2024年の見通し

エネルギー・ユーティリティ・資源分野における世界のM&A動向

Global M&A Trends in Energy, Utilities & Resources hero image
  • 2024-04-24

エネルギー・ユーティリティ・資源セクターは、エネルギートランジションが引き続き投資家の関心を集めていることから、2024年のM&A活動にとって注目分野となるでしょう。

エネルギー・ユーティリティ・資源(EU&R)セクターは、全般的な景気の不透明感を背景としながらも、2024年のM&A活動にとって明るい材料が見られます。EU&Rセクターは、ディール金額・件数ともに2024年も良好なトレンドが続くと予想されます。

投資家はネットゼロの目標を達成するためのエネルギートランジションの重要性を確信しており、EU&Rセクターへの資金流入が続いています。M&Aやグリーンフィールドプロジェクト、ブラウンフィールドプロジェクトに資金が向かっており、より広範な資本からの関心が高い状態が続いています。ネットゼロへの移行に適合しない資産から、適合する事業機会へと資金が流れる可能性が高いため、必然的に必要な資金調達の確保に苦戦するサブセクターも出てくるでしょう。このような状況では、バランスシートが最も強固な企業が、潜在的なディールと価値創造の機会を活用するのに有利な立場になるでしょう。

エネルギートランジションを促進するために必要なトランスフォーメーションのペースは、予想よりも遅れています。2024年は、EU&Rセクター全体でトランスフォーメーションディールが大幅に増加する年になるのでしょうか。しばらくの間、環境・社会・ガバナンス(ESG)はEU&Rセクターにおけるディールの主要な推進力でした。しかし、ここ数カ月は、経済に逆風が吹く中、短期的なゴールを優先し、特定のセクターではESGが後回しにされているようです。この傾向は2024年まで続くのでしょうか、それとも2024年にESGにフォーカスしたディールが復活するのでしょうか。当面は、エネルギートランジションとサステナビリティがEU&Rセクターのディールの重要な原動力であることに変わりはないと考えており、2024年にはステークホルダーがこれらの分野に再び注力すると予想しています。

自社が気候変動のリスクにさらされていると懸念するグローバルCEO(%)

出典:PwC「第27回世界CEO意識調査」

PwCによる「第27回世界CEO意識調査」では、EU&R業界のCEOは、今後1年間に気候変動が自社にもたらすリスクについて、他の業界のCEOの2倍の割合で「非常にあるいは極めて強く懸念している」と回答しています。

2023年12月にCOP28で化石燃料からのトランスフォーメーションという歴史的な取り決めが採択されたことに伴い、CEOがビジネスモデルの転換やエネルギートランジションへの投資に向けて必要な行動を取るにつれ、この懸念はますます大きくなると予想されます。これは、短期的にも中期的にもM&A活動にプラスの影響を与えるでしょう。

エネルギートランジションという広範なテーマに加え、業界再編、政府規制、安定供給、ポートフォリオの最適化がすべて、2024年のEU&RのM&A活動に影響を与える重要なテーマとなる理由について、さらに考察します。

「世界的に、M&Aは戦略的なエネルギートランジション目標の追求において重要な役割を果たし続けるでしょう」

Michelle Grant,PwCカナダ、パートナー、エネルギー・ユーティリティ・鉱工業ディールリーダー

電気自動車のバリューチェーン

ここ数年、エネルギートランジションに向けた企業の位置づけとして、産業、セクター、資本調達の壁を越えた活動の融合について多くの議論がなされています。その一例として、電気自動車(EV)の需要拡大に伴い、いくつかの産業機械セクターがエネルギー、電力、ユーティリティ、鉱業セクターと交差していることが挙げられます。

出典:PwC

EVのバリューチェーンは、EVのバッテリーや他の主要部品の製造に必要な原材料の採掘から始まり、耐用年数が終了した自動車のリサイクルに至るまでとなります。バリューチェーンの各段階の間で、相互依存関係が高まっています。例えば、クリーンエネルギーは最終的に、EVのバッテリーやその部品に使用される鉱物・金属を産出する鉱山での動力源となり、鉱山で使用される車両で自動運転が実現するようになります。

