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元ユニリーバCEO 国連SDGsアドボケート
ポール・ポルマン 氏
本記事は、PwCグローバルネットワークのメンバーファーム数社で発行する「strategy+business」に掲載された記事の抄訳です。原文はこちらからご覧ください(※)。
インタビュアー:デビッド・ランスフィールド(PwC英国 パートナー)、ジェレミー・グラント(「strategy+business」インターナショナルエディター)
写真:ユニリーバ提供
インタビューシリーズ「Inside the Mind of the CEO」では、世界各国の企業のCEOにお話をうかがい、不確実性の時代にCEOが重要な意思決定にどう向き合っているのかを探っていきます。
PwCが世界のCEOを対象に実施している「世界CEO意識調査」もあわせてご参照ください。
今回は、ユニリーバのCEOとして同社をサステナビリティにおける先進企業へと変革し、現在は世界中の企業と連携してSDGsの達成に向けたビジネスを推進するポール・ポルマン氏が、パーパスと社会的責任を中核に据えた経営のあり方について語ります(本インタビューは2019年7月に公開したポッドキャストの内容を再構築したものです)。
リーマン・ショック後の2009年1月から2019年1月まで、10年間にわたってユニリーバのCEOを務めたポール・ポルマン氏。サステナビリティと長期的価値の創造をユニリーバのビジネスモデルの中心に据えるという同氏の誓約は、当初は投資家たちから懐疑的な眼差しを向けられていましたが、今では画期的な戦略的意思決定として評価されるようになりました。その影響を受けて、社会に対する取り組みのあり方を見直す企業も出てきています。
ポルマン氏はユニリーバで、原材料の調達や商品の包装に関する革新的なアプローチを開発したほか、サプライヤーとの新たな関係の構築や、より健康的な製品の生産、労働条件の改善といった実績も残しました。また、ユニリーバのスケールメリットを生かし、会社という組織の枠を超えた変革を推進しました。同氏の取った行動のうち最も世間の注目を集めたのは、四半期業績予想の公表中止と、長期的なマルチステークホルダー・モデルによる価値創造への移行です。こうしたポルマン氏のやり方は、いずれユニリーバの株価を損なうことになるだろうという予想も一部にはありましたが、逆に同社の業績は好転し、売上高も利益も、10年間にわたり一貫して拡大を続けました。
同社のCEOから退いた後も、ポルマン氏はさまざまな組織との協働を続けています。同氏が共同創設者・会長であるImagineは、ビジネスの力を結集してグローバルな目標の達成を促進するアクティビスト組織として、世界中のCEOと連携しながら環境・社会問題への取り組みを推進しています。同氏はまた、国際商業会議所の名誉会長、よりよい世界に向けた新たなビジネスの実現を目指すイニシアティブThe B Teamの会長、国連グローバル・コンパクトの副議長も務めています。
ユニリーバ在職中の2012年、ポルマン氏は責任あるビジネス慣行を追求する姿勢を認められ、後に「持続可能な開発目標(SDGs)」となる目標の策定に関して国連に助言を行うハイレベル・パネルのメンバーに任命されました。これに続き、SDGsの達成に向けたビジネス活動を促進するため、SDGsアドボケートにも選ばれています。アドボケートには、業界の枠を超えてグローバルな組織に働きかけ、アライアンスを構築してシステム全体の変革を促すことなどが求められています。
経営者としてサステナブルなビジネスの実現に尽力した上で、そのインパクトを国や業界の垣根を越えて広げていこうと活動を続けるポルマン氏に、責任ある事業運営のために企業は何をすべきかについて、話を聞きました。
──あなたは「パーパス」という言葉を非常によく使われますね。ご自身のパーパス、ユニリーバのパーパス、業界の、環境の、そして社会のパーパス。こうした「パーパス」という意識は、どこから生まれたものなのでしょうか。
ポルマン:
「パーパス」という意識は、人生や仕事で起こる多くの出来事によって次第に培われていくものです。私が生まれたのは第二次世界大戦直後でした。私の両親は戦争によって教育を受ける機会を奪われたため、これからは平和な社会を維持し、子どもたちに自分たちが受けられなかった教育を受けさせ、自分たちよりもよい生活をさせてやりたいという信念を持っていました。つまり、彼らは公益というものを非常に重視し、自分たちの利益よりも他者の利益を優先したのです。ボーイスカウト・ガールスカウトの集まりで出会った彼らは大の自然愛好家であり、地球環境の保護にも強い関心がありました。
