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東北大学教授
世界防災フォーラム代表理事
小野 裕一氏
PwC Japan グループ代表
木村 浩一郎
SDGsの道しるべ
パートナーシップで切り拓くサステナブルな未来
SDGs達成に向けた取り組みは、人類全体が進むべき道を探りながら歩んでいく長い旅路です。持続可能な成長を実現するためには、多くの企業や組織、個人が連携しながら変革を起こしていく必要があります。対談シリーズ「SDGsの道しるべ」では、PwC Japanのプロフェッショナルと各界の有識者やパイオニアが、SDGsの17の目標それぞれの現状と課題を語り合い、ともに目指すサステナブルな未来への道のりを探っていきます。
日本社会にとって重大なリスクである自然災害に対し、私たちは真に必要な備えができているのか――。防災についてあらためて考えるサブシリーズ第1回の前編では、防災を投資ととらえる視点の重要性をテーマに、東北大学災害科学国際研究所教授で世界防災フォーラムの発起人・代表理事である小野裕一氏とPwC Japanグループ代表の木村浩一郎が議論しました。
後編では、多様なステークホルダーを巻き込んで課題解決に臨むことの意義や、復興から価値創造へとつなげるための取り組みについて意見を交わします。
木村:
前編ではセクターを超えた連携についてお話ししましたが、小野先生が2017年に立ち上げられた「世界防災フォーラム」はそれを体現する取り組みですね。どのような経緯で始められたのでしょうか。
小野:
2015年に仙台で開催した「第3回国連防災世界会議」の成果文書として「仙台防災枠組2015-2030」が採択され、国・地方自治体・企業などが取るべき4つの優先行動と、7つのグローバルターゲットが示されました。具体的な目標を示すことができたのは大きなマイルストーンではありましたが、そこで終わりにせず、被災地で防災についての議論を継続していける場を作りたいと考え、「世界防災フォーラム」をスタートしました。
木村:
研究者や政府関係者だけでなく、企業や一般市民も含めて幅広い層の方々が国内外から参加されているのがユニークだと感じます。
小野:
はい。名称に冠した「世界」には、東日本大震災の経験を通して得た知見を世界に発信したいという思いが込められています。さらに、世界の知見を日本に持ち込んだときに起きるであろうダイナミックな化学反応への期待も表しています。「学会」のような、専門家だけの“閉じられた場”にはしたくありませんでした。外に向けて開き、企業や一般の方々にも参加していただくことで、多様なインタラクションが生まれ、私自身を含む多くの参加者にとって、さまざまな学びをもたらしてくれています。
例えば金融の分野では企業のBCM(事業継続管理)に基づく格付融資などの取り組みがありますが、このような事例が世界で共有され、それぞれの参考にしてもらうことは、とても重要です。
フォーラムに参加された各国の方々に東北の復興を見てもらうツアーも実施しています。会議での議論とあわせ、日本独自の視点で行われている施策の現場に触れてもらうことで、フォーラムをさらに充実させたいと考えています。
木村:
防災は誰にでも関係することですし、“当たり前”の想定が及ばない不測の災害と対峙するには、時として奇抜なアイデアも必要になるでしょう。そのためにも、参加者の多様性は重要ですね。
小野:
その通りです。今まで考えたこともなかったような突飛なアイデアからヒントを得られることは多い。ですから世界防災フォーラムでは、あまりスクリーニングせず、型破りなセッションも大歓迎という姿勢で参加者を募集しています。
木村:
ビジネスの世界でも、まさに今小野先生がおっしゃったことと同様の理由で、インクルージョン&ダイバーシティ(I&D)が重要なアジェンダとなっています。不確実性が高まる世界で企業が社会から信頼され続けるには、社会の変化に応じて、あるいは半歩先んじて、自ら変わっていくことが求められます。「想定外」への対抗手段として、過去からの蓄積にとらわれず、新しい手法や考え方を絶えず取り込み続けなければなりません。
小野:
同感です。過去の常識にとらわれない発想を生むためには、国籍・世代・性別を問わず、これまで社会の意思決定に関わることの少なかった人たちの視点も必要ですね。
木村:
さらには、専門性という点でも多様化が求められています。PwCグループの祖業は会計監査ですが、170年以上にわたって培ってきた会計・税務の専門性をもってしても、もはやそれだけで企業の不正を見抜くことは難しく、テクノロジーやサイバーセキュリティなどの知見も必須となってきました。あるいはコンサルティング分野で言えば、システムの導入1つとっても、ITが分かっていればよいだけではなく、ESGや防災といった観点も考慮した支援ができなければなりません。プロフェッショナルファームとして、複雑化するクライアントの課題を解決するには、多岐にわたる専門性を結集する必要があるのです。私たちはこうした幅広い専門性を内包した課題解決組織として、自らを「Community of solvers」と称しています。
小野:
なるほど、それぞれの専門家がタコ壺せず、ダイナミックに連携していくコミュニティとなるのですね。
木村:
