「中間財務諸表に関する会計基準(案)」等の公表について

  • 2024-04-25

はじめに

2023年12月15日に企業会計基準委員会(以下、ASBJ)から企業会計基準公開草案80号「中間財務諸表に関する会計基準(案)」(以下、中間会計基準案)並びに「中間財務諸表に関する会計基準の適用指針(案)」(以下、中間適用指針案。中間会計基準案とあわせて以下、中間会計基準案等)が公表されました。これは、四半期開示の見直しによりこれまでの第1・第3四半期報告書は廃止され、残る第2四半期報告書は「半期報告書」として提出することを含め金融商品取引法が改正されたことを受けて公表されたものです。

公表された中間会計基準等は、基本的に企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準」(以下、四半期会計基準)および企業会計基準適用指針第14号「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」(以下、四半期適用指針。四半期会計基準とあわせて以下、四半期会計基準等)の会計処理および開示を引き継ぎながら、中間財務諸表に係る取扱いと四半期会計基準等の取扱いに差異が生じる可能性がある項目については、従来の四半期会計基準等に基づく取扱いが継続して適用可能となる経過措置を提案しています。

なお、文中の意見は筆者の私見であり、PwC Japan有限責任監査法人および所属部門の正式見解ではないことをお断りします。

1 中間会計基準案等の概要

(1)目的および対象

公表された中間会計基準案等は、上場企業に開示義務が残る第2四半期報告書を半期報告書として提出する際に開示する中間連結財務諸表または中間個別財務諸表(以下、中間財務諸表)に係る会計処理および開示の定めを提案しています。

なお、金融商品取引法上は四半期報告制度は廃止されますが、上場会社においては引き続き取引所規則に基づき第1・第3四半期決算短信の報告が行われるため、今後、「(仮称)期中財務諸表に関する会計基準等」の開発が行われるまでの間、四半期会計基準等は適用を終了しないことを予定しています※1

中間会計基準案等の適用の対象となるのは、金融商品取引法第24条の5第1項の表の第1号に掲げる上場会社等および、同項ただし書きにより上場会社等と同等の半期報告書を提出する第3号に掲げる非上場会社になります(中間会計基準案第4項)。なお、従前より特定事業会社および四半期財務諸表を提出していない非上場会社において作成が義務付けられている中間財務諸表については、引き続き中間連結財務諸表作成基準、中間連結財務諸表作成基準注解、中間財務諸表作成基準および中間財務諸表作成基準注解が適用されます(中間会計基準案BC10項)。

(2)新設される半期報告書と中間財務諸表等との関係

中間会計基準案等は、新設される半期報告書に記載される中間財務諸表等に対して適用することを前提に開発されています。半期報告書制度の概要は次のとおりです。

中間財務諸表等を含む半期報告書制度の概要(中間会計基準案BC3項)

(1)半期報告書では中間会計期間(6カ月間)を1つの会計期間とした中間財務諸表を作成する。

(2)従前の四半期報告書と同様に、中間会計期間終了後、45日以内の政令で定める期間内での提出が求められる。

(3)「財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」および「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」の改正案は、ディスクロージャーワーキング・グループ報告(「上場企業の半期報告書については、現行と同様、第2四半期報告書と同程度の記載内容とする」)に基づき作成する。

中間会計基準案等は、改正後の金融商品取引法に基づく中間財務諸表に適用されるため、中間会計基準の適用時期は改正後の金融商品取引法の規定が最初に適用される半期報告書における中間会計期間としています(中間会計基準案第37項、BC20項)。改正後の金融商品取引法の施行日は2024年4月1日を予定しています(金融商品取引法等の一部を改正する法律(令和5年法律第79号。以下、改正法)附則第1条第3項。図表1)。

改正法の規定に基づく半期報告書は、施行日以後開始する事業年度に係るものから提出する必要があります(改正法附則第3条第1項)。

なお、施行日前に事業年度が開始し、かつ、施行日以後に第2四半期会計期間が開始する会社(12月期決算会社、1月期決算会社および2月期決算会社)については、当該四半期会計期間が属する事業年度に係るものから、改正後の規定に基づく半期報告書を提出する必要があります(改正法附則第3条第2項)。

