
ヘルスケア業界における世界のM&A動向:2025年の見通し
マクロ経済的要因の改善と米国の規制緩和への期待に後押しされ、米国と欧州のディール市場は堅調に推移しており、2025年のヘルスケア業界のM&Aは金額、件数ともに加速するものと予想されます。
2022年は医薬・ライフサイエンスおよびヘルスケアサービスの双方のM&A活動にとって厳しい1年となりましたが、2023年にはディール組成が従来の水準まで回復すると予想されます。
買い手がイノベーティブな資産を巡り競い合う中、企業のバランスシート上の豊富なキャッシュやプライベート・エクイティ(PE)のドライパウダーにより、年間を通じて積極的なM&A活動が続くでしょう。
ヘルスケア業界の企業は、自社の成長プラン達成に向けて買収が必要となるでしょう。大手製薬会社は、開発パイプラインのギャップを解消すべく、アーリーステージに位置するバイオテクノロジー企業の買収を図っていくと予想されます。上場企業のバリュエーション低下は、コーポレートプレイヤーにおける大規模ディール組成キャパシティを限定的にする可能性がある一方、イノベーティブな資産をより魅力的な価格で取得する機会を創出する可能性もあります。
厳しいマクロ経済環境や人材不足、インフレを要因として、独立系ヘルスケアクリニックが、特に民間の病院や医療介護施設などの総合プラットフォームの傘下に加わる可能性も高まるでしょう。その他、動物病院や放射線治療施設など最近のロールアップ型プラットフォームは、依然としてフラグメントな市場の中で、今後も統合を続けていくと思われます。一方、人手不足問題をさらに軽減し、医療機関による費用対効果および質の高いケアの提供を可能とする、遠隔医療、ヘルステック、アナリティクス企業は、投資家から高い関心を集めると予想されます。
「2023年のマクロ経済は引き続き厳しい状況が予想されます。しかし、バリュエーションが元の水準まで戻り、またヘルスケア業界の企業は事業目標の達成や競合他社に対する優位性の維持に向けて事業のイノベーションや変革を必要としていることから、M&Aを強く推進する機会が生じるでしょう」
今後半年から1年の間に以下の分野のM&A活動が活発になると予想します。
ヘルスケア業界における2022年のグローバルM&A件数および金額は、件数で23%、金額で46%、それぞれ過去最高となった2021年の水準から減少しました。2022年のディール件数はパンデミック前の水準を上回ったものの、金額は大きく落ち込みました。メガディール(金額が50億米ドル以上のディール)の件数は、2021年から2022年にかけて20件から9件へと半減しました。しかし、2022年に発表された9件のメガディールのうち、5件は年末の2カ月間に発表されたものであり、2023年にはさらに多くのメガディールが発表されると予想されます。
GDP成長の鈍化、インフレ、金利上昇、ウクライナ侵攻、中国におけるCOVID-19感染状況の悪化などが相まって、ディール環境は厳しさを増しています。世界規模のパンデミックによるサプライチェーンの混乱と地政学的緊張の高まりにより、ビジネスリーダーはリスクや依存関係を再評価し、コントロールの強化に向けてM&Aに乗り出しています。2023年には、リードタイムの短縮や、クライアントが望む確実性の向上を図るための戦略として、M&Aによるサプライチェーンのオンショア化、ニアショア化あるいは「フレンドショア化」(友好国や同盟国でのサプライチェーン構築)が増加すると予想します。
2023年、ヘルスケア業界におけるディール組成活動は安定的に推移すると予想しています。不透明なマクロ経済状況にもかかわらず、投資家は依然としてこのセクターに魅力を感じています。事業変革やリポジショニングのツールとしてM&Aを活用することにより、企業はステークホルダーに対して長期的な価値や持続的な成果(sustained outcomes)を生み出しやすくなると思われます。
データについて
M&A動向に関する当社の見解は、業界で認知された情報源から提供されたデータに基づいています。本レポートで使用した金額および件数は、2022年12月31日時点でRefinitivが提供し、2023年1月2日時点でアクセスした公式発表に基づいており、噂や、取り下げられたディールは除外しています。さらに、補足情報としてDealogicおよび当社の独自調査からの情報も加味しています。本レポートは、Dealogicによる使用許諾に基づいて提供されたデータから導出したデータも含んでいます。かかる被使用許諾データの全ての権利はDealogicが留保しています。なお、PwCの業界マッピングと整合させるため、データ情報源に一定の調整を加えています。
※本コンテンツは、PwC米国が2023年1月に公開した「Global M&A Trends in Health Industries: 2023 Outlook」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。
マクロ経済的要因の改善と米国の規制緩和への期待に後押しされ、米国と欧州のディール市場は堅調に推移しており、2025年のヘルスケア業界のM&Aは金額、件数ともに加速するものと予想されます。
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M&Aは、2023年下半期においても、ヘルスケア・製薬企業にとって重要な変革手段であり続けるでしょう。