後編 サステナブル経営(ESG対応)における 企業活動と「人権」の尊重

6 おわりに

近時、企業の中には、本稿で述べた人権関連対応の基本的構造や世界的潮流を含めたトレンドを理解し、すでに具体的な取り組みを進めている企業も増加しています。他方で、企業利益の確保や資金調達の目的のみに着目して形だけの取り組みをしている、あるいは人権に対する取り組みに着手できていないと思われる企業も少なからず存在します。人権というテーマは、長らく企業の利益との繋がりが希薄であるという認識の下、後回しにされてきました。

しかしながら、今や時代は変わり、企業による人権の尊重は企業として当然に遵守すべき国際的コンセンサスとなり、経営のトップアジェンダの1つとまでなっていると言っても過言ではありません。企業の経営陣としては、人権尊重への取り組みに「投資」をしていくことが、ステークホルダーやライツホルダーからの支持や信頼を受け、結果として、企業価値を向上させ、ひいては、サステナブルな発展に繋がる(逆に、人権尊重に重きを置かない企業はサステナビリティに疑義が生ずる)ということを認識し、極力早い段階で自社の事業活動と人権への影響に真剣に向き合い、人権の尊重を掲げた経営に舵を切る必要があると考えられます。

前編はこちら


※1 本稿で「指導原則」とは、2011年の国連人権理事会で採択および公表した「ビジネスと人権に関する指導原則」を指します。

※2 ここでの「デュー・ディリジェンス」は、「(負の影響を回避・軽減するために)相当な注意を払う行為または努力」を意味します。

※3 先進企業の具体的取組みについては、「「ビジネスと人権」に関する取組事例集~「ビジネスと人権の指導原則」に基づく取組の浸透・定着に向けて~」(2021年9月、外務省)を参照。

※4 典型的なリスクの一例として、衣料品業界では、サプライチェーンを通じた労働者の権利侵害への関与等、ホスピタリティ業界では、従業員と顧客双方の健康への権利侵害への関与、ソーシャルメディア業界では、誤報に関連した個人やコミュニティに対する負の影響等が挙げられます。
「Business and Human Rights in the times of COVID-19」(国連人権高等弁務官事務所、2020年)を参照。
https://www.ohchr.org/Documents/Issues/Business/BusinessAndHR-COVID19.pdf

※5 当該取引先の取引先との契約にも同様の条項を入れることを要請し、バリューチェーン上の連鎖的な義務履行等を可能にする規定をいいます。

※6 バリューチェーン上の「コントロール・ポイント」(チョーク・ポイント)とは、バリューチェーン上で自社よりもより大きな影響力や可視性を有する企業のことをいいます。例えば、自社より上流に近い企業で複数の上流企業を束ねる企業などです。


執筆者

北村 導人

PwC弁護士法人
パートナー代表 北村 導人