2 四半期財務諸表に関する取扱いの承継

次に、中間会計基準案等の概要を解説します。

中間会計基準案等は基本的に四半期会計基準等の会計処理および開示を引き継ぐこととしており(中間会計基準案BC5項)、中間会計基準案等が適用される中間財務諸表においては、これまでに公表された会計基準等における四半期財務諸表に関する会計処理および開示の定め(本会計基準及び適用指針が定めている会計処理および開示は除く)も引き継ぐことが考えられるため、他の会計基準等における四半期財務諸表に関する定めを中間財務諸表に関する定めに読み替えることとしています(中間会計基準案第38項、BC21項、中間適用指針案BC5項)。

3 中間財務諸表において現行の四半期財務諸表の取扱いとの差異を生じさせないための経過措置

上述のように中間会計基準案等は基本的に四半期会計基準等の会計処理および開示を引き継いでいますが、中間会計期間において期首からの6カ月間を1つの会計期間として報告する場合は、現行の四半期ごとに報告を行った場合の結果と差異が生じる可能性があります。

そこで、このような報告頻度による取扱いの相違が生じることを避けるために、中間会計基準案等は次の項目について、従来の四半期会計基準等に基づく取扱いが継続して適用可能となる取扱いを定めることを提案しています(中間会計基準案BC8項)。

(1)原価差異の繰延処理(中間会計基準案第17項)

(2)子会社の取得または売却した場合等のみなし取得日またはみなし売却日(中間会計基準案第20号)

(3)有価証券減損に係る中間切放し法(中間適用指針案第4項)

(4)棚卸資産の簿価切下げに係る切放し法(中間適用指針案第7項)

(5)一般債権の貸倒見積高の算定における簡便的な会計処理(中間適用指針案第3項)

(6)未実現損益の消去における簡便的な会計処理(中間適用指針案第28項)

これらの項目の概要はそれぞれ次のとおりです。

(1)原価差異の繰延処理(中間会計基準案第17項)

原価差異の繰延処理は、予定価格等または標準原価が年間を基礎に設定されており、操業度等が季節的に大きく変動するために発生する原価差異で、原価計算期間末である年度末までにほぼ解消が見込まれる場合に、継続適用を条件として、当該原価差異を流動資産または流動負債として繰り延べることを認める会計処理です。四半期会計基準では、一定の条件を満たした場合に継続適用を条件に四半期特有の会計処理として認めることとしていました。

中間会計基準案等が定める中間財務諸表は会計期間が期首から6カ月であり、より短い会計期間(3カ月)の四半期決算について定めた四半期会計基準とは前提が異なると考えられたため、取扱いについて検討がされました。検討の結果、中間会計基準案等において、仮に当該処理を廃止した場合、従来の四半期での実務が継続して適用可能となる取扱いを定めるという方針と整合しないため、四半期会計基準等の取扱いを踏襲し、中間特有の会計処理として繰延処理を認めています(中間会計基準案BC14項)。

(2)子会社の取得または売却した場合等のみなし取得日またはみなし売却日(中間会計基準案第20項)

企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」において、支配獲得日、株式の取得日または売却日等が子会社の決算日以外の日である場合は、当該日の前後いずれかの決算日に支配獲得、株式の取得または売却等が行われたものとみなして処理することができるとしています。改正後の金融商品取引法では四半期報告書制度が廃止されることから、廃止される四半期決算日を中間会計基準案等においてみなし取得日と認めるかが検討されました。

その結果、中間会計基準案等では、「みなし取得日」の決算日等に、「期首、中間会計期間の末日又は中間会計期間の期間内で適切に決算が行われた日を含む」とすることにより、四半期会計基準等において認められていた四半期決算日がみなし取得日に含まれることとしました(中間会計基準案BC16項、17項)。

(3)有価証券減損に係る中間切放し法(中間適用指針案第4項)

四半期適用指針において、有価証券の減損処理に係る方法として、継続適用を条件に四半期切放し法と四半期洗替え法の選択適用を認めています。四半期切放し法とは、減損処理を行った後の四半期会計期間末の帳簿価額を時価等に付け替えて、当該銘柄の取得原価を修正する方法です。また、四半期洗替え法とは、四半期会計期間末における減損処理に基づく評価損の金額を翌四半期会計期間の期首に戻し入れ、当該戻し入れ後の帳簿価額と四半期会計期間末の時価等を比較して減損処理の要否を検討する方法です(四半期適用指針第4項)。

中間会計基準案等では、期首から6カ月間を1つの会計期間(中間会計期間)とする会計処理を定めることを原則としたため、四半期切放し法および四半期洗替え法に代えて、中間切放し法および中間洗替え法の適用を認めることとしました(中間適用指針案第4項および第7項)。ここで、現行の四半期適用指針に基づき有価証券の減損処理に係る方法として四半期切放し法を適用している会社においては、第1四半期決算で減損を計上する場合に、現行の四半期切放し法による第2四半期決算の会計処理と中間切放し法とで、会計処理の結果が異なると考えられます。

