全オンラインで行われたこともあり、闊達にアイデアを出し合うことの難しさを感じました。
しかし、まずはアイデアが一定量ないと、互いを比較したり注目する観点を増やしたりすることはできません。そのため、「量」を確保することはどうしても重要です。私たちも必ずしも上手く実行できたわけではありませんが、職階を問わず持ち回りでファシリテーターを決めたり、テーマごとに細かなディスカッションの時間を設けたり、バーチャルホワイトボードを使用したりして、アイデアを創発しやすい環境作りに努めました。
議論するアイデアが実際のビジネスに近いものであればあるほど、後続の検証は現実味を帯びることになります。これは創発されるアイデアの「質」によって左右されると言えます。後続作業につながりやすい良質なアイデアが出てくるかはチームの成熟度にも依存しますが、ひょうたんから駒のように、その分野に詳しくないからこそ出てくる思いつきが思わぬ効果を上げることも数々のプロダクト開発で実証されており、自由に議論ができる雰囲気を保つことを忘れてはいけません。
アイデアを創発する質・量の両方を向上するための根本的土台として、参加するチームメンバーの目線が合っていることがとても重要です。メンバー同士で使用する同じ用語のニュアンスが少し違っているだけでも重大なすれ違いに発展することはプロダクト開発に限らずよく起こることです。認識が揃っていなければ、イメージと全く異なるプロダクトが出来上がりかねません。特に既存の枠組みを飛び越えながら新しいアイデアを生み出すプロダクト開発の場合、固定のメンバー間である程度の時間を掛けて、互いが見ている対象や、表現している対象を最大限に明確化しながら議論を進めなければ、有効な仮説の提起につながらないと実感しました。
なおプロダクト開発のリーダーを引き受ける場合は、上記を念頭に置きながら、メンバーのデジタルへの習熟度・キャラクターなどを見極めてタイミングよく議論を促進するきっかけを作り、仮説提起の質・量をコントロールするのが重要な役割になると思います。
検証の場面では、自らが打ち立て、拡張してきた1つ以上の仮説をさまざまな側面からふるいにかけ、実現性を確かめていきます。今回の研修では、大きく分けて「市場ニーズ」と「技術的実現性」の2つの視点から検証を行いました。市場ニーズの視点は、仮説で描いたプロダクトに対する市場・ユーザーのニーズが本当に高いかという観点での検討ですが、一定の理論的枠組みを使って行いました。例えば、ユーザーの業務内容や性格までをも細かく想像した上で果たしてプロダクトが訴求し得るかを検討する「ペルソナ」の作成や、プロダクトの市場規模がどれくらいかをマクロ的・定量的に試算する「TAM/SAM/SOM」の検討が挙げられます。一方で、技術的実現性の視点では、例えば人工知能(AI)分析やクラウドプラットフォームなどの技術的な側面から、どのようなプロダクトデザインが技術的に可能かを検討し、ユーザーインターフェースなどを含めた検証を行いました。
これらの検証を行った際、最も直接的な効果があり、かつチームの方向性を決定付けたのはチーム外からのフィードバックでした。検討中の新しいプロダクトアイデア(プロトタイプ)は、既存の枠組みからはある程度逸脱しており、技術的裏付けが不十分であることも多いため、外部の潜在顧客や同じ分野で専門性を持つプレイヤーに提示することはたいへん勇気がいります。それでも、これをすることによって忌憚のない意見が得られ、プロダクト開発の実現性が高くない場合や、技術的に困難な方向に進んでいる場合に、早めに方向転換する決断をしやすくなります。さらに、フィードバックの取得を目指すことで、プロダクト開発の全体像を外部に提示できる状態を早く作り上げようとする力がチーム内に働き、いわゆる「MVP(Minimum Viable Product)」に基づいたプロダクトデザインを検討する方向に自然につながるというメリットがあるとも感じました。
私たちのチームでも外部へのヒアリングを重ねることで、方向性を根本的に覆すような意見さえ何度か提示され、最終的にはプロダクト発表の週までこうしたプロセスが続き、最後まで修正に修正を重ねる必要がありました。しかし前編でもふれたように、そうした外部の声に愚直かつ勇気をもってリーチアウトし続け、根本を否定されるような状況にさえ直面しながらも仮説・検証サイクルを繰り返したことが、優勝という望外の結果につながったと実感しています。プロダクト開発においては、拡張したアイデアをいかに検証し、場合によっては外部の目にさらして収縮させ、飽きずに間髪を入れず(アジャイルに)次の仮説・検証サイクルにつなげるというプロセスが必要です。そのプロセスでは、新しいものを生み出すデジタルスキルや自由な発想だけでなく、勇気や粘り強さといった基本的性質が組み合わされることで化学反応が起き、より高品質なプロダクト開発につながります。そのことは、私の中の新鮮な気付きでもありました。
本稿執筆時点で、今回のプログラムが終了して約半年が経ちます。同じ研修に取り組んだチームメンバーのほぼ全員が、研修の枠組みを超えて今も本業の傍らでプロダクト開発に取り組んでおり、私も引き続き、その現場を見守っています。前編で述べた通り、会計士のような資格をベースとした職業専門家は、複雑な作業や思考をテンプレート化・ルーティーン化し、根本レベルでの仮説・検証を不要とする仕組みを設けつつ業務価値を提供する傾向にあります。その一方、今回のプロダクト開発は、テンプレートやルーティーンを根本から疑い、新しいことを生み出す作業でした。両面をバランスよく持ち合わせることが自らの可能性を高め、また顧客や社会にさらなる価値を提供するのではないかとの思いを強くした3カ月でした。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の目標の一つとして効率性の追求がよく挙げられます。逆説的ではありますが、DXを通じたイノベーションを起こす最初の作業としてのプロダクト開発には、既存の効率性を度外視して新しい価値を志向するというマインドセットの転換が必要であることを思い知りました。そして効果的なプロダクト開発は、こうしたマインドを仮説・検証行為の連続を通じていかに各メンバーの行動に落とし込み、アジャイルで「質のよい」習慣・サイクルに昇華できるかにかかっていると学びました。
私たちのチームのプロダクト開発は、まだ道半ばです。こうしている間にも、イノベーションの波は私たち会計専門家の業務に大きな変化をもたらしており、その状況に一層の切迫感を持ちながら、今回学んだマインドセットや方法論を実践し続ける必要があると感じています。こうした地道な積み重ねの先にこそ、顧客・市場に本当に訴求できるデジタルプロダクトの完成や、進化したアドバイザリーサービスの提供があると信じ、取り組みを続けたいと考えています。