「記述情報の開示の好事例集2022」の概要

ESG/サステナビリティ関連法務ニュースレター(2023年4月)

近時、日本を含む世界各国において、ESG/サステナビリティに関する議論が活発化する中、各国政府や関係諸機関において、ESG/サステナビリティに関連する法規制やソフト・ローの制定または制定の準備が急速に進められています。企業をはじめ様々なステークホルダーにおいてこのような法規制やソフト・ロー(さらにはソフト・ローに至らない議論の状況を含みます。)をタイムリーに把握し、理解しておくことは、サステナビリティ経営を実現するために必要不可欠であるといえます。当法人のESG/サステナビリティ関連法務ニュースレターでは、このようなサステナビリティ経営の実現に資するべく、ESG/サステナビリティに関連する最新の法務上のトピックスをタイムリーに取り上げ、その内容の要点を簡潔に説明して参ります。

今回は、金融庁が公表した「記述情報の開示の好事例集2022」の概要を紹介します。

I. はじめに

金融庁は、2023年1月31日、「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(令和5年内閣府令第11号。以下「開示府令」といいます。)を公布、施行しました。この改正内容には、企業のサステナビリティに関する取組みやコーポレート・ガバナンスに関する開示の拡充を図る重要な改正が含まれており、2023年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用されます1。そして、同日付で「記述情報の開示の好事例集2022」(サステナビリティ情報等に関する開示)(以下「好事例集」といいます。)が公表されています2

好事例集は、投資家と企業との建設的な対話に資する充実した企業情報の開示を促すため2018年度から開示の参考となる好事例を掲載し、公表されています。2022年度の好事例集では、開示府令の改正により、新たにサステナビリティに関する企業の取り組みの開示が求められることを踏まえ、かかる分野の開示の好事例が追加されたほか、企業の概況や提出会社の状況に関する事例も充実化が図られています。実際の各企業の開示事例を紹介しつつ、好ましい開示のポイントが指摘されており、上場企業が自社の開示の内容を検討する際に参考となり得るものです3。本稿では、好事例集の概要について紹介します。

II. 好事例集の概要

1. 構成

好事例集では、投資家、アナリスト及び企業により議論された開示の好事例が取りまとめられ、有価証券報告書におけるサステナビリティ情報に関する開示例と事業の状況等に関する開示例に分け、以下の項目で構成されています。

有価証券報告書におけるサステナビリティ情報に関する開示例
「環境(気候変動関連等)」の開示例
「社会(人的資本、多様性等)」の開示例
事業の状況等に関する開示例
「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」の開示例
「事業等のリスク」の開示例
「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)」の開示例
「コーポレート・ガバナンスの概要」の開示例
「監査の状況」の開示例
「役員の報酬等」の開示例
「株式の保有状況」の開示例
記述情報の開示に関する充実化の動向

2. 開示府令改正後、新たに開示が求められる項目

2023年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から、既存の開示項目に加え、次の項目について開示を行うことが求められます。好事例集においても、参考となる開示例が重点的に取り上げられており、これらの項目に関する開示内容を検討する際に参照することが有益です。

(1)従業員の状況

既存項目に加え、「女性管理職比率」、「男性育児休業取得率」、「男女間賃金格差」の各項目の開示が求められています。

(2)サステナビリティに関する考え方及び取組

サステナビリティ情報は、開示府令改正により新規に設けられた開示項目ですが、具体的には、「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標及び目標」の開示が求められます。なお、「戦略」並びに「指標及び目標」については、各企業が重要性を踏まえて開示を判断するものとされます。また、人的資本について、「人材育成方針」や「社内環境整備方針」及びこれらの方針に関する指標の内容や当該指標による目標・実績を開示するものとされています。

