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ブラックストーン・グループ 会長、CEO、共同創業者
スティーブン・A・シュワルツマン 氏
本記事は、PwCグローバルネットワークのメンバーファーム数社で発行する「strategy+business」(2020年夏号)に掲載された記事の抄訳です。原文はこちらからご覧ください(※)。
インタビュアー:ダニエル・グロス(「strategy+business」編集長)、ニール・ダール(PwC米国 フィナンシャル・サービス・インダストリー部門リーダー)
執筆:ダニエル・グロス
写真:ブラックストーン・グループ提供
インタビューシリーズ「Inside the Mind of the CEO」では、世界各国の企業のCEOにお話をうかがい、不確実性の時代にCEOが重要な意思決定にどう向き合っているのかを探っていきます。
PwCが世界のCEOを対象に実施している「世界CEO意識調査」もあわせてご参照ください。
第1回は、世界最大規模の資産運用会社、ブラックストーン・グループの共同創業者兼CEO、スティーブン・シュワルツマン氏のインタビューです。前編では、企業文化を浸透させるためのオープンなコミュニケーションや、イノベーションを生み出す人材活用について聞きます。
過去数十年間に最大の成功を収めた新興企業の1つ、ブラックストーン・グループが誕生したのは、シリコンバレーでもインドのバンガロールでもなく、マンハッタンのミッドタウンでした。しかも、手がけた事業はITではなく、最も伝統的な業種、金融です。リーマン・ブラザーズを退職した2人の社員、スティーブン・シュワルツマン氏とピート・ピーターソン氏が1985年に創業したブラックストーン・グループは、世界最大クラスの資産運用会社へと成長しました。
現在の従業員数は2,700人以上、各種ファンドの運用資産総額は5,710億米ドルを超えており、不動産、インフラ、ライフサイエンス、その他多数の資産クラスに投資をしています。ウォールストリートで高層ビルを構える数多くの企業が廃業、合併、事業縮小に転じる中、ブラックストーンが収めた金融業界での成功と成長への姿勢は特筆に値します。
ブラックストーン・グループのCEO、スティーブン・シュワルツマン氏は、2019年9月に出版された著書『What It Takes: Lessons in the Pursuit of Excellence』の中で、生まれ故郷のフィラデルフィア郊外からイェール大学、ハーバード・ビジネス・スクールを経て金融業界に入るまでの半生を振り返っています。その物語には、「成長」「高い目標」「共同の意思決定」を促す企業文化を構築しようとする、シュワルツマン氏の意識的な努力と独自の経営哲学が織り込まれています。
「何か大きなことを成し遂げるのは、小さなことを成し遂げるのと同じくらい簡単である」――これはシュワルツマン氏が掲げるモットーの1つです。このメンタリティは、ビジネスのみならずフィランソロピーに対する彼の姿勢でもあります。近年では、「シュワルツマン奨学金」プログラムを創設して中国への留学希望者を支援するとともに、マサチューセッツ工科大学(MIT)とオックスフォード大学の人工知能(AI)分野研究に破格の寄付を行っています。
2020年1月、マンハッタンのミッドタウンにあるブラックストーンの経営委員会が開かれる部屋で、シュワルツマン氏に企業文化やフィランソロピーについてお話をうかがいました。
──どの企業も、自社ならではの独自の文化を有するとの自負があると思いますが、ブラックストーンが他社と一線を画する点はどこですか。
シュワルツマン:
真に優れた企業文化を育むには、経営幹部、すなわち創業当初からの主たる企業文化の担い手が、他の全社員に対して日常的に存在を示していることが必要です。私は毎週、社長のジョン・グレイ、執行役副社長のトニー・ジェイムズ、CFOのマイケル・チェらとともに、プライベートエクイティ、不動産、ヘッジファンド、クレジット、インフラストラクチャーといったほぼ全ての事業グループとの全社会議を持っています。会議は通常、全世界の200~300人の社員を対象とし、全員が話し合いに参加してよいルールになっています。そのため誰もが会議の内容を全て知ることができる、完全にガラス張りでオープンな状態です。これは、物事を学ぼうとする企業文化の表れでもあります。
以前、世界最大規模の企業で人事部門のトップを務めた人物を採用することになり、面接でその候補者に言われたことがあります。「御社の各レベルの、さまざまな事業部門を代表する17人の面接官と話をしましたが、全員が同じ理念の持ち主でした。こんなことは初めてです」と。しかし、私は驚きませんでした。従業員の誰もがまったく同じものに触れ、同じ根本理念──努力、能力主義、透明性、協力、真摯さを大切にすること──を共有しているからです。
