新興国進出を企図した現地企業の買収後、経営管理方針・水準の違いを背景として、現地での業務運営、経営管理に悩みを抱える日本企業は少なくありません。経験豊富な経営人材を送り込み、経営管理・合理化を推進してきた投資ファンドから持分取得するようなケースはともかく、創業時からオーナー経営者の属人的経営で成長してきたような、いわゆる「オーナー企業」の買収後は、統制の水準、経営管理品質のギャップに苦しめられることになります。PMIに向けた準備を企図した調査・準備は、買収実行時のデュー・ディリジェンスでは十分ではなく、投資後の対象会社コントロール、シナジー効果創出、経営資源の最大化の観点からの準備が欠かせません。
海外企業買収後のPMIに向けた準備・推進が不十分な場合に陥りがちなのが、図表1に示す「三重苦」です。海外市場の足がかりとなる拠点買収や新規事業を企図した海外での異業種企業買収などの場合、現地市場・対象事業に明るい現地経営陣に買収後も経営を一任しつつ、日本からは取締役を監督者として数名派遣し、モニタリングしながら投資効果の刈り取りを目指していく形態が一般的といえます。
ところが、一定期間を経ると、業績不振や人材流出、財務データの不整合などをきっかけに事業運営に支障が出始めることがあります。海外子会社のオペレーションは本社からの視界に入りづらく、現地の異常に気が付いた頃にはかなり状況が悪化している(見えない)、出向者を通じて状況把握を行おうとしても、現場の状況把握・原因特定を詳細に行うことができない(分からない)、時間をかけて原因を特定しても、出向者は現地社員を巻き込んで迅速に打ち手を講じることができない(動かせない)といった状況に陥りがちです。
このような状況では、対象会社の組織・人事、内部統制、業務報告体制など経営管理全般について今一度あらためて現状の振り返りを実施し、「再PMI」という観点で買収・統合後の事業リスク要因やシナジー創出のための取り組みから買収後の事業戦略を策定し直す契機としたり、業務改善・合理化すべき業務を分析・整理する取り組みが有効です。
いずれの取り組みにあたっても、獲得した対象会社の資産をいかに最大限活用できるか、という観点から今一度対象会社を再評価することが欠かせません。
【図表1】海外企業買収(子会社化)後のPMI準備・実施不足に伴う三重苦
図表2は振り返りの視点と振り返りに基づくソリューションを図示したものです。円で示される以下4つのフレームワークから現状把握と振り返りを推進しソリューションを検討していきます。
【図表2】振り返り・再評価の視点
現状把握、振り返りで明らかになった課題に応じて以下の諸点に留意しながら再PMIを推進することが肝要となります。通常のPMIは買収直後に実施するため、通常のオペレーションとは異なるプロジェクト的な体制がとりやすい状況にある一方、再PMIにおいては、基本的には普通に業務が回っている状態ですので、あらためて体制を組んで対応しなければならないことを宣言することからスタートする必要があります。
再PMIが必要となるケースと要対応事項を整理したのが、図表3です。買収成立後、形としては統合したものの、統合時に検討した方針が曖昧で具体性に欠けるまま時間が過ぎてしまったり、尊重や一任、といった言葉で語られる対応の不備・不足により、形骸化されたまま放置されることで対応が必要になります。
【図表3】再PMIが必要となるケース
買収後、対象会社への関与や統合推進に対して多くの日本企業が積極的とはいえないなか、「振り返り」と「再PMI」の重要性、ニーズは高まっています。統合直後は通常業務の運営や本社への財務報告対応が優先されがちです。対象会社の経営戦略の振り返りや、業務や組織の合理化・再構築といったテーマこそ、統合後数年経ちチームがお互いに腰を落ち着けて取り組める時期にこそ相応しい前向きな取り組みと捉え、本章で紹介した視点・ポイントを踏まえ一気に推し進めていくことが肝要と考えます。
M&Aの真の目的は価値創出(Value Creation)です。近年、多くの日本企業にPMIの重要性が浸透してきていますが、当初想定した統合効果を十分に得られていないケースも現実には見受けられます。PwCはPMIに係る豊富な支援実績および知見に基づき、M&Aを通じた価値の創出を支援しています。
M&Aアドバイザーとして、ソーシングから取引実行まで高い専門性を持ち一貫して支援します。また、クロスボーダーや不動産などの領域においても幅広い経験を有しています。
M&Aをあくまで戦略実現の手段の一つと捉え、戦略目的の具体化に重きを置きつつ、成長戦略の策定からターゲットサーチ、投資ストーリーの構築、交渉支援等、「M&A戦略の立案から実行」を一貫して支援します。