これについて、会計処理の見直しにより企業の実務負担が生じることがないよう、中間適用指針を適用する前に現行の四半期適用指針に基づき有価証券の減損処理に係る方法として四半期切放し法を適用している会社においては、中間適用指針案第4項の定めにかかわらず、第1四半期決算で切放し法を適用したものとして中間会計期末において切放し法を適用することができるという経過措置が設けられています(中間適用指針案62項、BC2項)。

(4)棚卸資産の簿価切り下げに係る切放し法(中間適用指針案第7項)

四半期適用指針において、棚卸資産の簿価切下げに係る方法として年度決算において切放し法を採用している場合について、継続適用を条件に切放し法と洗替え法の選択適用を認めています(四半期適用指針第7項)。

中間会計基準案等では、期首から6カ月間を1つの会計期間(中間会計期間)とする会計処理を定めることを原則としたため、四半期切放し法および四半期洗替え法に代えて、中間切放し法および中間洗替え法の適用を認めることとしました(中間適用指針案第4項および第7項)。

この場合、現行の四半期適用指針に基づき棚卸資産の簿価切下げに係る方法として四半期切放し法を適用している会社においては、第1四半期決算で評価損を計上する場合に、現行の四半期切放し法による第2四半期決算の会計処理と中間切放し法とで会計処理の結果が異なると考えられます。これについて、会計処理の見直しにより企業の実務負担が生じることがないよう手当がされています。中間適用指針案を適用する前に現行の四半期適用指針に基づいて切放し法を適用していた場合、中間適用指針案第7項の定めにかかわらず、棚卸資産の簿価切下げについて第1四半期の末日において切放し法を適用したものとして中間会計期間末において切放し法を適用することができるという経過措置が設けられています(中間適用指針案63項、BC2項)。

(5)一般債権の貸倒見積高の算定における簡便的な会計処理(中間適用指針案第3項)

四半期適用指針においては、一般債権の貸倒見積高の算定における簡便な会計処理として、前年度末または前四半期会計期間から著しく変動していないと考えられる場合は、前年度末または前四半期会計期間において算定した貸倒実績率を使用することが認められています(四半期適用指針第3項)。

これについて、中間会計基準案等において、より開示の迅速性が求められることから簡便的な会計処理を引き継ぐこととしました(中間適用指針案第3項および第28項)。また、会計処理の見直しにより企業の実務負担が生じることがないよう、中間適用指針案第3項の定めにかかわらず、第1四半期の貸倒実績率と著しく変動していないと考えられる場合は、第1四半期の貸倒実績率等の合理的な基準を使用して中間会計期間末における一般債権に対する貸倒見積高を算定することができるという経過措置が設けられています。

改正後の金融商品取引法では四半期報告書制度が廃止されるため、前四半期の決算で算定した基準等を中間会計期間において使用するのは、決算日以外の期中の特定日において算定した実積率を使用することになり、使用する実積率として適切ではないと考えられます。しかしながら、簡便的な会計処理は財務諸表利用者の判断を誤らせないことを条件に認められた(四半期会計基準第9項、第20項)ものであり、引き続き当該簡便的な会計処理を認めたとしても財務諸表利用者の判断を誤らせるものではないと考えられるため、この定めが設けられています(中間適用指針案第61項、BC3項)。

(6)未実現損益の消去における簡便的な会計処理(中間適用指針案第28項)

四半期適用指針においては、未実現損益の消去における簡便的な会計処理として取引状況に大きな変化がないと認められる場合に、前年度末または前四半期会計期間の損益率を四半期決算で使用することが認められています(四半期適用指針第30項)。

これについて、中間会計基準案等では、会計処理の見直しにより企業の実務負担が生じることがないよう、第1四半期から取引状況に大きな変化がないと認められる場合は、連結会社相互間の取引によって取得した棚卸資産に含まれる中間会計期間末における未実現損益の消去について、第1四半期における損益率を使用して計算することができるという経過措置が設けられています(中間適用指針案第64項、BC3項)。


※1 【ASBJ解説動画】企業会計基準公開草案第80号「中間財務諸表に関する会計基準(案)」等の概要 今後の基準開発の方向性
https://youtu.be/PD4YMukrxus


執筆者

PwC Japan有限責任監査法人
コーポレート・レポーティング・サービス部
シニアマネージャー 髙野 泰彦