(3)コーポレート・ガバナンスの概要

既存項目に加え、「取締役会、指名委員会及び報酬委員会等の活動状況」の開示が求められています。

(4)監査の状況

既存項目に加え、「内部監査の実効性を確保するための取組(デュアルレポーティングを含む)」の開示が求められています。

3. 投資家・アナリストが期待する主なコメント、開示のポイント

好事例集には、「記述情報の開示の好事例に関する勉強会」に参加した投資家・アナリストが企業に期待する主なコメント及び開示のポイントがまとめられています。また、多数の企業の開示例が紹介されていますので、実際の開示例を参照しつつ、これらのコメント及びポイントを意識した開示を行うことにより、投資家及びアナリストの期待に応えることが可能となります。

また、今回の好事例集では、好事例集の公表が始まった2018年度から2022年度までの間において開示の充実化が進展している企業の事例等を盛り込んだ「記述情報の開示に関する充実化の動向」についても追加されています。投資家・アナリストが開示の充実を期待するポイントに言及されているほか、開示の充実化が進んでいる企業の事例及び進展していない企業の事例が挙げられています。

開示項目別に挙げられている主なコメント、開示のポイント及び開示の充実化が進んでいる企業の事例に関するコメントは、次の通りです。

(1)投資家・アナリストが開示の充実を期待するポイント

具体的な開示項目別のポイントに先立ち、投資家・アナリストが開示の充実を期待するポイントとして挙げられているものは次の通りです。

  • 有価証券報告書は、財務情報に関しては開示書類の中で最も詳細であり、近年、記述情報の開示の充実化も進んでいることから、利用者の関心度・利用度が高まっている。こうした中、有価証券報告書の開示を充実させないことは企業価値評価の算定においてマイナスである
  • 投資家にしっかりと伝わるような、又は、投資家との対話に繋がるような開示を行うという姿勢を持ち、なぜそのような開示を行ったのかという考えを具体的に示すことは有用
  • 会社には様々な取り組むべき課題がある中、重要性等を踏まえて優先順位を付け、開示対象とする事項を絞り込むことは投資家の目線と合っており有用
  • 図表をうまく活用し、読みやすくすることも重要なポイントの一つであるが、理解を深めるため、ナラティブな情報と併せて開示することは有用
  • 海外を視野に入れた場合、日本とグローバルでは図表の見せ方が異なり、日本での表記をそのまま用いても伝わらないことがあるため、図表はグローバルスタンダードな見せ方を意識するとともに、文章はできるだけ平易な言葉・文章で説明する開示も重要

(2)サステナビリティ情報全般

サステナビリティ情報に関連して、個別の開示例における評価ポイント以外の投資家・アナリストからの主なコメントとして次のものが挙げられています。

  • 企業価値の向上にどのような影響を与えるのかという観点からの開示は有用
  • サステナビリティ情報の開示について、より分かりやすく、魅力的に伝えることを意識することが差別化に繋がり有用
  • ISSB4により今後開発されるサステナビリティ情報の開示基準に留意し、投資家の意思決定に影響を与えるような情報は何かという視点を持ち、開示を行うことは有用
  • 気候変動を企業活動に密接なエネルギー問題としてとらえることは、企業の気候変動に関する課題に対し、重大性を持つことに繋がるため有用
  • 中期経営計画との整合性を意識した開示を行うとともに、そのレビューを行うことは有用
  • 企業において、企業価値向上のためのストーリーを組み立て、ストーリーに該当する項目を中心に開示を充実させていくことはマテリアリティの考え方として有用
  • TCFD5提言の4つの枠組み(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標)がある中で、ガバナンスは重要であるところ、ガバナンスの項目で記載されている内容が実効的に機能しているということは、戦略、リスク管理、指標と目標が統合性を持って説明できることであり、開示もそうした観点で行われることが有用

(3)気候変動関連等

気候変動関連等において、投資家・アナリストが期待する開示のポイントは次の通りです。

  • TCFD提言の4つの枠組み(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標)に沿った開示は、引き続き有用
  • TCFD提言に沿った開示を行うにあたり、財務情報とのコネクティビティを意識し、財務的な要素を含めた開示を行うことは有用
  • リスク・機会に関する開示について、一覧表で、定量的な情報を含めた開示を行うことは有用
  • トランジションやロードマップといった時間軸を持った開示を行うことは、海外の気候変動に関する開示でも重視されており有用
  • サステナビリティ情報に関する定量情報について、前提や仮定を含め開示することは有用
  • 実績値を開示することは、引き続き有用