一部のプレーヤーは、この変革期におけるポジションの変更や、トランザクションを活用して変革を促進するために積極的な活動を行っています。以下はその例です。

  • 将来に向けたポジションの再構築を行うエネルギー企業の取り組みには、リチウム鉱区の購入などがあります。例えば、Exxon Mobilは2023年11月に、同年中に権利を取得していたアーカンソー州での掘削と、世界的な成長機会の評価を行い、リチウムの主要生産者になる計画を発表しました。
  • OEMの中には、将来のEV用に安定した供給を確保するために、鉱山会社への直接投資や、オフテイク契約の交渉を行っている企業もあります。例えば、General Motors(GM)は、ネバダ州のリチウム鉱山を共同開発するため、Lithium Americasに6億5,000万米ドルを出資し、この契約に基づいて採掘された炭酸リチウムをGMのEV生産用バッテリーセルに使用すると発表しました。Ford Motor Companyは特定の原材料サプライヤーと新たなリチウムのオフテイク契約を締結し、TeslaはオーストラリアのMagnis Energyとバッテリー負極材の供給契約を締結しました。

過去数年間、EVバリューチェーン全体がEU&RセクターのM&Aの成長に大きく寄与してきましたが、2024年も、EVが世界市場の主流となり、内燃機関(ICE)車両が過去のものとなる未来へ向けて多くの企業がポジショニングを行う中、こうした動きは継続するものと予想されます。これらの企業は、他の多くのステークホルダーとともに、ビジネスモデルの変革、持続的な成果の実現、そしてエネルギートランジションの推進に向けて協力していくでしょう。

サブセクターの動向は以下の各セクションをご覧ください。

エネルギー・ユーティリティ・資源分野における2024年のM&Aの主なテーマ

エネルギートランジションがEU&Rセクター全体の活動を牽引する主要テーマであることに変わりはありませんが、その他にもいくつかのテーマが幅広く見られます。

統合

EU&Rセクター全体では、経済性を改善し、規模を拡大し続けるために、統合が重要なテーマであると引き続き考えています。2023年に発表されたExxon MobilのPioneer Natural Resources買収計画(590億米ドル)、ChevronのHess買収計画(530億米ドル)、NewmontのNewcrest買収計画(170億米ドル)など、いくつかの大型ディールはこうした統合劇の一例です。この傾向は2024年まで続くと予想されます。

政府の規制

税制上の優遇措置、政府が支援する資本プール、投資を促進するための政策変更、特定のプロジェクトに対する政府の介入など、政府の規制は引き続きM&Aを促進しています。

米国のインフレ抑制法(IRA)が2022年半ばに成立して以来、その影響は米国のEU&Rセクターへの大きな投資に拍車をかけただけでなく、欧州やその他の国々が独自のインセンティブパッケージを創設するきっかけにもなりました。例えば、欧州のグリーンディール産業計画や日本のGX推進法案は、自国のネットゼロエミッション産業の競争力を高め、カーボンニュートラルへの移行を加速させることをゴールとして、さまざまな低炭素インフラプロジェクトへの投資水準を高めることを目指しています。

政府による優遇措置の恩恵を最も受けると予想されるサブセクターは、電池(重要鉱物を含む)とエネルギー貯蔵、水素燃料、および長期的な炭素回収プロジェクトに関連するインフラ投資であり、M&Aのさらなる機会が創出されるでしょう。

2024年には、地政学的リスクを背景にした政府規制への注目の高まりが、ディールの評価にあたってさまざまな地域からの投資を増加させる要因にも、減少させる要因にもなり得ると予想されます。

安定供給

安定供給は、特にEVバリューチェーンに関連する将来の成長機会(EU&Rの全セクターに影響)や、電力・ユーティリティにおけるエネルギー安全保障を考える上で、EU&Rセクター全体に共通するテーマです。地政学的な緊張の高まりによって、安定供給はCEOの重要課題の上位を占め続けるでしょう。

安定供給は、エネルギー価格やインフラ価格の上昇と相まって、ビハインド・ザ・メーターのエネルギー管理やオンサイト発電ソリューションの成長にもつながっています。ソーラーパネルや風力発電所を使ってデータセンターに電力を供給するテクノロジー企業から、店舗や配送センターに電力を供給するために屋上でソーラー発電やバイオガス発電を行う大型店舗を擁する小売企業まで、自家発電を行う企業の数は急増しています。供給への懸念、エネルギー価格、テクノロジーとデジタル・エネルギー・プラットフォームの利用可能性の増大により、2024年もこれらの分野への投資が堅調に推移すると予想されます。

ポートフォリオの最適化

不確実な時代には、企業は中核戦略に照らしてポートフォリオを再評価し、投資に関する重要な決定を下す必要があります。ポートフォリオの最適化は継続的に実施すべきものだといえますが、現在の経済環境においてはそうせざるを得ないかもしれません。ポートフォリオの最適化には、非中核資産の売却やスピンオフの決定など、さまざまな形があります。また、一部の事業を業務改善の対象とすることで、業績不振に対処する、あるいはさらなる経済的逆風に備える場合もあります。