採用にあたっては、礼儀正しさ、思慮深さ、思いやりの心を重視しており、スキルだけを理由に選ぶことはしません。この基準から外れた人物が15~20回に及ぶ面接をくぐり抜けて仮に入社したとしても、周囲はすぐに気づきます。そして「うちの会社ではそういうことはしないよ」と言われるでしょう。その結果、自分の価値観に合わないと感じれば、辞めていくだけのことです。
──会社が大きくなるにつれて、企業文化の維持も難しくなると思います。現在、御社の社員数は2,700人を超え、中にはブラックストーンが採用したのではない、買収を経て社員となった人たちもいます。
シュワルツマン:
その点に関しては経営陣の間でも、まさにこのテーブルを囲んで話し合ったのですが、経営陣がグローバルの全社員に向けて直接または動画を通じて語りかける手段がある限り、企業文化を永続させることは可能だと考えます。
確か2018年のことでした。当社ではクリスマスパーティーを世界各地のオフィスで年8回ほど開催しており、その全てに経営陣も参加するのですが、当時ジョン・グレイは社長に昇進したばかりで、彼の周りにはとりわけ多くの社員が押し寄せました。そこで私はこう言ったのです。「ジョン、私たちに近づこうとする社員たちの熱気はやや過剰だよ。君や私と接したいという欲求がそもそも満たされていないことが原因じゃないのか。これは問題だと思う」と。
そこで私たちは、経営陣が手の届く存在なのだと示すために、動画を積極的に活用することにしました。また、社員や事業グループによる興味深いプラクティスを紹介した3分間の動画を制作し全社で共有する「インサイドBX」というプログラムをスタートさせました。以来、ジョンのムンバイオフィス訪問、当社のフィランソロピー活動の裏話、サマーアナリスト(大学生インターン)の「活動1日レポート」など、あらゆるテーマを取り上げています。このプログラムの目的は、スマホで動画を短時間視聴するだけで、当社の全社員が経営陣や会社全体の動きについて、より詳しい情報を手軽に得られるようにすることです。私たちは、社員とつながる新しくよりよい方法を常に模索しています。
社内の会議では、ディール以外のことについても話し合います。例えば国内外の経済の動向や政治の動きなどです。これは実は、社員に望ましい考え方の枠組みを提示することになります。社員が私の見解に同意しないこともあるかもしれません。ですが、話し合いはオープンに行われます。まるで家族のようなものです。一人ひとりを大切にするのです。
真に優れた企業文化を育むには、経営幹部、すなわち創業当初からの主たる企業文化の担い手が、他の全社員に対して日常的に存在を示していることが必要です。
──CEOや創業者の多くは、影響力や責任を他の社員に委譲したり共有したりすることに苦慮しています。あなたが後進に道を譲るために意識していることは何ですか。
シュワルツマン:
私も同じ悩みを抱えています。2018年9月に「BX Investor Day」というイベントを開催した時のことです。私は参加したくなかったのですが、経営幹部が「あなたが出席しないなんてあり得ない、出席しなければマイナスのメッセージを発することになる」と言うのです。私は「いや、それは大きなプラスのメッセージだ。誰も私のことを気にかけていない、注目されているのは事業を動かしている社員や次世代の社員だ、というメッセージになる」と言いました。結局、私のスピーチは45秒程度で済ませました。
2018年は、気がつけば50年に及んだ私のキャリアの中でも、ビジネス面で最も充実した1年だったと思います。ただそこに座って、圧倒的な熱意や目的意識、理解力、強い意志を持つ優秀な社員たちが、自分たちの手がけるビジネスについて語るのを眺めているだけでよかったのです。しかもその全員が、成長への素晴らしいプランを描いていました。
私のような役割の人間は、いずれ不要になることを前提とした立ち位置を取らなければなりません。言い換えれば、CEOも1人の人間なのです。そこにいる限りはCEOとしてみんなからあれこれ頼まれるでしょう。しかし、真に成功を収める企業では、その人がある日交通事故で突然いなくなったとしても、少し元気をなくす程度で、引き続きうまくやっていくのではないでしょうか。
──あなたは著書の中で、金融業界でのキャリアの出発点となった企業、例えばドナルドソン・ラフキン・アンド・ジェンレットやリーマン・ブラザーズといった企業の文化について多くのページを割いていますね。しかもそこで得た教訓の多くはマイナスなもの(何をすべきでないか)であるという印象です。
