PwCコンサルティング合同会社のデータアナリティクスチームでは、2023年5月に日本国内企業の生成AI活用に関する動向調査を行い、その結果を取りまとめた「生成AIに関する実態調査2023※1」(以下、前回調査)を公表しました。この調査結果では、生成AIを認知している回答者は全体の54%程度にとどまり、また認知層についてもビジネスにおける生成AI活用についてはまだこれからという様子が感じられる内容でした。しかしながら前回の調査結果を公表して以降、さまざまな生成AIのツールやアプリの登場、G7広島サミットでの広島AIプロセスの立ち上げ、戦争や政治に関連したフェイクニュースの拡散など、わずか半年の間にも生成AIに関する話題は絶えることなく、急速な普及とともに生成AIを取り巻く実態は大きく変化しています。
このような状況を受けて、データアナリティクスチームでは、前回の実態調査から半年を経て、各社の生成AIに対する認知度や生成AI活用の推進度合いの変化、実際に各社が推進・検討する生成AIのユースケース、ならびに日本企業が直面する現状の課題などを明らかにすることを目的に、「生成AIに関する実態調査2023 秋※2」を実施し、2023年12月に発表しました。
本稿では、こちらの実態調査結果を引用しながら、生成AI活用に向き合う企業についての4つのインサイトと、それを受けて今後企業に求められるアクションを紹介します。
なお、文中の意見に関する部分は筆者の私見であり、PwCコンサルティング合同会社および所属部門の正式見解ではないことをお断りします。
調査実施時期 | 2023年10月13日~10月16日 |
回答者数 | 912名 |
調査方法 | Web調査 |
調査対象の条件 |
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2023年秋に発表した「生成AIに関する実態調査2023 秋」(以下、今回調査)で生成AIを「全く知らない」と回答したのは全体のわずか4%にとどまり、2023年春の前回調査から生成AIに対する認知度は大幅に高まりました。また、73%の回答者はすでに何らかの形で「生成AIを利用した経験がある」と回答し、生成AI活用の推進度合いを問う質問に対しても87%が「すでに生成AIの社内利用あるいは社外活用(その検討)を進めている」と回答しており、前回から半年間で生成AI活用に向けた具体的な取り組みが非常に進んでいることが分かりました(図表2)。
実際に検討・推進している生成AIのユースケースとしては、全体の半数近くは要約や文章執筆等のテキスト生成系と回答していました。一方で、画像や動画、音声、プログラムコード生成等の回答も全体の20%程度存在しており、業務領域を問わず幅広い活用が期待されています。
回答者の半数近くは生成AIに対して「他社(者)より相対的に劣勢に晒される脅威」を感じており、具体的には「競合他社に先を越される可能性」や「新規競合の参入の可能性」を特に脅威として捉えていました(図表3)。
このように、日本国内で生成AIの認知・活用が進んだ理由は、多くの企業において自社ビジネスや業務への生成AIの活用イメージが具体的になったことで、競合他社からの脅威をこれまで以上に深刻に認識するようになり、既存ビジネスの領域で「他社に負けない」ようにするためと考えられます。
生成AIの本格導入時期を問う質問に対し、生成AI活用を検討・推進中とした回答者の43%が2024年3月までの本格導入を予定しており、58%は今後1年以内の本格導入を検討していると回答しました(図表4)。
前回調査から今回までの半年間は、生成AIの技術的な検証や可能性を検討するいわば「実現性検証」のフェーズでしたが、今後1年間は「本格導入」フェーズを迎えると予想されます。実際、各社とも生成AI活用に対して一定の検討予算を確保しており、企業によっては数億~数十億円規模の予算を計画しているという回答もありました。
今後は各社とも、これまで以上に投資対効果が求められるようになり、「生成AI活用による成果創出」がさらに重視されるようになると考えられます。
各業界の生成AIへの向き合い方の違いを明らかにするため、「前回調査の生成AIに関する関心度」と「今回調査の生成AI活用の推進度」を業界横断で順位付けを行い、業界ごとの順位の変動を比較しました。
この結果から、生成AI活用に対する以下の4つの特徴的な業界層を抽出することができました(図表5)。
パイオニア層、躍進層、期待向上層では、テキスト生成のみならずプログラム生成・画像生成・音声生成など幅広いユースケースを検討しており、ビジネスプロセスに適した生成AI活用が進んでいると考えられます。
一方で、様子見の業界層においても、テキスト生成以外の生成AIを検討・推進中の回答割合が高い業界(消費財/飲料/食品業界、小売業界)もあり、活用にあたっての何らかのリスクを懸念し、具体的な活動につながっていない業界もあると考えられます。
例として、配送や物流などのフィジカルを利用する職種、品質管理や財務経理などのリスク管理の意識が強い職種などでは相対的に生成AI活用が進んでいないことも確認されています。単純な技術導入だけではなく、生成AIを活用できる領域の見極めやそのためのBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)の推進、またリスク管理のための生成AIガバナンス体制構築なども必要になってくると考えられます。