こうした家庭環境に加え、人生において、自分の選択の結果として、あるいは偶然によって起きるさまざまな出来事が、その人の人格や物事に対する意見を形成していきます。パーパスもまた、何年もかけて次第に明確になっていくのです。最終的に、人は自分の利益よりも他者の利益を優先しなければならないのだと思い至るでしょう。そして、そうすることで他者を助けられるようになったとき、そこは最高の居場所となるのです。
──困難に直面したとき、パーパスに忠実であり続けるために、どのようなことを心がけていますか。
ポルマン:
自分たちの使命は、十分なサービスやケアを受けられない人々を助け、誰一人見捨てられることのない世界を創り上げることなのだ、という大局的な視点を常に忘れないようにしています。私が10年間ユニリーバにいたのは、もちろんその企業理念に共感したためですが、それだけでなく、規模の大きさを利用して、会社そのものをはるかに超えた影響力を行使できるからでもありました。
世界の10世帯のうち8世帯でその製品が使われ、毎日25億人の顧客にリーチしている企業の一員であるという事実には、大いに助けられてきました。世界のどの国の政府よりも多くの人々に接触する機会を持っていることは、それを善意で利用した場合、間違いなく巨大な力となります。
ユニリーバは、会社の成長を環境への影響から切り離し、社会全体へのインパクトを高めるという、より広範なパーパスを打ち出しました。このパーパスは、他の世代に比べてパーパスドリブンの傾向が強いミレニアル世代に特に広く受け入れられています。ですから、人々を説得するのはさほど難しいことではありません。難しいのは、厳しい選択を短期間でしなければならず、気持ちに焦りが生まれるときです。
──そうした考え方はミレニアル世代には理解できるかもしれませんが、2009年当時のステークホルダーの中には受け入れられない人もいたでしょうね。どのようにして彼らを説得したのですか。ビジネスリーダーは、社内に向けてどう主張したらよいのでしょうか。
ポルマン:
第一に、当社は社会に奉仕するのだ、と主張することです。会社のより長期的な存続を望むのであれば、恐らくそれが唯一の経営方法だと思います。次に、最大限の貢献ができるのはどのような部分なのかを定義する必要があります。「当社の存在理由は何か?」と自問してみることです。
私が生まれてからこれまでの間に、米国の上場企業の平均寿命は、67年から17年に短縮してしまいました。その主な原因は、近視眼的な株主中心主義と、短期収益主義の蔓延にあると考えています。
一部の企業は、その成功の代償としてCSR活動や慈善活動などに多少は取り組んできましたが、それではせいぜい「悪影響を減らす」ことしかできません。世界はもはやその程度の活動でどうにかなるような状況ではないのです。企業は、プラスの影響をもたらすことについて真剣に考える必要があります。
開発アジェンダは、そのようなモデルを検討するよい機会です。そして恐らくそこには、もっと大きな市場が待ち受けているでしょう。それは実際、非常に収益性の高い市場のはずです。CSRから、私がRSC(Responsible Social Corporation:責任ある社会的企業)と呼ぶものへと、マインドセットを切り替えるのはかなり骨の折れる作業になりますが、見返りも非常に大きいでしょう。
──それはつまり、社会的責任をビジネスの周縁から中心へと移し、会社の方針や理念として組み込むようにするということでしょうか。
ポルマン:
そのとおりです。それを簡潔に言えば、最終的に「奪う者」から「与える者」になるということです。貪欲さは善であると考える人もいます。特に金融市場ではそうでしょう。しかし、最後に勝つのはいつも寛大さです。
企業は、それを構成する人間を反映した存在に過ぎません。企業はもっと人間的なものであってよいはずなのに、なぜか私たちはそれを忘れがちです。企業に人間味を取り戻すことがビジネスリーダーシップの全てである、と言っても過言ではありません。毎日少しずつでも、よい影響を与えるよう努めることです。そうした姿勢が、会社に長期的な存在意義を与えるだけでなく、財務上の成功も約束するのです。
幸い、企業がより責任ある事業運営を行い、環境や社会に対する責任をより強く自覚するようになると、ESG(環境、社会、ガバナンス)の原則に従ってこうした企業に投資する投資家も、より高いリターンを得ることが証明されつつあります。一方で、喫緊の社会課題の中には、残念ながら対応が遅きに失してしまっているものもあります。今や、貧困や食品廃棄、気候変動といった問題においては、対処しないことによるコストが行動を起こすためのコストよりも高くつく段階にまで来ています。したがって、行動を起こすほうが財務的にも得策だと言えます。
企業に人間味を取り戻すことがビジネスリーダーシップの全てである、と言っても過言ではありません。
※strategy+business からの転載記事はPwCネットワークのメンバーファームの見解を示すものではなく、記事中での出版物・製品・サービスへの言及には推奨の意図はありません。