シリーズ:データドリブン経営

生成AIの経理財務業務での活用② 生成AIの導入

  • 2024-08-28
  • 経理・財務は、デジタル技術の導入が期待される業務であり、定型業務だけでなく非定型業務にも生成AIを導入することで刷新の加速が予想されます。
  • 実際の業務に生成AIを導入することに伴い、経理・財務要員に求められる役割は、伝票起票・報告書作成から、インサイトの発掘へとシフトします。
  • 今後、経理・財務の担当者には、生成AIを活用して財務・非財務データを分析し、自社のビジネスを発展させるための施策を検討し、経営者に提案する能力が求められるでしょう。

生成AI活用の検討ポイント

(1)定型業務へのAI活用

経理・財務における定型業務は、デイリーの伝票処理やデータ整理のように、継続性・安定性・確実性が求められるため、既にそのプロセスには何らかのシステムやデジタル技術が用いられていることでしょう。では生成AIと、従来のRPA含めたデジタル技術の違いはどこにあるのでしょうか。

まず挙げられるのが、さまざまなデータから自己学習を行い、インタラクティブに業務処理を実行できる点です。例えば、管理会計に使用するデータ項目間の整合性確認や監視、社内規定に即したさまざまな角度からの伝票確認、独自の商慣習を反映させた債権・消込管理など、社内ルールや過去の対応事例を学習した上で、柔軟に対応していく定型業務の場面において生成AIを活用できるでしょう。

生成AIは、データをマルチモーダル処理できるため、大量にデータが入った複数のファイルを同時に読み込ませた上で、自然言語を使って会話形式でやりとりを進めてアウトプットを得ることができます。また結果についての自己レビュー・評価や、結果の再提出など、さも同じチームのメンバーと会話して作業しているかのような自然なやり取りで業務を進められます。

(2)非定型業務へのAI活用

「非定型業務」は、財務分析や予測、経営陣へ意思決定支援など、知識・経験・勘を組み合わせた柔軟な対応が求められます。担当者個人のパフォーマンスに大きく依存し、一見代替えが難しいと思われる業務ですが、それらに対しても生成AIを活用することができます。

例えば予実差異分析業務における差異の要因分析は、ベテランの担当者が長年の知識・経験・勘を武器にして、その数値の背後に隠れている理由を1つずつ明らかにしていくケースが多いことでしょう。

そこで生成AIを活用するとどうなるのでしょうか。まず、知識の観点では、過去の大量の予算・実績データを準備して、生成AIに取り込めば問題ないでしょう。次に経験の観点ですが、これまでに発生した差異パターンと原因を担当者が整理する必要がありますが、これについても学習データとして生成AIに取り込むことで解決できます。では最後の勘の部分はどうでしょう。生成AIは、膨大なデータをさまざまな角度や切り口から自己学習して、人間が気付かないデータの傾向や特性を自ら発見し、判断材料として使用していくことができます。人間が教えなくも自ら学習し、この世に存在しないユニークなコンテンツやパターンを無から作りだす事ができるのが生成AIなのです。つまり予実分析についても、生成AIに知識と経験を与えれば、勘を研ぎ澄まして差異分析をしてくれます。予実分析以外にも、財務分析や資金調達計画に活用することができるでしょう。

人間が担うべき役割とAIとの協業

生成AIが多くの経理・財務業務をカバーできる可能性が見えてきたところで、その状況下において経理・財務の担当者は、今後どのような役割・職責にシフトしていくことが求められるのでしょうか。これを検討するにあたっては、経営から期待される経理・財務機能のあるべき姿を見据える必要があります(図表6参照)。

経理・財務機能には、仕訳伝票を入力し、法的開示のために財務諸表や税務申告書を作成することだけではなく、会計情報を経営に生かし、自社のビジネスを発展させていくという重要な使命があります。図表は、当社が経理機能の将来の姿を時系列で表現したものです。

「トランザクション処理」は、いわゆる仕訳伝票などをデイリーで入力・管理していく作業で、「統制・コンプライアンス」は法的開示のために貸借対照表、損益計算書や税務申告書を作成するなどの作業となり、両者は主に「定型業務」に属します。そしてピラミッドの最上部に財務データの分析を行ったり、インサイトを経営層に提供したりする作業があり、上位に行くほど「非定型業務」になっていきます。

「トランザクション処理」「統制・コンプライアンス」は、社会的信用を保つために会社として小さなミスも絶対に許されない領域であるため、多くのリソースを投下しても確実に業務を遂行することが求められます。その点、効率化の面では、その中で高負荷な「トランザクション処理」のプロセス改善や、デジタルツールやRPAを活用した自動化を推進して生産性の向上を行うことが可能です。さらに高度化の面では、「定型・非定型業務」が極限まで最適化されていきますが、ここで生成AIが大きく活用されていくことでしょう。

生成AIにより業務刷新が行われた後の姿ですが、「トランザクション処理」「統制・コンプライアンス」「インサイト」のパワーバランスが変化し、逆ピラミッドの形になることが予想されます。現在の経理・財務の担当者は、徐々に「インサイト」領域の業務へシフトしていきます。経理・財務スキルは経営に不可欠なため、職種自体が完全に淘汰されることないでしょう。今後、経理・財務要員に求められるものは、これまでの経理知識を大前提として持ち、生成AIを活用して、財務データをより深いレベルで分析しインサイトを出していくことになると考えられます。さらに、経理・財務部の枠を超えて、事業と経営をつないでいくことも重要な役割の1つになるでしょう。

つまり事業部で使用される非財務データの収集・分析を行い、財務データとつなげて自社の成長性、収益性、生産性などのインサイトを出していくことが求められます。事業部へ入り込み、実際の現場の状況を確認しながら、経営とのつながりを見極めて自社のビジネスを発展させるための施策検討を行い、経営者が判断・意思決定するための情報提供や提案をしていくことが主な役割になるでしょう。

主要メンバー

山本 祐生

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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