また、開示の充実化が進展している企業の実例として次のような点が指摘されています。

  • TCFD提言を踏まえ、「ガバナンス」・「戦略」・「リスク管理」・「指標と目標」のそれぞれ項目に沿って気候変動関連の記載がされており、開示が充実
  • シナリオ分析の概要を記載することに加え、サステナビリティレポートの掲載箇所を参照先として示すことでシナリオ分析の詳細情報を確認できるようになっており、開示が充実
  • 事業への影響について、リスク・機会の両面から、財務上の影響額の定量情報を含め、具体的に記載するとともに、シナリオ分析の期間等の定義も記載されており、開示が充実

(4)人的資本、多様性等

人的資本、多様性等において、投資家・アナリストが期待する開示のポイントは次の通りです。

  • 人的資本可視化指針で示されている2つの類型である、独自性(自社固有の戦略や、ビジネスモデルに沿った取組み・指標・目標を開示しているか)と比較可能性(標準的指標で開示されているか)の観点を適宜使い分け、又は、併せた開示は有用
  • KPIの目標設定にあたり、なぜその目標設定を行ったのかが、企業理念、文化及び戦略と紐づいて説明されることは有用
  • マテリアリティをどう考えているのかについて、比較可能性がある形で標準化していくことは有用
  • グローバル展開をする企業は、サステナビリティ情報の開示において、例えば、人権に関する地政学リスク等、ロケーションについて着目することも有用
  • 独自指標を数値化する場合、定義を明確にし、定量的な値とともに開示することは有用
  • 過去実績を示したうえで、長期時系列での変化を開示することは有用
  • 背景にあるロジックや、前提、仮定の考え方を開示することは有用
  • 人的資本の開示にあたり、経営戦略をはじめとする全体戦略と人材戦略がどう結びついているかを開示することは有用

また、開示の充実化が進展している企業の実例として次のような点が指摘されています。

  • 人材戦略として、ダイバーシティ推進委員会の活動内容や、女性活躍推進、男性社員の育児休業取得率の取得率等を具体的に記載することで、サステナビリティに関する開示が充実

(5)事業の状況に関する開示全般

事業の状況に関する開示全般に関連して、個別の開示例における評価ポイント以外の投資家・アナリストからの主なコメントとして次のものが挙げられています。

  • いくつかのパターンはありえるが、経営方針等とMD&Aとの記載分けについて、以下の整理ができるのではないか
    • 事業ポートフォリオが多岐にわたる企業は、経営方針等において、事業ポートフォリオをどのようにマネジメントしていくのか等、全体の方針・戦略を記載し、MD&Aにおいて、個々の事業の方針・戦略及び実績のふり返りやセグメント別の分析を記載
    • 事業ポートフォリオが比較的シンプルな企業は、経営方針等において、全体の方針・戦略に加え、個々の事業方針・戦略を記載し、MD&Aにおいて、実績のふり返りやセグメント別の分析を記載
  • 事業環境の変化に対し、企業としてどのように柔軟に対応していくのかといった観点(レジリエンス)からの開示は有用
  • 事業方針やリスク等に変更がない場合においても、事業環境等を踏まえ、なぜ変更がないのかについての説明があることは有用
  • 複数事業を営む企業においては、なぜ複数事業を営む必要があるのかを経営方針等に記載し、その上でMD&Aにおいて補足的にセグメント単位の財務分析等を行うことは有用
  • 知的財産=無形資産という認識のもと、知的財産を事業に活かし、企業の成長性を高めるという観点から、事業等のリスクだけでなく、経営方針等やMD&Aにおいても開示することは有用