いずれにせよ、生成AIに対する理解促進や、AI技術のマルチモーダル化(テキスト、画像、音声、プログラム等、複数の種類の情報を統合して処理すること)が進んだことを背景として、多くの生成AIユースケースが創出され、もはや生成AI活用と無関係な業界は存在しなくなったと言えるでしょう。ただし、業界や職種によってはサイバーとフィジカルの融合、AI活用による品質担保・リスクの解消など、固有のハードルが存在していると考えられます。
生成AI活用を検討・推進中の回答者の過半数が、生成AI活用で直面する(した)課題として「必要なスキルを有する人材の不足」「ノウハウがなく進め方が分からない」と回答しました(図表6)。これらの課題は「自社だけでは解決が難しい課題」としても最上位に挙がっており、生成AI活用の推進に向けては、これまで以上に社内人材のリスキリングや外部人材活用の重要性が高まっていると考えられます。
生成AI活用に必要なスキルについては、これまでのAI活用で重視されていた「コミュニケーションスキル」「ユースケース企画スキル」を1位と回答したのは回答者全体の10%にも満たず、全体の半数近くは「AI技術全般に関する理解」を1位と回答していました(図表7)。生成AI活用において国や政府に求めることについても「生成AIの技術動向の情報収集・公開」が最も多い回答であり、技術全般の理解や動向を重要視している様子がうかがえます。
生成AIの普及・民主化が進み、データサイエンティスト等の専門家だけでなく幅広い層が生成AIに触れることができるようになった一方で、ハルシネーションリスク(生成AIが学習したデータから、流暢だが事実と全く異なるコンテンツを生成してしまうリスク)などを背景として、ユーザー側にはこれまで以上にAIリテラシーが求められるようになったと考えられます。
これまで見てきた示唆を受け、4つの提言を(図表8)に示します。
黎明期を迎えた生成AI市場に乗り遅れないために「生成AI市場へどのように参入していくか」もしくはビジネス課題および社会課題解決の観点から生成AIを「どのように利活用していくか」を企業は迅速に判断、実行していく必要があります。
PwC Japanグループではこれらの判断・実行に際し、「事業化支援」「導入支援」「リスク管理支援」の3つの生成AIコンサルティングサービスを提供しています※3。
Facts | Opinions | Recommendations | |
1 | 4分の3の回答者は競合に出遅れるリスク、新規競合の参入リスクを感じている。 | 「業界内で競合に後れを取らないため」「他社より劣勢にさらされないため」など、既存ビジネスの範囲で「他社に負けない」ことが生成AI活用のモチベーションになっていると推察。 | 日本企業が生成AIを活用して世界で勝つためには、既存業務効率化だけでは不十分であり、生成AI特有の価値創造を実現することが重要である。 |
2 | 62%が、生成AI活用の課題として「必要なスキルを有する人材不足」と回答。 求められるスキル・情報は「AI技術全般の理解」「生成AIの技術動向」がそれぞれ最多。 |
生成AIの民主化によって専門家以外にも活用の門戸が広がったと推察。また、効果的な活用のためには、技術的な理解などのAIリテラシーの重要性も高まったと考えられる。 | 生成AIのユースケース検討と並行して、社内人材のリスキリングや外部人材活用が急務。 職階や役割を問わず、全従業員が基礎的な技術とビジネスを理解したビジネストランスレーターを目指すことが重要となる。 |
3 | 生成AI活用が進む業界では、画像・音声やアイデア検討など幅広い活用が検討されている。 一方で、配送や物流などのフィジカル領域、品質管理や財務経理などのリスク管理の意識が強い職種では、相対的に活用が遅い。 |
多くのユースケース創出やAIのマルチモーダル化が進み、もはや生成AI活用と無関係な業界は存在しない。ただし、職種によってはサイバーとフィジカルの融合や導入リスクの解消などの固有のハードルが存在。 | 生成AIにおいては「適用できるのか」ではなく「どう適用するか」の問いが重要。 また、生成AIの技術単体ではなく、他技術との組み合わせやガバナンス体制の組成、業務プロセス整理なども併せて議論すべき。 |
4 | すでに導入済みの回答者を含め、58%が今後1年以内の生成AI導入を予定している。 | 現在の「実現性検証」の段階と比べ、今後は「生成AI活用による成果創出」がこれまで以上に重視されるようになると想定。 | 今後半年~1年間は、人材の育成・ベストプラクティスを共有するコミュニティ組成などに取り組み、業務プロセス全体を考慮した活用など、効果の最大化にも力を入れていくことが重要。 |
出所:PwC作成
※1 PwC「生成AIに関する実態調査2023」2023年5月
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/generative-ai-survey2023.html
※2 PwC「生成AIに関する実態調査2023 秋」2023年12月https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/generative-ai-survey2023_autumn.html
※3 PwC「生成AI(Generative AI)コンサルティングサービス」
https://www.pwc.com/jp/ja/services/consulting/analytics/generative-ai.html
PwCコンサルティング合同会社
シニアマネージャー 宿院 享