
不平等・社会関連財務情報開示タスクフォース(TISFD)の発足 ESG/サステナビリティ関連法務ニュースレター(2025年3月)
2024年9月23日に発足した、不平等・社会関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Inequality and Social-related Financial Disclosures:TISFD)の概要について説明します。
近時、日本を含む世界各国において、ESG/サステナビリティに関する議論が活発化する中、各国政府や関係諸機関において、ESG/サステナビリティに関連する法規制やソフト・ローの制定または制定の準備が急速に進められています。企業をはじめ様々なステークホルダーにおいてこのような法規制やソフト・ロー(さらにはソフト・ローに至らない議論の状況を含みます。)をタイムリーに把握し、理解しておくことは、サステナビリティ経営を実現するために必要不可欠であるといえます。当法人のESG/サステナビリティ関連法務ニュースレターでは、このようなサステナビリティ経営の実現に資するべく、ESG/サステナビリティに関連する最新の法務上のトピックスをタイムリーに取り上げ、その内容の要点を簡潔に説明して参ります。
今回は、金融庁が公表した「記述情報の開示の好事例集2022」の概要を紹介します。
金融庁は、2023年1月31日、「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(令和5年内閣府令第11号。以下「開示府令」といいます。)を公布、施行しました。この改正内容には、企業のサステナビリティに関する取組みやコーポレート・ガバナンスに関する開示の拡充を図る重要な改正が含まれており、2023年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用されます1。そして、同日付で「記述情報の開示の好事例集2022」(サステナビリティ情報等に関する開示)(以下「好事例集」といいます。)が公表されています2。
好事例集は、投資家と企業との建設的な対話に資する充実した企業情報の開示を促すため2018年度から開示の参考となる好事例を掲載し、公表されています。2022年度の好事例集では、開示府令の改正により、新たにサステナビリティに関する企業の取り組みの開示が求められることを踏まえ、かかる分野の開示の好事例が追加されたほか、企業の概況や提出会社の状況に関する事例も充実化が図られています。実際の各企業の開示事例を紹介しつつ、好ましい開示のポイントが指摘されており、上場企業が自社の開示の内容を検討する際に参考となり得るものです3。本稿では、好事例集の概要について紹介します。
好事例集では、投資家、アナリスト及び企業により議論された開示の好事例が取りまとめられ、有価証券報告書におけるサステナビリティ情報に関する開示例と事業の状況等に関する開示例に分け、以下の項目で構成されています。
有価証券報告書におけるサステナビリティ情報に関する開示例
「環境(気候変動関連等)」の開示例
「社会(人的資本、多様性等)」の開示例
事業の状況等に関する開示例
「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」の開示例
「事業等のリスク」の開示例
「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)」の開示例
「コーポレート・ガバナンスの概要」の開示例
「監査の状況」の開示例
「役員の報酬等」の開示例
「株式の保有状況」の開示例
記述情報の開示に関する充実化の動向
2023年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から、既存の開示項目に加え、次の項目について開示を行うことが求められます。好事例集においても、参考となる開示例が重点的に取り上げられており、これらの項目に関する開示内容を検討する際に参照することが有益です。
既存項目に加え、「女性管理職比率」、「男性育児休業取得率」、「男女間賃金格差」の各項目の開示が求められています。
サステナビリティ情報は、開示府令改正により新規に設けられた開示項目ですが、具体的には、「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標及び目標」の開示が求められます。なお、「戦略」並びに「指標及び目標」については、各企業が重要性を踏まえて開示を判断するものとされます。また、人的資本について、「人材育成方針」や「社内環境整備方針」及びこれらの方針に関する指標の内容や当該指標による目標・実績を開示するものとされています。
既存項目に加え、「取締役会、指名委員会及び報酬委員会等の活動状況」の開示が求められています。
既存項目に加え、「内部監査の実効性を確保するための取組(デュアルレポーティングを含む)」の開示が求められています。
