組織再編における連結・持分法会計の検討―事例の紹介とともに

はじめに

グローバルで競争が激化する中、生き残りをかけて、重点事業領域への社内資源の再配置や、戦略的M&Aによる組織再編を検討する日本企業が増加しています。組織再編の例としては、競業他社との企業統合、特定の事業の全部または一部の他社への承継、株式の取得による親子会社関係の形成など、複数のスキームが挙げられます。その手法には、合併、株式移転、株式交換、会社分割などがあります。

組織再編の検討の初期段階では、組織再編のスキームを構築する必要があります。この際に会社法などへの準拠や税務上のメリット・デメリットを確認するために、法的および税務的な側面からのスタディを慎重に実施する一方で、会計上のスタディはスキーム作りが完了した段階で初めて実施するケースが少なくないと思われます。

本稿では、連結・持分法会計の観点から、他の投資者との共同投資に関する契約条件が、組織再編後の投資者の財務諸表に与える影響とその事例を紹介します。

なお、本稿は国際財務報告基準(IFRS)における「連結・持分法会計」の考え方を前提に記載しています。

1 IFRSにおける「支配」および「重要な影響力」と「連結・持分法会計」の関係性

図表1は、IFRSにおける「連結・持分法会計」の判定プロセスをフローチャート化したものです。例えば、投資先を単独で「支配」していると判定された場合には、投資先は連結子会社となり、投資先の財務諸表が投資者の連結財務諸表に総額で取り込まれることになります。単独では支配していないが「重要な影響力」を有していると判定された場合には、持分法適用会社となり、投資先の純資産や純利益が投資比率に応じて投資者の連結財務諸表に純額で取り込まれることになります。

このように、「支配」や「重要な影響力」の有無といった事実関係に応じて、投資者の連結財務諸表へのインパクトが大きく異なる場合があります。特にIFRSでは、投資者が取得した議決権の割合以外の多くの要素を加味して、「支配」や「重要な影響力」などの有無を最終的に判定するため、組織再編前にどのような会計処理が適用されるかを押さえておくことが必要です。

2 組織再編における連結・持分法会計の検討事例

連結・持分法会計の検討が必要になる組織再編には、いくつかの形態が考えられますが、会社分割や事業譲渡といったカーブアウト案件が検討対象となることもあります。カーブアウトとは、企業が戦略的な意図を持って、子会社や事業部門を企業の外部に切り出すことを意味します。

図表2のようなカーブアウト後に、A社およびB社の対象会社への投資比率が50%ずつとなる場合(A社からB社への対象会社の持分売却や対象会社の第三者割当増資)など、連結・持分法会計上の取扱いについて特に慎重な検討を要する場合もあります。

また、両社の持分比率がそれぞれ50%であっても、実務上は、一方の投資者(A社)は投資先を連結子会社とすることを強く意図していますが、他方の投資者(B社)は投資先に重要な影響力さえ保持できれば、連結子会社ではなく持分法適用会社で良しとするケースも見られます。このような場合には、A社が投資先を「支配」していると判定される可能性が高くなる条件のもと、両社間で株主間契約を締結することが、ディール成立の必要条件(いわゆる「クロージング条件」)の一つとなります。具体的な事例については、下記(3)で紹介します。

(1)IFRSにおける「支配」の考え方

図表1で示した「支配」の考え方は、連結の基礎となる原則です。投資先の目的および設計、関連性のある活動およびその意思決定なども考慮し、図表3の三つの要素を全て満たす場合のみ、投資先を「支配」していると判定されます。

両社において投資先からのリターンが同等であるとすると、特に「パワー」に着目して、一方の投資者(A社)が投資先を支配する構成とすることが重要です。IFRS第10号「連結財務諸表」は、投資者が投資先を支配するためには、投資先に対するパワーを有する必要があると規定しています。パワーは、投資先の関連性のある活動を指図する現在の能力を与える既存の権利から生じるとされています。従って、投資者が投資先に対するパワーを有しているかを判定する場合は、実質的な権利および防御的でない権利のみを考慮しなければなりません。

(2)投資先の取締役会に対する支配

一方の投資者(A社)が投資先を支配するためには、両社の持分比率が50%ずつであっても、例えば、株主間契約によりA社に投資先の取締役会を支配する能力を提供し、投資先の重要な意思決定が取締役会に委ねられているか否かがポイントとなることがあります。

