CXとEXを融合させる ‐ 世界の消費者意識調査2019

エンプロイーエクスペリエンス(EX)の改善がカスタマーエクスペリエンス(CX)の改善を導く

企業は、カスタマーエクスペリエンス(顧客の体験、CX:Customer Experience)改善においてテクノロジーに頼ることが少なくありませんが、人間もそれに劣らず重要です。実店舗での買物体験を最も改善するものは何かと尋ねたところ、PwCの世界の消費者意識調査2019では、「取扱商品について深い知識を持った店舗スタッフ」という回答が第2位でした。

企業は、従業員への投資がカスタマーエクスペリエンスを向上させることを学びつつあります。例えば、米国を拠点とする食料品店のTrader Joe’s[English]や世界的なコーヒーショップチェーンのStarbucks[English]は、現場のスタッフに市場平均を上回る給与と医療/退職給付を提供しています。従業員に手厚い待遇を与えれば、従業員が積極的なブランドアンバサダーになり、カスタマーエクスペリエンスの改善につながるためです。Googleは、従業員が勤務時間の20%[English]を自分独自のプロジェクトにあてることを許可しており、これがGoogleの消費者向け製品やサービスの向上につながっています。Gmail、Googleマップ、Googleニュースもここから誕生しました。

顧客と直接接しない従業員も、カスタマーエクスペリエンスの改善に貢献します。例えば、消費財メーカーでは、製品が小売店やオンラインのプラットホームを通じて販売されるため、従業員と買物客は直接かかわりませんが、従業員は異なる形で顧客のニーズを満たし、関係を構築しています。

2019年1月にPwCが実施したインタビューで、世界的な消費財メーカーのオンライン店舗のディレクターは次のように語りました。「企業には、消費者に重点を置いた商業を目的とした部門があります。マーケティング、販売など、サプライチェーンにかかわる部門です。製造部門や生産部門では、KPI(重要業績評価指標)が消費者から少し離れていますが、それでも当社は消費者中心の企業であり、それが私たちの重要なバリュードライバーであると考えています」

従業員の体験を変えるには、組織文化を変えること

優れたエンプロイーエクスペリエンス(従業員の体験、EX:Employee Experience)は優れた組織文化から始まる、と従業員は考えており、ここに重要な認識の格差があります。PwC Strategy&のKatzenbach Centerが実施した最新のグローバル組織文化調査では、組織文化に対する経営陣と一般の従業員の見解に大きな違いがあることが明らかとなりました。調査に回答した各最高責任者と役員の63%が自社の組織文化が強力だと考えているのに対し、管理職以外の従業員ではわずか41%でした。

どうすれば、この組織文化に対する認識の格差を埋める[English]ことができるでしょうか?まず、企業固有で、従業員が共感できるような特徴を明確にします。次に、企業の特徴、戦略的な目標、業務上の目標に合わせ、社内で促進する必要のある行動を検討します。さらに、新しい行動を実践するチームや事業分野を指定し、新しい働き方に抵抗を感じる従業員には丁寧に対応します。そうすることで、非公式のリーダー(必ずしも高い役職になくても行動に影響を与えうる従業員)が現れ、基盤を作ってくれるでしょう。

プラスの感情エネルギー[English]を生成し、活用することは、組織文化を変える重要な要素となります。これにより、従業員は報酬や待遇に関係なく、意欲的に向上することに努めるようになります。リーダーは、組織文化の中で促進したいことを自ら実践する必要があります。

伝統のある企業には段階的な変化が必要

長年の実績を持つ企業は、起業家精神にあふれた消費者中心の考え方を取り入れたいとよく語りますが、多くの企業は起業家精神とは逆です。プロセス中心で、非常にサイロ化され、スピードではなく信頼性を重視しています。名声ある企業の経営者が成功を目指すのであれば、新しい組織文化を作り、従業員がカスタマーエクスペリエンスに力を注ぐのを支援する必要があります。また、企業の方向を転換する間も、既存の事業を継続しなければなりません。この微妙なバランスを取るには、段階的に変革を進めることが必要です。

2018年8月のインタビュー[English]で、Adidasの最高経営責任者(CEO)であるKasper Rørsted 氏は、次のように語っています。「枠組みの中で、一つひとつ進める必要があります。意味のある単位にプロジェクトを分割しなければ、実行は困難です。一度に実行しようとすれば、全体の矛盾をなくすことに時間がかかりすぎ、するべき作業ができません」つまり、意欲的な目標を掲げ、スケジュールを設定した小規模なチームを作り、それらのチームを企業全体から分離して自由にするということです。

スタートアップ企業と規模拡大を支援する企業のネットワークとして、17カ国にオフィスを持つアムステルダムのStartupbootcamp Globalの最高経営責任者(CEO)および共同設立者であるPatrick de Zeeuw 氏も、同様のアプローチを提唱しています。彼は、起業家精神と消費者中心の思考について、全社的な教育に取り組んでいます。2018年12月のインタビューでは、PwCに次のように語りました。「教育と実践は同じではありません。起業家的な改革を進められる心構えやスキル、そしてツールを実際に持っている人は、大企業でも少数しかいません」

De Zeeuw 氏は、官僚主義に邪魔されずにリソースを活用するため、いわゆる「母船」から十分な距離を取った小さなチームでの活動を採用しています。また、従業員主導型の革新をカスタマーエクスペリエンスに結びつける必要があることも強調しています。「適切なカスタマーエクスペリエンスがなければ、ビジネスが失敗するか、市場を最大限に生かせないかのどちらかになります。なぜなら、良くない体験は良くない製品だからです」

{{filterContent.facetedTitle}}

{{contentList.dataService.numberHits}} {{contentList.dataService.numberHits == 1 ? 'result' : 'results'}}
{{contentList.loadingText}}

主要メンバー

矢矧 晴彦

マネージングディレクター, PwCコンサルティング合同会社

Email