ヘルスケア業界における世界のM&A動向:2023年見通し

ヘルスケア業界における2023年のM&A活動は、イノベーションや成長見通しへの投資家の期待が高まる中、回復に向かうでしょう。

2022年は医薬・ライフサイエンスおよびヘルスケアサービスの双方のM&A活動にとって厳しい1年となりましたが、2023年にはディール組成が従来の水準まで回復すると予想されます。

買い手がイノベーティブな資産を巡り競い合う中、企業のバランスシート上の豊富なキャッシュやプライベート・エクイティ(PE)のドライパウダーにより、年間を通じて積極的なM&A活動が続くでしょう。

ヘルスケア業界の企業は、自社の成長プラン達成に向けて買収が必要となるでしょう。大手製薬会社は、開発パイプラインのギャップを解消すべく、アーリーステージに位置するバイオテクノロジー企業の買収を図っていくと予想されます。上場企業のバリュエーション低下は、コーポレートプレイヤーにおける大規模ディール組成キャパシティを限定的にする可能性がある一方、イノベーティブな資産をより魅力的な価格で取得する機会を創出する可能性もあります。

厳しいマクロ経済環境や人材不足、インフレを要因として、独立系ヘルスケアクリニックが、特に民間の病院や医療介護施設などの総合プラットフォームの傘下に加わる可能性も高まるでしょう。その他、動物病院や放射線治療施設など最近のロールアップ型プラットフォームは、依然としてフラグメントな市場の中で、今後も統合を続けていくと思われます。一方、人手不足問題をさらに軽減し、医療機関による費用対効果および質の高いケアの提供を可能とする、遠隔医療、ヘルステック、アナリティクス企業は、投資家から高い関心を集めると予想されます。

Health industry image

「2023年のマクロ経済は引き続き厳しい状況が予想されます。しかし、バリュエーションが元の水準まで戻り、またヘルスケア業界の企業は事業目標の達成や競合他社に対する優位性の維持に向けて事業のイノベーションや変革を必要としていることから、M&Aを強く推進する機会が生じるでしょう」

Christian MoldtPwCドイツ、パートナー、グローバルヘルス業界ディールズリーダー

M&Aが活発な分野

今後半年から1年の間に以下の分野のM&A活動が活発になると予想します。

医薬・ライフサイエンス

  • パイプラインを埋めるためのバイオテクノロジー企業買収:大手製薬企業が成長プラン達成に向けてM&Aを模索する中、5~10年後にパイプラインのギャップを解消するのに適した中堅バイオテクノロジー企業(50~150億米ドル規模)に注目が高まるでしょう。しかし、真の意味でイノベーティブな資産の数は限られており、これらの事業に対するバリュエーションや競争は高水準で推移すると思われます。今後もM&Aは、大企業の買収よりも、中~小規模のディールやジョイントベンチャー組成が主流になると予想されます。
  • 投資のための売却:大手製薬コングロマリットは、引き続きポートフォリオの再編成を行うとともに売却すべきノンコア資産の選定を行っていくでしょう。金利の上昇と株価の下落に伴い、企業がポートフォリオの最適化・コアコンピテンシーとの整合化に向けた新規投資資金を捻出することを目的とする、事業売却プランへのプレッシャーが高まる可能性があります。
  • CRO、CDMO、メドテック:PEは引き続き、開発業務受託機関(CRO)、受託製造開発機関(CDMO)、医療テクノロジー(メドテック)企業を巡り、他企業との競争を繰り広げると予想されます。潤沢なキャッシュフローを背景に、2023年はこうした分野が魅力的な投資先となり、mRNAや細胞・遺伝子治療に強い企業を巡る競争が引き続き激化するでしょう。

ヘルスケアサービス

  • 消費者向けヘルスケア:最近スピンオフした複数の消費者向け健康食品・OTC医薬品専業企業は、M&Aによる自らの変革プランの加速化を模索しています。こうした状況により、ビタミン・ミネラル・サプリメント(VMS)および栄養補助食品に特化した企業は、2023年も魅力的な資産であり続けると思われます。
  • ディストレストディール:パンデミック時に一部医療部門が受けていた政府からの大規模な支援は終了または縮小化傾向にあります。このため、慢性的な労働力不足により多くの経営者が大きな困難に直面している病院部門を中心に、ディストレストディールが増加する可能性があります。
  • 遠隔医療とデジタル化:パンデミックで悪化している人手不足の問題を受け、デジタルを活用することで効率化を進め、熟練従業員の不足がもたらすギャップを改善すべきとの圧力が医療機関に対してこれまで以上にかかっています。遠隔医療、ヘルステック、アナリティクス企業は、こうした価値のギャップを埋める魅力的な資産であり続けるでしょう。

M&A活動の主なテーマ

マクロ経済・地政学的な課題に直面する中、確実性を模索

GDP成長の鈍化、インフレ、金利上昇、ウクライナ侵攻、中国におけるCOVID-19感染状況の悪化などが相まって、ディール環境は厳しさを増しています。世界規模のパンデミックによるサプライチェーンの混乱と地政学的緊張の高まりにより、ビジネスリーダーはリスクや依存関係を再評価し、コントロールの強化に向けてM&Aに乗り出しています。2023年には、リードタイムの短縮や、クライアントが望む確実性の向上を図るための戦略として、M&Aによるサプライチェーンのオンショア化、ニアショア化あるいは「フレンドショア化」(友好国や同盟国でのサプライチェーン構築)が増加すると予想します。


ヘルスケア業界におけるM&Aの展望

2023年、ヘルスケア業界におけるディール組成活動は安定的に推移すると予想しています。不透明なマクロ経済状況にもかかわらず、投資家は依然としてこのセクターに魅力を感じています。事業変革やリポジショニングのツールとしてM&Aを活用することにより、企業はステークホルダーに対して長期的な価値や持続的な成果(sustained outcomes)を生み出しやすくなると思われます。

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データについて
M&A動向に関する当社の見解は、業界で認知された情報源から提供されたデータに基づいています。本レポートで使用した金額および件数は、2022年12月31日時点でRefinitivが提供し、2023年1月2日時点でアクセスした公式発表に基づいており、噂や、取り下げられたディールは除外しています。さらに、補足情報としてDealogicおよび当社の独自調査からの情報も加味しています。本レポートは、Dealogicによる使用許諾に基づいて提供されたデータから導出したデータも含んでいます。かかる被使用許諾データの全ての権利はDealogicが留保しています。なお、PwCの業界マッピングと整合させるため、データ情報源に一定の調整を加えています。

※本コンテンツは、PwC米国が2023年1月に公開した「Global M&A Trends in Health Industries: 2023 Outlook」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

ヘルスケア業界における各国のM&A動向については、以下の国・地域を選んでご覧ください。