2024年の見通し

消費者市場における世界のM&A動向

Global M&A Trends in Consumer Markets hero image
  • 2024-04-24

マクロ経済の状況が堅調に推移する前提で、2024年の消費者市場におけるM&Aの増加は慎重ながら楽観できる見通し。

過去2年間、消費者市場のディールメーキングは困難な状況にあり、2023年の世界のディールは、ピークであった2021年より、件数は17%、金額は53%減少しました。マクロ経済的要因に加え、資金調達の難しさ、縮小しているとはいえ依然として売り手と買い手のバリュエーションギャップが続いていることが、このセクターでのディールを難しくしています。ミドルマーケットでのレジリエンスが高まったため、2023年 に行われたディールは総じて例年より小規模なものになりました。資本制約が強まる環境では、強力なバランスシートを持つ消費者市場の企業の方がプライベートエクイティ(PE)よりも有利でした。

地域や国ごとによって状況は異なりますが、最近のインフレ・データと2024年は金利が維持されるか低下し始めるかもしれないという中央銀行のシグナルを受けて、世界の投資家の自信は回復すると予想されます。消費者においては、自信と消費行動が回復するまではもう少し時間がかかるかもしれません。企業においては、2年間にわたる急速なコストと製品価格のインフレの後、原材料費上昇とそれに続く製品価格への圧力に対応できるかどうかが収益性に影響を与え、その結果、少なくとも短期的にはM&A活動に影響を及ぼすでしょう。ただし、中長期的には、消費者市場のM&A活動は完全に回復すると楽観視しています。

「消費者市場におけるM&Aは、回復にはもう少し時間がかかるかもしれませんが、トランスフォーメーション、成長の加速、そして企業が明日の課題に直面する際の競争力を高めるための強力で不可欠な手段であることに変わりはありません」

Hervé Roesch,PwC英国、パートナー、グローバル消費者市場ディールズリーダー

資金調達コストは2024年を通して高止まりする可能性が高く、バランスシートを強化し焦点を絞るためのレバレッジ削減を目的としたトランザクションが増える一方、新製品や新市場への参入、重要なケイパビリティ獲得を目的としたボルトオンやシナジーを狙ったディールも増えると予想されます。大規模なトランザクションを成功させるのは全般的に難しく、小規模なディールが続くという傾向が予想されますが、ジョイントベンチャー、アーンアウト、ベンダーローンなど、より複雑で創造的なストラクチャーが必要になるかもしれません。

52%

の消費者市場のCEOが、今後3年間に少なくとも1件の買収を計画

出典: PwC第27回世界CEO意識調査

特に中間所得層の購買力は依然として厳しい状況にあるため、すべてのサブセクターにおいてバリュー・スペクトラムの両端でより大きなダイナミズムが期待されます。以下では、M&Aの動きが最も活発化すると予想されるサブセクターについて説明します。また、2024年の各サブセクターおよびより広範囲にわたる消費者市場全体におけるM&Aを促進する主要テーマについても説明します。

2024年にM&Aが活発化する分野

2024年には以下の分野におけるM&Aが活発になると予想します。

食料品小売セクターの企業は厳しい市場環境が続く中、2024年も再編を進めると予想されます。いくつかの市場ではインフレが落ち着いていると思われるものの、物価は依然高止まりしているため、消費者は節約方法を模索しており、利幅を圧迫しています。過去1年から1年半にわたり、米国ではAlbertsonsとKrogerの合併案があったほか、AldiがSoutheastern GrocersからWinn-DixieとHarveysのスーパーマーケット約400店舗を買収すると発表し、フランスではCarrefourがLouis Delhaize groupグループからCoraとMatchの傘下にあるハイパーマーケット60店舗とスーパーマーケット115店舗を買収すると発表するなど、米国と欧州の食料品小売企業が業界再編に向けて一歩前進しています。

2023年後半、フランスのスーパーマーケットグループであるCasinoは債務リストラクチャリングに伴い、いくつかのスーパーマーケットとハイパーマーケットを売却する計画を発表しました。この売却計画には、国内のライバル企業や他の欧州地域のプレーヤーの両者が関心を寄せています。2024年には、補完的な事業基盤を持ち、規模の拡大によるシナジー効果が期待できる企業間で食料品小売セクターの統合がさらに進むと予想されます。