(6)経営方針、経営環境及び対処すべき課題等

経営方針、経営環境及び対処すべき課題等において、投資家・アナリストが期待する開示のポイントは次の通りです。

  • 経営方針等の中で、例えば、対象となる顧客のセグメントや、競合との差異・優位性等、顧客と競合に関する具体的な開示をすることは、戦略・ストーリーの説得力が増すため有用
  • 非財務指標の設定について、過去からの変化を、その理由とともに比較できる形で示すことは有用
  • キャッシュの原資と使途について、優先順位を示しながら開示することは、財務戦略や経営方針等の意図が明らかになるため有用
  • 長期ビジョンからのドリルダウン(全体像⇒定量情報を含めた詳細情報といった流れでの説明)による記載は、分かりやすく有用
  • 非財務情報について、財務情報との関連性を示すことは有用
  • 株主還元という観点から、TSR6について継続的に開示することは有用

また、開示の充実化が進展している企業の実例として次のような点が指摘されています。

  • 経営方針等の冒頭で、経営者メッセージにより経営方針等の全体像を示した上で、その後の記載に繋げており開示が充実
  • 全体像の中で過去の中期経営計画の振り返りを記載し、それを踏まえた上で新たな中期経営計画を記載しており、開示が充実
  • 中長期的な成長に向けた経営ビジョンについて、経営環境、重視するマテリアリティ等を踏まえた具体的な記載が追加されており、開示が充実

(7)事業等のリスク

事業等のリスクにおいて、投資家・アナリストが期待する開示のポイントは次の通りです。

  • リスクを全て見通すことはできないため、見直しを行うことが重要。その際、リスクの見直しを定期的に行うこと、見直しの体制やプロセス、変更されたリスクが分かるような記載及び変更となった理由が示されることは有用
  • リスク及びその対応策を明確に開示することは、社内において、リスク及びその対応策の認識向上にも資するため有用
  • 投資家の判断に重大な影響を及ぼす可能性という観点から、影響度の大きさに優先順位を付けて開示をすることは有用

また、開示の充実化が進展している企業の実例として次のような点が指摘されています。

  • 企業リスクについて、リスクマップを用いて、外部環境や内部環境への対応、価値創造や成長基盤の再構築等の観点で分類して示されており開示が充実
  • 最優先で対応しているリスクについて、影響度、将来の見通し、リスク認識、マイナス面・プラス面の影響、対応策についての表を追加しており、開示が充実
  • 各リスク項目について、昨年度と比較して重要性が上がったテーマを含め、重要度に応じた分類のうえ記載しており開示が充実
  • 近年関心が高まっている地政学リスク等(この他、サステナビリティ課題(人権・気候変動)等についても記載)について、重要性を踏まえ独立のリスク項目とし、想定されるリスクや対応策を具体的に記載しており開示が充実

(8)MD&A

MD&Aにおいて、投資家・アナリストが期待する開示のポイントは次の通りです。

  • MD&Aは、投資家として非常に重要であり、経営方針等で示されている戦略や施策が当初の想定通りに進んでいるか(想定通りではない場合、その理由)、経営目標を達成できそうか等を確認することに活用
  • 長期経営計画や中期経営計画に対する毎年の進捗状況をMD&A等で開示することは有用
  • 指標等の予想と実績の開示に加え、予想と実績が乖離した場合には、その理由を記載することは有用
  • 指標を変更したことに関し、指標の考え方や、変更理由を具体的に記載することは、対話のための土台となることから有用
  • ROIC7ツリーにより、個々の要素と全体の繋がりを体系的に示すことは有用。更に言えば、ROICツリーにおいて、個々の要素の貢献度の軽重や、定量情報等が記載されると、より有用
  • 企業価値向上に繋がるドライバーについて、重要な部分を示し、それを経営層がどう考えているかの説明は有用

また、開示の充実化が進展している企業の実例として次のような点が指摘されています。

  • 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容として、「ROICを重視する経営」に向けた取組みやROICツリー展開を活用した価値向上の考え方等について具体的に記載されており開示が充実

