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近時、日本を含む世界各国において、ESG/サステナビリティに関する議論が活発化する中、各国政府や関係諸機関において、ESG/サステナビリティに関連する法規制やソフト・ローの制定または制定の準備が急速に進められています。企業をはじめ様々なステークホルダーにおいてこのような法規制やソフト・ロー(さらにはソフト・ローに至らない議論の状況を含みます。)をタイムリーに把握し、理解しておくことは、サステナビリティ経営を実現するために必要不可欠であるといえます。当法人のESG/サステナビリティ関連法務ニュースレターでは、このようなサステナビリティ経営の実現に資するべく、ESG/サステナビリティに関連する最新の法務上のトピックスをタイムリーに取り上げ、その内容の要点を簡潔に説明して参ります。
今回は、以下のトピックについてご紹介します。
I. グリーン・トランジションに向けた消費者の権利に関する指令案に関する欧州評議会・欧州議会の暫定合意
II. G20/OECDコーポレート・ガバナンス原則の改訂
2023年9月19日、欧州議会及び欧州評議会は、グリーン・トランジションに向けて消費者の権利を強化することに関する指令案1(以下「本指令案」といいます。)に関して、暫定的な政治合意に達した旨を公表しました2。本指令案は、不明確、あるいは客観的な根拠に裏付けられない環境に関する主張(いわゆるグリーン・ウォッシング)を防止し、消費者が十分な情報を得た上で購買活動に関する決定を下すことができるようにすることで、サステナブルな消費活動に資することを目的とするものです。具体的には、EU域内における消費者の利益を保護するための一般的なルールを定めたEU指令である①不公正な取引方法に関する指令(the Unfair Commercial Practices Directive3)(以下「不公正取引方法指令」といいます。)及び②消費者権利指令(the Consumer Rights Directive4)(以下「消費者権利指令」といいます。)に、環境等に関する主張に関する規律を組み込むことを内容とするものです。
なお、環境に関する主張に関しては、別途、Green Claims Directiveと題する指令案5も公表されており、これは、本指令案で提案されている不公正取引方法指令の改正を補完し、より具体的な規律を定めようとするものであり、併せてその動向が注目されます。
不公正取引方法指令では、消費者の経済的利益に悪影響を与える不公正な取引方法に関する一般的なルール(例えば、ミスリーディングな取引等を含む不公正な取引方法の禁止)が定められています6。本指令案では、かかる不公正取引方法指令における既存のルールに、環境等に関する主張に関する規律が組み込まれています。その内容としては、例えば、以下のようなものが挙げられます。
消費者保護指令では、(a)隔地者間の取引や事業所外の取引(a distance or off-premises contract)であるか、(b)かかる取引でない取引であるかに応じて、①契約締結に先立ち消費者に提供しなければならない情報の内容や、②消費者の契約の取消権等について一定のルールを定めています。
本指令では、上記(a)及び(b)の双方の類型の取引において、消費者との契約に当たって提供しなければならない情報として、(i)商品の耐久性や修理可能性に関する情報、(ii)製造者による保証の存在や期間に関する情報、(iii)商品がソフトウェア等のデジタル関連のものである場合には、ソフトウェアのアップデートの期間等に関する情報、(iv)EU法の下で確立された手法による修理可能性に関するスコアについての情報を新たに加える旨が提案されています。
今後、欧州議会及び欧州評議会は、本指令案を正式な承認に諮ることとなります。本指令の正式な承認の後、EU加盟国は、18か月以内に本指令を実現するための国内法を制定・公布し、本指令の正式な承認の24か月後からこれらの適用が開始される予定です。
消費者の、環境への意識が高まる中、企業として環境に関する配慮を消費者に情報提供をすることが効果的なマーケティングとなり得る一方、実態を伴わない環境配慮のアピール(グリーン・ウォッシング)に対する視線も厳しくなっており、日本企業としても、各国における法改正の動向を踏まえながら7、グリーンウォッシングに対する適切な対応を行っていくことが求められます。
G20/OECDコーポレート・ガバナンス原則(以下「本原則」といいます。)8は、コーポレート・ガバナンスに関する国際的な標準として、コーポレート・ガバナンスに関する法的・規制的・制度的な枠組みを評価・改善するための指針を各国の政策立案者に提供し、経済の効率性、持続可能な成長および金融の安定性を支援することを目的としています。本原則は、1999年に初めて公表され、2004年と2015年の改訂を経た後、近年の動向を反映するため、2021年より見直しが行われてきました。当該見直しを踏まえて、今般の改訂版が、2023年6月にOECD理事会で採択され、2023年9月にG20参加国の承認を経て公表されました9。
今般の改訂は、①会社によるグローバルな資本市場からの資金調達の支援、②投資家を保護するための枠組みの提供および③会社・より広い経済における持続可能性(sustainability)・強靭性(resilience)の支援の3点を主要な目的としています(本原則における「本原則について(About the Principles)」6-7頁)。本原則(2023年改訂版)においては、株主の権利、機関投資家の役割、会社の情報開示・報告、取締役会の責任等の諸領域において推奨事項が追加・更新されるとともに、特に、気候変動関連その他持続可能性のリスクと機会を管理するための持続可能性と強靭性に関しては、独立した新たな章(第VI章)が設けられました。
本稿では、本原則(2023年改訂版)の概要を紹介します。
本原則は、6つの章に分かれており、各章においてコーポレート・ガバナンスに関する推奨事項が列挙されています。本原則の骨子は、以下のとおりです。
コーポレート・ガバナンスの枠組みは、透明で公平な市場と効率的な資源の配分を促進すべきであり、また、法の支配に整合し、効果的な監督と執行を促進すべきである。
