
真の成長に向けた「育て方」「勝ち方」の変革元バレーボール女子日本代表・益子直美氏×PwC・佐々木亮輔
社会やビジネス環境が急激に変化する中、持続的な成長が可能な組織へと変革を遂げるには、何が必要なのでしょうか。元バレーボール女子日本代表で、現在は一般社団法人「監督が怒ってはいけない大会」の代表理事としてスポーツ界の意識改革に取り組む益子直美氏と、PwC JapanグループでCPCOとして企業文化の醸成をリードする佐々木亮輔が変革実現へのカギを語り合いました。(外部サイト)
Loop Japan合同会社 日本代表
エリック・カワバタ氏
PwCコンサルティング合同会社 常務執行役 パートナー
野口 功一
SDGsの道しるべ
パートナーシップで切り拓くサステナブルな未来
SDGs達成に向けた取り組みは、人類全体が進むべき道を探りながら歩んでいく長い旅路です。持続可能な成長を実現するためには、多くの企業や組織、個人が連携しながら変革を起こしていく必要があります。対談シリーズ「SDGsの道しるべ」では、PwC Japanのプロフェッショナルと各界の有識者やパイオニアが、SDGsの17目標それぞれの現状と課題を語り合い、ともに目指すサステナブルな未来への道のりを探っていきます。
SDGsのゴール11「住み続けられるまちづくりを」では都市住民が環境に与える影響を減らすこと、ゴール12「つくる責任、つかう責任」ではゴミの発生量の大幅削減を掲げています。リユース容器を活用する循環型ショッピングプラットフォームを日本で展開するLoop Japan合同会社日本代表のエリック・カワバタ氏と、PwCコンサルティング合同会社常務執行役パートナーの野口功一の対談後編では、パートナーシップで取り組むことや、企業や消費者にとっての利益を課題解決と結びつけることの重要性について語り合いました。
野口:
最近ではSDGsやESGという言葉を目にしない日はなく、事業環境が大きく変化しているのを実感します。企業は本業のビジネスを通じて、環境や社会の課題解決に貢献していく姿を見せ、説明していく必要がありますね。
カワバタ氏:
Loopの活動を通じて、私もまさにSDGsやESGに対する変化を感じています。企業自身が正しいことをやろうという姿勢に加え、機関投資家の影響もあります。金融版SBT(Science Based Target)やスチュワードシップコードなどを背景に、機関投資家が投資先企業を選択する際にESGへの取り組みを評価項目として重視し、実際に投資ポートフォリオの変更を行っています。企業側もその変化を理解し、本業で環境・社会課題に取り組み、きちんと利益を上げることが、株価にも良い影響を及ぼすという認識が広がってきました。日本でのLoopへの賛同企業の拡大スピードは、海外と比較すると非常に速いんです。それだけ、日本企業が課題意識を持って行動を変え始めているということだと思います。
野口:
日本企業の場合、SDGsやESGが行動を起こす動機づけにはなっているものの、どうしたらよいのかという「How」と、何をすべきかという「What」を見つけあぐねている状況だったのではないでしょうか。プラスチックゴミの問題は、1社で解決するには複雑かつ大規模すぎます。そこにLoopというプラットフォームが提示され、これに参加すればパートナーとしてサポートを得ながら課題に取り組める。具体策をゼロから検討しなければならないところに、こういうやり方があるんですが一緒にやりませんかと提案し、パートナーシップとしてHowとWhatを提供するというのは、非常に画期的です。とはいえ、本業としてサステナブルにしていくためには、ビジネス上のメリットが得られるというハードルをクリアしないと難しいですよね。
カワバタ氏:
私たちがパートナー企業の方々にお伝えするメリットは3つあります。1つは、企業として自社の製品に対する責任を果たすという点。社会的な責任を果たすということで、目に見えやすいところとも言えます。2つ目は、自社の取り組みがメディアに取り上げられたり、さまざまな団体や行政などから認めてもらえたりすることです。取り組みが広く知られていくと、消費者からもより認められるようになり、ブランド価値の向上につながります。3つ目は、ブランド価値向上に加えて、これまでリーチできていなかった人にもブランドが認知され、マーケットシェアの拡大につながるということです。本業で取り組むのであればビジネスとして成立することが不可欠であり、マーケットシェアや売上の拡大につながっていかないとサステナブルではないですよね。
野口:
