プライバシーメガトレンド4:根強いプライバシーパラドックス

プライバシーパラドックスを解消するイノベーターが登場しない限り、新しいマーケティング手法に対する消費者の反応は変動し続けるでしょう。

その理由とは?

プライバシーパラドックスとは、消費者がプライバシーを重視していると言いながらも、実際の行動にはその価値観が反映されていないというギャップのことで、過去20年間の消費者調査や行動実験で根強い現象として明らかになっています。自身のプライバシーが脅かされることに不安を感じているにもかかわらず、ソーシャルメディア上で無制限に個人情報を提供するなど、オンライン上でリスクの高い行動を続ける人は数多くいます。

こうしたギャップが存在する要因として、以下のような点が考えられます。

  • 消費者は、自分が提供しているデータがどれくらいの価値があるかを理解していない
  • データバリューチェーンにおけるさまざまなプレイヤーの付加価値に価格を設定する価値評価モデルが未成熟である
  • 消費者が自分の情報が悪用された場合に生じる潜在的な損害の大きさを認識していない
  • 一部のプラットフォーム、特にソーシャルメディアポータルに相当する代替が存在しない

このギャップは欧米諸国では大きく拡大している一方、アジア諸国や高齢者層では小さいという傾向が見られます。AIや政府・職場による監視が増加し、自動化技術によるプライバシー保護措置の執行でさまざまなことが明らかになれば、この状況は変わる可能性があります。プライバシー保護について懸念を強めるようになる消費者がいる一方で、社会の利益のために個人情報を共有する機会が増えていることを歓迎する消費者も現れるでしょう。

このトレンドの推進要因とは?

  • データ集約型の技術革新および新たなデータ利用の影響
  • テクノロジーや新たなデータ利用による個人的・社会的な弊害に対する社会の懸念
  • 社会への不安や、公平性を求める声の高まり

プライバシーパラドックス


消費者が全データの開示に求める対価(月額)
消費者が全データの削除に必要と考える対価(月額)

出典:Camegie Mellon University「What Is Privacy Worth?」2012年

ビジネスに及ぼす影響とは?

企業がデジタル戦略を加速させるための投資を正当化するには、消費者が最新テクノロジーやマーケティング手法をより迅速に受け入れることが求められます。従来のパラダイムを新たな年代・地域の購買層に持ち込む企業は、新しい購買層のプライバシーや価値に対する変化し続ける期待に応えることができなければ、高いリターンは得られないでしょう。一方、適切な価格、質の高い製品・サービス、柔軟性のあるプライバシー管理によって競合他社を上回る消費者向けの企業は、最も大きな利益を上げることになります。

企業がプライバシーパラドックスを打ち破り、状況ごとに異なる消費者の幅広い購買姿勢に対応するプライバシーオプションを提供できれば、その企業には大きなチャンスが待ち受けています。一方、顧客獲得から購入、更新に至るまで、顧客のライフサイクル全体を通してシンプルで分かりやすいプライバシーオプションを用意し、消費者に信頼できるプライバシーエクスペリエンスを提供できなければ、企業は利益を上げるチャンスを逃すことになります。オンラインショッピングで買い物かごに商品を入れたものの決済に進まなかったり、会員登録画面で離脱したりといったことが起こるのは、購入に至らなかった理由が価格にあるのではなく、個人情報が必要以上に収集、利用、共有されることへの懸念にあるという証左なのです。

CEOが取るべき行動とは?

  • データのアクセス、ポータビリティ、補正、利用制限、消去に関する消費者のプライバシー権に関してグローバルで共通の立場を確立する
  • 最高マーケティング責任者(CMO)に、三極のプライバシーモデルの文化的背景や法律上の期待、データとテクノロジーの倫理に関する自社の方針に沿ったカスタマー・エクスペリエンス・ジャーニーを構築する任務を与える
  • 最高情報責任者(CIO)、最高マーケティング責任者(CMO)、最高情報セキュリティ責任者(CISO)、最高プライバシー責任者(CPO)に、プライバシー権およびカスタマー・エクスペリエンス・ジャーニーを保障する消費者識別管理機能を構築するよう指示する

「カナダでは、消費者は特典や金銭的インセンティブだけでなく、個人データの管理を強化している企業を選ぶ傾向がすでに見られています。こうした企業は、データの価値交換に独創性を発揮しています。中にはデータを活用した慈善プログラムを策定している企業もあり、消費者は自分のデータを提供することで本人だけでなく社会全体の利益になる形で特典を得られるようになっています」

Jordan Prokopy,PwCカナダ プライバシーリーダー

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