エネルギー・ユーティリティ・資源分野における世界のM&A動向

エネルギートランジションは、鉱業・金属産業におけるM&A活動の主要な推進要因であり続け、これは中期的にも続くと予想されます。鉱山会社は、重要鉱物に対する需要の増大に伴い、競争力のあるポジションを維持・拡大し、ポートフォリオのバランスを再調整しようとしています。供給確保と現地サプライチェーンの構築も、重要鉱物のM&Aにおける主要な焦点です。サプライチェーン参加者は、重要鉱物の将来的な供給に対する懸念を強めており、投資リスクの分担とオフテイクの確保に資するマイノリティ投資、合弁事業、パートナーシップに関する動向につながっています。地政学的リスクと密接に関連する政府の規制も、重要鉱物のディール活動の主要な推進力となるでしょう。

中国の需要鈍化によるバッテリー商品価格の下落、現在の経済・地政学的不確実性、厳しい資金調達環境など、短期的には逆風が吹いています。また、ディールを進め、クローズさせることに若干のためらいが見られます。進行中のディールについても、投資家、政府、その他のステークホルダーからの監視が強まっていることから、M&Aプロセスは長期化すると思われます。

重要鉱物のディールは全般的な市況下落の影響を受けないわけではありませんが、全体的なM&Aの見通しは非常に明るいままです。銅やリチウムのような電池用鉱物は、引き続き高い需要があります。産業界のプレーヤーは、重要鉱物の採掘業者との直接所有権や直接オフテイク契約の取り決めをますます追求するようになると予想されます。

金鉱山会社も、規模の拡大、ポートフォリオの最適化、シナジー効果を生み出す手段としてM&Aを実施し続けており、特に中堅レベルでは、今後も統合が進むと予想されます。

コモディティのボラティリティ、インフレ、金利、地政学は、借入調達に影響を及ぼしており、短期的には石油・ガスのM&Aにとって引き続き課題となるでしょう。しかし、多くの生産者は近年、財務体質を大幅に強化し、その結果、レバレッジが低下し、手元キャッシュが大きくなり、キャッシュフローが改善しました。このような特性は、歴史的にM&Aの活発化につながっており、2024年にはこの傾向がさらに強まると予想されます。

北米では、ESGを重視した石油・ガスのディールメーキングはポートフォリオの最適化や業界再編よりも後回しにされていますが、これは石油メジャーやその他の大規模生産者が資産全体のデュレーション、掘削在庫、生産に対する経済性を改善しようとしているためです。最近の北米のトランザクションで見られたバリュエーションの上昇は、2024年まで続くと予想されます。上流の再編とポートフォリオの最適化という幅広いテーマは世界的なものであり、2024年のディールメーキングにおいてもこれらのテーマが浸透すると予想されます。

石油・ガスは循環的な性質を持っており、クリーンエネルギーへのトランスフォーメーションも相まって、各社はエネルギー価格の高騰を利用しつつ、将来に向けてビジネスモデルを変革するために必要な措置を講じることができるよう、M&A活動のバランスを取る必要があるでしょう。

高金利環境が続く中、バランスシートの改善を目指す大手ユーティリティ企業の間では、ポートフォリオの最適化、再編、合理化戦略が引き続きM&Aの主要な推進力となっています。特に欧州では、エネルギー安全保障に向けた資本の再配置が続いています。一方、北米では、インフレ抑制法とインフラ投資・雇用法の影響により、大手ユーティリティ企業の資本配分に関する決定が促進され続けており、エネルギートランジションに沿ったグリーンフィールドプロジェクト向けのプロジェクト資本を求めるデベロッパーが急増し、戦略的なポジショニングをとるようになっています。

脱炭素化は引き続き関心の高いテーマです。政策の不確実性により規制面での逆風が吹いており、大手ユーティリティ企業は大規模な投資に慎重になっています。世界的に見れば、資本プールは増加しているものの、かなりの額の投資資本が待機しているのが現状です。

ユーティリティにとって、電力化は引き続き主要なテーマであり、充電スタンドへの継続的な投資、熱の電化、エネルギー貯蔵への重点化(特に、ますます断続的になる電力市場において)、顧客主導の取り組み、デジタルソリューションへの重点化を通じて顕在化すると予想されます。2023年を通じて、国際石油会社および国営石油会社は、戦略的なポジショニングを継続し、多角化戦略の目標に沿った資本配分を行う意向を複数回にわたり公表しました。これは2024年以降も続くと予想されます。

