Form F-4とは、株主総会で承認が必要となる一定の取引において、米国証券取引委員会(SEC)に米国外の企業(Foreign Private Issuer〈FPI〉)が登録するときに使用する届出書を指します。注意すべきは、米国の株式市場に上場していない日本国内の上場会社同士の統合や再編であっても、場合によってはSECへのForm-F-4提出が必要となることです。対象となる組織再編には、一般的に、吸収合併、新設合併、株式移転や株式交換などの株式を対価とする合併や企業買収が含まれます。現金等の金銭を対価とする公開買い付けによる企業買収は、一般的に対象とはなりません。
SECがForm F-4提出を要求する背景には、米国に居住する株主が、対象となる組織再編で正しく議決権を行使できるように、彼らを保護する目的があると思われます。なお、組織再編の対象企業の米国居住株主が10%以下の場合は、Form F-4提出を免除される場合もありますが、その判定は非常に複雑です。実際にForm F-4の提出が必要か否かについては、SECルールに精通した米系弁護士事務所と相談する必要があると思われます。
では、組織再編取引でSECにForm F-4を提出する場合、この作成にはどれくらいの時間を要するでしょうか。私たちの経験では、通常6カ月~2年の準備期間が必要となります。その理由として、以下の対応を求められるからです。
Form F-4ドラフティングを成功裏に進めるためには、Form F-4を提出する前に重要な論点をSECに相談し、これを踏まえてクオリティーの高いForm F-4ドラフトを効率的に作成していくことが、その後のSECからのコメントの軽減にもつながり、重要であると考えます。SECのコメントへの対応を3カ月ほどでクリアできない場合には、さらに直近のIFRSやUS GAAPに準拠した連結財務諸表の追加提出を求められる可能性が生じ、統合時期が大きく遅れてしまうおそれがあります。そのため、SECのレギュレーションおよびSECのコメント対応の経験があり、包括的なプロジェクトマネジメントを提供できる弁護士事務所および会計アドバイザーの早期任命が不可欠であると考えます。
なお、SECの監査人に対する独立性の規制は日本の独立性の規制よりも厳しいため、通常は会計監査人とは異なる会計アドバイザーを採用し、IFRSまたはUS GAAPに準拠した財務諸表作成および非財務情報の作成が行われることになります。
PwCは過去、数々のForm F-4プロジェクトに会計アドバイザーとして携わってきました。特に、Form F-4提出を含むSEC対応プロセスを俯瞰的に策定する知見や、IFRSやUS GAAPへの会計基準コンバージョンの効率的な進め方、当該企業を含む多数の利害関係者との調整やプロジェクト管理などに強みを持ち、多くのプロジェクトをリードした経験があります。なお、Form F-4提出というSECコンプライアンスを目的としたIFRSへの会計基準コンバージョンは、日本でのIFRS導入のきっかけともなります。ぜひ、私たちの経験をご活用いただき、Form F-4提出に向けた論点の洗い出しやプロジェクトスケジュールの策定などで貢献できれば幸いです。
パートナー, PwC Japan有限責任監査法人