このセクターの主要企業は消費者へのアクセスを活用するためのケイパビリティ開発など、価値創造に率先して取り組んでいます。例えば、Walmartは広告事業、サードパーティマーケットプレイス(2023年に行ったインドのeコマース企業フリップカートへの35億米ドルの追加投資を含む)や物流機能に投資しています。Lidlを所有するSchwarzグループは顧客体験の向上と従業員の業務の簡素化を目的に、AI企業のAleph Alphaに投資しました。

消費者に焦点を当てたケイパビリティの再編や買収というこれらのトレンドは、さらなるポートフォリオの見直しと相まって2024年まで続くと予想され、選択的な売却につながる可能性もあります。

戦略的ポートフォリオの見直しは食品・飲料企業のM&A活動を引き続き活性化するでしょう。特に2024年に向けては、原材料費が最近のインフレによる高値から和らげられたことで、事業者はプライシングに対するより大きな圧力に直面すると思われます。これは財務および事業上のポジションが強い企業に利益をもたらす可能性が高いため、格差が拡大し、トランザクションの機会が広がります。

さらに、食品・飲料企業は複雑性(すなわち、多岐にわたるブランド)を管理し、競争優位性のある分野に財務的・経営的資源を集中させるために、事業ポートフォリオを常に評価しています。そのため、J.M. SmuckerによるHostess Brandsの買収発表、UnileverによるYasso Holdingsの買収、NestléがPEのPAI Partnersとのジョイントベンチャーを設立して欧州の冷凍ピザ事業の保有比率を引き下げたことなどに見られるように、統合、ブランド買収、選択的売却の機会が生まれると予想されます。

食品・飲料セクターは、とりわけ最も革新的な分野において、投資家にとって魅力的なセクターであり続けています。PitchBookのデータによると、過去10年間、欧州のベンチャーキャピタル(VC)による消費者市場への投資は食品・飲料セクターに積極的でした。VCの食品・飲料セクターへの投資件数が消費者市場への投資全体に占める割合は、2013年の16%から2023年には30%に増加し、金額は同期間に9%から30%に増加しました。VCによる投資の原動力となっているのは、このサブセクターにおける新技術やサービスの開発に対する関心の高まりです。また、VCは従来の動物由来製品と比較して、味に優れ、環境への影響が少なく、競争力のある価格帯の革新的な原料に大きな関心を寄せています。

案件組成における資金調達は依然厳しいものの、PEが売却されたブランドの譲り受けや新規市場への参入の機会をも模索していることから、食品サブセクターへの関心は引き続き高いと予想されます。米国のPEであるPaine Schwartz Partners率いるコンソーシアムがオーストラリアの生鮮食品会社Costaを非公開化する計画を発表したことは、この傾向を示しています。

気候変動、技術的ディスラプション、人口動態の変化、地政学そして社会的要因といった世界的なメガトレンドは、特にサステナビリティ、レジリエンス、資源へのアクセスに対する懸念に応じる形で、食品・飲料セクターの投資テーマに影響を与えています。こうした状況下で、企業はトランスフォーメーションを加速させる機会を求めているため、トランザクションは増加していくと思われます。

また、PepsiCoによるインスタカートへの投資に見られるように、企業は消費者やデジタルチャネルへのアクセスの獲得と活用の両方を追求していることから、テクノロジーは引き続き投資の主な原動力となるでしょう。

規制当局と消費者は、プラスチック除去やリサイクラビリティに関するソリューションを提供するよう包装事業者への圧力を高め続けており、研究開発や設備投資の必要性が高まっています。この圧力は、サステナビリティに配慮したソリューションへの明確な筋道を持たない企業の魅力とバリュエーションにも影響を与えています。

その結果、2024年は選択的売却、統合、非公開化案件によってM&Aの動きが加速すると予想されます。Smurfit KappaとWestRockの合併やOne Rock Capital PartnersによるConstantia Flexibles(主にリサイクルとリサイクル代替品を製品ポートフォリオとするプラスチック包装材メーカー)の買収など最近のトランザクションに見られるように、必要な投資を実現するためには規模の拡大が求められています。

大手企業も、追いつき、あるいは先行するためにサステナビリティパッケージングに関する知的財産やノウハウを持つ小規模な企業に注目し、製品や顧客基盤を拡げようとしています。こうしたケイパビリティによって、企業は循環型経済の実現に向けて増大する課題に対処し、気候変動目標の達成のために積極的にトランスフォーメーションを推進することができるでしょう。その結果、このような革新的な企業はマルチプルが高くなる傾向があります。

消費者の消費支出は引き続き厳しく、高いレベルの苦境が続くと予想されるため、2024年のファッションセクターでは二極化が進むでしょう。成功している企業は、バランスシートと事業基盤を活用して価値あるブランドを買収すると予想されます。