どの企業も自社のサステナブルな成長を実現したいと思っているはずなので、SDGsやESGの取り組みがビジネスとして成立することをパートナー企業に示せるのは説得力がありますね。また、コンセプトを提供しているだけではなく、きちんと機能するプラットフォームを提供していること、そのプラットフォームをさまざまなパートナー企業と一緒に作っていることも重要だと思います。企業1社で解決していくのは困難な課題に対し、業界や官民の垣根を越えてシームレスに参加できるエコシステムを構築するというのは、プラスチックゴミ問題に限らずさまざまな領域で求められているアプローチです。
カワバタ氏:
私たちは、自社の成長のために環境ビジネスに携わっているのではなく、循環経済(サーキュラーエコノミー)を普及するためのドライバー(推進力)になりたいと思っています。だからこそ、誰でも参加できるようなプラットフォームを作り、どうすれば結果を出せるかを、私たちもパートナー企業と一緒に考えながら取り組んでいるのです。野口さんのおっしゃったように、プラスチックゴミ問題は大きな課題なので、多数のステークホルダーが関わります。そのため、どこか1社ではなく、多数のステークホルダーが参加できるプラットフォームであることが重要です。Loopが席巻しようということではなく、関連するビジネスを展開している企業と一緒に新しいやり方で循環経済を拡大していくことを目指しているのです。私たちが持っているノウハウなどもどんどん使ってもらい、プラットフォームを活用してパートナー企業が成長してくれることで、他のステークホルダーの参加もさらに増えていくのではないかと考えています。
野口:
業種も会社の規模も関係なく、NPOやNGO、行政も含め、幅広いステークホルダーに参加してもらうという考え方は、環境や社会課題への取り組みではカギになりますね。
カワバタ氏:
はい、日本ではゴミ問題においては特に行政の役割が大きいので、取り組みの重要性を行政に理解してもらえたことで、企業や他のステークホルダーにも説得力を持って説明できたところがあります。また、日本ではグローバル企業よりもまず日本企業にパートナー企業になってもらいたいと考えていました。日本国内で循環経済を実現することが目標ですので、現地の企業にファーストムーバー(最初に参加した企業)になってもらうことが大事だと感じていたのです。そのための土台となったのが、Loopより前にテラサイクルで日本の行政や企業と一緒にリサイクルに取り組んできた経験です。リサイクルでも、行政との調整や地元のコミュニティとの協働、そこからのフィードバックを受けた改善といった過程を繰り返しました。その中で学んだのは、ステークホルダー自身が自分のアクションによる結果を認識し、それを誇らしいと感じることでさらにモチベーションが上がるということでした。例えば、回収したプラスチックからおもちゃのブロックを作ったり、世界的なスポーツイベントで使う表彰台を作ったりと、単にリサイクルするだけでなく、自分たちが誇りを持てるようなモノを一緒に作ることが大切なのです。
野口:
前編でユーザーエクスペリエンスが重要だという話をしましたが、今の話も消費者に行動変容をうながすエクスペリエンスですね。自ら率先して動きたいと思えるようになるエクスペリエンスがあるかどうかは、ユーザーがこのプラットフォームに参加するためのカギとなる要素ですね。
カワバタ氏:
パートナー企業がLoopに参加するには、新しいことに踏みだす勇気が必要でしょう。これまでのビジネスのやり方とは全く異なりますし、リサイクル可能な容器の開発、製造、商品の充填など、それぞれによりよい方法を探りながら本業として成り立たせなければならないので、難しいことも多いのです。実際のところ、ボリュームゾーンに突入するまではなかなか採算が取れません。一方で、パートナー企業内では「自分の会社がこの活動に参加していることに誇りを感じる」という社員が増えたり、取引先からポジティブなフィードバックがあったり、メディアで取り上げられたりすることで、取り組み続ける原動力となっているようです。
野口:
