金融サービス業における世界のM&A動向:2023年見通し

2023年の金融サービスにおけるM&Aでは、ESG、ポートフォリオの最適化、デジタル化が引き続き戦略的な優先事項となり、より規律あるディールへのアプローチが予想されます。

合併・買収(M&A)は、金融サービス(FS)セクターにおける変革を促すものであり、今後もそうあり続けるでしょう。既存企業はデジタルケイパビリティを強化し、プラットフォーマーとフィンテックによるディスラプション(破壊的な変革)に対抗し、規制当局からの持続的な圧力に対処するなかで、戦略的パートナーシップや統合の機会を求めるからです。

とはいえ、金融サービスのディールメーカーは、国内総生産(GDP)成長率の鈍化、インフレ、金利上昇、ロシア・ウクライナ紛争に起因する混乱、暗号資産の破綻による影響を含め、現在の不透明なマクロ経済・市場環境がもたらす課題に直面しています。また、実体経済におけるサプライチェーンの混乱(間接的に金融サービス業界にも影響)、スキルの高い人材の獲得競争、加速するデジタルとクラウドの変革などがこれらの課題をより複雑にしています。企業経営者はこれほどまでに激しい、このような圧力に直面したことがありません。

ディールの複雑性が増していることから、金融サービスのディールメーカーにはさまざまなシナリオを検討し、確固とした価値創造計画を策定することが求められています。金融サービスにおける最大のM&A機会は、顧客主導の変革、サプライチェーン、オペレーション、クラウド、ファイナンスのトランスフォーメーション、ESG(環境・社会・ガバナンス)の分野に存在すると思われます。M&A市場は2023年も厳しい状況が続くとみられますが、金融サービスセクターはディールメーカーに対し、より規律ある慎重な方法ではあるものの、目標達成に向けた戦略を遂行する機会を多く提供すると考えています。

「金融サービス市場では、2023年も引き続き活発にディールが行われるでしょう。ディールメーカーは各案件の状況を分析・最適化するために一層の努力を払う必要がありますが、機会を厳選して行動する投資家、特に法人は、独自の未来を切り開いていくと考えます」

Christopher SurPwCドイツ、パートナー、グローバル金融サービス関連ディールリーダー

M&Aが活発な分野

今後半年から1年の間に以下の分野のM&A活動が活発になると予想します:

  • フィンテック:企業とプライベート・エクイティ(PE)投資家は引き続き、DXや投資戦略の一環としてフィンテック企業に関心を寄せています。しかし、インフレや金利上昇といった現在の市場環境を考えると、フィンテック企業も圧力にさらされており、昨年に比べて企業価値が低下しています。これにより、大手銀行は魅力的な資産を以前よりも低いバリュエーションで取得できるM&Aの機会に恵まれるかもしれません。また、フィンテック企業はベンチャーキャピタルからさらなる資金を確保できない場合、買い手を模索する可能性があります。そのため、ディストレストM&Aが行われたり、一部のフィンテック企業が単に市場から姿を消したりすることが予想されます。
  • プライベート・エクイティ(PE):金融サービスにますます特化し、金融サービス専門チームを擁し、ファンドの規模を拡大しているPE投資家は、保険仲介、決済、プラットフォーム、フィンテック、インシュアテック(InsurTech)、レグテック(RegTech)といった金融サービスや、金融サービス関連の話題に注目しています。したがって、2023年も引き続きM&Aが活発に行われるでしょう。ただ、資本コストの上昇を背景に、PE投資家はリターンを求める圧力の高まりに直面しており、価値創造に焦点を定めることがこれまで以上に重要になると考えられます。
  • 統合:変わりゆく顧客ニーズや激化する競争に加え、プラットフォームやエンベディッドファイナンスの成長に示されるように、従来のビジネスモデルは崩壊しつつあります。実行可能なビジネスモデルの構築にはある程度の規模が不可欠であり、特に、市場参加者が規模と範囲の経済から恩恵を受けるためにポジションを変える必要がある細分化されたセクターにおいては、さらなる統合が行われると予想します。

2023年のM&Aを動かす主なテーマ

ESG

金融サービス企業は、ESG規制だけでなく、従業員、顧客、バリューチェーンパートナー、投資家、非政府組織、メディアなどのさまざまな利害関係者から、事業や投資の意思決定に際してESGを考慮することを求める圧力の高まりに直面しています。投資家と経営陣はこれまで、業績の主要な尺度としてリスクとリターンという2つの側面を用いてきましたが、今やESGは第3の側面となっています。PwCのグローバル投資家意識調査2022によると、投資家は持続可能性を企業にとっての優先事項と考えており、単なる付加的なものとして扱われるにはあまりにも重要な要素です。むしろ、持続可能性は事業戦略や資本配分、投資、戦略実行に関わる他の活動の意思決定プロセスに組み込まれるべきです。

DXとテクノロジー

銀行などの金融機関が消費者の期待やオペレーションの複雑化に対処し、フィンテック企業や非金融サービス企業がもたらすディスラプションに対してマーケットポジションを確保しようとするなか、景気が減速しているにもかかわらず、DXは戦略的優先事項であり続けています。2023年のM&A、パートナーシップ、戦略的提携の焦点は、データ活用、増大するサイバーセキュリティ関連の懸念に対するソリューションの導入、業務効率改善、ディールプロセスの高速化を目的としたディールになると予想されます。

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再編

現在、金融サービスのクライアントは、パンデミックとその後の景気減速期に予想されたほど、個人顧客と法人顧客双方のローンのデフォルト(債務不履行)の悪影響を受けていないようです。とはいえ、仮に厳しいマクロ経済環境が長引く場合、2008年の世界金融危機時より資本力がはるかに高いにもかかわらず、銀行業界では非中核資産や不良債権(NPL)が売却されたり、生命保険事業のランオフプラットフォーム(新規引受を終了している事業)が確立されたりするなど、金融サービス企業の再編が進む可能性があります。

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金融サービス業におけるM&Aの2023年見通し

マクロ経済的、また地政学的な混乱による短期的な変動はあるものの、2023年を通じてM&Aが増加し、ディールフローが継続、さらには改善するという明るい兆しが見えています。金融サービス企業は、最近完了した案件を消化するだけでなく、現在および将来の課題に対応するために、ビジネスモデルのさらなる変革を進める方法を考える必要があります。M&Aは、企業を買収して将来の成長を推進する、あるいは収益性の低い事業や非中核事業を売却して組織運営の焦点を絞り込むことが、そうした変革の旅にとって不可欠な要素となります。

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データについて
M&A動向に関する当社の見解は、業界で認知された情報源から提供されたデータに基づいています。本レポートで使用した金額および件数は、2022年12月31日現在でRefinitivにより提供された、2023年1月2日時点でアクセスした公式発表に基づいており、噂や、取り下げられたディールは除外しています。さらに、補足情報としてDealogicと当社の独自調査からの情報も加味しています。本レポートは、Dealogicによる使用許諾に基づいて提供されたデータから導出したデータを含んでいます。かかる被使用許諾データの全ての権利はDealogicが留保しています。PwCの産業マッピングと一致させるため、データ情報源に一定の調整を加えています。

※本コンテンツは、PwC米国が2023年1月に公開した「Global M&A Trends in Financial Services: 2023 Outlook」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

以下の国・地域から、金融サービスにおける各地のM&A動向をご覧いただけます:

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