(9)コーポレート・ガバナンスの概要

コーポレート・ガバナンスの概要において、投資家・アナリストが期待する開示のポイントは次の通りです。

  • ガバナンスは企業によって百社百様であることから、様々なガバナンスの形態(モニタリングボード、アドバイザリーボード、マネジメントボード)がある中で、なぜそのガバナンスの形態が実効的であるとして採用したのかがしっかりと開示されることは有用
  • 投資家の議決権行使に当たり、コーポレート・ガバナンスは、形式的な枠組みを満たすだけでなく、実効面の確保が非常に重要であり、こうした実効面に関する開示の充実を期待している
  • 取締役会等の活動状況には、「具体的な検討内容」が分かるものとして、活動の目的だけでなく、具体的なアジェンダを示し、活動内容の具体的なイメージが分かるような開示を行うことは有用
  • 取締役会等の実効性の評価として、評価方法、具体的な評価結果、評価結果の分析、分析で判明した課題及び課題を踏まえた今後の取組みを記載することは有用。この際、時系列による開示を行うことは、会社がどのような経緯により実効性を高めているかを把握することができるため有用
  • 取締役会の実効性評価の開示では、取締役会による経営者の監督状況、中期経営計画や経営上の重要な課題について議論されていることを確認している
  • スキルマトリックスは、取締役会等の実効性を確認するための原点となるストラクチャーであり、会社がガバナンス機能を発揮するために何を重視しているのかを明確に示すことができるため有用
  • 社外役員が議論にしっかりと参加し、その役割を発揮してもらうための社外役員を支える仕組みについて開示することは有用

また、開示の充実化が進展している企業の実例として次のような点が指摘されています。

  • 当年度の検討事項/取組み方針に対する主な取組み内容が具体的に記載されており、記載内容が充実
  • 検討事項ごとに、当年度の取組み方針及び主な取組み内容、その評価結果を踏まえた翌年度の取組み方針が時系列で図示され、検討事項への今後の取組み状況が分かりやすく記載されており開示が充実

(10)監査の状況

監査の状況において、投資家・アナリストが期待する開示のポイントは次の通りです。

  • 監査の状況は、会社のリスク管理の観点から非常に重要な項目と認識
  • 監査役による監査の実効性を確認する観点から、取締役会、監査役会以外の会議への監査役の出席状況の記載は有用
  • 監査役会等の活動状況について、例えば、監査役等がどこにリスクがあると認識し、そのリスクに対してのどのような対応策を検討したのか等、具体的な議論の状況を開示することは、監査役会等の取組みを理解することができるため有用
  • 内部監査の実効性確保のための体制整備として、デュアルレポーティングラインを構築・運用していることの開示は、リスクに対する会社の意識を理解することができるため有用
  • 会計監査人の監査品質は、企業情報の信頼性を確保するための基盤となる。このため、会社による会計監査人に対する評価のプロセスや結果が具体的に開示されることは有用
  • KAM8に関して、監査役が監査人とどのような議論を行ったのか、監査人のリスク認識等に対してどのような判断を行ったかについて具体的に開示することは有用

また、開示の充実化が進展している企業の実例として次のような点が指摘されています。

  • 監査役会の活動状況について、監査役会の1回あたりの平均所要時間、検討事項の内容が記載され、記載内容が充実
  • 監査役会等の活動内容を領域ごとに区分し、職務分担とともにわかりやすい記載がされており開示が充実

