{{item.title}}
{{item.text}}
{{item.title}}
{{item.text}}
近時、日本を含む世界各国において、ESG/サステナビリティに関する議論が活発化する中、各国政府や関係諸機関において、ESG/サステナビリティに関連する法規制やソフト・ローの制定または制定の準備が急速に進められています。企業をはじめ様々なステークホルダーにおいてこのような法規制やソフト・ロー(さらにはソフト・ローに至らない議論の状況を含みます。)をタイムリーに把握し、理解しておくことは、サステナビリティ経営を実現するために必要不可欠であるといえます。当法人のESG/サステナビリティ関連法務ニュースレターでは、このようなサステナビリティ経営の実現に資するべく、ESG/サステナビリティに関連する最新の法務上のトピックスをタイムリーに取り上げ、その内容の要点を簡潔に説明して参ります。
今回は、国連ビジネスと人権の作業部会が8月4日に公表した「訪日調査ミッション終了ステートメント」についてご紹介します。
国連ビジネスと人権の作業部会(Working Group on Business and Human Rights)は、本年7月24日から8月4日まで訪日調査を実施し、政府、ビジネス界、市民社会、業界団体、労働組合、労働者、学識者、弁護士その他ステークホルダーとの会合を行いました。訪日調査ミッション終了ステートメント(「本ステートメント」)1は、訪日調査の終了に際し、8月4日に公表されたものです。
同作業部会は、国連人権理事会の下、2011年に設立され、ビジネスと人権に関する指導原則の促進、普及及び実施、同指導原則の実施における取組及び教訓の情報交換及び促進、並びに勧告の評価及び実施を委託された組織であり、5名の独立した専門家から構成されています2。また、同作業部会は、特定のイシューや懸念について国、地域及び国際的な水準での意識の向上の機会を与える目的から加盟国の訪問調査の実施を委託されています3。訪問調査は、作業部会からの要望を受け入れた加盟国に対して行われ、特定の課題及び全般的な人権状況の評価がなされます。調査結果及び勧告事項については、人権理事会への報告書として公表されることとなります4。
訪日調査の最終報告書は、2024年6月に国連人権理事会に提出される予定とされています。本稿では、本ステートメントにおける指摘内容の概要を概説します。
本ステートメントが指摘した日本におけるビジネスと人権の概況は次の通りです。
1. 人権を保護する国家の義務 |
|
2. 人権を尊重する企業の責任 |
|
3. 救済へのアクセス |
国家司法メカニズム
国家非司法的メカニズム
非国家苦情処理メカニズム
|
人権への負の影響の評価に当たっては、社会的に弱い立場に置かれ又は排除されるリスクが高くなり得る集団や民族に属する個人への潜在的な負の影響に特別な注意を払うことが望ましいものとされています。一般的に脆弱な立場に置かれやすいステークホルダーの例としては、外国人、女性や子ども、障がい者、先住民族、民族的、種族的、宗教的又は言語的少数者が挙げられます5。
本ステートメントでは、リスクのあるステークホルダー及び懸念される分野として、次のものが指摘されています。
女性に関しては、男性とは異なるリスクがあり得ることに留意するとともに、企業が人権デューディリジェンスを実施する際にはジェンダー平等の観点を踏まえる必要があるとされます6。セクシャルハラスメントを含む各種ハラスメントの問題も従来から指摘されてきましたが、本ステートメントでは、次の諸点が指摘されています。
本年、いわゆるLGBT理解増進法7が施行されたほか、トランスジェンダー職員のトイレの利用に関する最高裁判決8が出されるといった動きがありましたが、LGBTQI+の人々については次のような指摘がなされています。
障がい者の人権を巡っては、障がいを理由とする差別の解消の推進に関する法律及び障がい者の雇用の促進等に関する法律により、企業も合理的な配慮が求められ、従業員が一定数以上の規模の事業主は、従業員に占める障がい者の割合を法定雇用率以上とする義務が課されています。本ステートメントにおいては、雇用問題について指摘がなされました。
2007年に「先住民族の権利に関する国際連合宣言」が国連で採択され、先住民族は、集団又は個人として、国際法・基準等で認められたすべての人権と基本的自由を十分に享受する権利を持つことが確認されました。先住民族の強制移住を禁止する同宣言第10条は、自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(「FPIC」)がなければ転住を行ってはならない旨を定めており、FPICは資源の開発、利用、採取などについても義務付けられています。本ステートメントにおいては、FPICを含めアイヌの人々の問題が指摘されています。
部落差別の問題は、日本社会における差別の問題として長らく指摘されており、差別解消のための法的措置もとられてきましたが、本ステートメントにおいては、次の点が指摘されています。
労働組合の問題も、従来から結社の自由に関連した問題が指摘されてきました。近年でも団体交渉の拒否や労働組合への加入をきっかけとした懲戒解雇・配転といった事例が問題となるほか、オンコールワーカーによる労働組合結成や外国人労働者の労働組合加入など新しい問題が指摘されていますが、本ステートメントにおいては、次の点が指摘されています。
企業活動が引き起こす環境汚染、地球温暖化及び気候変動の問題は、従来から指摘されてきました。本ステートメントにおいては、個別の問題が指摘されるとともに、次の全般的な問題点が指摘されています。
外国人技能実習生の問題は、アメリカ国務省の人身取引報告書において指摘されるなど、近年大きく取り上げられています。外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律に基づいて、技能実習制度の改正も図られていますが、本ステートメントにおいては、次の点が指摘されています。
メディアとエンターテインメント業界における各種ハラスメントや労働問題の存在が従来から指摘されてきましたが、本ステートメントにおいても、個別事案の問題に加えて、次の全般的な問題点が指摘されています。
本ステートメントの概要は以上です。限られた期間での訪日調査の結果であり、必ずしも日本社会ないし日本企業が直面している人権課題のすべてが網羅的に扱われているわけではないものと思われます。また、作業部会による勧告内容が如何なるものとなるかは2024年6月に公表予定の最終報告書を待つ必要があります。もっとも、ビジネスと人権の取組みを進める企業としては、本ステートメントにて指摘された人権課題が海外の人権専門家の目にも重要な課題と映っていることを念頭に置くことは、今後の取組みのためにも有益と考えられます。
2 https://www.ohchr.org/en/special-procedures/wg-business
3 https://www.ohchr.org/en/special-procedures-human-rights-council/country-and-other-visits
4 訪問調査が完了した加盟国に関する報告書等の資料は国連人権高等弁務官事務所のウェブサイトで閲覧可能です(https://www.ohchr.org/en/special-procedures/wg-business/country-visits)。
5 国連指導原則18、ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議(2022年9月)「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」(https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/business_jinken/dai6/siryou4.pdf )17頁等
6 前掲注5ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議17頁等参照。
7 「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」(令和5年法律第68号)
8 最判令和5年7月11日(https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/191/092191_hanrei.pdf)
※記事の詳細については、以下よりPDFをダウンロードしてご覧ください。