そこで、A社およびB社の投資先に対する権利が実質的な権利であるか、または、防御的な権利であるか、という観点から、取締役会の承認事項(図表5(P9)で取締役会の承認を要する項目の一例を示しています)を項目ごとに整理し、A社・B社間で合意する必要があります。

図表4(P8)で示したように、防御的な権利は、実質的な権利とは異なります。防御的な権利は、投資先に対するパワーを保有者に与えることなく、当該権利の保有者の利益を保護するように決定されます。従って、防御的な権利のみを有する投資者は、投資先に対するパワーを持つことはできず、他者が投資先に対するパワーを持つことも阻止できないことに留意が必要です。

(3)具体的な検討事例

PwCは、図表2(P7)で示したような案件に複数関与しています。ここでは、1社(A社)が1つの事業をカーブアウトした後、2社(A社とB社)が当該事業(対象会社)への持分比率を50%ずつとして投資を行うケースを題材に、具体的な検討事例を紹介します。なお、支配の判定においては、全ての事実関係・状況を考慮した広範な検討・判断が必要です。以下の事例は、業務イメージを紹介する目的であり、実際に把握する事実関係や検討を行うべきポイントのうち、一部のみの抜粋になっていることにご留意ください。

一方の投資者が共同投資先を連結子会社と判定した事例(海外事例)

前提

対象会社の取締役会は8人の取締役で構成されており、株主間契約上、A社およびB社がそれぞれ4人の取締役を任命する権利を有するとします。株主間契約のその他の主要な条項は、次のとおりです。

  • A社は、3人の社外取締役と4人目の取締役を兼務するCEOを選任する権利を有する。
  • A社は、B社の承認なしにいつでもCEOを任命および解任する一方的な能力を有する。
  • A社は、社外取締役3名のうち1名を取締役会の議長に指名する権利を有する。
  • 過半数の投票を必要とする取締役会の投票結果が同数になった場合、議長は、裁決する権利を有するものとする。
  • B社は、社外取締役のみを選任する権利を有する。

ポイント

一般的に、取締役会の承認を要する項目は、予算、報酬、資本的支出・リース、契約、業務提携、組織再編、訴訟、増資などが考えられます。これらの項目ごとに、実質的な権利とはどのような範囲を指すのかを具体的に検討することが必要です。

実務上、通常の事業過程における意思決定が可能となる範囲(取締役会の過半数の賛成、3分の2以上の賛成など)をどのように設定するのかが、困難であることが多いように思われます。

また、例えば、他の企業の完全子会社化や他の企業との合併、清算などについて取締役会の全員の賛成が必要な場合を設け、A社・B社にとって防御的な権利を確保しておくことも実務上は重要な視点になります。

上記ポイントについての検討

この事例では、A社およびB社がそれぞれ取締役を4名ずつ指名できるものの、A社が実質的に議長を指名できるため、取締役会で多数決を行う際にA社の意向が反映される可能性が高い状況にあります。そのため、ディール成立前の議論では、取締役会の3分の2以上の賛成をもって行う決議が実質的な権利に該当するかについて多くの時間が割かれました。取締役会の3分の2以上の賛成をもって行う決議の内容を通常のビジネス上の決定ではなく、株主の持つ防御的な権利に該当すると説明したいA社と、投資先に重要な影響力を保持したいB社間で、決議の金額基準を何度も協議した事例がありました。

PwCが関与した案件では、このような取締役会の承認を要する項目に関連し、2社のどちらが実質的な権利を有するのかについて項目ごとに議論し、一方の企業が投資先を連結子会社として取り扱うことが認められる可能性が高いと考えられる形で、2社が合意してディールが成立した事例もあります。図表5では、取締役会の承認を要する項目に関する検討事例の一部を示しています。

3 おわりに

本稿では、投資者間の契約条項がIFRS上の会計処理(連結・持分法会計)に与える影響についての検討事例を紹介しました。実際のディールでは、日本や米国の会計基準に基づく検討、それ以外の関連項目の検討も併せて実施する必要がありますが、重要な点は、組織再編の検討の初期段階(スキーム構築段階)で法務面および税務面だけでなく、会計面からの検討も行うことです。それにより、投資者は当初意図した形で投資先の財務諸表を投資者の連結財務諸表に取り込むことが可能になると思われます。

私たちの知見を有効にご活用いただき、皆さまの戦略的M&Aによる組織再編の成功に貢献できれば幸いです。


執筆者

厨子 君太朗

ディレクター, PwC Japan有限責任監査法人

Email

田野 雄一

シニアマネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

Email