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合併・買収(M&A)は、金融サービス(FS)セクターにおける変革を促すものであり、今後もそうあり続けるでしょう。既存企業はデジタルケイパビリティを強化し、プラットフォーマーとフィンテックによるディスラプション(破壊的な変革)に対抗し、規制当局からの持続的な圧力に対処するなかで、戦略的パートナーシップや統合の機会を求めるからです。
とはいえ、金融サービスのディールメーカーは、国内総生産(GDP)成長率の鈍化、インフレ、金利上昇、ロシア・ウクライナ紛争に起因する混乱、暗号資産の破綻による影響を含め、現在の不透明なマクロ経済・市場環境がもたらす課題に直面しています。また、実体経済におけるサプライチェーンの混乱(間接的に金融サービス業界にも影響)、スキルの高い人材の獲得競争、加速するデジタルとクラウドの変革などがこれらの課題をより複雑にしています。企業経営者はこれほどまでに激しい、このような圧力に直面したことがありません。
ディールの複雑性が増していることから、金融サービスのディールメーカーにはさまざまなシナリオを検討し、確固とした価値創造計画を策定することが求められています。金融サービスにおける最大のM&A機会は、顧客主導の変革、サプライチェーン、オペレーション、クラウド、ファイナンスのトランスフォーメーション、ESG(環境・社会・ガバナンス)の分野に存在すると思われます。M&A市場は2023年も厳しい状況が続くとみられますが、金融サービスセクターはディールメーカーに対し、より規律ある慎重な方法ではあるものの、目標達成に向けた戦略を遂行する機会を多く提供すると考えています。
「金融サービス市場では、2023年も引き続き活発にディールが行われるでしょう。ディールメーカーは各案件の状況を分析・最適化するために一層の努力を払う必要がありますが、機会を厳選して行動する投資家、特に法人は、独自の未来を切り開いていくと考えます」
今後半年から1年の間に以下の分野のM&A活動が活発になると予想します:
2021年から2022年にかけて、金融サービスにおける世界のM&A件数は17%、金額は42%、それぞれ減少しました。この減少は、2021年に記録的なディールメーキングの年を迎えてから急変したM&A市場全般の傾向と一致するものでした。マクロ経済的・地政学的な逆風が強まり、金融サービスセクターはウクライナにおける紛争とそれに伴う制裁の影響を受け、ディールメーカーの間で不確実性が高まりました。厳しいディールメーキング市場にもかかわらず、2022年のM&A活動はリセットされ、パンデミック前の水準に戻った形です。ディール金額が件数よりも大きく減少したのは、2021年から2022年にかけてメガディール(金額が50億米ドル以上の案件)の金額が75%以上、件数が21件から5件へそれぞれ減少したことが一因となりました。
金融サービス企業は、ESG規制だけでなく、従業員、顧客、バリューチェーンパートナー、投資家、非政府組織、メディアなどのさまざまな利害関係者から、事業や投資の意思決定に際してESGを考慮することを求める圧力の高まりに直面しています。投資家と経営陣はこれまで、業績の主要な尺度としてリスクとリターンという2つの側面を用いてきましたが、今やESGは第3の側面となっています。PwCのグローバル投資家意識調査2022によると、投資家は持続可能性を企業にとっての優先事項と考えており、単なる付加的なものとして扱われるにはあまりにも重要な要素です。むしろ、持続可能性は事業戦略や資本配分、投資、戦略実行に関わる他の活動の意思決定プロセスに組み込まれるべきです。
銀行などの金融機関が消費者の期待やオペレーションの複雑化に対処し、フィンテック企業や非金融サービス企業がもたらすディスラプションに対してマーケットポジションを確保しようとするなか、景気が減速しているにもかかわらず、DXは戦略的優先事項であり続けています。2023年のM&A、パートナーシップ、戦略的提携の焦点は、データ活用、増大するサイバーセキュリティ関連の懸念に対するソリューションの導入、業務効率改善、ディールプロセスの高速化を目的としたディールになると予想されます。