再生可能エネルギーへの投資は継続されますが、資本コストの上昇とコストインフレが逆風になると予想されます。太陽光発電の導入は欧州をはじめ世界的に持続かつ普及すると予想されますが、一部の風力発電開発プロジェクトは注力が削がれる可能性もあります。風力発電からの撤退は、事業運営上の要因(OEMの苦戦、送電網への接続の遅れ、サプライチェーンの問題など)と、継続的な景気の逆風によるものです。また、大手石油・ガス事業者による再生可能エネルギーの収益化に関連した売却テーマは2024年も続くと予想されます。

2023年の化学セクターは、経済見通しの悪化と中国のCOVID-19回復の鈍化が世界需要の重荷となり、予想を下回る結果となりましたが、いくつかの市場のダイナミクス(インフレ、原料のボラティリティ、金利)は安定化の兆しを見せています。これらの兆候と、ほとんどの主要市場における生産量の増加予測を根拠に、ディールメーカーは2024年の化学セクターのM&A活動を慎重ながらも楽観視しています。

化学分野のM&A活動に影響を与える要因はいくつかあると思われます。サステナビリティの目標は、今後もさまざまな形で化学業界に影響を与えていくでしょう。需要面では、エネルギートランジションとテクノロジーは、いくつかの化学品市場で工業生産の改善につながっています。また、化学企業は、政府の規制や社会の期待によりサステナビリティへの取り組みを加速し、優先的に実行するよう求められることから、循環経済への投資を行い、廃棄物やスコープ2および3の排出を削減する必要があります。

化学セクターでは、M&Aの追求を通じて地域間の競争ダイナミクスが影響を受けると思われます。ウクライナや中東の紛争が経済の不確実性を高めている中、欧州の化学企業は現在、原料、エネルギー、炭素コストの上昇に直面しています。北米や中東のような、構造的に安価な原料へのアクセスの恩恵を受ける市場は、魅力的な投資機会となる可能性があります。

政府の規制は、特に欧州の炭素市場において、機会と課題の両方をもたらします。既存のEU域内排出量取引制度(ETS)に加え、カーボンニュートラルに焦点を当てた投資を刺激し、炭素リーケージを防ぐために、グリーンディールと欧州国境炭素調整措置(CBAM)が2023年に導入されました。CBAMは、セメント、鉄鋼、アルミニウム、肥料、電力、水素といった、炭素集約的な生産が行われ、炭素リーケージのリスクが最も大きいとみなされる特定の商品および前駆物質の輸入にまず適用されます。CBAMの段階的導入や、他の地域でも生じ始めている同様の政策転換は、ディールメーカーが価値を評価する際の重要な検討事項になるといえるでしょう。

エネルギー・ユーティリティ・資源分野における2024年のM&Aの見通し

豊富な資本へのアクセス、継続的な投資意欲、ネットゼロへの取り組みを加速させる推進力、政府の規制強化により、2024年のEU&Rセクターのディールメーキングは実り多いものになると予想されます。経済の逆風により短期的には参加できない企業もあるため、強固なバランスシートを持つ企業が最も成功を収めるでしょう。多くのEU&Rセクターに追い風が吹いているため、待機してきた企業や資本にとっては、2024年はトランスフォーメーションディールの飛躍の年になる可能性があります。準備はできているでしょうか。

PwCの「第27回世界CEO意識調査」へのCEOの回答では、EU&RのCEOの24%は、今後12カ月間、自社は気候変動がもたらすリスク(物理的リスクと、政策・法律、市場、技術、評判などの移行リスクを含む)を非常にあるいは極めて強く懸念していると回答していますが、「ある程度懸念している」「やや懸念している」「ほとんど懸念していない」「わからない」という回答は含まれていません。

M&A動向の解説は、業界で認知された情報源から提供されたデータに基づいています。具体的には、本文で言及している金額と件数は、2023年12月31日時点でロンドン証券取引所グループ(LSEG)が提供し、2024年1月3日にアクセスした、正式に発表されたディールに基づいています(噂や取り下げられた取引を除く)。本データは、S&P Capital IQおよび当社独自の調査による追加情報によって補完されています。PwCの業界マッピングと整合させるため、ソース情報に一定の調整が加えられています。

Michelle Grant
PwCカナダ、パートナー、エネルギー・ユーティリティ・鉱工業ディールリーダー

※本コンテンツは、PwC米国が2024年1月に公開した「Global M&A trends in energy, utilities & resources: 2024 outlook」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

各国・地域別のエネルギー・ユーティリティ・資源分野のM&A動向については、下のボックスから選択してご覧ください。

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