(11)役員の報酬等

役員の報酬等において、投資家・アナリストが期待する開示のポイントは次の通りです。

  • 現在の報酬水準に関する報酬委員会としての見解の開示は有用
  • 今後、監督と執行の分離が進むにつれて、執行側は、企業価値向上のためのより迅速な業務執行にフォーカスすることとなり、それに伴い報酬についても業績連動となることが期待される。そうした場合、執行側の報酬についても具体性・透明性を持った開示がなされることが重要
  • 例えば、株式による報酬等、金銭以外の報酬の割合が大きい場合においては、金銭報酬と併せて開示することは有用
  • 株式報酬のスキームを採用している場合には、当該スキームを導入した理由、算定式、報酬決定の基となる会社・役員個人の実績、報酬の支払実績が開示されることは有用
  • 長期インセンティブ型報酬のKPIは、会社の経営戦略・価値創造と結びついている指標であるかの観点が非常に重要。このため、会社が、どのような理由から当該指標を重視し、KPIとして設定したかを開示することは有用
  • 長期インセンティブ型報酬KPIへのESG指標の導入にあたっては、当該指標と中長期の企業価値との結びつき、企業の経営戦略との結びつきの観点が重要であり、そうした観点を持った上での開示は有用
  • 役員報酬の妥当性を確認する観点から、同規模の同業他社比は、客観的でわかりやすい指標であり有用

また、開示の充実化が進展している企業の実例として次のような点が指摘されています。

  • 報酬額の決定にあたっての報酬制度の仕組みや評価方法、業績指標の目標や実績も含めた具体的な記載へと開示が充実

(12)株式の保有状況

株式の保有状況において、投資家・アナリストが期待する開示のポイントは次の通りです。

  • 政策保有株式の削減予定や削減額の開示は、会社の状況を把握して議決権行使に当たっての判断に役立てるため、非常に重要な判断材料になることから、今後の政策保有株式の削減に向けた具体的な方針と併せて開示することは有用
  • 議決権行使の透明性の観点から、議決権行使基準を具体的開示していることは有用。加えて、こうした議決権行使の方針と併せて、議案に反対している事例があるか等、議決権行使結果の状況について開示することはより有用
  • 個別銘柄毎の保有目的は、テンプレートではない具体的な事業上の理由やメリットを記載することが重要
  • 政策保有株式を事業上の目的で保有する場合には、重要度に応じて、経営上の重要な契約にその内容を開示することが透明性の観点から有用

また、開示の充実化が進展している企業の実例として次のような点が指摘されています。

  • 政策保有株式を保有しない方針を明記するとともに、政策保有株式について、保有分と被保有分の両方の削減実績が図表により分かりやすく記載されており開示が充実

III. 今後の展望

今回の好事例集では、開示府令の改正により新設されたサステナビリティに関する考え方及び取組に関する事例が相当数取り上げられるとともに、開示内容の充実化が図られた項目に関する事例も紹介されています。また、2018年3月期から2022年3月期にかけて、上場企業全体の有価証券報告書の「事業の状況」及び「コーポレート・ガバナンスの状況等」の記載の平均文字数が34%増加し、特にプライム市場に上場しており、統合報告書を発行している企業ではこの傾向が顕著となっています。今後も開示の充実化の傾向が継続することが予期され、上場企業としては、新たな開示項目を含め、対応を進めていく必要があります。

1 開示府令の改正内容については、ジェネラル・コーポレート・プラクティス・ニュースレター(2023年4月)をご参照ください

2 3月24日、一定の分野に関する開示の好事例集及び開示の充実化が進展している企業の事例等の情報が追加され、更新がなされています(https://www.fsa.go.jp/news/r4/singi/20230324/20230324.html)。

3 開示内容を検討する際には、金融庁から公表された原文記載の事例(2023年3月24日更新版)(https://www.fsa.go.jp/news/r4/singi/20230324/01.pdf)をご参照ください。

4 国際サステナビリティ基準委員会

5 気候関連財務情報開示タスクフォース

6 株主総利回り

7 投下資本利益率

8 監査上の主要な検討事項

※記事の詳細については、以下よりPDFをダウンロードしてご覧ください。

主要メンバー

北村 導人

北村 導人

パートナー, PwC弁護士法人

山田 裕貴

山田 裕貴

パートナー, PwC弁護士法人

日比 慎

日比 慎

ディレクター, PwC弁護士法人

小林 裕輔

小林 裕輔

ディレクター, PwC弁護士法人

蓮輪 真紀子

蓮輪 真紀子

PwC弁護士法人

福井 悠

PwC弁護士法人