LVMHやKeringのようなグローバルなラグジュアリーの業界大手は、KeringのValentinoへの投資に代表されるように、「ハウス・オブ・ブランド(House of Brands)」戦略を引き続き採用すると予想されます。プラットフォーム買収(Platform plays)も期待されます。例えば、70カ国以上でオンライン展開する英国の小売企業Nextは、「トータルプラットフォーム」事業を拡大するため、近年、小規模小売企業への出資や買収を進めています。

2024年は、ブランドオーナーによるポートフォリオの見直しや、小売セクターの根強い課題に対処するための戦略的なビジネスモデルのトランスフォーメーションにより、ファッション関連のトランザクションがさらに増えると予想されます。また、店舗の運営業者は実店舗の存在感を、成長するEコマースチャネルへと適応させ続けています。

ペット消費は他の消費支出カテゴリーに比べてレジリエンスが高いと予想されます。これは、特に新興市場においてプレミアム化の高まりとペット飼育の増加が予想されるためです。さらに、消費者向けサービスの成長はペットサービスセクターにプラスの影響を与えると予想されます。

私たちは事業会社やPEが製品・サービスの幅を広げ、機能や地理的拠点を拡大するために、M&Aの機会を探索し続けると予想しています。General AtlanticとL Cattertonが新鮮なドッグフードに特化した英国のサブスクリプション会社であるButternut Boxに投資したように、質の高い中小規模のアセットは幅広い投資家の関心を集めると予想されます。イタリアのペットケア・チェーンで、業界をリードするペットケア・プラットフォームを構築する戦略を推進しているArcaplanetへのCinvenの投資のようなボルトオン買収やプラットフォーム買収は、PEセクターで引き続き人気を維持するでしょう。

コンシューマーヘルスは、それ自体が重要なセクターとして今後も成長が見込まれています。過去数年間にコンシューマーヘルス事業をスピンアウトしたJohnson & Johnson、GSK、Pfizerに続き、Sanofiは2023年10月にコンシューマーヘルス事業を分割する意向を発表し、Bayerは2023年11月に自社の戦略と事業モデルを精査する中で検討中の選択肢の一つとして、コンシューマーヘルス事業の分割の可能性を発表しました。新たにコンシューマーヘルス事業から独立した企業やコンシューマーヘルスケアブランドを持つ既存の製薬企業は、今後も成長を加速させ自社の戦略目標を達成するためにM&Aを活用する可能性が高いでしょう。例としては、Viatrisが店頭販売(OTC)事業のほぼすべてをPE傘下のCooper Consumer Healthに売却したことや、HaleonがLamisilブランドをKaro Healthcare ABに売却したことなどが挙げられます。

コンシューマーヘルス製品に対する需要は、世界人口の高齢化や所得水準などの人口動態の変化および健康に対する慎重さの増加、予防への関心の高まりなどの行動的要因によって拡大しています。生活費は消費者の消費嗜好に影響を与える要因となっており、より高価な、あるいは入手しにくい専門医療や処方薬に代わるものとして、OTC医薬品、ビタミン、ミネラルなどのサプリメントの購入を検討する消費者が増えています。ヘルスケアサービス提供のためのオンラインチャネルがより魅力的になるにつれ、オンライン薬局の分野でもディールの傾向が強まっています。そのようなディールの一例として、スイスの食料品小売企業のMigrosのヘルスケア子会社であるMedbaseがプライマリーケア機能を強化するために、ヨーロッパのオンライン薬局であるZur Rose Groupのスイス事業を買収したことが挙げられます。

2024年にマーケットに出てくるホスピタリティとレジャービジネスの流れは、観光産業がパンデミック以前の水準にほぼ戻ると予想されること、モノよりも体験を好むトレンドが見られること、消費者がこのカテゴリーでの支出をある程度維持する傾向にあることなどの複合的要因によって促進され、増加するでしょう。

欧州は市場規模が大きく、消費者に旅行先として好まれていることから、米国、中東、アフリカ、アジア太平洋地域から欧州への投資が行われると予想されます。PEの長期保有アセットが一部またはすべての処分という形でマーケットに還流してくる可能性がある一方、Apolloが発表したThe Restaurant Groupの買収のような非公開化案件が示すように、飲食セクターではオペレーターがパンデミック絶頂期の低水準からの回復を試みる中、低下していたバリュエーションと前向きな成長見通しから機会が生じることが期待できます。