好事例集には、「記述情報の開示の好事例に関する勉強会」に参加した投資家・アナリストが企業に期待する主なコメント及び開示のポイントがまとめられています。また、多数の企業の開示例が紹介されていますので、実際の開示例を参照しつつ、これらのコメント及びポイントを意識した開示を行うことにより、投資家及びアナリストの期待に応えることが可能となります。
また、今回の好事例集では、好事例集の公表が始まった2018年度から2022年度までの間において開示の充実化が進展している企業の事例等を盛り込んだ「記述情報の開示に関する充実化の動向」についても追加されています。投資家・アナリストが開示の充実を期待するポイントに言及されているほか、開示の充実化が進んでいる企業の事例及び進展していない企業の事例が挙げられています。
開示項目別に挙げられている主なコメント、開示のポイント及び開示の充実化が進んでいる企業の事例に関するコメントは、次の通りです。
具体的な開示項目別のポイントに先立ち、投資家・アナリストが開示の充実を期待するポイントとして挙げられているものは次の通りです。
サステナビリティ情報に関連して、個別の開示例における評価ポイント以外の投資家・アナリストからの主なコメントとして次のものが挙げられています。
気候変動関連等において、投資家・アナリストが期待する開示のポイントは次の通りです。
また、開示の充実化が進展している企業の実例として次のような点が指摘されています。
人的資本、多様性等において、投資家・アナリストが期待する開示のポイントは次の通りです。
また、開示の充実化が進展している企業の実例として次のような点が指摘されています。
事業の状況に関する開示全般に関連して、個別の開示例における評価ポイント以外の投資家・アナリストからの主なコメントとして次のものが挙げられています。
経営方針、経営環境及び対処すべき課題等において、投資家・アナリストが期待する開示のポイントは次の通りです。
また、開示の充実化が進展している企業の実例として次のような点が指摘されています。
事業等のリスクにおいて、投資家・アナリストが期待する開示のポイントは次の通りです。
また、開示の充実化が進展している企業の実例として次のような点が指摘されています。
MD&Aにおいて、投資家・アナリストが期待する開示のポイントは次の通りです。
また、開示の充実化が進展している企業の実例として次のような点が指摘されています。
コーポレート・ガバナンスの概要において、投資家・アナリストが期待する開示のポイントは次の通りです。
また、開示の充実化が進展している企業の実例として次のような点が指摘されています。
監査の状況において、投資家・アナリストが期待する開示のポイントは次の通りです。
また、開示の充実化が進展している企業の実例として次のような点が指摘されています。
役員の報酬等において、投資家・アナリストが期待する開示のポイントは次の通りです。
また、開示の充実化が進展している企業の実例として次のような点が指摘されています。
株式の保有状況において、投資家・アナリストが期待する開示のポイントは次の通りです。
また、開示の充実化が進展している企業の実例として次のような点が指摘されています。
今回の好事例集では、開示府令の改正により新設されたサステナビリティに関する考え方及び取組に関する事例が相当数取り上げられるとともに、開示内容の充実化が図られた項目に関する事例も紹介されています。また、2018年3月期から2022年3月期にかけて、上場企業全体の有価証券報告書の「事業の状況」及び「コーポレート・ガバナンスの状況等」の記載の平均文字数が34%増加し、特にプライム市場に上場しており、統合報告書を発行している企業ではこの傾向が顕著となっています。今後も開示の充実化の傾向が継続することが予期され、上場企業としては、新たな開示項目を含め、対応を進めていく必要があります。
1 開示府令の改正内容については、ジェネラル・コーポレート・プラクティス・ニュースレター(2023年4月)をご参照ください
2 3月24日、一定の分野に関する開示の好事例集及び開示の充実化が進展している企業の事例等の情報が追加され、更新がなされています(https://www.fsa.go.jp/news/r4/singi/20230324/20230324.html)。
3 開示内容を検討する際には、金融庁から公表された原文記載の事例(2023年3月24日更新版)(https://www.fsa.go.jp/news/r4/singi/20230324/01.pdf)をご参照ください。
4 国際サステナビリティ基準委員会
5 気候関連財務情報開示タスクフォース
6 株主総利回り
7 投下資本利益率
8 監査上の主要な検討事項
※記事の詳細については、以下よりPDFをダウンロードしてご覧ください。
2024年9月23日に発足した、不平等・社会関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Inequality and Social-related Financial Disclosures:TISFD)の概要について説明します。
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