シュワルツマン:
そのとおりです。明らかに問題があると感じていました。例えば、研修の機会がないのはなぜか。社員がほとんど協力し合わないのはなぜか。サービスを展開する際に社内に根回しが必要だったのはなぜか。自分が昇進するために、あるいは評価を上げるために、他人を必死で陥れようとする人間がいるのはなぜか。組織というものに関心のある者ならありとあらゆるマイナス面が目についたことでしょう。
金融業界は非常に特殊な場所です。金融業界に入る人たちは誰でも、本当かどうかは別として、自分を非常に才能あふれる人間と見なしており、陸軍で言えば将官ではないとしても中佐以上だと自負しています。そのため、そういった社員が部下となった場合、普通とは違った方法で彼らを扱う必要があります。そうしないと自分を中佐以上であると勘違いしたまま、後輩を萎縮させることになるでしょう。その結果、機能不全に陥るような企業文化が醸成されてしまいます。
──そういった問題にはどう対処すればよいでしょうか。昔からウォールストリートの企業では、新たにパートナーを迎えたり、ただ社内で昇進させたりする場合でも、代わりに誰かを追い出さなくてはならないことがよくあります。
シュワルツマン:
何よりもまず、全ての社員をその職責にふさわしい資質を備えた人として扱うことです。聡明で知的な人間として扱わなくてはなりません。社員の意見が経営幹部の意見と同じく価値あるものだということを教えるのです。もっとも、私たち経営幹部は30~40年もかけて実務を学んできたわけですが、それでも自身が1年目、2年目、3年目のアソシエイトだった頃のことや、当時のフラストレーションを覚えているものです。
第二に、昇進に天井はないということです。自分が昇進するポストを空けるために競争相手や先輩を失墜させることは、誰の利益にもなりません。社員を昇進させるために取るべきプランは──実際に当社ではそうしているのですが──常に新たなビジネスをスタートさせていくということです。それは市場のニーズを満たし、投資家の喜ぶ新たな商品を作るための取り組みでもありますが、継続して事業を拡大していけば、新規事業に携わる優秀な人材が必要になります。社内に優秀な人材が揃っていれば、その新規事業で昇進し、幹部となるチャンスが必ずあるのです。
急成長する革新的なビジネスにとって難しいのは、どれだけ多くの才能ある優秀な人材を現場で活躍させ、会社を新たな境地へと導いてもらえるかです。例えば当社がインフラ事業を立ち上げた時、社内のエネルギーグループから、ショーン・クリムチャクというきわめて優秀な若いパートナーを、「今こそ君が活躍する時だ」と言って抜擢しました。彼はそのとおり、ほとんどゼロの状態から世界第3位の規模を誇るインフラ事業を生み出したのです。
1985年の創業時、当社が保有していた唯一のファンドは、「ブラックストーン・キャピタル・パートナーズ」というプライベートエクイティファンドでした。それが今では50種類のファンドを運用するようになりました。当社では年に一度、戦略計画策定プロセスを実施し、主要グループの各代表が、顧客の利益となるような新規事業案をそれぞれ最低1件、最高3件まで経営委員会に持ち寄ります。
事業が顧客のプラスになるものであれば、次の問題は規模です。当社にとっては、規模が大きいことに意味があるからです。また、世界最大クラスの機関投資家が顧客であるために、彼らが資金を投じるに値する規模が必要なのです。まず新規事業案の顧客へのメリットを議論し、次にブレイクイーブンポイントに到達できるまでの期間を検討します。あらゆる投資は開始1年以内に回収すべきだというのが私の持論です。
このような環境と企業文化の中で育った社員は、イノベーティブな姿勢を身に付けます。どうやってビジネスを拡大するかを考えるよう教えられるからです。顧客を第一に考えた上でどの程度の規模まで拡大できるか分析する方法を、自ら見出すのです。
ある大手投資銀行のトップからこう尋ねられたことがあります。「御社はどのようにして、さまざまな事業を担当する優秀な人材を数多く維持しているのですか。彼らはみな、どのような事業でも手がけられるレベルの人物ですが、誰も退社していません」と。私は、退社する理由がないからだと答えました。当社の仕事は非常に楽しいものです。真におもしろく、賢く、意欲にあふれ、協力的で、合理的な社員からなるコミュニティです。私たちが力を合わせれば、個人が努力するよりもはるかによい成果を上げられることが分かっているのです。
※strategy+business からの転載記事はPwCネットワークのメンバーファームの見解を示すものではなく、記事中での出版物・製品・サービスへの言及には推奨の意図はありません。