スポーツは2024年もM&Aにとって明るい話題であり、注目度の高いスポーツ関連資産のトランザクションが相次いだ2023年と同様の傾向が続くと予想されます。このセクターは、レジリエンスの高いスポーツ視聴者とスポーツのライブ放送やストリーミングの権利に関連する価値により、投資家にとって引き続き魅力的なものとなっています。スポーツのフランチャイズやチームは相対的に希少であるため、関心が高まればバリュエーションが上昇し、結果として入札が激しくなる可能性があります。

中東は2024年の運輸・物流セクターにおいて、投資家としても成長投資の目的地としても重要な役割を果たすと予想されます。2023年後半に発表された注目すべきトランザクションは、アブダビを拠点とするAD Ports Groupによるスペインに本社を置く総合物流サービスプロバイダーであるNoatumの買収です。

中東以外では、世界の運輸・物流セクターは地理的範囲を拡大するための統合と、物流に特化した技術やサービスへの継続的な関心とともに、既存のポートフォリオに磨きをかけることに注力すると予想されます。この傾向は、日本の国際物流サービス会社である日本通運がオーストリアの貨物輸送サービスプロバイダーであるCargo-Partnerの買収を発表したことからも明らかです。

消費者市場における2024年のM&Aの主なテーマ

ポートフォリオの最適化

消費者市場の企業は2024年においても、マクロ経済や消費者の動向に適応するためにポートフォリオを磨き、価値創造に注力していくでしょう。非中核資産を売却することで、消費者市場の企業は事業を合理化し、コストを削減し、コア事業への投資に使えるリソースを確保することができます。コンシューマーヘルスケアの事例としては、2023年8月に完了したJohnson & JohnsonによるKenvueのスピンオフや、前述のSanofiによるコンシューマーヘルス事業の分割があります。テクノロジーとサステナビリティのケイパビリティの必要性と、サプライチェーンのセキュリティ強化や隣接市場での拡大といったレジリエンスの構築のためのディールによって、買収は引き続き促進されるでしょう。食料品小売セクターの考察で述べたように、Lidlを所有するSchwarzグループによるAI企業Aleph Alphaへの投資は消費者市場の企業が顧客体験の向上と業務高度化のためにテクノロジーに投資している例です。

資本コスト

資本コストの上昇を受け、企業はバランスシートに厳しい目を向けており、不動産など資本集約的な資産の一部をバランスシートから除去するといった、負債を削減するためのさらなる措置を講じることが予想されます。2023年12月にDecathlonが欧州の約90店舗の敷地を米国の投資家Realty Incomeに売却したことが一例です。

ディストレストM&A

NextがCath KidstonとJoulesブランドを破産状態から買収したことに示されるように、消費者市場、特に小売セクターでは、ディストレストM&Aの機会が増えると予想されます。金利が高止まりしているため、2024年には消費者市場、特に小売セクターとホスピタリティ・セクターでさらなる窮状と破綻が予想されます。しかし、経済に関する新たな悪材料がない限り、破産を申請する小売企業の数が急増した2023年を大幅に上回ることはないと予想されます。2023年には、英国の家庭用品ディスカウントストアであるWilkoや米国の家庭用品ストアのBed Bath and Beyondなどの有名企業が破産を申請しました。

消費者市場における2024年のM&Aの見通し

マクロ経済環境は2024年には安定し、消費者心理に好影響を与えると予想されます。その結果、消費者市場に対する投資家の信頼も向上するはずです。M&Aはシナジー効果とトランスフォーメーションを実現し、持続的な成果を生み出すことができる事業会社による買収を中心に活発化し、ポートフォリオの見直しと資金調達のハードルにより、売却の流れが加速すると予想されます。

M&A動向の解説は、業界で認知された情報源から提供されたデータに基づいています。食品・飲料セクターへのVC投資に関するデータは、2023年10月16日にアクセスした PitchBookから入手したものです。本文で言及する金額と件数は2023年12月31日時点でロンドン証券取引所グループ(LSEG)が提供し、2024 年 1 月 3 日にアクセスした、正式に発表されたディールに基づいています(噂や取り下げられた取引を除く)。本データは、S&P Capital IQおよび当社独自の調査による追加情報で補完されています。PwCの業界マッピングと整合させるため、ソース情報に一定の調整が加えられています。

Hervé Roesch
PwC英国、パートナー、グローバル消費者市場ディールズリーダー

Elena Girlich
PwCドイツ、シニアマネージャー.

※本コンテンツは、PwC米国が2024年1月に公開した「Global M&A trends in consumer markets: 2024 outlook」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

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