
消費者市場における世界のM&A動向:2025年の見通し
消費者心理はパンデミック後のインフレと金利の急上昇から完全には回復していないものの、消費者市場のディールメーキングは2025年に回復の兆しを見せ始めています。
消費者市場ではバリュエーションの再調整が始まっています。これは、インフレと景気減速が消費者に直接影響を及ぼし、大部分の市場で世界金融危機時の水準を下回るほど消費者心理が落ち込んだ結果です。私たちは2023年中は不確実性が徐々にしか解消されないと予想していますが、長期的なトレンドと基底的な要因から、M&A活動は2022年に比べてより安定すると、慎重ながらも楽観視しています。
投資家は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック下で加速した消費者トレンドに適応するために、ポートフォリオ(とりわけコンシューマーヘルスケアおよびD2C分野のポートフォリオ)の改善に引き続き注力すると予想されます。危機からの回復や、新たな働き方および生活様式への適応がディール活動を活発にするとともに、成長と利益に対して、これまでになく重要な戦略的追求を後押しするでしょう。
上場企業のバリュエーションの再調整および流動性の問題が健全な事業に対して戦略的に影響を及ぼす可能性がある中、資金力のある企業や手元資金と資金調達の選択肢を有するプライベート・エクイティ(PE)が主導するオポチュニスティックなディールも予想されます。
「2023年も消費者市場には課題は残り、過去最高水準のインフレと金利上昇が購買力をさらに蝕む見込みです。投資家は、経済の回復に向けて積極的にポジションを取り、戦略的な優先課題を達成するために引き続きM&Aを活用するでしょう」
今後6~12カ月の間にM&A活動が活発化するとみられるサブセクターは以下のとおり、景気下降局面に強い部門や、ケイパビリティの獲得を目的としたM&Aに適した部門になると考えられます。
食料品小売セクターにおける2023年のディール創出活動は引き続き強い見通しで、すでに多数のディールが進行中です。これは比較的高水準の活動を記録した2022年に続くもので、企業が事業の拡大、重要な製品へのアクセス確保、ポートフォリオの最適化のために戦略的機会を追求していることが背景にあります。最近の例としては、米国のKrogerによるAlbertsonsとの合併提案や、英国のスーパーマーケットチェーンであるMorrisonsを非公開化するCD&Rのディールなどが挙げられます。
今後も続くと予想されるもう1つのトレンドとして、食料品小売企業が供給を確保するために食品メーカーに投資するという動きが挙げられます。LidlによるパスタメーカーErfurter Teigwarenの買収提案や、Aldiによる2つのミネラルウォーター工場の買収などがその例です。
さらに、フランスの大手食料品小売業者は、自社のポートフォリオ、とりわけ国際事業の見直しを引き続き進めており、一部の市場では資産を売却し、優先分野へのさらなる注力やバランスシートの強化を図っています。
消費者市場におけるM&Aの件数と金額は、2021年から2022年にかけてそれぞれ16%と32%減少しました。この減少はM&A市場全体の動向と一致しています。記録的なディール創出の年となった2021年を経て、マクロ経済的および地政学的な逆風が強まり、消費者心理が世界金融危機以来見られなかった水準にまで低下する中、M&A市場は急速に変化しました。当然ながら、ディール金額が最も落ち込んだのは小売セクターでした。同セクターではメガディール(取引額が50億米ドルを超える案件)が2021年の8件から2022年には2件にまで減少したためです。
M&Aの動向は、各国・地域にわたって一様ではありませんでした。以下で詳しく説明しますが、これは投資家が他の市場で機会と成長を見いだすようになったという、より広範な変化を示唆しています。
2022年の平均ディール規模は2021年に比べて縮小し、特に下半期においての縮小が顕著でした。とりわけ、大規模で変革的なディールではなく、ポートフォリオの最適化や小規模なタックイン型の買収に重点を置いた企業において縮小が目立ちました。