現在、金融サービスのクライアントは、パンデミックとその後の景気減速期に予想されたほど、個人顧客と法人顧客双方のローンのデフォルト(債務不履行)の悪影響を受けていないようです。とはいえ、仮に厳しいマクロ経済環境が長引く場合、2008年の世界金融危機時より資本力がはるかに高いにもかかわらず、銀行業界では非中核資産や不良債権(NPL)が売却されたり、生命保険事業のランオフプラットフォーム(新規引受を終了している事業)が確立されたりするなど、金融サービス企業の再編が進む可能性があります。
アセット/ウェルスマネジメント(AWM)の展望は進化し続けています。AWM企業がM&Aの機会を追求する理由はさまざまですが、あらゆる企業が収益の伸びの鈍化や利益率の縮小に対応するためにディールを活用しています。この業界における現在の動向を読み解くためには、アセットマネジメントとウェルスマネジメントを区別する必要があります。
アセットマネジメント企業は、中核能力に焦点を定めた買収によって成長を促進しています。2023年は以下の動向を背景としたM&Aが予想されます:
ウェルスマネジメント業界には、強い地域特性、ビジネスモデル、ブランドがあります。結果として、ウェルスマネジメントにおけるM&Aは国によって異なる軌道をたどっており、2023年は以下の動向が見込まれます:
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銀行のM&A市場は、地政学的問題、インフレ、世界的なGDPの成長への懸念に悪影響を受けていると考えます。2022年のディール活動の減速は、2023年も最初の数カ月間は続くことが予想されます。
しかし、短中期的に、銀行市場は全体として主に以下の市場動向を示すと思われます:
このような動向を踏まえ、M&Aの見通しは以下のように考えています:
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保険会社の全体的な財務実績とビジネスモデルは、以下のようにインフレと金利上昇の影響を大きく受けています:
インフレの影響:
金利の影響:
このような動向を考えると、保険会社にとって変革を加速させる必要性はかつてないほど高まっています。この厳しい環境において、保険会社は今、自社の中核事業を明確に定義する必要があります。
保険会社は、顧客への価値提案と利益/コストモデルの改善に向けた変革計画を策定し、展開しなければなりません。また、保険会社は事業売却から最大の価値を引き出すことを目標に、どの事業分野が将来の成長をけん引するか見極め、保持すべき事業と撤退または処分する事業を決定する必要があります。
さらに、保険仲介セクターで活発なM&A活動が予想されます。創業者や個人オーナーが所有する、あるいはPE企業向けの買収プラットフォームを代表する保険仲介会社の一部は、すでに中小企業の市場や、同規模企業の市場の大々的な統合の渦中にあります。
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マクロ経済的、また地政学的な混乱による短期的な変動はあるものの、2023年を通じてM&Aが増加し、ディールフローが継続、さらには改善するという明るい兆しが見えています。金融サービス企業は、最近完了した案件を消化するだけでなく、現在および将来の課題に対応するために、ビジネスモデルのさらなる変革を進める方法を考える必要があります。M&Aは、企業を買収して将来の成長を推進する、あるいは収益性の低い事業や非中核事業を売却して組織運営の焦点を絞り込むことが、そうした変革の旅にとって不可欠な要素となります。
データについて
M&A動向に関する当社の見解は、業界で認知された情報源から提供されたデータに基づいています。本レポートで使用した金額および件数は、2022年12月31日現在でRefinitivにより提供された、2023年1月2日時点でアクセスした公式発表に基づいており、噂や、取り下げられたディールは除外しています。さらに、補足情報としてDealogicと当社の独自調査からの情報も加味しています。本レポートは、Dealogicによる使用許諾に基づいて提供されたデータから導出したデータを含んでいます。かかる被使用許諾データの全ての権利はDealogicが留保しています。PwCの産業マッピングと一致させるため、データ情報源に一定の調整を加えています。
※本コンテンツは、PwC米国が2023年1月に公開した「Global M&A Trends in Financial Services: 2023 Outlook」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。