そうなんです。縦割りではなくフラットで、常にいかなる組み合わせでも動き出せるような組織を目指しています。
防災は社会にとっての大課題であり、想定外の事態への有効な対策や新たな発想を生み出すためには、多様な人々が参加するフォーラムやコミュニティが重要な役割を果たしますね。
「想定外」への対抗手段として、過去からの蓄積にとらわれず、新しい手法や考え方を絶えず取り込み続けなければなりません。
木村:
「仙台防災枠組2015-2030」では「Build back better」という考え方が提唱されています。その必要性についてお話しいただけますか。
小野:
「仙台防災枠組2015-2030」には4つの優先行動が提示されています。第一に、災害リスクを理解して想定すること。第二に、その想定に対するリスクガバナンスを強化すること。第三は、強靭性のための防災投資です。ここまでは発災前の優先行動ですが、第四は一定の被害を想定した被災後のテーマとして、回復・復旧・復興に向け、「Build back better」(より良い復興)を目指して行動する必要を示しました。どんなに準備しても災害は起きますから、起きた時には少なくとも今後同じ被害が起きないような施策を打ち、単に災害前の状態に戻すのではなく、前よりも良い状況にまで復興しようという考え方です。
例えば東日本大震災では、警報で救われた人命があった一方、住居や財産はそれだけでは守れませんでした。それを受けて、想定外の津波に対する備えとして新たに防潮堤を設けたことは、Build back betterの一例といえます。
「仙台防災枠組2015-2030」で合意された4つの優先行動 |
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木村:
災害が起きれば当然経済的な損失が発生しますが、災害のたびに同じ損失を繰り返していては、前に進めません。だからこそ、災害によるディスラプション(破壊)を新たな価値創造のきっかけにするたくましさが求められるのだと言えますね。
ディスラプションを価値創造に転換していく主体は人ですから、平時からそうしたたくましさを持った人材を強化することが重要ではないでしょうか。
小野:
まさにそうですね。最後は人材育成や教育に行き着くと私も感じています。「世界防災フォーラム」でも、運営の手伝いを若い世代の方々にお願いしています。さまざまな経験を積み、世界で活躍できる人材になってほしいと考えてのことです。若い人材を育ててこそ未来が開ける──アカデミアでも、企業でも、これは同じですね。
木村:
人材と並んでもう1つ、Build back better の実現において重要なのが、「モデルづくり」ではないかと考えています。PwCコンサルティングでは宮城県女川町と包括連携協定を結び、復興の先にあるサステナブルなまちづくりに取り組んでいるのですが、その取り組みには復興や地方創生の戦略として別の場所でも展開できるという価値があります。これを「女川モデル」として日本全国に、ひいては世界に発信していくことは、Build back betterの1つの好事例となるのではないかと思っています。
小野:
それは興味深い取り組みですね。ここでもやはり官民の連携が生きてきますね。
木村:
今回議論してきたように、「防災」をより広く深く考えていくと、その中で企業や一市民としてできること、すべきことはまだまだあると感じました。いつ起きてもおかしくない災害に対し、あらためて何をどう備えていくべきか、これまで以上にしっかりと向き合っていかなければと認識を新たにしています。本日はありがとうございました。
この10年、気候変動リスクへの対応は欧州のリードによって大きく前進し、企業に気候関連財務情報開示が求められるなど、重要な経営アジェンダの1つであるという意識が浸透してきました。一方で、自然災害リスクについては気候変動ほどの喫緊性が世界で共有されているとは言い難いのではないでしょうか。そうした中、課題先進国と言える日本は気候変動における欧州と同様の役割を果たし、取り組みをリードすべき立場にあると言えるのかもしれません。
企業の未来を左右する経営アジェンダとして防災を捉え直し、幅広いステークホルダーとの連携や対話を通じ、「想定外」を「想定内」にするこれまでにない施策を見つけ出す――。今回の対談が読者の皆様にとってそうした「真の備え」に踏み出すきっかけを与えるものとなれば幸いです。
地理学博士。専門は気候学、国際防災政策。世界気象機関(WMO)、国連国際防災戦略事務局(現・国連防災機関〔UNDRR〕)、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)で国際防災政策の立案に従事。2012年に東北大学災害科学国際研究所の教授に就任し、災害統計グローバルセンター長を兼務。第1回世界防災フォーラムの事務局長を務め、2018年に一般財団法人「世界防災フォーラム」を設立して、代表理事に就任。
1963年生まれ。1986年青山監査法人に入所し、プライスウォーターハウス米国法人シカゴ事務所への出向を経て、2000年には中央青山監査法人の代表社員に就任。2016年7月よりPwC Japanグループ代表、2019年7月よりPwCアジアパシフィック バイスチェアマンも務める。
※ 法人名、役職、本文の内容などは掲載当時のものです。