コーポレート・ガバナンスの枠組みは、少数派株主および外国の株主を含むすべての株主に関して、それらの権利を保護し、その行使を容易にし、かつ公平な取り扱いを確保すべきである。また、株主には、権利が侵害された場合に、合理的な費用で、かつ過度な遅延なく、効果的な救済手段を講じ得る機会が付与されるべきである。
コーポレート・ガバナンスの枠組みは、投資の連鎖の全般にわたって健全なインセンティブを提供し、株式市場が良好なコーポレート・ガバナンスに寄与する方法で機能すべきである。
コーポレート・ガバナンスの枠組みは、会社に関する財務状況、業績、持続可能性、持分権およびガバナンスを含む、すべての重要な事項について、適時かつ正確な開示がなされることを確保すべきである。
コーポレート・ガバナンスの枠組みにより、会社の戦略的方向付け、取締役会による経営陣の有効なモニタリング、取締役会の会社および株主に対する説明責任が確保されるべきである。
コーポレート・ガバナンスの枠組みは、会社と投資家が持続可能性・強靭性に寄与する方法で意思決定を行い、リスクを管理するためのインセンティブを提供すべきである。
1 本指令案(Proposal for a DIRECTIVE OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL amending Directives 2005/29/EC and 2011/83/EU as regards empowering consumers for the green transition through better protection against unfair practices and better information)は、2022年3月に欧州委員会から欧州評議会に提出されていたものです。
2 欧州議会のプレスリリース(https://www.europarl.europa.eu/news/en/press-room/20230918IPR05412/eu-to-ban-greenwashing-and-improve-consumer-information-on-product-durability)
及び欧州評議会のプレスリリース
(https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2023/09/19/council-and-parliament-reach-provisional-agreement-to-empower-consumers-for-the-green-transition/)参照
3 Directive 2005/29/EC of the European Parliament and of the Council of 11 May 2005 concerning unfair business-to-consumer commercial practices in the internal market and amending Council Directive 84/450/EEC, Directives 97/7/EC, 98/27/EC and 2002/65/EC of the European Parliament and of the Council and Regula
4 Directive 2011/83/EU of the European Parliament and of the Council of 25 October 2011 on consumer rights, amending Council Directive 93/13/EEC and Directive 1999/44/EC of the European Parliament and of the Council and repealing Council Directive 85/577/EEC and Directive 97/7/EC of the European Parliament and of the Council
5 Proposal for a DIRECTIVE OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL on substantiation and communication of explicit environmental claims
6 EU加盟国は、不公正取引方法指令に沿う形で各国の国内法を整備することが義務づけられています。
7 なお、日本の現行法下においては、根拠のない環境に関する表示については、その態様によっては、不当景品類及び不当表示防止法における優良誤認表示規制(同法5条1号)の規制対象となり得ます。また、事業者等から消費者に向けて発信される様々な環境情報に関するガイドラインとして、環境省から「環境表示ガイドライン」(https://www.env.go.jp/policy/hozen/green/ecolabel/guideline/guideline.pdf )が公表されています。
8 G20/OECD Principles of Corporate Governance(https://www.oecd.org/corporate/principles-corporate-governance/)
9 本原則の実践状況として、49の国・地域におけるコーポレート・ガバナンスに係る法的・規制的・制度的な枠組みを紹介するOECD コーポレート・ガバナンス・ファクトブックの2023年改訂版も併せて公表されました。
OECD Corporate Governance Factbook 2023(https://www.oecd.org/corporate/principles-corporate-governance/)
10 気候関連など持続可能性に関する機会とリスクへの会社の対処の困難性が高まっている昨今の状況を踏まえて今般の改訂において新設された章であり、改訂前に存在した、コーポレート・ガバナンスにおけるステークホルダーの役割(The Role of Stakeholders in Corporate Governance)の章の趣旨も組み込まれています。
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