取引先からのフィードバックは、ビジネスとして成立させるという点からも重要ですね。また、環境や社会の課題に対して問題意識を持った企業はすでに動いていますが、先ほどお話しした投資環境の変化などを背景に、これまであまり積極的ではなかった企業も取り組みを始めなければという機運になってきています。そのような企業では3年後、5年後にどうするかという話になりがちですが、今すぐに参加できるプラットフォームがあるというのは、取り組みを加速することができるわけで、社会的にもインパクトがありますね。加えてユーザー側でも、デザインや機能がよいといったエクスペリエンスを通じて、環境問題への意識が高い人たち以外にも広く手に取ってもらえ、たとえ価格が上がっても購入してもらえるようになる。そうなると、企業やユーザーの問題意識が高いかどうかにかかわらず、単純にリユースをした方が利益率が高くなるということも可能になるかもしれない。環境や社会の課題の解決は、そのように経済性や利便性の追求があってこそ進んでいくものだと思うんですね。課題を解決することをまず考えて実現のハードルが高い方法が先に来てしまい、ビジネスとして成立させるのが難しくなってしまってはサステナブルではないわけで、ここでもリフレーミングが必要だと言えます。
カワバタ氏:
そうですね。プラットフォームにより多くのパートナー企業に参加してもらい、Loopが取り扱う商品が増えれば、満足度の高いエクスペリエンスを提供する選択肢が広がり、より幅広いユーザーに選んでもらえるようになります。ユーザーがそれらの商品を環境問題を意識せずとも選んでくれることで、結果として環境によい商品が市場に広まっていくようにしたいんです。普通の買いものが、知らないうちにCO2削減につながっていくことが理想です。
課題を解決することをまず考えて実現のハードルが高い方法が先に来てしまい、ビジネスとして成立させるのが難しくなってしまってはサステナブルではないわけで、ここでもリフレーミングが必要だと言えます。
野口:
まだ始まったばかりの取り組みではありますが、今後どのような展開を目指していますか。
カワバタ氏:
ひと言で言えば、リユースが当たり前の世界を作りたい、というのが私たちの描くビジョンです。意識することが少ないですが、実は私たちはすでにリユースを日常的に実践しています。例えば、レストランでは食器を毎日何人ものお客さまが使いますし、ホテルやフィットネスクラブのタオルやシーツなどもリユースで、使い捨てではありません。Loopの商品もそれらと同じ感覚で使ってもらいたい。そのために、容器の回収箱をマンションのロビーや駅前などに設置するなど、より効率的に販売、回収できる仕組みを整備していきます。
野口:
確かに、今でもリユースしているものは意外にありますよね。また、使い捨てをしないという点ではシェアリングサービスも同様ですが、PwC Japanグループの最新の調査では約半数の回答者がシェアリングサービスを認知しているという結果もあり、ユーザーは年々増加していますから、リユースの普及も日本では有望なのではないかと思います。
環境や社会の課題にはイノベーティブなソリューションが求められますが、特に大企業では、自らリスクをとってイノベーションを生み出すことは容易ではありません。さまざまなステークホルダーが参加できるプラットフォームを提供し、パートナーシップを通じて課題に取り組むというアプローチで、解決が加速することを期待しています。本日はありがとうございました。
このカッコいい商品を買ったら、実は環境が保護されている―─ビジネスと課題解決のあり方をそうした方向へと転換しようとしているLoopは、ゴミはなぜ出るのか、購入につながるユーザーエクスペリエンスとは何かといったことをリフレーミングし、これまとでは異なるアプローチを生み出していると言えます。よりよいエクスペリエンスを提供し、ビジネスとして成立させるという発想は、PwCのBXT(Business – eXperience – Technology)の考え方にも通じるものがあります。環境・社会課題解決への道筋を改めて見つめ直す対談となりました。(野口)
東京大学大学院法学政治学研究科特別研究生、金融機関の法律顧問、投資銀行役員、サステナビリティ関連のNPOなどを経て、米国テラサイクル入社。現在、テラサイクルのアジア太平洋統括責任者と米国テラサイクルが設立したLoop Japanの日本代表、および米Loopのアジア太平洋統括責任者を務める。
戦略立案、グループ経営管理、ワークスタイル改革など企業の変革を専門とし、多数のプロジェクトを経験。PwCグローバルイノベーションチームに所属し、イノベーション戦略立案からオペレーションモデル策定まで、企業のイノベーションプラットフォームの構築支援を行う。また、教育機関、NPO、金融機関などと協業し、社会全体においてイノベーションを促進する仕組みづくりを支援している。主な著書に『シェアリングエコノミーまるわかり』(日本経済新聞出版社)がある。
※ 法人名、役職、本文の内容などは掲載当時のものです。