消費者市場の企業は、戦略目標の達成と株主価値の向上を加速するために、2023年も引き続きポートフォリオの見直しと改善を進め、M&Aを利用した事業変革に注力すると予想されます。これは2022年と同様のトレンドが継続される動きです。2022年には、UnileverやKelloggなどの大手日用消費財企業が、特定のカテゴリーへの集中化に向けた事業再編を発表しました。主要な海運会社は、提供サービスを強化するために中核事業にとどまらないケイパビリティを追加しました。GSKやJ&Jなどの製薬大手は、コンシューマーヘルスケア事業の分離を完了、または発表しました。その他の企業もコンシューマーヘルスケア分野のポートフォリオの改善を続けました。
マクロ経済状況は依然として不透明で、消費者心理は引き続き低迷することが予想されます。大規模なディールにおいて資金調達は困難であるため、PEファンドは既存の投資先企業における価値創造を加速するために、小規模なボルトオン型買収に注力すると予想されます。さらに、ストラクチャードディールや、企業や他のPEと協力したリファイナンス活動の増加も予想されます。
企業がより厳しい規制環境を乗り切り、規制当局によってもたらされた競争上の懸念を緩和しようとする中で、一般的には、ディール規模の縮小または買収後の大規模売却の増加も予想されます。これは特に、反トラスト法関連の執行措置が増加している米国に当てはまります。
公開企業のバリュエーションが最近の高水準から再調整され、利ざやへの圧力と資金調達の課題が相まって困難な財務状況が顕在化する中、資金力のある企業や豊富な待機資金を有するPEが主導するオポチュニスティックなM&Aの増加が予想されます。最近の例として以下のものが挙げられます。
負債比率の高い企業は、バランスシートを強化する手段として、ポートフォリオ全体にわたり非中核資産を積極的に売却すると予想されます。したがって、こうした資産が市場に加わるのに伴い、オポチュニスティックな買い手にとっては機会が生み出されます。
マクロ経済環境が不安定であることを踏まえると、2023年は消費者市場のM&Aにとって引き続き厳しい年になるとみられます。しかし、ポートフォリオの最適化は依然としてCEOの抱える課題の中で重要な位置を占めており、これは戦略的変革を加速するためのディールの必要性と相まって、M&Aを通じた価値創造の機会創出を後押しすることになります。
データについて
M&A動向の解説は、業界で認知された情報源から提供されたデータに基づいています。具体的には、本書で言及する金額と数量は2022年12月31日時点でRefinitivが提供し、2023年1月2日にアクセスした、正式に発表されたディールに基づいています(噂や取り下げられたディールを除く)。これはDealogicからの追加情報および当社の独自調査によって保管されており、Dealogicのライセンスの下で提供されたデータから派生したデータも含まれています。Dealogicはこのようなライセンス供与されたデータに関する全ての権利を保持し、留保します。PwCの業界マッピングと整合させるため、ソース情報に一定の調整が加えられています。平均ディール金額は、発表されたディールにつき、開示されたディール金額のみに基づいて計算されています。
※本コンテンツは、PwC米国が2023年1月に公開した「Global M&A Trends in Consumer Markets: 2023 Outlook」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。
消費者心理はパンデミック後のインフレと金利の急上昇から完全には回復していないものの、消費者市場のディールメーキングは2025年に回復の兆しを見せ始めています。
消費者市場の2024年上半期のディール件数は、すでに低水準にあった前年同期からさらに減少しました。ディール金額も前年同期を下回りましたが、超大型ディールが全体の金額を下支えしている状況です。下半期のディールは改善が見込まれています。
2024年の消費者市場のM&A活動は急速なコストと製品価格のインフレに影響を受けるでしょう。ただし、中長期的には、完全に回復すると楽観視しています。
ポートフォリオの見直しとキャパシティ・ビルディング(基礎能力の構築・向上)への注力により、消費者セクターにおいてM&A市場が活性化するでしょう。